遠征の目的地である鎌倉に無事到着。
早速私服に着替えて手紙を届けに向かう。
その場所とは鎌倉に住まう名家で、産屋敷家とは古くからの付き合いで、定期的に情報交換等を行っているとか。
「で…その人に手紙を渡して、それから調べものね」
「あぁ。何を調べるか分からないけど…っと着いたな」
目的地の屋敷に無事到着し、扉を叩いて中の人を呼びかけると、扉の鍵が開いて一人の青年が姿を現す。
その青年は俺達を交互に見ると、何も言わずに家の中に案内され、そのままある部屋の前まで案内される。
「こちらに旦那様がいらっしゃいます」
「ありがとうございます」
「では失礼して」
再び扉を叩いてから中に入ると、部屋の中には大量の本棚があり、どれも珍しい本ばかりだった。
そんな部屋の一番奥に、1人のご老人が椅子に座ってこちらを見ていた。
「ようこそ雨宮様。胡蝶様。遠くこの地までお越しいただいてありがとうございます」
「お気になさらず。我らが主の命ですから」
「胡蝶殿の言う通りです。それで…こちらが例の」
御館様から預かった手紙をご老人に渡すと、お礼に小さな封筒を一つ渡してくる。
我々としては仕事なので受け取るわけにはいかないのだが、色々と苦労を掛けることになるので受け取ってほしいと言われてしまい、俺とカナエは目を合わせてから受け取ることに。
「それで…頼みたいことがおありと伺ったのですが?」
「えぇ…実は近くの山にある廃寺で、妙な痕跡が見つかりました。どうしても気になるのでお二人に調査していただきたいのです」
「妙な痕跡ですか…どうする時雨?」
「……そうだな」
どういった痕跡か見てみる必要はある。
しかし、ご老人が気になる程度でアイツが調べて欲しいって言ってくるだろうか。
加えて柱のカナエにだ。
直々に俺達を指名してきたのも気になるし……。
「今晩調べてみようカナエ。どのみち御館様の命だし断れない」
「分かったわ。では調べてまいります」
「あぁ…ありがとうございます。どうか無理をなさらぬ様に」
断る理由もないので、廃寺の場所を聞いてから屋敷を去って宿に戻る。
隊服に着替えてから夜まで待ち、日が沈んたのを確認してから廃寺に移動した。
「ここが廃寺…鬼の気配はなさそうね」
「あぁ…周辺にも居ないが警戒しよう」
「了解。私は西から」
「一緒の方がいいけど…っと。私情はいけないな。何かあったら呼んで欲しい」
「えぇ…必ず(その気持ちだけで十分嬉しいわ時雨)」
カナエと別れて廃寺の東側移動し、入れそうな場所から侵入すると、直ぐに覚えのある感覚に陥ってしまう。
忘れたくても忘れられないあの感覚が。
(この…得体のしれない感覚は…居ないと分かっているのに……)
怒りが込み上げて来る。
あの鬼への怒りと、未熟だった自分への怒りが。
(落ち着け…冷静に…いつも通りに…。優しい素直な俺で居て欲しい…だろカナエ)
カナエの言葉を思い浮かべながら深呼吸をして心を落ち着かせる。
怒って本来の目的を忘れたら意味がないからだ。
「ふぅ…よし。調査再開だな」
廃寺の中を進み、柱、床、天井等を端から端まで調べながら痕跡を探す。
しかし、それっぽい痕跡は全く見当たらず、廃寺の中央まで辿りつくが、そこである見覚えある物を発見する。
「凍った…痕?アイツの血鬼術…?いや…あの糞が痕跡を残すような事をするはず違うな。けど鬼が居た事には変わらないか(となるとさっきの感覚はアイツとは違う上弦が居た可能性があるのか)」
気になることが多いが、他にも痕跡が無いか確認していると、俺の鎹鴉が凄まじい速さで俺の頭に着陸する。
「街ニ鬼出現ッ!直チニ向カエ!」
「了解!案内頼むぞ」
烏の後を付いて行くと、そこは大きな剣術道場だった。
確か江戸時代末期からある剣術を引き継いでいるって話だったか。
たまに道場出身の気殺隊士もいるぐらいだし。
「鬼の場所は…道場の中か!」
道場の前まで向かうと、中から剣戟の音が聞こえて来る。
カナエが先に来たのかと思って道場の扉を開けると、中では刀を持った小柄な女の子が刀を持った鬼と戦っている所だった。
「何で…何で鬼になったんですか!?」
「はっ!てめぇもあのおっさんも俺を否定するからだよ!」
「キャッ!」
刀を持った鬼が小柄な女の子を弾き飛ばす。
その先には、刀を持った男性の死体が壁にもたれかかっており、剣先が正面を向いている。
「そのまま刺さって死ね!」
「あ―――」
それを狙ってあの鬼は弾き飛ばしたみたいだがそうはいかない。
少女の先に回って優しく受け止める。
「え…?誰……?」
「大丈夫…だね。傷もないみたいだしよく戦った。後は任せておきな」
少女を降ろした所でカナエが遅れてやってくる。
道場の惨状を見て口元を押さえるが、直ぐに切り替えて近くまで来てくれた。
「遅れてごめんなさい。生存者はこの子だけ?」
「あぁ。済まないが頼む。君は後ろを向いてて。見ない方がいい」
少女をカナエに任せてから鬼と向かい合うと、鬼は俺の顔を苛ついたような顔で見て来る。
邪魔されてかなり苛ついている様子だな。
その方がこちらとしてもやりやすい。
「何だてめぇは。邪魔すんなよ」
「邪魔も何も鬼を斬るのが仕事でね」
日輪刀を抜刀してゆっくりと近づいてく。
一歩一歩と近づき、鬼の間合いに入った所で、勢いよく鬼が襲い掛かってくる。
「邪魔をするならてめぇも死ねぇ!」
「いや―――死ぬのはお前だ」
鬼の袈裟斬りを完璧な位置で右に回避して同時に技を放つ。
「暁の呼吸捌ノ型・月影瞬歩」
暁の呼吸唯一の回避反撃技で、鬼の四肢と首を一瞬で斬り落とすと、鬼は頸を斬られた事を理解していないような顔をしながら消失していった。
「ふう…後は隠を呼んで……ん?」
背後から視線を感じたので振り替えると、カナエに預けていた少女が俺の事をジーと見ていた。
もしかして全部見ていたのか?
「カナエ?」
「ごめんね時雨。この子がどうしてもって言うから」
「そうか……」
そう言うことなら何も言わない事にしよう。
ひとまず隠を呼んでから少女の元に向かい、優しく頭を撫でる。
「改めて聞くけど大丈夫?」
「大丈夫です。鬼に襲われるのは2回目なので」
「「……」」
2回も襲われるとは運が無さすぎるだろう。
そういえばさっきも『どうして鬼に』って言ってたか。
ならこの子は鬼の存在を知ってて生きているのか。
「1回目はいつ襲われたの?」
「10年近く前ですね。その時は黒髪の女性に助けられまして。家族は駄目でしたけど」
「そう…」
「なんとか鬼の事を忘れようと思いましたけど、中々忘れられず、助けて頂いた女性のような剣士になりたくて、ここの道場に入門したんですけど…まさかまた襲われるなんて。しかも同門に」
(黒髪の女性か…まさかね)
一瞬母様の顔を浮かべるが、さすがにそんな偶然は無いだろう。
しかし、こうも鬼に襲われる以上、放っておくわけにはいかないな。
知り合いの藤の家に預けるか、それとも……。
「昔から運がない女なんです。これからどうしよう……」
「まずは亡くなくった人を埋葬しよう」
「そうね。それからゆっくり決めたらいいわ」
「そうだな。まだ若いし、ゆっくり決めたらいい」
もう一度少女の頭を撫でてから、到着した隠の皆と事後処理を行うのであった。
ーーーーーーーーー
ー次の日。カナエsideー
「じゃあカナエ。気を付けてな」
次の日の夕方、鎌倉での任務も終わったので一足先に刀鍛冶の里に向かう時雨を見送ることになった。
私達はもう1日滞在してから屋敷に帰る予定です。
「気を付けて時雨。おじ様に宜しくと伝えておいてね」
「うん。カナエも気を付けてな。明後日だっけ?あまり相手出来なくてごめん」
「本当よ。せっかく御館様がゆっくりしなさいって言ったのに。今度埋め合わせしないと怒るから」
「分かったよ。それと……」
私の右側に視線を向ける時雨。
この先には、先日救出した道場の少女の霧雨遥さんの姿があった。
鬼に2度襲われたこの子をどうしようか時雨と遥と三人で一晩話し合った結果、本人の強い意思もあり私達で引き取ることに。
「さて遥。昨晩も言ったが、一度決めたらやり通す事。弱音とか弱気な事は一切許さないからな」
「はい。時雨様」
「宜しい、基礎的な事と水の呼吸は母様から教わること。本格的に教えるのは俺が柱になってから。多分来月の柱合会議で任命されるとは思うけど」
「多分じゃなくて確定よ。遠征前に連絡来てたから」
遠征に向かう前に、御館様から柱任命の連絡が届いていた。
既に柱の資格がある時雨だけど、少し御館様が渋っていたみたいで、それも時雨の強い意思もあり、他の柱もまだかまだかと待っていたので、来月の柱合会議で正式に任命することになった。
「あと…様付けは勘弁してほしいかな。そんなに大層な人物ではないし」
「えっと…では兄…様?」
「何で…?」
「良いじゃない時雨。一緒に住むわけだし」
「良くないと思うけど…まぁいいか。そういう家庭もある……のかな?」
割と真剣に考える時雨の頬に手を添えると、彼は優しい笑顔を浮かべながら私の頬を優しく撫でてから離れようとしたので、その前に軽く頬に口付けをしてから私も離れる。
「気を付けて。早く帰って来て頂戴」
「カナエも。帰り道気を付けて」
時雨は懐からひょっとこの仮面を取り出して装着し、音を立てる事無くこの場を去って行った。