ファンタジア・レコード ~phant'asia-re'code~ (仮版)   作:明日田錬武

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第十七話 蹂躙

 濃い墨汁を垂れ流したかのように黒い空。そこへ絶叫が響き渡っては飲み込まれていく。楽園の名を冠するこの星で、局所的な地獄が形成されていた。

 

「撃て撃て撃て撃て!!!」

 

 隊長が叫ぶと共に、部下のヤルタ兵たちが六ミリリニアライフルを構え一斉に撃ち放つ。磁力加速された弾丸が弾幕を形成し、目標へと殺到。しかし、狙われた者――ブレンはスラスタを巧みに吹かしては次々と回避して見せた。その常識外れな動きに、ヤルタ兵の間で恐怖が蔓延る。

 

「なんだよあの動き!? 生身であんなに動けるなんて!」

 

 そこへ興奮か、酒酔いか判別のつかない赤い顔をした隊長が喝を叩き込む。

 

「怯むな! 数は我々が上なんだぞ! 物量ですりつぶせ!」

 

 追いたてられたヤルタ兵たちは、がむしゃらに狙いもつけずリニアライフルを撃ちまくる。無論、そんな射撃が当たるわけがない。何人かがリロードのために手を止めたその隙をつき、ブレンは一気に距離を詰めてヤルタ兵たちの眼前へと現れる。

 

「このぉぉ!! なんなんだきさ――」

 

 なんなんだ貴様は。その言葉を発する前に、隊長の声帯は上半身ごと吹き飛んでいた。背にマウントした状態から振り下ろしたダインスレイブの一撃によって。脳という司令部を失った下半身が力無くドサリと後ろに倒れ、断面から臓物と血がミックスされた液体が地面に広がる。

 

「うわあぁぁぁぁあ!!!!」

 

 それを間近で目撃してしまったあわれなヤルタ兵の一人が、とっさにリニアライフルの銃口をブレンに向ける。しかし次の瞬間には、持っていたリニアライフルごと彼は霧と化して霧散した。隊長を屠った振り下ろしから、片足を軸に回転して遠心力のかかった横なぎの一撃で。

 

「この距離ならぁぁ!!」

 

 怯まずにリニアライフルを放つヤルタ兵もいた。彼の放った弾丸は、パスパスと小気味いい音と共にブレンの背にいくつもの穴を穿つ。

 

「やったか!?」

 

 こういう台詞が自らの死亡フラグになることを、このヤルタ兵は知らなかった。ブレンは何事も無かったかのように平然と振り返る。そして、腰から水色の光が迸ったかと思うと、既にヤルタ兵の目の前に。

 

「え?」

 

 とぼけた言葉に続くものはない。彼の胸にはダインスレイブが深々と突き刺さり、ワンテンポ遅れて口からゴポリと鮮血が溢れだした。ブレンは引き抜くのも面倒だったのか、そのヤルタ兵の身体を蹴り飛ばして地面を転がす。

 

「化け物だぁ! 逃げろ!」

 

 ヤルタ兵たちはブレンから、死から逃れようと武器を放り出して散り散りに逃げ去っていく。流石にブレンとてそれを追撃するほど、精神が強くはない。

 

「ケッ、さぁさぁどっかいっちまえ」

 

 ヤルタ兵たちが居なくなるのを見届け、ブレンは辺りを見回す。辛うじて物体としての形を残した死骸は二体、塵芥にしたのは一体、合計三体。中隊は確か歩兵が九十人ほどらしいので、まだまだいる。とはいえ、今の出来事で戦意喪失して無力化した者も少なくはないはずだ。このペースでほどよく殺していけば、わざわざ全滅させなくても済みそうだ。

 

「さて、勇平はどうしてっかな……?」

 

 ブレンは振り返り、後方で自分の討ち漏らしと戦っているはずの勇平を気にかける。まあ、彼なら大丈夫だろう。ブレンは腰のスラスタから燐光を放ち、次なる敵を求めて地を滑るように飛んでいった。

 

 

 

***

 

 

 

 ブレンが先行していった後、特別な移動装置を持たない勇平は徒歩で基地内を移動していた。彼もまたエクスソルジャーであるためその程度はへでもないのだが、何せ時間がかかる。

 

「俺にも魔法適正があれば、楽だったんだがな……」

 

 少々エネルギー不足になってきたので、勇平はその辺に落ちていたコンクリートの破片を手に取り、口に放り込んだ。ゴリッ、ゴリッとまるで硬めの飴を咀嚼するように破片を噛み砕き、そして飲み込む。味は最悪だが、含まれるカルシウムなどの金属元素のエネルギー効率はただの食品よりも高い。

 

「あー、不味い。しかし、端から見りゃとんでもない状態よな。俺」

 

 背に大振りな片刃斧を背負い、手には大型の十二ミリリニアライフル。背丈は二メートルに達し、がっしりとした体格。そんな物騒な巨漢が今、コンクリート片を食べている。とても異様な状態だ。

 故にこういうことも起きる。

 

「し、侵入者発見! おそらくさっきの奴の仲間です!」

 

 勇平の横方向から声が聞こえた。彼が顔を向けるとそこには五人ほどのヤルタ兵がリニアライフルの銃口を向けていた。基本的に歩兵の最小単位は十人なので、半分はブレンに消されたか、あるいは逃げ出したか。いずれにせよ、この残った五人はいまだに勇平たちへと敵対する意思を持っているということだ。

 

「あいつと戦ってまだ立ち上がるのか…… 多少は骨があるようだな」

「撃て!」

 

 合図と共に勇平へとリニア弾が襲いかかった。彼はとっさに斧を手にして側面で防御するが、その面積などたかが知れている。急所への被弾は免れたが腕や太ももに着弾、黒く穿たれた穴から紅く血が流れ出す。

 

「効いているぞ! このまま撃ち続けるんだ!」

 

 ヤルタ兵たちはジリジリとにじり寄りつつ、勇平へと弾丸を浴びせ続ける。被弾箇所は増え続け、その度に彼の服は紅く染まっていく。そしてついに体勢が崩れ、膝を地に着けた。

 

「へ、へへ…… なんだよ、随分と弱いぞコイツ? 本当にさっきの奴の仲間なのか?」

 

 余裕の出てきたヤルタ兵たちは無防備にも勇平を囲うように近づく。彼は斧を盾にしたままじっと動かない。

 

「なかなかのタフさだが、接射ならどうなんだよ!」

 

 調子に乗った一人が不用意に勇平へと接近し、その背に銃口を突きつけた。

 

「くたばれ化け物! 仲間の仇だ!」

 

 引き金が引かれる、その瞬間だった。勇平は無言のまま凄まじい速度で振り向くと、その遠心力をのせて斧を逆袈裟斬り。ヤルタ兵は斜めに両断され、上半身の方が天高く舞い上がって重い音と共に地面に落下。

 

「ありがとよ。わざわざ射程に入ってくれて!」

 

 勇平はリニアライフルを構え、引き金を引く。かと思いきや、そのままヤルタ兵の一人へと投擲する。想定外の出来事に唖然としたその兵は動くことができず、風を切りながら迫るリニアライフルが頭に直撃。ゴッという鈍い音と共に首があらぬ方向へと曲がり、そのまま後ろへ。

 

「撃つのは、得意じゃないんでな」

「化け物め……! 人間様をなめるな!」

 

 無謀にも、残りの三人が同時に勇平へと飛びかかる。その手にはそれぞれナイフが握られていた。

 

「三方向からなら対処できまい!」

 

 勇平は避けもせず、迎撃もせず、ただその身にナイフの刃を深々と受け止める。だが。

 

「……終わりか?」

 

 心臓、肺、肝臓。内臓の中でも特に急所とされるこれらを刺されても、勇平は平然とそう言ってみせた。その異様な現実に、ヤルタ兵たちは真っ青になる。

 

「ならこっちの番だな」

 

 そして、逃げようとした一人の首が、斧で絶ち切られた。鮮やかな赤色の噴水が出来上がる。その隙に残る二人は勇平から距離を取ったが、その内一人は後ろからまともに勇平のタックルを食らい、全身の骨を粉砕されて絶命。最後の一人は腰を抜かし、這うようにして逃げるが勇平はそれを見逃さない。

 

「悪いが、俺にも痛覚があるんだよ。リニアの分は利息つけて返してやる」

 

 勇平は這いつくばったヤルタ兵の前に立ち、その頭にトンと脚を乗せた。そして、徐々に圧をかけていく。

 

「あ、あ、あ、あぁ! 止めてくれ!」

「聞けん相談だ」

 

 無情にも圧は高まり続け、不思議と体重の重みを超えていく。

 

「いだいいだいいだいぃ!! 助けてくれ!」

「誰に言っているんだ?」

 

 激痛にヤルタ兵の反応が鈍くなっていく。ふと勇平は面倒になり、一気に圧を強める。ミシ、パキという音と共に頭蓋骨が限界を迎え、つぶれた。

 その場にいたヤルタ兵を全て葬った勇平は深呼吸をする。ブレンなら、この十分の一の時間で倍の数を殲滅するだろう。アイツは末恐ろしいな。そんなことを考えながら。

 

「……おっと、傷はどうなったか」

 

 太ももと腕に目をやると、先ほど穿たれたあの穴は既にふさがって新しい皮膚が張っていた。弾丸を摘出し忘れたが、どうせ分解吸収されるだろう。気にすることではない。

 

「そろそろブレンは到達する頃か」

 

 遠目に見える建物の灯りが揺らいでいる。それはつまり、そういうことだ。自分も早く向かわなくては。勇平は再び歩き始めた。

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