或る独白   作:ダート

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或る演者の独白

 私は、昔から「本気で思ってなさそう」と言われてきました。

 

 褒めても称えても感動したと伝えても、申し訳ないと思っても謝罪しても……「本気で思ってなさそう」と言われてしまうことに、もう随分と悩んできました。

 

 気持ちを伝える際に、ついつい言語化を怠ってしまうところがあるんですよ。

「本気で思ってなさそう」と言われてしまうのは、そこらへんの怠慢が招いていたのかもしれませんね、はは……自業自得なのは、わかってます。

 

 普通はそれでも問題ないんですよね。

 感情の機微は表情や態度が言外に伝えるものでしょう?

 けど、そういう言外の反応が薄い人間は……私のような人間は、話が違ってきます。

 だからって言葉を尽くしたら、それって普通じゃないんですよ。

 それって、なんだか結局演技っぽいんです。嘘っぽいんです。

 

 だから、表情を意識して動かすようになりました。

 こういう気持ちになったら、こういう表情を作らなきゃ。

 声の高さもこうして、ちょっと肩に力を込めた方が伝わりやすい。

 そういう風に、他の人の反応を参考にして、真似るようになったんです。

 

 それからは、「本気で思ってなさそう」と言われることは減ったんです。

 それでも、たまにそれが作られていると見抜く方がいて……疲れてしまうことは、あります。

 

 例の感染症を契機にマスクが広まったのは、そんな私にとって救いでした。

 表情を作るのは目元で良くなりましたし、あとは声や呼吸の音と、肩の揺らしかたという単純な動作で感情を伝えられるようになって、見抜かれる機会は大きく減りました。

 

 けれど、私はこの内心の表明方法に疲れてしまったんです……今更なのは、わかってます。

 私、決して嘘をついているわけではないんです。

 心の動きに対して、身体の反応が薄いだけで。

 なのに、それを伝えるために毎回誇張した演技をしなきゃいけなくて……そんな演技をするたびに、私はまるで自分の感情すら演じているようで……疲れて、しまいます。

 

 一緒にいると、人はその場の人と同じ反応を求められるんですよね。

 そうして仲間であることを確認し合うんです。同じ感情を、同じ方法でやり取りする仲間ですって、表明する必要があるんです。

 私は必死に、そこから逸脱しないように努めます。

 だってそうでないと、私が異物になってしまうので。仲間じゃ、なくなってしまうので。

 

 伝えようとするのも、

 伝わらないのも、

 勝手に本心を推測という名の決定をされるのも、

 それに弁明するのも、

 必死になればなるほど普通と離れていくのも。

 

 みんなみんな、疲れてしまいました。

 

 私に期待しないで。

 私に同じを求めないで。

 私を試さないで。

 私を『普通』に押し込まないで。

 

 けど……見捨てないでください。

 私の言葉を信じてください。

 私の気持ちを信じてください。

 

 私を、諦めないで————

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