ファンタジア・レコード ~phant'asia-re'code~ (仮版)   作:明日田錬武

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第三話 ダインスレイブ

 静閑とした軒並みの一角。シャッター街に紛れるように、配達物集積所はあった。

 そこには、本来は配達員が運ぶべき荷物が乱雑に積み上げられ、持ち主を待っている。

 

「配送業もダメになってんのかよ。ここは」

 

 ブレンは目の前にそびえる段ボールの山脈に、軽くめまいを感じた。この中から目的のものを見つけなければならないのか。

 まずは目の前の段ボールから確認しよう。そう思い、近づいたその時。

 

「置き引きですかぁ?」

 

 突然声をかけられ、一瞬神経がこわばる。振り向くと、そこには若い男がいた。くたびれた青色のシャツを着ている。

 

「いや、盗みじゃ……」

 

 弁明しようとしたブレンはそこで気づく。この男、配達員だ。着ているシャツの胸元に有名な配送業者のマークがある。

 

「電子伝票ぉ、持ってますぅ? こんなご時世でもぉ、一応確認してるんすよぉ」

 

 そう言って男はダルそうに手を出した。電子伝票を見せろ、ということだ。

 それにしても、この男のやる気の無さはブレンのそれを超えている。人は自身を超えた尖りを見た時、冷静になるというがそれは真実だ。僅かばかりに気が引き締まる。流石にこれと一緒にはされたくない。

 

「ああ、ちょっと待ってくれ……」

 

 ブレンはバッグから端末を取り出して素早く起動。配達業者の公式アプリを開いて配達物の発送記録を表示する。そこには段ボール二つと定形外配達物一つ、計三個口の荷物の問い合わせコードが記されていた。

 確認に時間がかかるだろうか。そう思った矢先、男は画面を一瞥すると「さっさと持っていけ」と言わんばかりにシッシッと手を振った。

 

「え……? これだけ?」

 

 ブレンが困惑した表情を浮かべる。しかし、男はイラついた様子で腕を組んで足を揺する。

 

「確認したじゃないすかぁ。うちのアプリっぽいの使っててぇ、それっぽい画面出てたでしょぉ? じゃあいいじゃないっすかぁ。とっとと持ってってくださいよぉ。ここにあっても邪魔なんすよぉ」

 

 仮にも利用客の荷物を邪魔と言ってのける。とてつもないメンタリティだ。一周回って凄みすら感じる。

 

「お、おう…… じゃあ勝手に探して持っていくぞ……?」

 

 ブレンがそう言い終わる前に、男は既に別の場所へと歩き始めていた。……なんなんだこいつ? まあいい。

 気持ちを切り替えて段ボールの山に向き直ったその時、別の場所から怒声が響いた。

 

「置き引きだぁぁぁ!! 捕まえろぉぉぉ!!」

 

 声のした先で、小包を抱えた老人が必死によたよたと走っている。それを全速力で先程の男が追いかけ、体当たりを食らわせた。老人は羽根のように前方に吹っ飛び、地面に転がる。

 

「捕まえたぁぁぁ!! これでボーナスだぁぁ!!」

 

 倒れ込んだ老人に馬乗りになり、腕を締め上げる。そして老人は掠れるような声でうめいた。これは明らかに過剰な対応だ。

 

「へっへっへ、それっぽいものを見せさえすれば良かったのに、それすらしなかったからこうなるんすよぉぉ!! 本社から盗っ人捕縛の賞礼をいただきっすよぉぉ!!」

 

 呆れを通り越して悲哀すら感じる。人はここまで醜くなれるものなのか。そう一瞬考えたが、よくよく省みれば自分も人をいえる立場ではない。ブレンはただ目をそらした。

 それから、自分の荷物を探して集積所を探し回ること三十分。やっと見つけた目当てのものは、箱が潰れ、ひっくり返り、挙げ句の果てにはよく分からない落書きがされていた。三個全てが無事にあることが奇跡なくらいに、酷い状態だ。

 

「……ケッ」

 

 ブレンはまず、細長い段ボールを開封する。定形外荷物で、普通の配達料金より四割も高かった。それなのにこの扱いを受けるとは。周りの目を気にせずに直接持ち歩けば良かったか?

 中身は金属の棒。長さは百五十センチほどで、鈍い光沢の黒色だ。先端の片方が円錐形に鋭く尖っている。

 

 一見すると、杭にも見えるこれ。これこそがブレンの武器だ。名を「ダインスレイブ」という。

 

 ブレンは箱を破り、ダインスレイブを手に取る。そして持ち手にあたる部分を握り、片手で軽く振り回してみた。……ビュンと風を切る音が鳴る。いい調子だ。

 一旦ダインスレイブを他人の荷物に立て掛け、次の箱を開ける。重さは比較的軽い。

 白い緩衝材をぶちまけ、中身を取り出す。

 ベストだ。黒色の対物繊維で編み込まれたベストが畳まれていた。背の部分には小さなフック状の金具が付いている。これは先程のダインスレイブをマウントするためのものだ。

 ベストを広げて装着。胸と腹の二ヶ所で留め具をパチンとはめる。キツすぎずユルすぎず、これが丁度いいというやつだ。

 次の箱を空ける前に、ブレンは再びダインスレイブを手にして振り回す。イメージは棒術とかいう古代の武術。細かいことなど知らない、ただなんとなくそれっぽい動きをしてみるだけ。

 気が済むまでダインスレイブを振るい、最後に少しだけカッコつけて背に負う。するとベストのマウンタが自動で閉まって、ダインスレイブが固定された。そこで少しだけ恥ずかしくなって、ブレンは下を向く。誰かに見られてたらどうしよう。

 気をまぎらわすように、ブレンは最後の箱に手をつけた。これには、特別なものが入っている。

 封を剥がし、蓋を開き、緩衝材をどける。そして姿を現すもの。

 それは、ダインスレイブに似た質感の「腕」だった。左下腕の形をした機械が、箱の底に横たわっている。

 ブレンは自分の左手を見て、それから肘のあたりに右手を当てる。慣れた手付きで何かを探り、そして押す。

 バチン、と音がして「左腕がはずれた」 それをたまたま見ていた他の人間がギョッとした表情を浮かべて固まる。……何見てんだよ。見せモンじゃねぇぞ。

 左腕は力を失ったように、重力に従ってカクンと垂れる。ブレンはそれをバッグに放り込んで、今度は箱の中の機械を掴む。

 それを左肘の先に当て、軽く捻りながら押し込む。カチッとはまる音、それに続いてキュゥンと小さい電子音が鳴った。

 「左腕」は握り締められた状態から、親指から順に開かれ、再び握られる。動作チェックだ。

 握り、開き、何度と繰り返す。そして最後に手首をぐるりと「一周回す」 三百六十度回転。生身では不可能な動作も難なくこなし、チェックは終わった。

 

「……じゃ、行くか」

 

 ブレンは段ボールを散らしたまま、集積所をあとにする。それは、先程見た光景へのささやかな抵抗。なのかもしれない。

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