ファンタジア・レコード ~phant'asia-re'code~ (仮版)   作:明日田錬武

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第十五話 ヤルタからの依頼

 良く空調の効いた白色の部屋。そこがオルフェンズのミーティングルームであった。中央には折り畳み式の長机と椅子が六つ。既に二つの席は埋まっている。一人は団長アルザール。そしてもう一つは。

 

「お、やっと来たでありますか」

 

 緑基調の迷彩服を来た青年が座っていた。彼は遅れて入ってきたブレンたちを見て腕時計を確認している。

 

「時間にして約十五分。またクリス殿とブレン殿が喧嘩でもしてたのでありますか?」

 

 痛いところを突かれた二人は一瞬顔を見合わせた後、相手が悪いと言わんばかりに互いにそっぽを向く。

 

「図星でありますか……」

「俺はただカレーを食おうとしただけで……」

「僕だって食事を摂ろうとしただけだ」

 

 青年は苦笑いして、「団長殿もお待ちであります。みんなも席へ」と言って四人に着席を促す。

 

「悪いなエイジ。仕切ってもらって」

「人を仕切るのは慣れたものでありますから」

 

 アルザールは青年――エイジに小さく頭を下げ、エイジもまた頭を下げ返す。ブレンと同い年とは思えないほどに落ち着いている。いや、この場合はブレンが落ち着きが無さすぎるのか。

 ブレン、クリス、サラ、勇平。四人が席に着き、必要要員は皆揃った。アルザールが咳払いして本題を語り始める。

 

「皆揃ったところで、本題だ。お前たちエクスソルジャーをわざわざ集めたのは、ある依頼について意見を聞きたいからだ」

 

 アルザールは一人一人の顔を見ていく。勇平は引き締まった顔で、ブレンは面倒くさそうな顔で、クリスはいつも通りの無表情、サラは緊張した面持ち、そしてエイジは何かを期待するような明るい顔をしていた。

 

「実はついさっき、ヤルタ連邦から依頼の打診が来た」

 

 その言葉にどよめく五人。中立傭兵団にヤルタ連邦からの依頼? なぜ? そういうことを各々が感じたからだ。

 

「おいおい、俺たちゃ中立傭兵団だぜ? そこにわざわざ依頼してくるなんざ、気でも狂ったのか?」

「俺も同意見だ団長。ヤルタの連中は何を考えてこんなことを」

 

 ブレンと勇平が口々に驚きと疑念を発する。それだけこの事態は異様だ。

 

「相手さんの真意は分からん。だが、少なくとも依頼内容と報酬は分かる。依頼内容は、離反した不良部隊の殲滅、だそうだ」

「規模は、どれくらいなんですか?」

 

 不安げな顔でサラがたずねる。アルザールは頭をかきながらそれに答えた。

 

「中隊だ。ヴァイスと歩兵の混成のな」

 

 中隊。小隊三つから構成される部隊単位だ。具体的にするならヴァイス十六機、歩兵なら九十人ほどになる。

 

「中隊、ですか」

 

 クリスは顎に手を当て、考える素振りを見せる。

 

「対象はグローエイラ4バンチ駐留基地を根城に周辺を脅かしている。ただの殲滅ならブレン一人でも構わなかったんだが、今回はスピードが重要だ。故にお前たちを全員投入したい」

 

「待ってください」

 

 そこでクリスが立ち上がってアルザールを見つめる。その視線からは戸惑いがにじんでいた。

 

「僕たちはあくまでも中立です。アヴァランチとヤルタ、どちらかに肩入れすればそれはもう一方への敵対と同義になります。この依頼、もっと慎重に検討すべきでは?」

「クリス、お前の言い分は分かるし、なんなら俺も本当は同意見だ。政治だとか戦争だとか関係なく、お前たちをゴタゴタに巻き込みたくない。だが、今回は早急に動きたいんだ」

「何故?」

 

 そこでアルザールは少し言葉に詰まり、腕を組んでうつむきがちに言葉を続けた。

 

「報酬だ。今回の報酬は三百万」

「なっ、三百万でありますか!? それがあれば、ここしばらくは安泰であります!」

 

 三百万。それはブレンやサラが得た報酬の十倍以上だ。政府直結の依頼の規模がよくわかる。

 

「そりゃ、受けるしかないよな」

「納得だな」

「ウチお金厳しいからねぇ」

 

 ブレンと勇平、サラの三人はどうやら納得しているようだ。先程の口ぶりを聞くなら、エイジも賛成だろう。つまり、残ったのは。

 

「僕は…… 正直反対です」

 

 クリスはためらうように首を振る。

 

「中立傭兵団は中立であるべき、とは思います。でも」

 

 クリスは周りを見回し、自分一点に集められた視線にため息をつく。

 

「皆が賛成なら、僕も表立って反対はしません」

 

 アルザールはクリスの過去を知っているばかりに、その言葉の裏の真意を意識せずにはいられない。

 

「クリス、やはりヤルタと戦うのは嫌か?」

「僕は……」

 

 クリスはうつむき、黙り込む。しかし、僅かな間をおいて再び顔を上げた。

 

「別に気にしません」

「……そうか」

 

 アルザールはあえてそれ以上の追求を避け、話を進める。

 

「では、今回の依頼は受けることにする。早速だがお前たちには出撃してもらうぞ」

 

 五人はアルザールの指示に深く頷いた。

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