神ゲーの夜は終わらない   作:ホルン

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第3話

 

 治療室に投げ込み、治癒魔術を掛けられ数分足らずで完治した小金 律を連れて、私たちは夜列車の中を散策していた。

 

「へぇ、じゃあ夜列車に乗るのは初めてなんだ」

「はい、今までは簡易拠点で活動してたので、案内してもらえて助かるよ」

 

 夜列車はかなり多機能な存在だ。

 というのも、胡乱な術式で空間を捻じ曲げ魔改造されており、治療室やら食堂、入浴施設や仮眠室等々から始まり、鍛錬スペースから果ては鍛冶場まで存在しているからだ。

  

 列車という構造上迷うことはないが、何があるのかは知っておくと便利なのである。

 

「でも、本当にここはずっと夜なんですね………」

「裏世界だからねぇ」

 

 窓から見える景色は、()()()()()()()()()()

 原因は、そもそも現実とは異なる世界であることと、世界を常に夜に固定するような強力な妖魔が存在しているからだ。

 

 そして私たち夜狩りは、夜の原因となる妖魔を討伐するためにこの地にいる。

 

「ま、原因は妖魔だからね。ソイツを倒せば朝は来るよ」

「未だ発見できない夜の支配者、だよね」

 

 ユーザーからは『生き恥』『小物界の大物』『シンプルにクズ』などと呼ばれているラスボス思いを馳せながら歩く。

 

 『エルダーリンク~百鬼夜行列車~』のストーリーはかなりシンプルだ。

 

 現実とは異なる裏世界【如月】に乗り込み、そこの支配者であるラスボス【不如帰(ホトトギス)】を倒す。

 

 これだけである。

 

 本当にこれだけ。

 

 もちろん強力な妖魔はラスボス以外にも複数体存在するし、口で言うほど簡単ではないのだが、やるべきことは最初から明言されているのだ。辿る過程は無数にあれど、目的は明確に設定されている。そういう分かりやすさもエルダーリンクの魅力なのだとおもっている。

 

 そして夜狩りも職務として、全員が共通してこの目的を持っている。

 任務達成のため、モブ夜狩り達は現在進行形でバンバン死にながら妖魔の情報を集めている最中である。

 

 私たちモブの命がとにかく軽い。

 

 まあ失敗をすれば、国が消滅するレベルの大災害が発生することになるので、必死になるのも当然ではあるが。

 

「とはいえ、夜狩りが如月に乗り込んで結構時間も経ってるし、そろそろ動きがあるんじゃないかな」

「動き?」

「さっき連絡があったんだよね、たぶん隊長からラウンジで話があると思うよ」

 

 単純に招集が掛かっただけだ。

 詳細はまだ知らないが、エルダーリンク本編開始の下りで間違いないだろう。

 

 登場人物達が揃ったという事は、そういう事だ。

 

 ほどなくして辿り着いた先頭の車両の扉を開く。

 

 

 ――――――そこには、歴戦の夜狩り達がいた。

 

 

「揃いましたね。それでは始めましょうか」

 

 車掌兼夜狩り隊長の古谷ヨモが穏やかな表情で手を叩く。

 ラウンジに揃っていた夜狩り達の視線が私たちに突き刺さる。

 

 間違えた。

 

 私には突き刺さってないわ。

 後ろにいる小金 律に視線が全部行ってるわ。

 

 やはり登場人物(ネームドキャラ)の夜狩りにもなると、実力を直感で感じ取れるのだろう。品定めというか、探りを入れる様に律が集まっている。

 

 不味い。

 

 私のようなモブ夜狩りがこの場にいるのは、かなり場違いな感じがしてきたぞ。

 

 というか、場違いだ。

 この場にいるのは、あらゆる武器に適性を持つ小金 律、一人だけ弾きリズムゲーしてる理論上無敵剣士、火力が高い代わりに射程が長く連射攻撃可能な弓兵、全動作スーパーアーマー付きの攻撃を放つ狂戦士クマ、MP無限の術師の隊長、全キャラ最速の関西弁槍使い、ステゴロヤンキーヒーラー、そして無駄に素早く硬い盾野郎。

 

 全員が各方面のスペシャリスト。

 金槌をぶんぶん振っているだけの私ではどう考えても役不足である。

 

「………じゃあ、私はこの辺で。あとは頑張ってね、律ちゃん」

「ええ!?」

 

 置いていくの!? とでも言いたげな表情の小金 律に手を振る。

 いや、エルダーリンクプレイヤーとしては、君たちの絡みは金払ってでも見たいのだが、流石に私もTPOは弁えているのだ。

 

 この集まりも、才能を認められた上級夜狩りだけが強制参加だ。

 

 才能に乏しい下級夜狩りの私は関係ないしね。

 

 ちなみに小金 律は家柄素質込々でばっちり上級夜狩りである。

 正式な通達自体はどうせ後からになるし、私を除いてぜひ親交を深めてもらいたい。

 

 じゃあな、浅井ヒトミはクールに去るぜ。

 

 そんな感じでしれっとフェードアウトしようとしていると――――――

 

 

「――――――ふむ、待ってくださいヒトミ君」

 

 

 なんかヨモ隊長に呼び止められてしまった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 夜狩り隊長 古谷(ふるや)ヨモは浅井ヒトミを呼び止める。

 

 艶のある黒髪が特徴的な夜狩りの少女は不思議そうに振り返る。

 

「はい、どうかしましたか?」

「なぜ退席するのですか?」

「もともと小金さんの道案内に付き添ってただけなので………、要参加は上級夜狩りだけだったはずですし、下級が場を乱すのもご迷惑かと」

 

 その通りだ。

 

 彼女は血筋も才能も乏しい一般家庭の出自だ。

 妖魔討伐の実績も下級のみの討伐であり特段目立ったものはなく、諸々を考慮したうえで『下級』と判定されている。

 

 そして今回の招集は下級夜狩りの参加は強制ではない。

 

 彼女の言っていることは間違っていないし、むしろ対応としては適切といえるだろう。

 

 

 いままでであれば、だが。

 

 

「………76体です」

「すみません隊長、何の数字ですか?」

「【如月】に来てからの貴方の()()()()()()()()です。下級に至っては1000体近い数を討伐しています」

 

 ベテランの夜狩りですら手を焼く上級を76体。

 

 しかも、そのうちの9割が単独任務によるもの。

 特別な資質もなく、ただの武器のみでこの討伐数は、上級夜狩りでも相当な無理が伴うレベルだ。

 

 だというのに、まるで水を得た魚のように、彼女は妖魔討伐を重ねている。

 

 無論、無傷とはいかず相応に負傷や損耗はしている。

 だが、近くに居合わせた隊員の報告曰く『神遺石はまだか………』『周回ガチャ終わんねぇ』とうわ言を繰り返し、何かに取り付かれた可能ように妖魔討伐に乗り出す彼女は、ヨモには異様を通り越して異常とさえ思える。

 

 だが、お陰で上級妖魔の出現率が激減し、下級夜狩りの死傷率も大幅に低下している。

 

 実績はもはや下級の枠組みでは収まらない。

 

「………ああ、全然気が付きませんでした。そんなに倒していたんですね」

「ぜひ、『上級殺し』の貴方の意見も聞きたい。このまま参加してください」

「なら有難く参加させてもらいます」

 

 浅井ヒトミがラウンジに戻る。

 

 心なしか嬉しそうだ。

 自身の討伐数を聞いても特段変化はなかった、だが集まりに参加できると知ってかやや楽しそうだ。何が彼女の琴線に触れたのかは不明。まったく彼女という存在が分からない。

 

 特別な才能はない筈だ。

 

 だが、それを上回る何かが彼女にはある。

 

 ともすれば、難攻不落の常夜の裏世界を攻略する糸口になるやもしれない。そんな淡い期待の元、古谷ヨモは本題に入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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