或る独白   作:ダート

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或る遡行者の独白

 逃げる時は慎重にな。これ、先達としてのありがたい助言だから、脳みそによく刷り込んでおいてくれ。

 

 おまえは今逃げようとしてるだろ?

 嫌な選択肢だよな。片やとても嫌なこと。片やすごく嫌なこと。どうすりゃいいんだってなもんだ。

 

 そこで、おまえは第3の選択肢。起死回生の一手として「選ばない」を選んでる。うっひょー、ゴミ。これぁダメだ。終わってる。

 

 ああ、その抗弁にもならない言い訳がもうバカなんだ。

 選んでるんだよ、おまえは。「選ばない」を選び続けている。で、先細る未来の選択肢に怯えてる。怖くて目を逸らしてる。見なければ何も起こらないとでも思っているのか?

 

 思ってないよな、ああ思ってない。おまえはそこすら思い切れない。常に女々しく立ち止まっては振り返り、足を止めては元の分岐路をチラチラ見ている。なのに決して戻って選択肢に向き合おうとはしないんだ。

 

 言っておくけどな、その逃げ方の先にはちゃあんともっと厄介な選択肢が待ってんだよ。誓って言えることなんだ。

 

 で、おまえはまた逃げる。当たり前だ。前の選択から逃げたおまえが、もっと厄介な選択なんてできっこない。できるならそんな事態になってないんだ。その辺、受験でかなり顕著に出たよな。就職活動でもそうだ。あれ、おまえ今いくつ? あー、じゃあこれネタバレだったな。まいいだろ。聞けてむしろよかったじゃんか。分かりやすいのがコレってだけで、仕事でも人間関係でも全部そうだからな。

 

 そうして逃げて逃げて逃げ続けて、ついには致命的な選択肢が用意される。

 逃げることすら致命性を持つんだ。最高だよな。ついにおまえは選ばざるを得ないことに気づくんだ。

 

 いや、正確には、「逃げる」ことすら選択肢の一つで、自分は無自覚にその選択肢を選び続けてきたことに気づかされるわけだわ。

 おまえは詰むよ。どれを選ぶか分かるか? 逃げるの一択だ。選ばない。選べない。だから結果的にやっぱ逃げたことになった。

 というより、選べなくて焦燥に焼かれて苦しんでいたら、なんだか逃げる以外の選択肢が時間切れで消えていて、最後に残ったその選択肢を選んだことにされていた。そんな感じか。初めのころはそれに安心したもんだわ。とんだ勘違いなんだ。ふざけんなマジで。

 

 将来おまえは思うんだ。あの頃に戻れたらって。神様にお願いするんだよ。今度こそ選びます。今度こそ改心しますって。

 そしたらなんと、だ。なんとなんと、信じられないことにだぞ? 奇跡が起きるんだよ。

 ほんの少しの間だけ、戻してくださるって。そしたらやることは決まってるよな。忠告するだろ、そりゃ。こうやって。

 

 ほぅら怪しくなってきた。胡散臭くて鼻が曲がりそうか。目の前の不審者が怖いだけでヘラヘラぺこぺこしてた気持ちが、だんだん見下す気分と混じってきたなあ、うん? こいつ心でも読めるのかってなあ。

 ————オレ、笑ってないんだわ。本気で聞いとけよ。

 

 …………はぁ、けどダメっぽいわ。なんかわかっちまったわ。オレ変わらんわ、これ。

 だってオレ消えねぇもん。そもそもおまえは信じないし、信じてもすぐ熱が冷める。そうやって数十年過ごしたクソみたいな実績があんだわ、こっち。

 

 本当は今のオレのまんま過去の自分を乗っ取るようなのを考えてた。こういう、別々にいるんじゃなくな? けどきっとそれでも同じだな。結局嫌なことは選べねぇもん、オレ。んでおまえ。

 未来しってても、結局その選択が嫌なことなのは一緒だろ? 無理だろ、やっぱ。最低の気分だよ、こんなことに今気づくなんてのはさ。そりゃ涙くらい出るだろ。機嫌取るなよ鬱陶しい。

 

 なあ、オレたちさ。

 オレたち本当に、終わってんな。

 ごめんな。なんかごめん。

 

 ごめんな。

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