覚えている方は殆ど居ないと思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです。
ー数年前ー
「君の顔…覚えたからね。時雨君」
「覚えておけ糞やろう。俺が柱になったら殺してやる」
とある鬼との初めての出会い。
自分の全てを賭けてでも倒すと誓った鬼。
この時は時間の都合上で逃がしてしまったが次はそうは行かない。
必ずその時がくる、その時が来るまで俺は、心を鬼にして悪鬼を討滅し続けるだろう。
鬼に苦しめられてる人を救うために、大切な家族と想い人を守り続けるために。
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ー数年後、とある森ー
「はぁ…はぁ…何なのあの鬼!逃げ足速すぎるんだけど!?」
「そう言わずに走れしのぶ。逃げられるぞ」
周囲が暗い闇に染まった夜。
俺…鬼殺隊の一人である雨宮時雨は同僚であり同期であり、同居人である胡蝶しのぶと任務に励んでいる。
現在は逃げ足の速い鬼と鬼ごっこ中だ。
「おせぇな鬼狩りの雑魚共!特に女ッ!お前みたいなチビには絶対に捕まらねぇぞ!」
「…だそうだがしのぶ?」
「……」
かなり先を走っている鬼がしのぶに言う。
それを聞いた俺は、隣を走っているしのぶの顔を見ると、思いっきり米神に青筋を立てて怒り心頭だった。
「とっ捕まえて毒の実験材料にしてやるわ!手出ししないでよね時雨!」
「はいはい(おー怖い怖い)」
しのぶから一歩下がった位置で鬼を追いかけるが、鬼との距離は縮まるどころか広がっていく。
このままだと完全に逃げられる可能性が出てくる。
流石にそれは鬼殺隊の人間としては非常にまずいので、毒の実験は次にしてもらおう。
「ここまでだなしのぶ。毒の実験は次だ」
「ちょっと時雨―――あ……」
しのぶの頭を軽く叩いてから、深く呼吸をして走る速度を一気に上げ、先を走っている鬼を追い抜く。
「何っ―――」
「悪いな…鬼は見逃せん。だが安心しろ。一息で殺してやる」
腰に携えている日輪刀を構えるが、鬼は止まるどころか加速して俺の首に鋭利な爪を差し向けて来る。
「死ね鬼狩りッ!」
奴の爪が首まで迫るが、その爪よりもこちらの方が早い。
「暁の呼吸壱ノ型・閃光」
光速の抜刀術で鬼の頸を音を立てる事無く斬り落とし、鬼は声を出すことなく消えていった。
その様子を見届けてから俺は愛刀を鞘に納め、消えた鬼に手を添える。
「はぁ…はぁ…やっと追いついた……」
「……お疲れ。ほら」
水の入った瓢箪をしのぶに渡してから、上空を飛んでいる鎹鴉に合図を送り屋敷への伝言を頼む。
任務と見回りが終わり、特に問題が無い事を。
「ふぅ…まだまだ修行不足ね。これじゃあ姉さんに追いつけないわ」
「焦るなよしのぶ。カナエは柱なんだから。」
鬼殺隊の最高位である柱。
しのぶの姉であるカナエはそのうちの一人で花柱と呼ばれている。
因みに…俺の母親も元柱で、先代の水柱だったりする。
「その柱より強い奴がそれを言う?私も姉さんも手も足も出ないじゃない」
「ま…物心着いたころから日輪刀振り回してたし、俺の流派も特殊だからな」
「確か歴代で、アンタを含めて二人しか正当な使い手が居ないんだっけ?」
「そ。俺と暁の呼吸を生み出した人だけだな」
加えて言うと、その生みだした人が俺の先祖様だったりして、始まりの呼吸の剣士達と肩を並べて戦っていたとか。
詳しい事は書物が殆ど無いから分からないけど、一つだけ分かっていることがある。
この呼吸は使い手を選ぶということ。
たとえ型を覚えても、完璧に扱うには相当才能が無いと不可能らしい。
「母様も滅多に使わなかったな。体に負担が大きいからって。それこそ全部の型を使ったのは…っとアイツの話しはナシだ。帰るぞ」
「了解。帰っておば様に薬出さないと」
周囲に鬼がいないことを再確認してから屋敷に帰宅。
戸を開けると、屋敷の奥から花柄の羽織を着た一人の美女が姿を現す。
彼女が胡蝶カナエ…しのぶの姉であり、柱の紅一点である。
「お帰りなさい。朝食出来てるけど、先にお風呂にする?」
「ありがとう姉さん。お風呂は朝食食べてからかな。おば様に薬も出さないといけないし。先に時雨が入ったら?」
「いや、俺は一番最後でいい。鍛錬もしたいし」
「あっそ。じゃあ後で」
足早に屋敷に入って行くしのぶ。
彼女と入れ替わるようにカナエが傍に来て、両手で両頬に触れて来る。
「忙しいのにしのぶの相手をしてくれてありがとう」
「いえいえ。花柱であられるカナエ様のお頼みであればいだだだだだ!」
「そういう答えは求めていないかしら?」
笑顔で思いっきり右頬を抓ってくるカナエ。
何故か俺の冗談だけは彼女には全くと言っていいほど通じない。
鬼殺隊に入ってからの付き合いというのもあるが、ある時期から全くカナエには頭が上がらない状況だ。
この屋敷での地位も一番下だし(所有者は俺だけど)。
「もぅ…私の前では優しい素直な貴方でいて欲しいって言ったわよね?」
「はい。言いました。でもちょっとぐらいは……」
「何?」
「何でもございませんカナエさん」
両手を上げて降参すると、カナエは右頬から手を離して、優しい笑みを浮かべながら抱きしめて来る。
俺も優しく受け止めてからそっと頭に手を置くと、カナエは腕の力を強めて胸に顔を埋めた。
(全く…
鬼殺隊に入ってから少し経った後の事を思い出す。
とある鬼共があの糞やろうと同じ事をして、見境無しに暴れたっけ。
カナエが後ろから抱き着いて止めてくれなかったらどうなってたか。
(最初はカナエの考えが理解出来なかったけど今では……)
「あ。そうだわ時雨。お館様から伝言を預かってるけど…聞く?時間があればって話だけど」
「耀…お館様から?じゃあ鍛錬終わって朝食食べてからで。何となく伝言の内容が分かるけど」
「……」
「ん…?どうかしたか?」
俺の顔をジーと見て来るカナエ。
何かまずい事でも言っただろうか?
特に何も言っていないと思うけど…。
「お館様と幼馴染…だったかしら?ちょっと羨ましいわね。私の知らない貴方の事を知っているから」
「そうか?結構カナエには良い所も悪い所も知られていると思うけど?」
「そうね。一緒に任務に行っている時は分からなかったけど、一緒に住み始めてからは意外な一面が多かったわ」
「…例えば?」
「例えば……」
試しに聞いてみると、カナエは俺の顔を再び見て、少しの間考えた後、頬をほんのりと赤く染めながら言った。
「意外と家庭的で、お料理が上手で。人に教えるのが上手で。子供に好かれてて。でも……」
「でも?」
「鈍い人。私の事を見てくれないかしら?」
「えっと…それは……。その……」
カナエから視線を逸らそうとすると、両手で頬をがっちりと抑えらえて視線を外さない様にしてくる。
綺麗な顔立ち、透き通るような綺麗な声、視線を釘付けにする瞳。
それら全てが魅力的な女性だ。
きっと両親に目一杯愛されて育てられたのだろう。
仮に鬼に襲われていなかったら……いや、もしもの話は止めておこう。
「悪いなカナエ。君は綺麗で美しい人だから俺には眩しい。でも…そんな人が居てくれて、俺の事を信じてくれるから戦える」
「……ふふ。嬉しい事を言ってくれるわね」
嬉しそうに微笑みながら両手を首に回して顔を近づけて来るカナエ。
そのまま互いの唇が触れる…前に、襖が開いて母様が出て来た。
ので、俺達は慌てて離れることに。
「お帰り時雨……って。もしかしてお邪魔だったかしら?」
「そ、そんな事ないよ母様」
「え、えぇ。特に何もありませんよおば様」
互いに背中を向けて答えるが、母様には気付かれているだろう。
だって母様悪い顔浮かべているから。
「わ、私は先に行って待ってるわね。伝言もその時に伝えるから」
「おぅ…朝食楽しみにしてる」
顔を真っ赤にしながら屋敷の奥へと向かうカナエを見送ると、母様は何とも悪い顔を浮かべながら首に右腕を回してくる。
「早く孫を見せなさい時雨。私も父さんも楽しみにしてるから」
「……まだ俺もカナエもそういう年じゃないよ」
「私は早かったけど?」
「母様の事は聞いてないし。そっちはそっちでしょうが」
母様の腕を優しく振り払ってから居間に向かうと、先にカナエとしのぶが朝食を食べ始めていた。
少し遅くなったことをしのぶに小言を言われるが、気にすることなくカナエの向かいに座る。
「で…お館様は何て?」
「頼みたいことがあるから顔を出してほしいって」
「じゃあ明日行ってくる。柱合会議もないし。頼みって何だろうね」
「無茶ぶりではないと思うけど…私にも出来そうだったら言ってちょうだいね。はいどうぞ」
「ありがとう(さて…ただの世間話だったらいいのだが)」
朝食を食べながら、幼馴染に会える時を楽しみに待つのであった。