ファンタジア・レコード ~phant'asia-re'code~ (仮版)   作:明日田錬武

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第二話 マルス討伐依頼

 壊れかけのエアコンから生ぬるい風が吐き出される。窓のファインダーは、室内で喫煙するものでもいるのか、黄土色にシミがあった。

 「第三会議室」にいる男と青年――ブレンは長机に横並びで向き合ったまま、無言の時を過ごしていた。

 

「……で、そろそろ依頼の話を聞きたいんだが?」

 

 静寂を破ったのはブレン。わざわざ遠出してきたというのに、こんな辛気臭い部屋にYシャツ・スラックスパツパツ男と見つめ合うだけなど冗談ではない。

 

「……できます?」

 

「内容も報酬も言われてねぇのに、できるもくそもあるかよ……」

 

 青年はガクリと頭を落とした。この男、ふざけているのか?

 実際は、男はややパニックになっていた。中立傭兵団オルフェンズ、そこに所属するエクスソルジャー。数々のにわかに信じがたい戦果をあげてきたことで有名だ。中には誇張された話もあるだろうが、それでもいざ目の前にすると、萎縮する。

 

「……はぁ。依頼内容は?」

 

 ブレンが催促するように手を伸ばしてひょいひょいと振る。男は何も差し出さず、ただPCのキーボードを叩き、ある画面を映した。そしてブレンへと向ける。

 見ると、そこには大破した車両の画像。ボディがひしゃげ、ドアが取れ、炎上した後なのか全体的に黒い。

 

「……これはつい先日にニューラ7バンチ郊外で発見されたもの。車内には一人の遺体。死因は…… 外傷性失血死」

 

 それを聞いてブレンは疑問を浮かべる。これと、傭兵に依頼するような事とに関連性が見受けられない。ただの事故の写真だろう?

 

「死因が失血性だろうが焼死だろうが、事故なんだろ? まさか、交通誘導をやれってんじゃないだろうな?」

 

 ブレンの目付きが鋭くなる。本気で交通誘導をさせられるなどとは思ってもないが、それはそれとして単純に早く本題に入りたいからだ。

 

「まさか。この遺体の死因、外傷性失血は、『生物』によるものです」

 

 そこでブレンはピンときた。生物による失血死、車両を破壊するほどの生物。心当たりがある。

 

「……マルスか」

 

 男は何も言わずにPCの操作に進む。どうやら正解のようだ。何か言ったらどうなんだ?

 次に男が見せてきたのはグラフ。横軸は時期、縦軸は時期が進むことに赤いラインが上へと伸びている。

 

「これは、マルスによるものと思われる被害の報告。ここ数週間の間でほぼ倍に」

 

 縦軸のラインも区切りが入っており、一番下の区画、黒字脚注で「死者」と書かれた部分が。つい先日にも三人か。

 だがここで、ブレンに新たな疑問が浮かぶ。なぜわざわざ遠方から傭兵を雇ってまでするのか。だって――

 

「コロニー駐留軍はどうしてんだよ。こういうの、本当は駐留軍がやる仕事だろ?」

 

 その言葉を聞いて、男の視線がブレンからそれた。

 

「……前線に」

 

 ブレンは呆れた。駐留軍も、ヤルタ連邦国防軍の一部のはずだ。「国」民を危機から「防」ぐ「軍」と書いて「国防軍」 それが一体全体何をしているのか。

 

「本来の役目ほっぽって戦争かよ。ふざけてんな」

 

 男も内心同感だったようで、なんとなくだが、態度が和らいだ気がする。

 

「今回の依頼は、ニューラ7バンチ郊外に形成されたマルスのコロニー殲滅です。規模は小型、中型が混成で約二十頭。報酬は……」

 

 男がPCの画面を切り替え、中央に数字が大きく表示された。ブレンはそれを見てやや苦い顔をする。

 

「二十万、か……」

 

 オルフェンズは傭兵団の中でも比較的リーズナブルな料金で傭兵を派遣することで有名だ。とはいえ、一頭あたり一万は……

 

「……もう少し、上げれねぇか? うちもよ、正直キチィんだ。そっちの懐事情も察するがよ……」

 

 そういってブレンは新たに見つけた壁面のヒビをちらりと見た。

 

「……我々も何とかしたい。しかし、職員に武器を持たせて、戦わせてなんとかなる相手ではない。どうか」

 

 真摯になり始めた男の態度を見て、ブレンは考える。そしてあることを思い付いた。

 

「なあ、あんたのところって、孤児への支援政策やってるか?」

 

 予想外の言葉に男はやや驚いた表情を見せる。

 

「……一応、やってます。しかし、今は対象となる戦争孤児すら……」

 

「ちょっくら、予算が余ってたりしねぇか?」

 

 ブレンはやや手応えを感じとる。いける気がする。

 

「孤児のための予算を、報酬に回してほしい。ということですか」

 

 男は困惑した表情を浮かべる。無理もない。全く関連のない支出に予算を回せるほど、役所仕事は柔軟ではない。

 だが、ここでブレンは切り札を切った。

 

「うち実はさ、傭兵業だけじゃなくて戦争孤児の保護も活動の一つなんだよ。んでもって、報酬で保護したやつらをまかなってるってわけ」

 

 男は顎に手を当て、考える仕草をした。思ったより効いている。

 

「なるほど…… 単純な報酬とは別に、戦争孤児保護活動への支援金として支出すれば、まだ少しは出せます」

 

 ブレンは心の中でガッツポーズをとりかけて、慌てて冷静になる。まだ交渉は終わってない。

 

「そんで、どれくらいなら?」

 

 男はPCを自分に向け、キーボードを高速で叩いて何かを調べている。そして数十秒後、再び画面をブレンへと向ける。そこには、

 

「申し訳ないが、上乗せしてもこれが限度です。元の予算も縮小していて、これ以上は支払いできない」

 

 出された金額は計二十五万。正直にいえば、まだ低い。本来の相場から見れば半分にも達さない額だ。しかし、これ以上粘っても無駄だろう。

 

「了解、受託した。早速向かう。現場の位置情報をくれ」

 

 男は頭をゆっくりと下げ、「ありがとうございます」と低く言った。そして再びPCに向き直すとなにやら操作を進め、タンッとエンターキーが押されると同時にブレンのバッグからバイブレーション。SNSに何かが送信されたようだ。

 

「今、位置情報を送りました。移動は……」

 

 そこでブレンはハッとした。目的地は郊外と言っていたな。どうやって移動しよう。

 

「……その様子では、自前の車両などは無いようですね。うちのオフロードをお貸しできますが、運転は?」

 

「ああ、えっと、一応……」

 

 運転免許は、ない。だが、傭兵という仕事柄上、既に技術は習得している。でも責任問題とかになったら……

 

「……分かりました。今回は特例です。しかし、これが原因でそちらに何か損害が発生しても、こちらは何もできません。……それでもよくて?」

 

 やはり、何か引っ掛かる男だ。ブレンは言い得ないむず痒さを感じながらも頷く。

 

「まあ、それで頼むわ」

 

 交渉終了。席を立ち、そそくさと出ていこうとしたブレンは入り口で立ち止まり、またも忘れていたことを思い出す。

 

「なぁ」

 

「なんでしょう」

 

「配達物の集積所って、どこ?」

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