ファンタジア・レコード ~phant'asia-re'code~ (仮版)   作:明日田錬武

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第十九話 終演

 地表相対高度一キロメートル。グローエイラ4バンチコロニーの壁上に一つの人影があった。その影は長大な銃器を手に、うつ伏せで壁外へとその銃口を向けている。

 しばしの間、影はじっと動く気配を見せなかったがある時、カチリという小さな音と共に銃の引き金が引かれた。すると、銃口から飛び出したのは金属の弾丸ではなく桃色の細い光線。そして、夜空を裂いて進む光線は寸分違わず、ブレンと交戦していたG・レイズのコックピットを貫いた。その距離約十キロ。

 

『お見事であります。クリス殿』

 

 イヤーカム越しに聞こえるエイジの称賛に、クリスは薄く口元で笑みを浮かべた。

 

「当然だ。アイツにばかり戦果をあげられては困る。次の目標は」

『少々お待ちくだされ』

 

 エイジからの指示を待つ間、再び壁上に静寂が訪れる。クリスは自らもスコープで見回して標的を探した。

 ヤルタと戦うのは嫌か。不意にアルザールの言葉がよみがえる。実際どうなのかと言われれば、やはり抵抗はある。しかし、今回は話が別だ。離反した不良部隊の殲滅。政治的な意味があるのかと思いきや、ふたを開けてみれば本当に「不良」の討伐だった。ヤルタの名を冠していながらあのような醜態を見せられれば、否が応でも気分が悪くなる。特に、ヤルタに対する複雑な心境を持つクリスにとってはなおさらだった。

 

「僕は、父さんは、こんなもの認めない……!」

 

 無意識にギリッとグリップを握る手に力が入る。早く次の標的をくれ。

 

『見つけたであります! 基地北東部、格納庫から出て来るであります!』

 

 指示を受けて即座に反応、僅か数秒で対象を見つける。そこでは格納庫のシャッターから四機のG・レイズが今まさにブレンらを迎撃に出撃した直後であった。

 

「……墜とす!」

 

 スコープの中心にG・レイズの胴体を合わせ、トリガーを引く。ズンッと鈍い反動と共に桃色の光線が放たれ、着弾。G・レイズは火を噴きながらバラバラに爆散した。異変に気づいた残りの三機が慌てて散開するが、もはや遅い。クリスは次なる目標を既に捉えていた。

 

「二機目ッ!」

 

 人差し指に力が込められ、再び反動。しかし、今度は狙いがややずれてしまったようで、放たれた光はG・レイズの右腕を肩口から吹き飛ばすにとどまった。だが、まだ終わりではない。目標は狙撃を受けてパニックを起こしたのか、その場から動かなくなった。こうなればただの的だ。クリスは今度こそコックピットに狙いを定め、無慈悲に引き金を引く。そしてスコープの中で鮮やかな赤色の光が見え、彼はそれを満足そうに眺めた。

 

「次……」

 

 三機目は実に呆気なかった。味方が二機もやられたというのに遮蔽物に隠れる素振りすら見せず、ただ辺りを右往左往している。そこでクリスはほんの少しばかり嗜虐心がわいたのか、一度胴体に合わせた照準をやや上、つまり頭部へと移して発射。モノアイを貫通して頭部ユニットが弾け飛んだ。そして間髪入れずに右腕、左腕、右脚部、左脚部を順に正確に撃ち抜いていく。ドスンと胴体だけのG・レイズが地に倒れたかと思うと、コックピットハッチが緊急パージされて宙を舞う。そしてハッチの空いた胴体から這い出るようにパイロットが姿を現した。

 

「……フッ」

 

 パイロットは緊急用に携帯していたと思われる拳銃を手に、やっと遮蔽物目掛けて逃げ出した。だが、その背をためらい無く光が貫く。パイロットは風にあおられた木の葉のように地を何度も転がり、そして動かなくなった。

 

『クリス殿……?』

「ん? ああ、すまない。遊び過ぎたようだ。次の指示を」

 

 クリス。彼もまた、エクスソルジャーのもたらす力に呑まれつつあった。

 

 

 

***

 

 

 

「どうするのだこの状況! 何か、何か打開策は!?」

 

 司令室では司令官が頭をかきむしりながら子供のようにわめいていた。対する副官はまるで事切れたかのように静かにモニターを見つめている。画面ではちょうど十六機目のG・レイズ、つまり最後の一機が撃破された瞬間が映し出されていた。

 

「は、はは、ははは、もう終わりだ。司令官、降参しましょう?」

 

 副官が死んだ顔で司令官へとそう提言するが、司令官は副官の襟首をつかんで前後に何度も揺すった。

 

「降参などできるかぁ! ヤツらをみろ! 我々を殲滅する気だぞ!」

 

 揺さぶられる度に副官の首が力無くカクカクと傾く。完全に無気力状態だ。

 

「ではこのままここまで到達されて交渉もなく殺されろと?」

「う、うぐぐ……」

 

 司令官は手を放し、仕方なく司令席へと戻る。副官は床にへたりこんだまま虚を見ていた。

 完全なお手上げ状態。そこへ追い打ちをかけるように司令室の中で声が響いた。

 

「やっほー、お待たせ!」

 

 二人は突然の声に驚いてビクリと震えた。そして室内を見回すが、他に誰もいない。ただ、なぜか出入り口の戸が開け放たれている。

 

「あ、そうだったそうだった…… えいっ!」

 

 パチンッと指を鳴らす音が聞こえたかと思うと、開かれた戸の前にじわじわと少女の姿が現れた。少女は驚愕する二人を交互に見て、ニコリと笑みを浮かべる。

 

「良かったぁ、逃げられてたらどうしようかと思ったよ。じゃ…… 仕上げよっか」

 

 次の瞬間、少女は目にも止まらぬ速さで副官の横を通りすぎた。そして、真っ赤な液体が副官の首から噴き上がる。少女の手にはいつの間にか大振りなナイフが握られていた。

 

「まずは一人~」

 

 まるでゲームでもしているかのように楽しげに、少女は殺人の報告をする。それから司令官を見据え、残像が残るほどの勢いで接近して刃を滑らせた。

 

「悪いねぇ。僕たちもこれが仕事だからさ」

 

 司令官は膝から崩れ落ち、床に伏して赤い水溜まりを司令室に広げた。

 

『サラ殿、制圧はできたでありますか?』

 

 イヤーカムに聞こえてきたエイジの声に少女――サラはナイフの血をぬぐいながら嬉しそうに答えた。

 

「ばっちりばっちり。司令官と副官を仕留めたよ。外は?」

『こちらもほぼ殲滅完了であります。残存する敗走兵はどうするのでありますかね?』

 

 サラは司令席にトサッと座って眼前に並ぶモニターを眺めていく。どのモニターにも壊滅の文字が。

 

「んー、放っておいていいんじゃない? 僕たちの仕事はここまででしょ。僕はこれから戻るよ?」

 

 サラは床に転がる二体の死体をつま先でつつきながら答える。

 

『それもそうでありますね。では外の者たちにも撤退を伝えるであります』

「ほいほーい。じゃ後でね」

 

 通信を終えてから、サラはしゃがみこんで死体の顔を見る。そこは驚愕が貼り付いたまま時が止まっていた。ふざけて頬をぺしぺしと叩いてみるが、もちろん反応はない。

 

「脆いよねぇ人間ってさ。そのくせいっちょまえに戦争なんてやってるんだから……」

 

 エクスソルジャー。ヒトを超えた存在となった彼女には戦争が前より愚かな行為に見えて仕方がない。なぜなら、彼ら五人が本気を出したならおそらく、戦争は終わる。おびただしい死と共に。勝者はヤルタ連邦でもアヴァランチでもなく、他でもない彼ら自身。だからそこ愚かに見えるのだ。

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