或る独白   作:ダート

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或る酔漢の独白

 

 死後の世界なんて信じちゃないんだ。

 有るものは有るし、無いものは無いのが心情でね、だから見れも感じれもしないあの世なんてものを信じ抜くほどお気楽な人生でもないし、信じ抜くしかないほど救いのない人生でもないんだ、今んとこ。

 

 まあ、死後の世界はなくて、死んだらお終いって言うんなら、人生に意味なんてないって悲観する連中がいるのも知ってる。

 ああ、意味なんてないね。

 

 けどよ、生きてる限りオレたちは常に意味を求めて、また求められてもいる訳で、それに四苦八苦して追われてる。そんな世の中に疲れてる身としてはさ、人生の究極的な無意味さに胸がすく思いもするんだよな。

 ようやく意味なんてものから解放されるんだってさ。

 

 それに、死の平等性にも救われるね。死後なんてものがあって、それが人生の採点だか審判だかを兼ねているなんて世界、残酷すぎて辛すぎるよ。救いがない。死後の通知表なんざまっぴらだね。

 

 人生は無意味で、死からは逃れられず、どう生きようと同じように消えてなくなる。だから自由なんだ。だからこそ本当に自由で、その上死後に自由の責任を問われたり採点されたりもしない。

 その本質的平等性と無意味さと、究極的自由に救われるんだ。

 

 それに、どんな外れた人間でも、偉人や天才や先祖代々様方と同じになれるなんて、オレはそのことに心底から安心するんだよ。

 

 

 

 

 どうにも偉そうで小難しくなっちまった。哲学なんてガラでもタチでもねんだ。

 

 要するに、みんなと違うことで不安に苛まれることの多かった身としてはな、どんなことがあっても最後はみんなと同じになるという事実に心底から安堵できるし、救われるんだよ。

 

 大層なことを大仰に語ってはいても、結局その根底はこんな個人的経験と心情なんだ。ちっこいな。

 

 …………どうにも後ろ向きに聞こえるよな。本当に言いたいのはそうじゃねんだ。

 

 死後は無く、人生は無意味で、人はみな死という最期を迎える。この結末が同じであるからこそ、どんな人生を送ってもいいということでもあんだ。どんな過程を選んでも良いってことだ。

 

 この結末の平等性と、逆説的にもたらされる自由さのおかげで、人は後の採点や審判などの打算を抜きにして、心から「良し」とする生き方を模索できるはずなんだ。

 

 どうだ? 結構前向きになったろ?

 

 逆説的の意味はよく分かってねんだ。そのうち使ってみようと思ってた。んで、機会があったから使ってみただけだ。賢そうだろ?

 

 まあ、俺が思うのはそんなんだ。だから何ってもんでもねえよ。こんだけだ。

 

 じゃあな、お互い無意味に生きて、すっきり死のうぜ。

 

 

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