鬼滅の刃・暁の剣士   作:八葉と黒神の剣聖

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暁と上弦の弐

 10年ぶりに童磨と対峙する。

 なのに怖いぐらい冷静で、頭の中が透き通っていた。

 昔の自分なら、恐怖で動けず、無理やり鼓舞していただろう。

 これもカナエやしのぶ達のお陰だと思う。

 1人でがむしゃらに刀を振るっていた時とは違って今の俺は一人じゃない。

 蝶屋敷で待っている子がいる。

 俺を信じてくれる幼馴染がいる。

 命を懸けて守りたい大切な人が居る。

 だから…俺はどんな鬼が相手でも戦える。

 たとえそれが、かつて恐怖を植え込まれた母の仇であっても。

 

 

「久しぶりだねぇ時雨君。随分と大きくなった。桜ちゃんは元気かい?」

 

「…あぁ。信頼できる友人のお陰でな。お前はあの時から変わっていないが、あの時より強い。随分人を食べたな」

 

「うん。可愛くて若い女の子を沢山食べたよ。カナエちゃんや近くにいる2人みたいな」

 

「そうか。だけどカナエ達はやらせない。悪いが夜明けまで粘らせてもらう」

 

 

 ゆっくりと日輪刀を構えて、五感を極限まで研ぎ澄ます。

 次第に視界に映る景色が透き通って視え始める。

 

 

(うん…ちゃんと透けて見えている。最初は刀を振るっていると勝手に透き通る世界に入っていたけど、今は構えるだけで視えている。馬鹿みたいに何度も型を繰り返して正解だった。刀を振るうのに、鬼と戦うのに必要な物と不必要な物を体が無意識に理解している)

 

「無駄だと思うけどな時雨君。いくら強くなった所で鬼には勝てないんだから」

 

「そういって人間の力を舐めていると痛い目を見る。いつかは足元掬われてあっけなく殺される」

 

「他の柱もそう言ってたけど、皆俺に喰われてる。君達も例外じゃないよ」

 

「……そう。じゃあもういい。早くカナエの治療もしないといけないし、斬られて死ぬか焼かれて死ぬか選べ」

 

 

 日輪刀を強く握り、童磨との間合いを一気に詰める。

 無論狙いは頸だが、そう簡単に取れるはずもなく、童磨は右の扇で頸を守りながら左の扇を振り下ろそうとするが、それに合わせて技を出す。

 

 

「参ノ型・光輪」

 

 

 扇を回避しながら回転斬りで童磨の左腕を斬り落とす。

 しかし、童磨の左腕は瞬時に再生し、扇を開いて血気術の構えに入るが、放つより先にもう一度左腕を斬り落とす。

 

 

「おや?(血気術を出す前に斬られたぞ?)」

 

 

 一瞬驚いた顔を浮かべる童磨だが、再び再生して左右の扇で高速の連撃を繰り出してくる。

 奴の筋肉の動きを見て、連撃を正確に予測し、的確に防いだ後に瞬時に反撃する。

 

 

「暁の呼吸拾壱ノ型・日陽剣」

 

 

 童磨の四肢を根元から切断。

 同体が浮いてがら空きとなった頸を狙おうとするが、一瞬で四肢が再生して後方に回避されてしまって一撃は空を切る。

 

 

「惜しいね時雨君。再生がもう少し遅かったら頸を斬れたのに」

 

「……(再生速度があの時よりも早い。攻撃と血気術の予測は視えるから分かるが、再生の予兆だけは視えない。やっぱりこいつを倒すには完全に動きを止めないといけないか)」

 

 

 どれだけ斬ろうと瞬時に再生される。

 頸を直接狙おうとしても、面倒な血気術が襲ってくる。

 こいつを確実に仕留めるには、四肢を切断して再生させない必要があるが、俺にその手段がない。

 恐らくしのぶの毒でも不可能だろう。

 

 

「今度はこっちから行くよ」

 

「ッ―――」

 

 

 童磨の扇が開くと同時に右に回避、その後に俺のいた場所に氷柱が複数降り注ぐ。

 

 

(また避けられた。俺の動きから予測してる割には反応速度が速すぎる。まるで事前に分かっているような避け方だ)

 

「次は―――」

 

「それもう一発。寒烈の白姫」

 

(見たことのない血気術。10年前は使ってなかったが)

 

 

 氷の蓮の花から氷の姫人形を作りだし、強烈な冷気を広範囲に放つ。

 ここは七ノ型で防ごうとしたが、人形の後ろに居た童磨が血気術の予備動作に入っていたので型を変える。

 

 

「肆ノ型・天地万雷」

 

 

 冷気の合間を縫って童磨との距離を一気に詰め、血気術を放つ前に奴の胴体を斬るが、奴は斬られながらも扇を振り下ろしてくる。

 

 

「これは避けれないでしょ」

 

「捌ノ型・月影瞬歩」

 

 

 回避が難しい死角からの一撃だが、体が勝手に反応して回避しながら両腕を斬り落とす。

 この間合いならいけるか、と童磨を視るが、既に再生して距離を取られていた。

 

 

(あと一歩が遠い…けど体は動く。透き通る世界に付いて来てくれるし、考えるよりも先に体が動いてくれる。無駄な事は一切考えず、ただ目の前の敵に集中するのみ)

 

「んー…やっぱり何かおかしいな。吸わないのは分かっているけど、どの血気術を出すのか事前に分かったような避け方をされるのは。さっきのだって絶対に避けれないでしょ。でもどっかで見た事あるんだよなぁ。同じような事をしてる人。誰だっけ?」

 

「…(まさかあの鬼と戦ったことがあるのか?確かにあの人のお兄さんなら至っていてもおかしくないけど…)」

 

 

 子供の頃に読んだ手記に書かれていた、鬼となった裏切り者の鬼狩り。

 その鬼の事もかなり詳しく書かれていたし、使う呼吸の事も細かく書かれている。

 仮に、その鬼と童磨が戦っていたり、戦っている所を見ていたりしていると、気付かれてしまうかもしれない。

 いや…気付かれたとしても問題ないだろう。

 この鬼はどう足掻いてもあの領域には至らない。

 武人でもなければ剣士でもないのだから。

 

 

『夜明けまであと10分だ時雨!』

 

「あと10分…」

 

「もうそんな時間?」

 

 

 夜明けまで粘れば俺の勝ちだが、出来れば頸は欲しい。

 よし…どのみち試したいこともあるし、仕掛けてみるか。

 

 

「暁の呼吸陸ノ型・心天」

 

 

 力強く踏み込み、童磨の間合いに一気に詰めながら胴を狙って日輪刀を振るうが、童磨の右の扇に防がれる。

 しかし、完全には防がれず童磨はわずかに体勢を崩した。

 

 

「もう一発」

 

 

 そのままの勢いで袈裟斬り、陸ノ型は一呼吸の内に十字に斬る型である。

 その二撃目を童磨は左右の扇で防ぐけど、体勢が悪いのもあってこっちが力で押せる。

 

 

「このまま―――」

 

「そうはいかないかな!」

 

「チッ!」

 

 

 童磨の背後から氷の蔓が複数飛んでくる。

 俺は直ぐに後ろに飛んで回避し、その後を童磨が追ってくるが、懐から二本の脇差しを取り出して童磨の両足を狙って投げる。

 

 

「ん?脇差し?まぁいいかな」

 

(よし!)

 

 

 奴は避ける事無く、脇差しが両足の太ももに突き刺さる。

 俺はそのまま待ち、奴の扇が目前に迫った瞬間に捌ノ型で回避しながら両足を斬り落とす。

 

 

「だから何度やっても―――ん?」

 

「再生が遅い!」

 

 

 童磨の再生が遅かった。

 その訳はさっき投げた脇差し。

 あの脇差しはしのぶが調合した猛毒がたっぷりと塗られている。

 上弦に効くか分からなかったから使わなかったけど、再生を一瞬遅らせるぐらいには効いてくれている。

 

 

「抜ける―――はっ!」

 

 

 再生する前に頸を斬り落とそうとしたが、童磨は小さな氷の人形を三体作り出していた。

 アレも血気術なのだろうか?

 初めて見る血気術。

 俺は一旦足を止めて距離を取る。

 

 

「今のは毒だね。まさか君が使ってくるなんて思ってもなかった」

 

「……」

 

「さてと、本当ならもっと遊んでいたいけど、朝日が昇ってきたから帰るよ。後ろから斬って来てもいいけど…用心深い君は出来るかな?」

 

「……止めておく。主の命もあるしな。だが次だ。次で仕留める」

 

 

 懐から煙球を取り出して視界を塞ぐ。

 本当なら強引にでも頸を斬りに行きたいが、あの氷の人形の相手は骨が折れる気がする。

 奴が帰るというなら、こちらも撤退だ。

 

 

「じゃあね時雨君。また会える時を楽しみにしてるから」

 

「せいぜい死に方を考えておきな」

 

 

 童磨の気配が遠のいていく。 

 煙が晴れる頃には奴の姿も気配もなく、太陽が完全に昇って来ていた。

 念のために周囲の気配を探るが、特に感じる物もなく、本当に奴は帰ったようだ。

 

 

「…ふぅ。疲れた。全身痛い」

 

 

 日輪刀を鞘に納めると、視界も元に戻り、遅れて疲労感が襲ってきて全身に激痛が走る。

 やっぱりあの世界は体への負担が多すぎる。

 もう少し体を鍛えて、持久力を上げないとな。

 

 

「さて、カナエの所に行かないと…おっと」

 

 

 体がふらついて倒れそうになるけど、カナエが隣に来て支えてくれる。

 彼女もかなりつらいだろうに、そんな雰囲気は一切見せてこない。

 

 

「いいよカナエ。しんどいだろう?」

 

「大丈夫。しのぶに薬を貰って大分楽になったから。これぐらいはさせて」

 

「…分かった。重かったら言いなよ」

 

「重くないから大丈夫。帰りましょう」

 

 

 後処理を隠と遥達に頼み、カナエに支えられながら屋敷に向かっていると、道中で救援に向かっていた悲鳴嶼さんと天元一家と会い、とても心配された。

 俺は天元に、カナエは悲鳴嶼さんと、特段関りの深い同僚に。

 そんな二人に事情を話してから、後日改めて今後の立ち回りを話し合う方向となって別れることになり、再び屋敷に歩き始めると、中々声を掛けてこなかったカナエが声を掛けて来た。

 

 

「柱を引退しようと思ってる。肺をやられてしまったのもあるけど、これからの戦いに付いて行けそうにないから」

 

「そっか。それがカナエの意志なら尊重する。耀哉も皆も何も言わないと思う。けど引退したら何をするんだ?」

 

「屋敷の運営に専念して、貴方の仕事の一部を引き継ぐわ。そうしたら、貴方は遥やしのぶの稽古に専念出来る」

 

「それもそうだけど…いいのカナエ?一人でも多くの鬼を斬って人を救うって言ってたから」

 

「うん。今日の貴方と童磨の戦いを見て思ったから。一緒に戦うより、後ろで支えた方が良いって」

 

 

 カナエが言うなら止めはしないし尊重するけど…本当にいいのだろうか。

 俺としてもカナエが後方に居てくれたら安心するけど。

 

 

「何か…出来ることあったら言ってよ。何でも協力するから」

 

「……何でもね。言ったからには守ってもらうわよ。凄い事頼むから」

 

「いいよ。俺も…頼みたい事と伝えたいことがあるから」

 

「楽しみにしてるから。ほら、着いたわよ」

 

 

 会話をしている間に屋敷に到着。

 戸を開けて屋敷に入ると、奥から母さんが全力疾走で現れて勢いよく俺達を抱きしめて来る。

 抱きしめる力が中々強烈で、物凄く痛い。

 

 

「よく帰って来たわ二人共。烏から聞いてとても心配で。怪我はない?大丈夫?」

 

「俺は大丈夫。全身筋肉痛だけど」

 

「私も大丈夫です。ちょっと肺をやられたぐらいで」

 

「そう。あまり無理をしないでね。ゆっくり安静に。本当に良かった…」

 

 

 今にも泣きそうな母さんを見ると、どれだけ心配していたか痛いほど良く分かる。

 そんな母さんを二人で抱きしめると、遥としのぶが帰って来たので母さんから離れて屋敷に上がり、それぞれの自室に戻ることに。

 

 

「風呂入りたいけど…一旦後回しだな…」

 

 

 羽織を脱ぎ、座布団を枕代わりにして横になると、一瞬で意識が落ちるのであった。

 

 

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