国内安全保障執行局〈D.S.E.D.〉〜再会したお姉ちゃんは、私のことを覚えていないようです〜   作:暁天花

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第六章 決戦〜Revealing The Truth〜
第十話 強行捜査


 二〇四五年六月二五日、午前六時〇〇分。

 空が黎明の朱色に染まり始めた、ロサンゼルス・ダウンタウンの夜明けの中。

 リィンヴァース社本社ビルの周辺を〈D.S.E.D.〉の要請で出動した保安隊が取り囲み、完全武装した〈D.S.E.D.〉戦闘部隊が正門の前に集結していた。

 

「こちらの態勢は整った。そちらはどうだ?」

 

 と、こちらも完全武装したブルシーロフ中隊長が通信機越しに訊ねる。帰ってくるのは、可憐(かれん)かつ凛とした少女――エレナっちの声。

 

『こちらも準備は整いました。そちらのタイミングでどうぞ』

「了解」

 

 通信アウト――彼の視線があたしに向けられる。

 

「とのことだ、グレイフォード隊員」

「……ホントにあたしが先陣でいいの?」

 

 問うアイリスの右手にはいつもの散弾銃(ショットガン)ではなく突撃銃(アサルトライフル)が構えられ、左腰には今作戦に際し必要と判断された細剣(レイピア)()げられている。どちらも、限定された室内戦ということで与えられた、久々に使用する武器だ。

 そんなアイリスに、ブルシーロフ中隊長はにやりと渋い笑みを浮かべて、

 

「最初の攻撃は作戦において最も肝心な要素の一つだ。お前が盛大にやってくれればやるほど、相手は怖気付いて俺たちが動きやすくなる。……銃弾は非殺傷になるよう魔導で調整してるんだろう?」

「まぁ、そうだけど」

 

 こくりと頷くアイリス。

 

「なら、気にする必要はない。()()()()()

「……りょーかい」

 

 言いつつ脳内で【魔導】を起動。続けて必要な術式を起動する。

 

 “〈天使ノ翼(エンジェル・フェザー)〉起動”

 “〈魔導式調整弾(アジャストメント・バレット)〉起動”

 “〈熾天使ノ剣(セラフィム・セイバー)〉起動”

 

 アイリスの背に白く輝く天使の翼が顕現し、右手の突撃銃(アサルトライフル)と左腰の細剣(レイピア)に一瞬光が灯る。〈天使ノ翼(エンジェル・フェザー)〉の効能で、ある程度の被弾ならば無傷で受けられる。

 ……これで、準備は整った。一度深呼吸をして、再び眼前にそびえるガラス扉を見据える。始業前にも関わらず、本社ビルの中にある電灯は付いていて。相手が用意万端なのは明白だ。

 突撃銃(アサルトライフル)を構え、一息に宙に浮かぶ。そして――次の瞬間。

 アイリスは全速力でガラス扉へと飛翔した。

 

 一瞬弾丸の強度を上げて突撃銃(アサルトライフル)を撃ち放ち、耐弾ガラスの正面ドアをぶち破る。割れた隙間から中へと侵入、予期されていた通りに全方向から弾丸の雨が浴びせられる。が、そこは〈天使ノ翼(エンジェル・フェザー)〉の本領発揮。穿(うが)たれる弾丸のことごとくを防ぎ止め、アイリスの周辺で速度を失って地上へと落ちていく。

 

「……あは!」

 

 自然と笑みがこぼれでる。心の奥底から沸き起こる“楽しい”という感情が、アイリスの理性をゆっくりと、けれども確実に蝕んでいく。

 “――絶対にそっちに行っちゃダメ!”と鋼の自制心で楽しい感情を押しとどめ、まずは一階でこちらを撃つ兵士へと突撃銃(アサルトライフル)を差し向ける。

 意識がそいつを捉えるより前に引き金を引き、その方向に居た二人を瞬く間に撃ち倒す。即座に上昇、足下に銃火が集中するのをよそに吹き抜けの二階へと到達、ガラス張りの柵を突き破って二階の兵士たちを右から左へと的確に掃射。絶妙に威力を抑えた弾丸で二階の攻勢を沈黙させる。

 

 ――と。天井から『何か』が飛来。

 

 それの正体を瞬時に察し、アイリスは二階の右端――倒れた兵士の脇へと滑り込むように着陸。直後、天井から飛来した『何か』が、淡い光の粒子を撒き散らした。

 粒子が階層全体に拡散すると同時に天使の翼が急速に輝きを失い、手に持つ銃がほんの僅かに重くなる。

 “……やっぱり、〈対魔導領域散布弾(アンチ・ウィザード・バレット)〉か”――と一瞬の思案。〈天使ノ翼(エンジェル・フェザー)〉の効力が弱くなったのを実感しつつ、アイリスはあえて一階の敵に注目される場所へと立つ。

 無意識に「あははっ!」という笑い声がこぼれ落ち、口の端を吊り上げていた。だが、アイリスの脳内は冷静そのもの。

 眼下の銃口が全てこちらを向き、畏怖と共に引き金が引かれようとして――

 

『総員突撃!』

 

 通信機から渋い男性の声が聞こえるのと同時。

 アイリスが突っ込んできた正面ドア付近で、盛大な爆発が巻き起こった。

 とっさのことに一瞬動きが止まる相手に、突入したブルシーロフ中隊長率いる完全武装の男たちが容赦なく銃弾を浴びせかける。が、彼らの使用しているのは強化ゴム弾なので、血が飛び散るなんてことはなくて。弾丸の直撃を食らった兵士は、そこかしこで気を失って倒れ伏していた。

 

「射撃()め!」

 

 ブルシーロフ中隊長の一喝に銃声がピタリと止まる。と思うと、一気に散開して正面玄関周辺の安全確認(クリアリング)を開始していた。

 

「……ふぅ」

 

 と、アイリスは一息。笑みの形に吊り上がっていた口を元に戻し、一階から向かってくるブルシーロフ中隊長の元へと階段を降りていく。

 

「完璧な陽動だ。見事だった」

「それはどういたしまして」

 

 不敵な笑みを浮かべてブルシーロフ中隊長と握手。安全確認(クリアリング)班が続々と二階へと上がっていくのを傍目に、アイリスは、

 

「それで、C班からE班はこのまま上階へと進むんだったっけ?」

「ああ。そうだ」

 

 ブルシーロフ中隊長は頷き、手元の軍用スマートフォンの画面をアイリスに示して、

 

「あいつらが上階へと進む間、俺達B班とグレイフォード隊員で隠し通路がないかを調査する。俺とグレイフォード隊員で侵攻班の後続を調査し、その他のB班で一階以下を調査。地下がないかを調べる算段だ」

「りょーかい。じゃ、エレナっちに連絡するね」

「頼む」

 

 通信オープン――対象を大隊長へと繋げて、アイリスは口を開いた。

 

 

 

 

『もしもーし、エレナっち。聞こえてる?』

 

 リィンヴァース社本社ビルの隣棟(りんとう)、高さがそれの半分程度のビルの屋上にて。

 夜明けのビル風を全身に受けながら、白金(はっきん)の髪をサイドテールに結んだ赤瞳(せきとう)の少女――エレナは、耳につけた通信機へと声を返していた。

 

「ええ、聞こえてますよ。……見た感じ、既に第一段階は完了したようですね」

 

 “ヴェンツェル大隊長でしょうが”――と思うのを胸に秘めつつ、エレナは隣のリゼさん(お姉ちゃん)と共に眼下の景色を眺める。粉々に打ち砕かれ沈黙した、ガラス張りの正面玄関。

 〈D.S.E.D.〉の女性隊員服に身を包んだ二人の手にはそれぞれ長銃身軽機関銃と長銃身の狙撃銃(スナイパーライフル)が携えられ、右腰にはアイリスと同じ細剣(レイピア)()げられている。左腰には、制式拳銃とその弾倉が備え付けられていた。

 何が起こるか分からないからと、今作戦に際し装備することとなった久々の完全武装。

 

『まぁ、そんな感じだからそっちも動いていいってさ』

「了解しました。……そちらは頼みましたよ」

『うん。任せといて』

 

 通信アウト――吹き抜ける風の音だけがエレナの耳に入ってくる。

 と、隣から銀髪を雑に切った少女――リゼさん(お姉ちゃん)の声。

 

「じゃあ、行こっか」

「ええ」

 

 こくりと頷き、エレナは屋上の縁へと歩み寄る。外に背を向け、勢いよくビルを飛び降りて――脳内で魔導を起動、術式を詠唱。

 

 “〈天使ノ翼(エンジェル・フェザー)〉起動”

 “〈魔導式強化弾(ウィザード・バレット)〉起動”

 “〈熾天使ノ剣(セラフィム・セイバー)〉起動”

 

 背中に光り輝く純白の天使の翼が(あらわ)れ、エレナの身体をふわりと宙に漂わせる。続けて右手の軽機関銃と左腰の細剣(レイピア)が一瞬光を保ち、すぐに消失した。

 隣を見ると、同じく魔導の起動を終えたリゼさん(お姉ちゃん)が天使の翼を背に宙に浮かんでいて。エレナはきっと天へ――夜明けの朱色が消えつつある蒼穹(そら)を見据える。

 恐らく二人の前に立ち塞がるであろう、血の繋がっていない妹と――その奥に居る、父を睨んで。

 

 

 

  †

 

 

 

 〈D.S.E.D.〉本部ビル最上階――長官室。

 朝焼けのビル群を背景に、ロンメル長官はモニターに映る長身痩躯(ちょうしんそうく)の男と対峙する。

 

『これはどういうことかね、〈D.S.E.D.〉長官どの』

 

 画面の端には録音を示す『REC』の文字が明滅し、対峙している男とロンメルの会話を、今回の独断行動における『証拠』として省内会議に提出する気だということを言外に告げている。それをしっかりと認識しながらも、ロンメルはさも当然かのように告げる。

 

「我々〈D.S.E.D.〉の目的は、他の治安組織が摘発できないような相手に対し毅然とした態度をとり、時には武力を行使してでも取り締まることです。今回の相手は重大な合衆国憲法違反の疑いがあり、しかもその証拠の一端を我々は既に掴んでいる。今私達が動かねば、誰が動くのでしょうか?」

『それが君の答えか? エルンスト・ロンメル長官。君の行為は司法省の定めた〈D.S.E.D.〉の規則に違反した、ただの職権濫用(らんよう)だ。……それでも、リィンヴァース社への強行捜査を止めはしないと?』

「もちろん、そのつもりです」

 

 ロンメルは即答していた。しばしの沈黙ののち、モニターの男は、

 

『では、この録音を後日会議に提出し、君の進退を決定する。話は以上だ』

 

 重々しい発言ののち録音を停止。途端に、彼の険しい顔がふっと緩んだ。

 

『こちらの処理は何とかしてみせよう。……そちらは頼んだぞ、ロンメル』

 

 ロンメルは深く頷き、真剣さといつもの飄々とした楽観を半々に込めて返した。

 

「ええ。()()()ならば、必ずやってくれると信じていますよ」

 

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