ファンタジア・レコード ~phant'asia-re'code~ (仮版)   作:明日田錬武

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第十八話 叡知の対決

 司令室には重く苦い空気が充満していた。仮に火種があったなら、パニックという名の爆炎となって司令官と副官を焼き尽くすだろう。

 

「第七分隊との連絡が途絶えました…… これで第三小隊は全滅です……!」

 

 カタカタと震えながら無線機を手にする副官。その視線の先には基地の各所を映したモニター群があった。どのモニターも、散らばったヒトの残骸、粉砕された施設、そして舞い上がる火の粉が映っている。

 

「バカな……っ! たかが二人の歩兵にここまで良いようにやられるとは!」

 

 司令官はダンッと椅子の肘かけに拳を振り下ろす。その握られた指は小刻みに振動し、悔しさとそれを上回る恐怖を示していた。

 

「残存兵力は!?」

 

 司令官の怒鳴り付ける声に副官がビクリと痙攣。慌ててモニターの一つを見て、さらに真っ青に。

 

「だ、第三分隊と第五分隊だけです! その他は反応無し…… このままでは!」

「ぬ、ぬぅぅ……」

 

 司令官は額を押さえ、そして肘かけに備え付けの無線機を手に取って叫んだ。

 

「ヴァイスハンガー聞こえるか! ヴァイス隊発進だ! 三小隊全て出す!」

 

 それを聞いて、無線機越しに通信相手が困惑した声を上げた。

 

『え!? 全部出すんですか? 相手は二人の歩兵じゃ……』

「いいから出せ!」

 

 そう言い放つと司令官がガシャンと無線機を肘掛けへと叩きつける。屈辱だ、ヤルタ連邦国防軍がこんなことで。

 

「大丈夫でしょうか…… 嫌な予感が……」

「味方を応援しろ! 弱気では勝てる戦いも勝てぬ!」

 

 とは言ったものの、司令官自身も不安で満たされていた。あの化け物相手に本当にヴァイスで対抗できるのか。いや、出来なければ困る。ヴァイスを出してまで負けたら、その時こそ我々は終わりだ。

 

「必ず勝てよ…… 人類の叡知……!」

 

 皮肉にも、彼らの敵対するエクスソルジャーもまた人類の叡知の結晶であることを、司令官は知らなかった。

 あえて結果を先に述べるなら、ただの悪あがきであった。

 

 

 

***

 

 

 

 第五分隊の最後の一人の首をねじり、ブレンはまた一つ分隊を壊滅させた。そして、次なる標的を求めて移動しようとしたその時、第六感が何かを察知する。

 

「なんだ…… デケェのが、来るな」

 

 辺りを見回し、ふと気になった一点をじっと見つめる。すると、高速で「何か」が飛来して、ブレンはとっさに身をひるがえしてそれを避けた。

 

「リニア!? この弾丸サイズは……!」

 

 飛来した何かが来た方向を再度見る。するとやはり、いた。黄色の光の点が四つ。目を凝らすと更に鮮明になる。それは大きな影だ。

 

「そういやここは配備されてるって、ミーティングで言ってたっけ?」

 

 ブレンはスラスタを起動して燐光と共にその点へと突撃を仕掛ける。距離が迫るにつれ、詳細が見えてきた。

 巨大な人型。それは機械で形成された五メートルほどの巨人。右腕には巨大な十八ミリリニアライフル、左腕にはシールド。そして腰の後ろには大振りなアックスがマウントされている。

 ヴァイスだ。ヤルタ連邦国防軍の主力ヴァイス、G-06「G・レイズ」が四機、宵闇の中で頭部のモノアイを輝かせていた。その内の一機はブレンへとリニアライフルの銃口を向けている。先ほど飛来したものはこれから発射されたのだろう。

 

「デカブツのお出ましだな。ってことはそろそろ締めか」

 

 G・レイズが動きだし、二機ずつに別れる。二機はその場に留まってリニアライフルで狙いを定め、もう二機はライフルをアックスに持ち変えてシールドを構えつつ迫り来る。腐っても軍人は軍人なようで、連携がよくされているようだ。

 

「ッ! 来いよ!」

 

 ブレンもまたダインスレイブを右手に持ち直しつつ、突撃の速度を緩めずに進む。接近してくる二機との距離は約十メートル。あとわずかで両者たちは近接戦の射程だ。

 

「シールドごとブチ抜いてやらぁ!」

 

 ブレンはダインスレイブを引くように構え、眼前に迫るG・レイズにフェンシングの要領で突き出した。黒く尖った先端が音速を超え、深緑塗装のシールドへ吸い込まれるようにクリーンヒット。しかしパイロットはその瞬間、シールドを腕部のマウンタからパージ。もう一機と共に即座に左右へ散開した。そして二機の空いた空間めがけて後方の二機がリニアライフルの弾丸を殺到させる。

 

「なっ、ヤベッ!」

 

 ダインスレイブが突き刺さったシールドをそのまま利用してブレンは弾幕をしのぐ。だが長くはもたない。シールドはダインスレイブによる亀裂が入っており、リニア弾を受け止める度にそれは深く、大きくなっていく。

 

「野郎……!」

 

 降り注ぐ弾丸が止んだかと思うと、横から風切り音。半ば無意識的にダインスレイブを振るうと、金属のかち合う甲高い嫌な音が鳴り響いた。見れば先ほど散開した内の一機がアックスを振り下ろしている。弾幕に意識を取られていたせいで接近を許したようだ。

 

「チッ、だが!」

 

 ダインスレイブとアックスのつばぜり合いは、ブレンが勝利のようだ。G・レイズの最新式アクチュエータを超えるパワーでアックスを押し返し、マニピュレータの保持力を上回る力ではね飛ばす。アックスは宙を回転しながら舞い、そしてザンッと小さく土煙をあげながら地面に突き刺さる。シールドとアックス、両手の武器を失ったG・レイズがうろたえるように二、三歩後ろへ下がる。

 

 その隙を見逃すブレンではない。

 

「まずは一機ッ!」

 

 ブレンはマルスとの戦いでやったように、ダインスレイブが刺さったシールドを遠心力で撃ち放つ。違うことは、今回はバラバラに散らずに塊のまま放たれたことと、その硬度だ。リニアライフルと同等以上に加速された防御用装甲板のミルフィーユが寸分違わずにG・レイズの胴体コックピットにめり込んだ。ギシャンという音と共にハッチの奥でパイロットが潰え、操縦を失った機体がぐらりと傾いて地面に突っ伏す。

 

「おしっ、次!」

 

 次なる目標はもう一機のアックス持ちだ。目をやれば、僚機が信じられない方法で撃破されたのを見て困惑したように固まっている。またも隙だ。

 

「今度はこっちから!」

 

 ダインスレイブを振り上げ、応戦のために振り下ろされたアックスとかち合う。ギリギリと火花を散らしながら両者の得物が擦れあった。しかし、今度はパワーでは押しきらない。ブレンはダインスレイブの角度を変え、アックスの刃を滑らせて「いなす」。姿勢が前傾になったところで懐に潜り込み、脚部の膝関節へと横殴りの一撃を加えて粉砕。支えを失ったG・レイズが地面へとうつ伏せに倒れた。

 

「トドメッ!」

 

 ブレンは機体の背中に飛び乗ってダインスレイブを逆手に持ち、地面に杭を差し込むように刺し貫いた。ヴァイスの背面には動力炉があり、内部にはトリフェロンが利用されている。彼が引き抜くと穴から気化したトリフェロンが吹き出し、機器のスパークで引火してG・レイズを内部から吹き飛ばした。

 ブレンもまた爆風に巻き込まれていたが、さほどのダメージはない。むしろその爆風に乗って残る二機へと襲いかかった。

 

「くらえぇぇぇ!!」

 

 爆風にあおられながらもスラスタで姿勢制御。空中で最適なフォームを取り、やり投げの要領でダインスレイブをミサイルのごとく投擲した。完全に不意を突かれたG・レイズは防御もできず、艦砲クラスの威力を持つダインスレイブに胴体の中心を貫徹される。機体を貫いたダインスレイブはそのまま地面に半分ほど突き刺さり、その後ろで動力炉を破損したG・レイズが立ったまま爆散。残り一機だ。

 

「速さ重視ならアレを使わなきゃだが……」

 

 地面に着地したブレンはそのまま地面を駆け抜けG・レイズに迫る。ダインスレイブは手元にない。攻撃手段は素手しかないように見えるが、彼には奥の手があった。

 しかし、それを使うかどうかの決断の前に、決着はついた。最後のG・レイズの胴体を、桃色の細い光線が撃ち抜いたからだ。パイロットはほぼ即死だろう、機体はゆっくりと膝をついてその場に崩れ落ちた。

 

「お、ああ…… アイツか……」

 

 ブレンは光線が飛来した方向を見て察し、ため息をつく。戦果を取られた。まあ、一機くらいは誤差だろうが。

 

「んで、確かあと…… 何機だ?」

 

 一中隊につき何機のヴァイスだったか。ブレンは顎に手を当てて唸りながら考えた。が、別にさほど気にするべきではない、とりあえず出てきたら全滅させればいい。という結論に至って考えるのを中断した。

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