ファンタジア・レコード ~phant'asia-re'code~ (仮版)   作:明日田錬武

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第十二話 食堂

 居心地の悪いラボをあとにし、ブレンは再びホームへと戻ってきていた。やはりここの方が落ち着く。仕事もないし、彼は適当に食堂でもぶらつくことに。

 そこでは何人かの団員、あるいは子供たちが昼食を摂っていた。今日の日替わりメニューは確かカレーだったか。実に食欲を刺激する香りが鼻に突き刺さる。さっきまで薬品臭に満ちたラボにいたせいか、なおのこといい匂いだ。

 

「旨そー。でも今日は腹がなんか受け付けなさそうだな……」

 

 あれだけ血を抜かれたのだ、いくらエクスソルジャーとはいえ不調になっても仕方がない。そんな状態で他人が美味しそうに食事を摂っているのを見ると、少し邪魔したくなるのが心理だ。ブレンは辺りを見回し、そして適当な者を見つける。あいつなら良いだろう。

 ブレンはその者の隣の席にドカリと座り、わざと両肘をついて顎に手をやり、ジロリと食事を見つめた。見られている彼は気まずそうにブレンを見る。

 

「えっと、どうしたのブレン?」

 

 彼はブレンの様子がややおかしいことに気付き、声をかける。しかし、ブレンは無言でただ彼のカレーを見つめていた。

 

「……ねぇ、そんなにじっと見られてると、食べ辛いんだけど」

「そうか。なら成功だな」

「は?」

 

 ブレンの的を射ない応答に彼は困惑する。エクスソルジャーともあろうブレンが、一体どうしてしまったのか。

 

「ドクターにめちゃくちゃ血ぃ抜かれて、腹減ってんのに気持ちわりぃんだよ」

「だから僕の食事を邪魔してるってこと?」

「お、察しいいじゃん。さすがはヴァイス部隊隊長、勘が冴えてるなぁ」

「それとこれとは別なことでしょ……」

 

 彼――ルアンはブレンの境遇に少しだけ同情しつつも、食事を邪魔されたことにやや腹を立てる。なんといっても、今日のメニューであるカレーというものは、彼にとって特別なものだからだ。

 

「……いつまでそうやって見てるの?」

「お前が食い終わるまで」

 

 ルアンの眉間がピクリと震えた。これは内心かなり頭に来ているときの反応だ。彼は物静かであまり怒ることはないのだが、このままでは確実にキレる。

 

「なっ、そんなに怒ることないだろ」

 

 ブレンは即座にルアンの怒りを察して視線を外す。エクスソルジャーは他人の反応にも敏感だ。なら最初から止めておけばよかったのだが。

 

「……もう」

 

 そう言ってルアンは黙々とカレーを食べ進める。これは気まずい。ブレンは空気を変えようと別の話題を投げた。

 

「そういやさ、もうそろそろチビたちの入団試験だっけ? 今度の試験官はお前?」

「いや。今回は僕じゃないよ。たしかマックスじゃなかったかな」

 

 マックス。お調子者のあの男を思い浮かべ、ブレンは苦笑いした。

 

「アイツ、下には厳しいからなぁ。はは、こりゃ入団が少なくなるな」

「だろうね。でも、少ない方がいいんじゃない。やっぱりこういうのってさ」

 

 確かにそうだ。ブレンも頷いて同意見だと思う。

 オルフェンズの孤児の中には志願して正式な団員、つまり傭兵になるものも少なくない。しかし、誰でも彼でもなれるわけでもない。傭兵とは命をかける仕事だ。そんなものに、できることなら就かせたくないというのが先輩団員たちの本音。だから入団試験がある。それでも、やはり人手不足もあり一定人数の入団を受け入れざるを得ないのだ。世知辛い。

 そんなことをブレンが考えていると、いつの間にかルアンはカレーを食べ終え両手を合わせていた。この両手を合わせて「ご馳走さま」と言う風習、本来はどんな意味があったのだろうか。彼はこれの本当の意味を知らない。

 

「ご馳走さまでした」

「あぁ、俺も食いてぇ……」

「不思議だよね。エクスソルジャーのブレンがこんなに体調不良なんて」

 

 ルアンは配膳板を手に立ち上がりながら言った。

 

「あぁ? ああ、確かに」

 

 こんなに体調不良は久々だ。やはり失血が多量過ぎたのだろう。あのジジイめ。

 

「さて、僕は行くよ。ブレンは?」

「俺? どうすっかな。仕事も終わったばっかだし、やることがねぇ。……他のやつの飯も覗きにいくか?」

「やめときなよ」

「冗談だって」

 

 ルアンはややいぶかしんだ表情でブレンを見つめた後、やれやれと言わんばかりに顔を振って配膳板を片付けに向かった。その去り際にブレンはあることを思い出して声をかける。

 

「なあ、そういえばうちで開発したっていう新型ヴァイス、もうロールアウトしたのか?」

「へぇ、君が知ってるなんて意外だなぁ」

 

 ルアンは立ち止まって振り返る。ブレンがヴァイスの配備、開発に関わることを知っているなど予想外だったからだ。

 

「俺だってこう見えて組織の上層側だぜ? で、どうなんよ」

「あと一週間くらいでおひろめだよ。……いちおう機密なんだから、広めちゃだめだよ?」

「わぁってるって。心配すんなよ」

「うーん…… どうかな……」

 

 ルアンは不安そうにしながら今度こそ去っていった。あとに残ったブレンは一瞬、本気で他の者の食事を冷やかしにいこうかと思ったが、さすがに止めておいた。いい歳して子供じみたことをするのはマズイ。もう手遅れだが。

 ではどうするか。答えは一つ。自室で寝よう。調子も悪いことだし、やることもなければ寝るのが一番。エクスソルジャーとて休息は大事なのだ。

 

「うしっ、行くか」

 

 ブレンは空腹と若干の気持ち悪さを感じたまま、食堂をあとにした。

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