鬼滅の刃・暁の剣士   作:八葉と黒神の剣聖

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十二鬼月と新たな住人

 暗く静かな森の中。

 ここは富士の樹海と呼ばれる場所であり、俺と遥はここを縄張りとしていた十二鬼月の下弦の参と現在戦闘中である。

 

 

「そちらに行きました兄様!」

 

「分かってる!逃がさねぇよ!」

 

 

 猫の様に素早い下弦の参を追いかける俺達。

 どうやら周辺の地形を完璧に把握してるようで、土地勘のない俺達は少し苦戦していた。

 そもそも、何故富士の樹海に来たのか、それは一週間前の事である。

 

 

「富士の樹海に…」

 

「十二鬼月と思わしき鬼ですか…」

 

 

 朝早くにお館様に呼ばれた俺とカナエは、富士の樹海に十二鬼月と思わしき鬼がいるという情報を聞く。

 ならばすぐにでも向かわないといけないのだが…場所が問題だった。

 

 

「迷ったら出てこれないな…」

 

「そうね。大半が立ち入り禁止区域だし。多分鬼の居場所も……」

 

 

 多分人が滅多に入ってこない場所にいるんだろう。

 一度迷えば出てこれないと有名な富士の樹海。

 考えるだけで嫌になってくるけど、そんなことを言っていい訳がない。

 ので、ここは俺が行くとしよう。

 

 

「…よし。ここは俺一人で行ってこよう。カナエは待ってて。揃って迷ったりしたら大問題だし」

 

「大丈夫?一緒の方がいいと思うけど…」

 

「もしもの事を考えてカナエは待っていてください。お願いします」

 

「……分かったわ。無理しないでね」

 

「決まったかな。なら時雨。折角だから遥も連れて行きなさい。いい勉強になるだろう」

 

「了解。じゃあ行ってくる」

 

 

 というわけで、俺と遥は富士の樹海に向かい、一週間しらみつぶしで捜索したところで、ようやく目当ての十二鬼月を見つけたのである。

 

 

「クソッ!何でここが見つかったんだ!」

 

「逃げ足早いなぁアイツ!けど―――」

 

 

 近年たまに見る逃げ足の速い鬼。

 それだけならいいけど、地形を理解しているという強みがある奴の方が一歩優勢だ。

 となると最短で決着を付けないといけない。

 

 

「暁の呼吸肆ノ型・天地雷鳴」

 

 

 深く呼吸をしてから、周囲の木や岩等を足場にして一気に速度を上げ、鬼の背後まで距離を詰める。

 それから加速した勢いを利用して鬼の四肢を斬り飛ばす。

 

 

「グゥッ!んだとッ!」

 

 

 追いつかれた上に斬られたことに驚きを隠せない下弦の参。

 その間に頸を斬り落とそうとしたら、後を追いかけてた遥が頸を斬り落とそうとする。

 

 

「貰った―――」

 

「…ニィッ」

 

「っ!待った遥!」

 

 

 下弦の参が笑みを浮かべると同時に背中が隆起したのが視えた。

 俺は瞬時に遥を投げ飛ばすと、奴の背中から鋭い刃が飛び出して、俺の左腕を大きく深く抉りながら斬る。

 

 

「チィッ」

 

 

 大量の血が飛び散るが、呼吸で止血した後に距離を取る。

 この光景を見た下弦の参は笑みを浮かべるのもつかの間、その隙を逃すわけももなく、一瞬で頸を斬り飛ばす。

 

 

「油断と慢心こそ最大の敵。傷を負ったからって動きを止めるわけではないんだよ。柱舐めんな」

 

 

 消えゆく鬼に伝えた後、日輪刀を鞘に納めて傷を確認する。

 手首から肘に掛けてバッサリと斬られていて骨まで見えている。

 これは…当面の間は絶対安静だな。

 

 

「あ、あの兄様。ご無事ですか?」

 

「帰ったらカナエに説教されるな。それより遥。隙があれば鬼の頸を斬ろうとするのはいいが、十二鬼月は何をしてくるか分からない。ちゃんと相手の行動を見てから判断するように。今回は血鬼術を使わず、身体変化のみだったからいいけど」

 

「っ…分かりました。その…えっと……」

 

 

 俺の腕を見て言葉を詰まらせる遥。

 何を言っていいのか分からないのだろう。

 その気持ちは良く分かる。

 誰もが通る道だから。

 

 

「次は気を付けよう。今回の事を糧にして、次やらなかったらいい。俺やカナエがいるときは、沢山失敗してもいいから」

 

「…分かりました」

 

「よし。じゃあ顔上げる。俯いてたらダメだ。笑って屋敷に帰るぞ」

 

「…ふふ。そうですね兄様。帰りましょう。そして一緒に怒られましょう」

 

 

 微笑む遥の頭を優しく撫でてから屋敷へと帰宅すると、見覚えの無い三人の女の子が出迎えて来た。

 

 

「……えっと?」

 

「見覚えの無い子が三人…?」

 

 

 揃って戸惑っていると、屋敷の奥からしのぶが姿を現す。

 『ただいま』と声を掛けるが、しのぶは俺の左腕を見るなり、屋敷の奥に向けて大きな声で言った。

 

 

「姉さーん!急患一人。酷い怪我してるから見てあげて」

 

「ちょっと…」

 

「あ、あのしのぶ……」

 

 

 出来れば穏便に済ませて欲しかったけど、どうやら無理なようだ。

 しのぶの声を聞いたカナエは慌てて来て、俺の左腕を見るなり、有無を言わさず強引に診察室に連行される。

 

 

「包帯…取るわよ」

 

「おぅ」

 

 

 カナエは慎重に包帯を外して傷を見ると、カナエは一瞬だけ唇を嚙んでから診察を始める。

 何か一言言われると身構えていたが、カナエは何も言わなかった。

 

 

「深い切り傷。骨まで見えてるわ。まずは傷口の洗浄。それから消毒をして縫合ね。言っておくけど…痛いわよ。我慢できる?」

 

「大丈夫。遠慮なく」

 

「…分かったわ。我慢できなかったら言ってね」

 

 

 心配そうに見て来るカナエだが、俺はもう一度『大丈夫』と伝える。

 それを聞いたカナエは、真剣な表情で治療を開始。

 まずは傷口の洗浄から始めてその次に消毒だが、これが物凄く痛かった。

 いや、痛いって物じゃない。

 声にすら出せないほどの体の芯まで届く激痛。

 呼吸で落ち着かせる事すら出来ないほど。

 だが平常心だ。

 ちょっとでも辛い顔をするとカナエも辛い顔を浮かべるから。

 

 

「洗浄と消毒は終わり。次は縫合だけど…大丈夫?汗も酷いし体も震えてる。もしかして麻酔効いてない?」

 

「……カナエ。大丈夫。そもそもこれほどの傷だと麻酔何て気休め程度。遥の成長の為とはいえ受けた傷だ。この程度の痛みで根は上げないし、辛そうな顔で治療される方がもっと痛い。何時もみたいに呆れながら治療される方がいい」

 

「…もぅ。貴方って人は。でもよかった。それだけ言えるなら大丈夫ね。それじゃあ任務の件を聞きながら縫合するわ」

 

「うん。任務は―――」

 

 

 富士の樹海を一週間しらみつぶしに捜索して鬼を見つけた事。

 その途中で滅多に見れない薬草等を見つけて拝借したり、猪や鹿を狩って食べたり。

 川にいた鮎がこの辺で取れる物より美味しかったりなど。

 気付けば『ちょっとした小旅行になっているよなー』と遥と野営しながら話してたりなど。

 任務期間中の事をカナエと談笑している間に、傷の縫合が終わる。

 きちんと縫われているのをカナエは確認した後、優しく包帯を巻いてから触れる。

 

 

「暫くは安静よ。見回りはいつも通り行っていいけど、鬼は遥に討伐してもらう事」

 

「了解。じゃあ今度はカナエの番。さっきの三人ともう一人増えてるね。何かあった?」

 

「実は―――」

 

 

 カナエは最初に出迎えてくれた三人の事を教えてくれる。

 名前はきよ・なほ・すみの三人で、皆家族を鬼に殺されてしまった所をカナエが保護した。

 そしてもう一人…栗花落カナヲは街で買い出しに出た時に身売りから買ったとか。

 そこに関してはカナエらしいと思ったが、その子の事を聞くとちょっと心配になってくる。

 なんでも、こちらから声を掛けないと行動に移さないとか。

 つまり自分の意志で行動出来ない子という事である。

 なので、出来る限り話し相手になって欲しいと頼まれてしまう。

 まぁそこは全然かなわない、蝶屋敷の大黒柱ですから。

 

 

「よし。じゃあ顔見に行くか」

 

「お願いね。私は朝食用意して待ってるから」

 

「よろしく。さてと…」

 

 

 診察室を出た俺は、早速カナヲを探していると、広間で話声が聞こえて来る。

 足を運ぶと、広間では母さんが蝶の髪飾りを身に付けた少女を膝に乗せて話をしていた。

 

 

「聞いたカナヲ。時雨が大怪我して帰って来たって。カナエが泣きそうな顔してたわ。会ったらガツンと言ってあげないとね」

 

「……」

 

(成程…あの子がカナヲね。思いっきり無視してるけど)

 

 

 無表情だし、何を考えているのかがさっぱり分からない。 

 これ、最初の一言で評価が大きく変わるような…。

 だとしても、一緒に暮らす以上はちゃんと声を掛けないと。

 

 

「ただいま母さん」

 

「お帰り時雨。怪我の状態はさっき聞いたわ。遥から経緯も聞いてる。当分は安静よ。それとカナエを泣かせない」

 

「分かってる。それで…その子がカナヲだよね」

 

「そうそう。声かけてあげて」

 

 

 カナヲの前に座って、目を見ながら『おはよう』と声を掛けるが、返事はなく無反応。 

 視線を外さないところを見ると、認識はしているのだろうか。

 こういう時は…物で釣るか。

 

 

「カナヲ。手出してごらん。実はお兄さん。こういうの持ってて」

 

「…?」

 

 

 懐から袋に入った金平糖を取り出す。

 様々な色に染められた砂糖菓子。

 暇さえあれば作っていて、長期の任務とかで集中力が切れそうな時に食べている。

 

 

「はいカナヲ。小腹が空いた時とか、ちょっと口寂しい時にでも食べたらいい」

 

 

 袋をカナヲに渡すが受け取る様子がない。

 こういう時は強引に渡さない方がいいと思う。

 自分から受け取って欲しいし。

 

 

「…カナヲ。貰って上げて。とってもおいしいから」

 

 

 母さんがカナヲの頭を撫でると、カナヲは袋を受け取って金平糖を一つ食べる。

 けど表情は変わらない。

 うーん、これは根気よく接していかないとな。

 

 

「ま、カナヲは私達に任せなさい。次行って」

 

「次はきよ達だな。えっと…」

 

 

 気配を探ると、台所の方から気配を感じたので移動すると、きよ達はカナエと一緒に料理中だった。

 

 

「何作ってるのカナエ?」

 

「あら時雨。折角だからお昼も兼用で作ってしまおうと思ってね。何か作って欲しいのある?」

 

「特にはかな。カナエの料理は何でも美味しいし」

 

「ふふ。嬉しい事言ってくれるわ。じゃあちょっと味見してもらえる?今日取った野菜を天麩羅にしてみたから」

 

 

 カナエは冷ましていた山菜の天麩羅を一つ、お箸で掴んで口元まで持ってくる。

 見た感じ大葉かな、確か種を貰って少し前に蒔いたっけ。

 色んな野菜をやってるから時々忘れるんだよね。

 

 

「はいあーん」

 

「……まぁ拒否権無いよな。では」

 

 

 大葉の天麩羅を一口食べる。

 サクッとしててとても美味しい。

 大葉の味もきちんとしてるし、いい感じに揚がってる。

 

 

「うん。美味しいな」

 

「いつも美味しい野菜を育ててくれてる誰かさんのお陰ね。そろそろ収穫して行かないといけないけど」

 

「それなら昼間にでもやっておくよ。住人も増えたしね」

 

 

 カナエの隣にいたきよ達の傍に寄って目線を合わせる。

 3人は最初オロオロしていたけど、そっと優しく頭を撫でると、表情が明るくなる。

 

 

「カナエから話は聞いてるから。遠慮なく居たらいいよ。この屋敷は来るもの拒まずだからね」

 

「私としのぶも時雨に助けられてから一緒に住んでるのよ」

 

「そういうこと。何かあったらすぐに言って。というわけではい。3人で食べてね」

 

 

 予備の金平糖が入った袋をきよ達に渡してからカナエの隣に移動すると、既に俺と遥の昼兼用の朝食が用意されていた。

 ので、机に運ぼうとしたら、カナエが有無を言わさない笑顔をこちらに向けて来る。

 流石に自分の分は運びたいのだが、それすら許してもらえないようだ。

 

 

「きよちゃん。時雨と遥の分を運んでもらえる?」

 

「はいカナエ様!」

 

「貴方は遥を呼んできて頂戴。食べたら出来る限り左腕に負担を掛けない様に。特に稽古の時はね」

 

「分かってる。じゃあ呼んでくるよ」

 

 

 遥を呼びに行き、朝食を食べるのであった。

 

 

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