十二鬼月との戦闘で負った傷は、一か月ほどで完治した。
治るまでにかなり時間がかかると思ってたけど、ここは鋼の肉体。
思ったよりも早く治ってくれてよかった、よかった。
傷は消えずに残ったけど、名誉も負傷と言うことで。
傷が治るまでの任務は遥にこなしてもらい(当然ながら同行したが)そのかいあってか大分成長した思う。
階級も三つほど上がっていたし、この調子だと一年位で甲まで上がるかもしれない。
というわけで、俺の本格復帰も兼ねて遥の稽古を一段階上げることに。
「よっし。月の型は大体分かったな?」
「はい。まだ物凄くしんどいですけど」
「まずは会得すること。次に使いこなす。そして極める。焦ったらダメだ」
「頑張ります。それで今日も月の型ですか?」
「いや…今日は光の型。順番に見せるから覚えるように」
藁人形を設置し、暁の呼吸の光の型、壱から参を順番に見せる。
―壱ノ型・閃光
―弐ノ型・極光
―参ノ型・光輪
この3つが光の型に水と雷の呼吸を加えて編み出した技らしい。
防御主体の月の型とは違い、こちらは速さと一撃を主にしている。
「えっと…見覚えある型があるような…」
「だろ。とりあえずやってみ」
「は、はい。では順番に!」
気合を入れて壱ノ型から参ノ型まで繰り返すが、3週目辺りで木刀が遥の手から落ち、膝から崩れ落ちる。
大量の汗に荒い呼吸、加えて体が震えている。
体が悲鳴上げている証拠だ。
(月の型とは比べ物にならないほどキツイ。同じ呼吸の仕方だと直ぐ動けなくなる。かといって水の呼吸ともちょっとだけ違う。兄様ほど正確な動きではないけど、こんなにしんどいなんて)
「もう一度見せようか?」
「大丈夫です。見るのは一日一回と決めてますから。よしっ!」
再び気合を入れて鍛錬を再開する遥。
今度は動きを確認するようにゆっくり型を繰り返す。
呼吸の仕方も毎回変えて、どれが正しいか見つけるように。
「…俺とは違って賢いな。俺の時は無我夢中で繰り返してたから」
幼少期の頃を懐かしみながら見ていると、道場の扉が開いてカナエとお館様が入ってくる。
カナエは兎も角お館様は大変珍しい。
何か入用だろうか?
「どうかしたか耀哉?」
「あぁ。また手記が見つかったと聞いてね。近くまで来たから寄ったんだ」
「成程。ちなみに手紙も大量に見つかったらしい。軽く読んだけど、始まりの呼吸の剣士と…」
その先を言う前に、カナエの顔を見てからお館様に耳打ちをする。
お館様は表情を変えなかったが、目を見れば何を考えているのか大体分かる。
「もし会えたら一言欲しい。それと…彼女と何をしようと私は何も言わない。皆にも黙っておくよ」
「…いかにも俺がご先祖様の様に手助けするとでも言いたそうだな?まぁやるけど。それがあの人の頼みだから」
「ありがとう時雨。時に…今は光の型を教えているのかな?」
「そうそう。見ていきなよ」
せっかくなので稽古の様子を見て行ってもらうことに。
俺も子供の頃はよく見てもらってたっけ。
見てる側からしたらつまらないだろうに、お館様はいつも楽しそうに見てたな。
「弐と参はおおよそ掴めました。でも壱ノ型は難しいですね。居合切りはあまり得意ではありませんし」
「じゃあ捌ノ型の反撃を居合にしたらいい。それに、無理して納刀する必要もないぞ。俺は壱ノ型を使う時は納刀しないし。構えさえきちんとしていたら大丈夫」
「構えさえきちんと…なら…ん?お館様?」
お館様の顔を見て固まる遥。
彼女の事だから来ている事に気付いていると思っていたけど、気付いていないようだった。
「やぁ遥。お邪魔しているよ。私の事は気にしなくていいから」
「……いるならおっしゃってください兄様」
「ごめん…気付いてると思った。ひとまず、ちょっと矯正したいから体で覚えるように」
手首の角度や位置等、細かい所を指導する。
ほんの僅かでもズレがあると、体への負担が大きいし最大限の力を発揮しない。
こればかりは、俺が回答を見せて遥が自分とどこが違うかを見つけてもらう必要がある。
「よし。今教えたのを踏まえてもう一度。5周ぐらいやってその後に打ち込み稽古にしよう」
「分かりました。終わったらお呼びします」
「了解。俺はお館様と話してるから」
お館様の所に戻って話を再開。
カナエが気を使ってお茶とお菓子を出してくれたのでありがたくいただきながら。
「最近はどうだい?屋敷の住人も増えて来たけど」
「特に変わり無しかな。カナヲはちょっと心配だけど、きよ達は家事を手伝ってくれるし。アオイの修業も順調。楽しく過ごしてる」
「なら…鬼殺隊に入る時に言った事は二度と言わない?」
「……まぁ言えない状況ですね」
というのも、鬼殺隊に入ると決めた時に、お館様にとある事を言った事がある。
俺なりの覚悟と決意だったのだが、今はむしろ、あの時の言葉は逆に枷になっている。
「何て言ったの時雨?」
「それは…だな。うん、聞かない方がいい」
「どうしてよ。教えてくれてもいいじゃない」
体を寄せて笑顔で圧を送ってくるカナエ。
お館様に助けを求めるけど、彼もニコニコしてるだけで助けてくれない。
あぁ…逃げ場は何処にもないのか、観念するしかないな。
「鬼殺に身を投じる以上。人としての幸福は求めない。ただ鬼を斬る事だけに専念するって。悪鬼に堕ちたとはいえ元は人間。鬼を斬るということは人を斬ると同じだから。他の皆はどう思ってるかは分からないけど。刀を振るう理由は人それぞれだし」
「…(だから時雨は、初めて会った時にあんなにも冷たい瞳を…自分の心を殺してまで)」
「今はもう違うけど。カナエと会って、屋敷に住人も増えて。皆と居ると子供の頃を思い出して楽しいよ」
「そうか。なら…もう大丈夫そうだね。
安堵の顔を浮かべるお館様。
あの顔を見て、ここに来た本当の理由に気付き、俺はカナエを抱き寄せて答える。
「屋敷の皆…カナエが居てくれるから大丈夫。今は一人で戦ってるわけではないから」
「もう心配しなくて良さそうだ。カナエ。私の大切な幼馴染を頼んだよ」
「はい。任せてくださいお館様」
力強くカナエは答えると、御館様は満足そうな顔を浮かべる。
あの顔を見るのはかなり久し振りだな。
本当に嬉しいんだろう。
「じゃあ今日はこれで。また足を運ぶよ時雨。例の件は任せる」
「分かった。じゃあまた今度」
お館様を玄関まで見送ってから道場に戻り、遥と稽古を再開。
軽く一時間ほど続けていると、再び道場の扉が開いてしのぶとアオイが入ってくる。
時計を確認すると既に夕方。
そろそろ任務の通達が来る時間だった。
「じゃあ今日はここまで。通達が来るまで体を休めておくこと」
「わ、分かりました(今日も厳しかったなぁ。でも兄様や姉様の鍛錬に比べたらまだマシな方。もっと頑張らないと)」
「準備も怠らない様に。任務が無かったら見回り来てもらうから。今日は薬に使う薬草も集めないといけないからね」
「あ…そういえばしのぶが言っていたような…。では準備をしてきます」
遥は一礼してから道場を退室し、俺も遅れて退室しようとしたら、カナエは屋敷の外を指さしたので、準備を済ませてから庭に移動すると、カナエは縁側に腰を下ろして待っていた。
「どうしたカナエ?」
「お館様とのお話で気になることがあったから。あと…例の手記も」
「まぁいいけど…手短にな」
カナエの隣に座ると、彼女は自然と体を寄せて肩に頭を乗せて来る。
俺はちょっと考えてから、カナエの腰に手を添えて抱き寄せると、嬉しそうに微笑む。
「ねぇ時雨。お館様の言っていた扉の先って何の事?」
「道を極めし者がたどり着く場所の事。簡単に言うと最終地点だな」
「道を極めし者…鉄珍様の様な方かしら」
「確かに。あの人やってることヤバイからな。どうやったら多種多様な日輪刀を打てるんだろね」
鉄珍様が打たれた日輪刀は、どれも至高の品ばかり。
父さんもあの人の技術は一生真似出来ないって言ってたな。
あの人の息子さんもとんでもない人だけど。
「で…扉ってのも二つあるんだよ。一つは死の間際。そっちは童磨と戦った時に経験済み。開けたら更なる成長を。開けなかったら死ぬ。大体は後者だな。んで…もう一つってのは、極めた人が辿り着く場所。こっちは人を選ぶだろうな。扉だって簡単には開けれないし、その先に進むにも勇気がいる」
「勇気?どうして?」
「うーん…子供の頃見た夢の影響かな」
子供の頃に見た不思議な夢、母さんや父さんに聞いたら、それは『記憶の遺伝かもね』と言われた事がある。
歴史が長い家系にはよくある事らしく、里の皆も時折見ることがあるらしい。
俺も母さんに暁の呼吸を教わり初めてから事ある度に見ていた。
童磨との戦いで扉の前に辿り着き、開いてからは見なくなったけど。
「でも大丈夫。君が居てくれるから」
「そっか…じゃああの時の約束。そろそろ果たしてくれるかしら?」
「うん。義姉さんや耀哉と話して、この想いの正体が分かったと思うから」
後は…どの時に伝えるか。
言葉にしようとすると、心臓がバクバク鳴っていい言葉が思い浮かばない。
感じたまま伝えれればいいのだけど。
「じゃあ次。手記の件だけど…」
「そっちは読んでみて欲しい。カナエやしのぶにとっても悪い話しではないから」
「あら。今までは読ませてくれなかったのに。どういう吹き回し?」
「考えが変わった結果かな。それに、隠しても仕方ないし」
有益な情報なら共有しておくべきだと思う。
特にあの鬼の事に関しては、いつかは会えるかもしれない訳だしね。
「さてと…そろそろ行かないと。カナエも気を付けてね」
「えぇ。貴方も気を付けて」
カナエから離れて遥と合流し、任務等の確認をしてから屋敷を発つのであった。
そろそろ奴が出て来ます。次の話しかその次の話し位の予定です。