国内安全保障執行局〈D.S.E.D.〉〜再会したお姉ちゃんは、私のことを覚えていないようです〜 作:暁天花
第十話 強行捜査
二〇四五年六月二五日、午前六時〇〇分。
空が黎明の朱色に染まり始めた、ロサンゼルス・ダウンタウンの夜明けの中。
リィンヴァース社本社ビルの周辺を〈D.S.E.D.〉の要請で出動した保安隊が取り囲み、完全武装した〈D.S.E.D.〉戦闘部隊が正門の前に集結していた。
「こちらの態勢は整った。そちらはどうだ?」
と、こちらも完全武装したブルシーロフ中隊長が通信機越しに訊ねる。帰ってくるのは、
『こちらも準備は整いました。そちらのタイミングでどうぞ』
「了解」
通信アウト――彼の視線があたしに向けられる。
「とのことだ、グレイフォード隊員」
「……ホントにあたしが先陣でいいの?」
問うアイリスの右手にはいつもの
そんなアイリスに、ブルシーロフ中隊長はにやりと渋い笑みを浮かべて、
「最初の攻撃は作戦において最も肝心な要素の一つだ。お前が盛大にやってくれればやるほど、相手は怖気付いて俺たちが動きやすくなる。……銃弾は非殺傷になるよう魔導で調整してるんだろう?」
「まぁ、そうだけど」
こくりと頷くアイリス。
「なら、気にする必要はない。
「……りょーかい」
言いつつ脳内で【魔導】を起動。続けて必要な術式を起動する。
“〈
“〈
“〈
アイリスの背に白く輝く天使の翼が顕現し、右手の
……これで、準備は整った。一度深呼吸をして、再び眼前にそびえるガラス扉を見据える。始業前にも関わらず、本社ビルの中にある電灯は付いていて。相手が用意万端なのは明白だ。
アイリスは全速力でガラス扉へと飛翔した。
一瞬弾丸の強度を上げて
「……あは!」
自然と笑みがこぼれでる。心の奥底から沸き起こる“楽しい”という感情が、アイリスの理性をゆっくりと、けれども確実に蝕んでいく。
“――絶対にそっちに行っちゃダメ!”と鋼の自制心で楽しい感情を押しとどめ、まずは一階でこちらを撃つ兵士へと
意識がそいつを捉えるより前に引き金を引き、その方向に居た二人を瞬く間に撃ち倒す。即座に上昇、足下に銃火が集中するのをよそに吹き抜けの二階へと到達、ガラス張りの柵を突き破って二階の兵士たちを右から左へと的確に掃射。絶妙に威力を抑えた弾丸で二階の攻勢を沈黙させる。
――と。天井から『何か』が飛来。
それの正体を瞬時に察し、アイリスは二階の右端――倒れた兵士の脇へと滑り込むように着陸。直後、天井から飛来した『何か』が、淡い光の粒子を撒き散らした。
粒子が階層全体に拡散すると同時に天使の翼が急速に輝きを失い、手に持つ銃がほんの僅かに重くなる。
“……やっぱり、〈
無意識に「あははっ!」という笑い声がこぼれ落ち、口の端を吊り上げていた。だが、アイリスの脳内は冷静そのもの。
眼下の銃口が全てこちらを向き、畏怖と共に引き金が引かれようとして――
『総員突撃!』
通信機から渋い男性の声が聞こえるのと同時。
アイリスが突っ込んできた正面ドア付近で、盛大な爆発が巻き起こった。
とっさのことに一瞬動きが止まる相手に、突入したブルシーロフ中隊長率いる完全武装の男たちが容赦なく銃弾を浴びせかける。が、彼らの使用しているのは強化ゴム弾なので、血が飛び散るなんてことはなくて。弾丸の直撃を食らった兵士は、そこかしこで気を失って倒れ伏していた。
「射撃
ブルシーロフ中隊長の一喝に銃声がピタリと止まる。と思うと、一気に散開して正面玄関周辺の
「……ふぅ」
と、アイリスは一息。笑みの形に吊り上がっていた口を元に戻し、一階から向かってくるブルシーロフ中隊長の元へと階段を降りていく。
「完璧な陽動だ。見事だった」
「それはどういたしまして」
不敵な笑みを浮かべてブルシーロフ中隊長と握手。
「それで、C班からE班はこのまま上階へと進むんだったっけ?」
「ああ。そうだ」
ブルシーロフ中隊長は頷き、手元の軍用スマートフォンの画面をアイリスに示して、
「あいつらが上階へと進む間、俺達B班とグレイフォード隊員で隠し通路がないかを調査する。俺とグレイフォード隊員で侵攻班の後続を調査し、その他のB班で一階以下を調査。地下がないかを調べる算段だ」
「りょーかい。じゃ、エレナっちに連絡するね」
「頼む」
通信オープン――対象を大隊長へと繋げて、アイリスは口を開いた。
『もしもーし、エレナっち。聞こえてる?』
リィンヴァース社本社ビルの
夜明けのビル風を全身に受けながら、
「ええ、聞こえてますよ。……見た感じ、既に第一段階は完了したようですね」
“ヴェンツェル大隊長でしょうが”――と思うのを胸に秘めつつ、エレナは隣の
〈D.S.E.D.〉の女性隊員服に身を包んだ二人の手にはそれぞれ長銃身軽機関銃と長銃身の
何が起こるか分からないからと、今作戦に際し装備することとなった久々の完全武装。
『まぁ、そんな感じだからそっちも動いていいってさ』
「了解しました。……そちらは頼みましたよ」
『うん。任せといて』
通信アウト――吹き抜ける風の音だけがエレナの耳に入ってくる。
と、隣から銀髪を雑に切った少女――
「じゃあ、行こっか」
「ええ」
こくりと頷き、エレナは屋上の縁へと歩み寄る。外に背を向け、勢いよくビルを飛び降りて――脳内で魔導を起動、術式を詠唱。
“〈
“〈
“〈
背中に光り輝く純白の天使の翼が
隣を見ると、同じく魔導の起動を終えた
恐らく二人の前に立ち塞がるであろう、血の繋がっていない妹と――その奥に居る、父を睨んで。
†
〈D.S.E.D.〉本部ビル最上階――長官室。
朝焼けのビル群を背景に、ロンメル長官はモニターに映る
『これはどういうことかね、〈D.S.E.D.〉長官どの』
画面の端には録音を示す『REC』の文字が明滅し、対峙している男とロンメルの会話を、今回の独断行動における『証拠』として省内会議に提出する気だということを言外に告げている。それをしっかりと認識しながらも、ロンメルはさも当然かのように告げる。
「我々〈D.S.E.D.〉の目的は、他の治安組織が摘発できないような相手に対し毅然とした態度をとり、時には武力を行使してでも取り締まることです。今回の相手は重大な合衆国憲法違反の疑いがあり、しかもその証拠の一端を我々は既に掴んでいる。今私達が動かねば、誰が動くのでしょうか?」
『それが君の答えか? エルンスト・ロンメル長官。君の行為は司法省の定めた〈D.S.E.D.〉の規則に違反した、ただの職権
「もちろん、そのつもりです」
ロンメルは即答していた。しばしの沈黙ののち、モニターの男は、
『では、この録音を後日会議に提出し、君の進退を決定する。話は以上だ』
重々しい発言ののち録音を停止。途端に、彼の険しい顔がふっと緩んだ。
『こちらの処理は何とかしてみせよう。……そちらは頼んだぞ、ロンメル』
ロンメルは深く頷き、真剣さといつもの飄々とした楽観を半々に込めて返した。
「ええ。