スターライトナイト参上!!!   作:サカサマ

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そして契約は結ばれる。

 

 

 エリー都をホロウが飲み込み、その急速な膨張もようやく落ち着いた頃、軍部最上層は抑え方を決めかねていた。

 

——旧都陥落から9時間11分56秒

 

 

 

 

 

 煙の晴れたその中、デュラハンは結晶になり砕け散る。虹色の破片がホロウの歪んだ空間に吸い込まれるように消えた。突き上げた剣も剣先からボロボロと崩れて手元から消える。

 

 周辺の建物を抜刀した衝撃が巻き込み、振り抜いたその先にあった瓦礫は鋭く切断されていた。衝撃波によるものか、自身のある場所から円形に崩れている。

 

 勝利の余韻に浸る間もなく、頭に声が場面が、濁流のように流れ込む。

 誰かが血濡れになりながら助けを求めている。悲劇の中心で叫ぶ者がいる。忘却の彼方へ向かった者がいる。死を前に果敢に挑む者がいる。そうして立ち返れば、僕がいた。

 

 変身の影響か、その性能によるものか。聴力や第六感的なものによりホロウの中の情報が頭に送り込まれる。まるでゲームのようにその場面を俯瞰で見るような感覚が襲いかかっていた。

 頭がキャパシティを超えて熱を持ち、ズキズキと痛む。足元が揺れて、転ばぬように立ち直そうと足を動かすと鉛になったように動かしにくかった。驚き見やると、スーツが空間に解けるように溶けていく。軽快に動けた肉体が本来のボロボロな肉に置き換わり、広がっていく。

 

「あ、ああああっ」

 

 理想の身体が、現実の痛みで急速に塗り替えられていくようだった。激痛により、そのままうつ伏せに倒れる。手をつくこともできず、無抵抗に倒れた。それと同時に、変身したスーツは完全に解けてしまった。

 痛みを忘れていた身体が思い出したかのように痛む。吸い込む空気が上手く入らず、地が避けて熱い溶岩が流れ出したような恐ろしい激痛が身体を包んでいた。背中も血を吹き出し、ぬるま湯が身体を包むようだった。僕を中心に、暖かな赤の絨毯が瓦礫に広がっていく。

 

 夢だったのか。

 

 痛みに身体が軋む中、ぼんやりとしてきた頭が思う。

 先ほどの変身など夢の出来事で、今の僕はエーテリアスに吹き飛ばされトドメを刺されるまでの数瞬なんじゃないか。

 たまたま変身機を拾って、それが偶然にも憧れのスターライトナイトへ変身できて、デュラハンを圧倒したなどと。売れない三流作家が苦し紛れにも書かなそうな脚本だ。

 

 ギシギシとなる関節を動かして、視界の中に左手を持ってくる。

 変身機はそこにあった。

 特徴的な白色は血で汚れてはいるものの、星型の装飾が輝かしく光っている。

 

「…はは」

 

 もし、夢じゃなかったのなら。

 

 腹に力を入れて、芋虫のようになりながら身体を転がし横にする。浸かっている血液がピシャリと跳ねた。

 

 生きたい。

 まだ、生きていたい。

 

 まだまだ、やりたいことがある。あの男女が無事に脱出できたか気になる。あのボンプも避難所に行けたか心配だ。まだ話したいことだってある。ヒーローグッズも買いたいものがまだある。

 

 体がさらに熱くなる。怪我による熱さなど超えて、まるで自身の身体が赤熱した鉄のように、温度を上げていく。

 

 それに、だってまだ——

 

 体を仰向けにし、変身機を精一杯頭の上に掲げて、思い切り空気を吸い込み叫んだ。

 

「変身ッ!」

 

 ——映画だって見ていないのだから。

 

 

 

 

 

 しかし、淡く抱いた期待を裏切るように、変身機はうんともすんとも言わず。持ち上げた腕は限界を迎えて震える。しかし血で汚したくない気持ちが先行し、胸元にそれを腕と一緒に落とした。

 

「…はは。まあそうだよな」

 

 乾いた笑いがこぼれる。

 

 あ、やばい。

 

 視界が揺れる。ぼやぼやと揺れて、どうしようもない気分になる。顔が悲しみに歪み、鼻水まで出てきそうになる。泣きそうだ。

 こんなホロウの中、立ち上がることもできず身体全体が痛みに支配され、血だってこんなに流れている。生存は絶望的だ。

 潰えた希望を抱き、涙をこぼさないように目に力を入れた。しかし限界になりこぼしかけたとき。

 

「生命反応、確認。緊急介入プロトコル起動。使用者の死亡回避のため、変身プロセスを一時停止」

 

 胸元付近から響く声。心当たりなどそこへ置いた変身機のみであり、咄嗟に首を動かしてそれをみた。小さなランプが音声と同時に光りながら続ける。

 

「起動確認。ようこそ、ナイト候補者様」

 

 表情を欠いた中立的な声だ。高くもなく低くもない。硬すぎもせず柔らかすぎもしない。体温を感じさせない声だ。

 

「私はA.E.G.I.S.イージス。ナイト候補者様に問います。ここで死ぬ意思はありますか」

 

「ある、わけないっだろッ」

 

 変身機から聞こえる声に驚きつつも間髪入れず、ひどく疲れた身体を絞るように声を出す。

 

「A.E.G.I.S.イージスオンライン。肉体保全モードへ移行」

 

 変身機のランプがピカリと光る。

 何が起きているか、理解できない。

 変身時のまばゆさとは違う、穏やかで白い光が皮膚を撫でる。焼けつくようだった痛みは、どこか遠くへ押しやられていく。神経が麻痺しているのか、浮遊感のような痺れだけが身体の奥に残った。

 

 不思議な感覚に包まれて数秒。痛みのなくなった体に不信感を抱きつつ、起き上がる。特に問題がないように、血に濡れて汚れた身体は起き上がった。

 斬られた背中に手を伸ばして触れてみると、激痛が走る。どうやら白昼夢などではなくしっかりと斬られている。急速に治ったわけでもないらしい。どういうことかと変身機をみた。

 

「ただいま、簡易的な肉体修復を実施中」

 

 なるほど。と理解したふうに頷く。

 実際流れ出ていた血は止まり、痛みもなぜか感じない。原因はおそらく目の前にある変身機なのだろうが、仕組みを追求する暇なんて僕にはないだろう。

 

「…変身機。僕はホロウを出たい。痛いのは嫌だ死にたくない命が惜しい生きたい」

 

「生き意地汚く大変結構です。ナイト候補者」

 

 機械的な音を立てて、変身機から星型の飾りが浮かび空間にホログラムが表示される。青い淡い光りで照らされるそれは、どうやら地図のようだった。ところどころ歪みの目立つ様子だ。

 

「…現在入手できるホロウの情報を統括し概算した内部構造です。脱出にお役立てください」

 

 しばし間を開けてそう言われる。地図は急造品にしてはあまりに正確に思えた。素直に感嘆の声が出る。

 

「なお肉体修復処置は一時的であり、回復効果の持続時間は“脱出できたらラッキー”レベルです。また、エネルギーを全振りしておりますので、変身機能は現在停止中です」

 

 言わんとしていることがわかる。脱出するにしてもホロウを歩き回るのだからエーテリアスには必ず会うだろう。そのときは…。

 

「つまり、走って逃げるしかありません。ご武運を」

 

 

 

 

 

 示されたマップの通りに足を進めていく。いくら肉体修復がされていても体力は戻っているわけではないからか、ところどころ足をもつれさせながら進む。グラグラの瓦礫が進みにくく、倒壊したビルなどが道を塞ぐ。

 

「…塞がってるな」

 

「取得したデータでは観測できなかったものです。私に落ち度はありません」

 

「…あんた結構愉快なやつだな」

 

 手元のイージスが自分は悪くないというように弁明する言葉に、どこかおかしく思った。心細さはないから有り難いけれど。

 

「これ目的地どこなんだ、ホロウを出るようなことを言ってたよな?」

 

「はい。ホロウを出る最短ルートを組んでいます。ナイト候補者様の身体状況的に短くない距離ですが、やむ得ないことです」

 

「…クソほど疲れるんだが」

 

 返事はなく、道を塞ぐビルの中を進む。内部が崩れて内装が縦になっていて、それを黒色の結晶が彩り、なんだか非日常感。暗がりの中に何かいる気がして自然に足が速くなる。

 

 何事もなく抜けた先、ひび割れた道路が続いていた。歩道の方に目を向けると、標識などがひしゃげている。

 その一つに目が留まり、聞いた。

 

「…目的地って、避難所じゃないのか」

 

 返事はない。愉快なやつだと思っていたが、口数は少ないのかも知れない。

 手元の立体的な地図をいじり、イージスに指で示す。

 

「ここだイージス。ここの避難所、ここ目指せないか」

 

 指で示した避難所は、ボンプが逃げ込んだであろう都市有数の大型避難所。イージスの提示した脱出経路からは少し逸れる程度。いいだろう? と聞くと。

 

「都市有数の避難所ならば地下に緊急移動用鉄道などが存在します。すでに移動は完了されたようなので寄る必要はありません」

 

「…そっか。そりゃ、よかった」

 

「ナイト候補者様の懸念が晴れたのなら喜ばしい限りです」

 

 僕の考えに気づいていたのかと思える答えに、なんだよいい奴かよ、とこぼす。話をしてくれたので、一つ気になることを尋ねるとした。

 

「その候補者ってなんだ。何かしろってんなら、無理だぞ」

 

「私、イージスを起動できる人間はナイト候補者として登録されます。あなたがナイトとして戦うつもりがあるのなら」

 

 なんだか予想外の言葉がつらつらと繋げられて、辟易としてくる。そこまで難しい話をされると思ってなかったところもあり、ただでさえ動きの遅い頭がさらに鈍くなるようだった。

 イージスはそんな様子を知らぬように繋げる。

 

「私と契約して下さい」

 

 契約ってなんだと聞き返すことすら憚れるような、そんな圧というか雰囲気を感じる。

 きっとここが、分水嶺というやつだろう。ヘンテコな変身機と、ただの学生との分かれ道。

 だけれどこいつ卑怯じゃないか? とどこか余裕を持つ頭が考える。だって今はホロウを出る最中で、身体の修復も脱出の案内もイージスに任せている。この状況でこの話を蹴ったなら何されるか分かったもんじゃない。

 だけれどどうせ、僕の返事は何があっても変わらない気がする。

 

「いいよ」

 

「契約完了」

 

 お互い短く言葉を交わす。短い言葉に僕の多くの気持ちが乗っていたりするのだけど、コイツは分かっているんだろうか。

 

「というかさ。ナイトとして戦うってなに。現実には怪人集団もブラックホールもいないんだぞ」

 

「実在します」

 

「は?」

 

「実在します」

 

 今、まさに僕は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているんだろう。何を言っているんだコイツは。怪人集団『ブラックホール』っていうのは、スターライトナイトに登場する姿だけはカッコいい敵役のことじゃないのか。

 

「怪人集団『ブラックホール』は実在します」

 

 言葉を失うとはこういうことか。

 

「…なっ、まじで言ってんのか!? じゃあスターライトナイトも実在すんのか!?」

 

「大声を出さないで下さい傷に響きます。スターライトナイトは実在していませんでした」

 

 どこか意味深な言葉だけれども、続きを待つ。

 

「ナイト様がご存じであるものとは特撮ヒーローのスターライトナイトでしょうか。ブラックホールという組織は実在する話です。言うなれば、希望混じりの伝記です。史実にスターライトナイトは存在しません」

 

 ですが、と言葉を続ける。僕は今までの情報でいっぱいいっぱいだったりするけれど、これも知らんぷり。

 

「今、あなたがスターライトナイトになるのです。ナイト様」

 

「…あそ」

 

 受け止めきれず、とにかく返事だけは返した。分からないことばかり増えたけれど、目下生き残りが最優先。考えに耽るのはまだ早いだろう。ただ、なんとなしの高揚感が足取りを少し軽くしたような気がする。

 あそうだ。と思いつき、告げる。

 

「…僕はリー・ジンだ」

 

「はい。ナイト様の本名を登録します」

 

 できれば、そのナイト様というどこかこそばゆい呼び方を変えて欲しかったが、いいかと肩を落とした歩く。とぼとぼと歩いていると、手首の変身機が小さく光りベルトが締まる。咄嗟に身が隠せそうな場所へ飛び込んだ。疲労からか足裏が痛い。

 忘れかけていたが、今はホロウの中。イージスがエーテリアスの少ないルートどりをしてくれているがホロウ災害の最中にそこまで都合よく行かないらしい。

 むしろ今まで出会わなかったことが奇跡に近いんじゃないだろうか。

 

「やばくないか?」

 

 心細く呟くそれは、誰が受け取ることもなく硬い空気に解ける。瓦礫の隙間から伺うと、見慣れない種類の巨大なエーテリアスが闊歩している。マップを確認すると、見事に進行ルートを潰していた。

 

「迂回をおすすめします」

 

「当たり前だろお前」

 

 当然だろ何言ってんだお前と目を向けると、再び沈黙する。マップが新たに更新されて道が示される。ホロウというものをそこまで真剣に学んでいなかったから測れないことだが、これってとてもすごい技術なんじゃないか?

 裂け目まで慎重に向かい、それを通る。

 すると、裂け目の先はまるで環境が変わったようだった。天井は赤黒く、空気は粘り気を帯び、血の匂いが鼻を掠めた。

 

「侵食が進行する影響で空間屈折に影響が起こり、空の色まで変容しているようです。ホロウ外郭に近づいています。ファイト」

 

 平坦な声で告げられる応援ほど、背中を押さないものもないな。

 驚くような環境の変化にイージスがうんちくを垂れる。周辺に気取られて分からなかったが、ちらほらとエーテリアスが見える。

 

「…これまずくね」

 

「走り抜けて下さい。ゴールは目の前です」

 

 提案には従いたい。けれどもとてもゴールが目の前にあるようには見えなかった。

 周辺からは金属同士が激しくぶつかり合うような音や怒号が飛び交っている。それに一抹の希望が湧いた。もしかしたら、救助隊がいるのかもしれない。

 

 疲れたとか、足の痛みもどうでもよく走る。とにかく、誰かいる場所につけたなら、きっと及第点だから。走って走って走る。背後から何かが素早く追ってきていることを陰が知らせるが、それすら足を早める動機となり駆けていく。

 やがてついた希望は、今にも潰えそうなほどにズタズタだった。

 

「なっ、人!?」

 

「こっちに来い少年っ!」

 

 呼ばれるままに向かう。すると後ろを追ってきていたエーテリアスに幾らか斬撃を与えて消失させた。助けてくれたその人たちを見れば、そこにいる全員がエーテルに侵され、至る所から黒色で極彩色の結晶が生えている。

 白髪でオレンジ色の瞳をした一人が、僕を見つめていた。

 

「…ッ、民間人だろうけれど、すまない。あの子たちと撤退してくれるかい」

 

 示されたのは、侵食に目を侵された一人の兵士と、それを背負う紫髪の兵士。両人とも侵食が進んでいる。

 

「…頼むよ」

 

 その言葉に何が込められているかは、分かったつもりで。

 いつのまにか、他の兵士もこちらを見ている。今更ながらに気づいたが、彼らが相対している存在に気付いた。赤い空を背景に、エーテリアスには珍しい丸みのあるフォルムに顔面や腰部が花弁のように広がった巨大エーテリアス。周辺にはそれを守るように多くのものが浮遊していた。

 

 隊員たちの目線が記憶に明滅する。迷うことなど許されることはなく、顔を歪めてしまう。けれど頷いて、撤退する兵士のそばに寄った。

 他の隊員たちは満足そうに笑い、しかし長く顔を向けることもなく振り返り、エーテリアスに向かっていく。

 

 紫髪の兵士に手を引かれるまま、ホロウを抜けた。

 

 ホロウを脱出したその後、十分もしないうちに式輿の塔が爆破され、ホロウの拡大は落ち着いた。

 そこから数日、イージスが電池切れを起こし死にかけたこともあったが、急造の防衛軍のキャンプで精密検査などを受けている最中である。

 

 今も左手にある変身機が、全て夢ではないことを知らせていた。

 

 




 A.E.G.I.S.(イージス)
  Autonomous Engagement and Guarding Intelligence System
 自律戦術・防衛知性体。レッド用スターライトナイト変身機に搭載された自律思考AI。本来なら他の変身機AIと役割を分割し三位一体として万能なものであるが、現在目覚めた変身機はレッドのみ。
 
 かっぴょいい名前。主人公さんより名前が先に出るAIさんェ…。イメージはアイアンマンに搭載されてるAIさんジャーヴィスやフライデー。

 設定をめちゃ広げた。畳み方とか知らんけど広げた。ブラックホールが実在することにしたし、規模感は讃頌会より小さいけど武闘派って感じ。

 エーテル耐性ありすぎでしょっ! って方へ。イージスの肉体修復が侵食する側から完治させているので大丈夫でした。侵食の始まりは軽度なものだからできる荒技です。ご都合ともいう。
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