国内安全保障執行局〈D.S.E.D.〉〜再会したお姉ちゃんは、私のことを覚えていないようです〜   作:暁天花

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第十一話 決戦

 リィンヴァース社本社ビルから放たれる対空銃火を〈天使ノ翼(エンジェル・フェザー)〉の効能で弾き、時折襲いかかって来る対空ミサイルを銃火で撃ち落とし、魔導の盾で防ぎ止めながら。エレナとリゼは、ビルの最上階目指して飛翔する。

 誘爆したミサイルが夜明けの空に一瞬の爆炎を閃かせ、エレナたちの羽根と髪に衝撃波を容赦なく叩きつけてくる。それらを背後で感じながらも、二人は決して振り返らない。

 

 この事件を終わらせるために。頭上に見えるビルの頂上を目指して、対空砲火の嵐を全速力で駆け抜ける。

 ビルの八割ほどを登り終えたところで対空砲火が止み、常に感知されていた〈対魔導領域散布弾(アンチ・ウィザード・バレット)〉の効果が途切れる。

 天使の翼が本来の輝きを取り戻し、身体を覆う防護の盾の強度が元に戻った――その時。

 

 

 

 ガラス張りの本社ビルの中から、()()をした弾丸の掃射が撃ち放たれた。

 

 

 

「っ――!? 回避っ!」

『うわっ!?』

 

 寸前のところで気づいた二人は左右に散開。何とか緑色の閃光を回避し、それぞれの銃口を射撃元へと構え――

 引き金を引く前に、粉砕されたガラスの中から()()()()使()がエレナに向かって猛然と突っ込んできた。

 “やっぱりか――!”と心の中で叫びつつ、エレナは左手で左腰の細剣(レイピア)を思い切り引き抜く。宙に飛ぶ柄を左手で握り込み、瞬間、刀身が緑色の光に包まれる。

 

 眼前に煌めくのは純白の翼と真紅のツインテール。戦闘支援システムが認識能力を補正し、猛然と迫る()()()()の顔を見据える。細剣(レイピア)――もとい〈熾天使ノ剣(セラフィム・セイバー)〉を迎撃態勢に構え――直後、二人の刀身が激突。

 緑色の火花が飛び散り、後方へと大きく押し込まれる中で、エレナは相対する少女の顔をしっかりと見つめていた。

 

「――レイラ・ヴァシレフスキー!」

「っ……!? なんでその名を……!?」

 

 驚愕の声を上げる真紅の少女――もとい『赤い魔女(レッド・ウィッチ)』。あの子と同じ()()()()で、九歳のあの子が成長したらこんな感じなんだろうなという容姿をしていて、なにやり三年前に死んだはずの名にここまで感情を揺さぶられているとなると。

 確信を込めて、エレナは対峙する赤髪のツインテールの少女へとそれを告げる。

 

「やっぱり、あなたは三年前に死んだ訳じゃなかったのね。()()()()()()()()()()()()さん」

「……ちっ」

 

 帰ってくるのは、再び無表情となった少女の舌打ち。より一層の押し込みをあえて受け入れ、大げさに後方へと飛んで一旦距離をとる。即座に側面に回り込んでいたリゼさん(お姉ちゃん)の的確なフォロー。赤髪の少女は追撃を断念し、一旦後方へと逃れる。 

 こちらに向く長銃身重機関銃の銃口と、それを向ける少女に狙撃銃(スナイパーライフル)の銃口を合わせるリゼさん(お姉ちゃん)。そして眼前の重機関銃と対峙するエレナの長銃身軽機関銃。

 一気に膠着状態にまで持ち込んだところで、エレナは無線をオープン回線にして、

 

「あなたの父、アイザック・リィンヴァースには合衆国憲法違反の疑いがあります。大人しく通してもらえないでしょうか」

「……むり。それはできない」

「それはどうしてでしょうか。レイラ・ヴァシレフスキーさん」

「わたしは〈突嵐(パルヴィーフ)〉。レイラ・ヴァシレフスキーじゃない。……わたしの役目は、お父さんを守ること。相手がだれであろうと、わたしはお父さんを守る」

「その『お父さん』は、貧困層の人々を搾取し尽くした挙句、今度は記憶さえも奪おうと画策しています。そんな非人道的な人間を、あなたは守ると?」

「それでも、わたしのお父さんはお父さんだから」

「……そうですか」

 

 “なんで、そんなに頑なに父を守ろうとするんだろう?”――エレナは胸中で呟く。だが、それを聞いたところで彼女は二人の前から立ち去らないし、聞いても理解できないだろう。ならば、エレナがここでやるべき事はただ一つ。彼女を“殺さずに”倒して先へと進むことだけだ。

 たとえ、それが闇夜に針の糸を通すよりもはるかに困難なことであろうとも。やらなければ真実には辿り着けない。

 視線は目の前の少女に合わせながら、一つ深呼吸。緊張の糸が張り詰める中、エレナはゆっくりと軽機関銃の引き金を引いた。

 

 瞬間、真紅の少女が跳躍。エレナの掃射とリゼさん(お姉ちゃん)の狙撃の両方を一挙に避けながら、右手に持つ重機関銃の銃口をエレナに向けてくる。

 

 掃射(ダダダ)! 掃射(ダダダ)! 掃射(ダダダ)

 

 エレナのものとは比較にならないほどの銃声が朝焼けの空に響き、全速力で()けるエレナのすぐ側を緑色に煌めく弾丸が掠めていく。射撃で動きが止まった隙を見計らってリゼさん(お姉ちゃん)が射撃。今度は直撃するも、なんと赤い魔女(レッド・ウィッチ)は〈天使ノ翼(エンジェル・フェザー)〉の効用だけで狙撃を防ぎ止めていた。

 

『盾なしでボクの弾を防いだ!?』

 

 リゼさん(お姉ちゃん)の驚嘆を通信で聞きつつ、今度はエレナが軽機関銃を掃射。面制圧の力をもって相手を牽制し、重機関銃の掃射がリゼさん(お姉ちゃん)へと向くことを阻止する。

 ツインテールを尾のようになびかせて高速で飛翔する赤い魔女(レッド・ウィッチ)を補正視界が捉え、掃射(ダダダ)掃射(ダダダ)掃射(ダダダ)

 

 最後の連射で偏差修正が完了し、直撃コースに相手が躍り出る。が、赤い魔女(レッド・ウィッチ)は慣性を無視した急停止を実行。と同時に〈魔導ノ盾(ウィザーズ・シールド)〉を起動。光の盾が掠めた軽機関銃の弾丸を粉々に打ち砕く。 

 瞬間、リゼさん(お姉ちゃん)の正確無比なフォロー。最大限まで強化された弾丸が光の盾を打ち砕き、その先にある全身防護を貫いてレイラの重機関銃――その弾倉部へと突き刺さっていた。

 

 彼女が咄嗟に重機関銃を手放した直後、穿(うが)たれた弾倉が暴発。中身の弾丸を周囲に撒き散らして鮮やかな炎を空に咲かせる。

 爆炎から逃れる真紅の少女に、エレナは間髪入れずに軽機関銃を掃射。〈天使ノ翼(エンジェル・フェザー)〉による全身防護を面制圧の力で削ぎ落とす。

 と。真紅の少女の脇から『何か』が吐き出されるのを補正視界が辛うじて捉える。思わず軽機関銃で身を守り――その銃身にナイフ状のものが突き刺さっていた。

 

 “――まさか!?”――ほとんど直感でそれが何なのかを悟り、軽機関銃を手放して急速退避。刹那、エレナの軽機関銃が物の見事に爆発四散していた。

 “投擲(ナイフ)型の爆雷か”――と思うのも束の間、爆炎の(とばり)を切り裂いて、真紅の少女が一閃。かろうじて補正視界が捉えた剣閃を、エレナは左手の細剣(レイピア)で受け止め――あまりの勢いに後方へと吹っ飛ばされた。 

 

『エレナちゃん!?』

 

 悲痛な叫び声が通信に響き、正確無比な狙撃のフォローが最後に放たれようとしていた必殺の一閃を阻止。後方に退くレイラを、リゼさん(お姉ちゃん)が追撃にかかる。

 真紅の少女が標的をエレナから変え、滞空するリゼさん(お姉ちゃん)の元へと全速力で飛翔。腰から投擲(ナイフ)型爆雷を撃ち放ちながら剣を突き立てる。

 爆雷を狙撃で撃ち落とし、迫り来る少女へと一発、二発と全く同じ位置へと狙撃を敢行。一発目で防護の盾を突き崩し、二発目で必殺の一撃を――と思うも、真紅の少女はその弾丸を手に持つ剣で一閃。レイラの後方で爆炎がひらめく。

 対決の敗北を悟ったリゼさん(お姉ちゃん)が跳躍する直前に、レイラが肉薄。狙撃銃(スナイパーライフル)をたたっ斬っていた。

 

『ちっ……!』

「お……リゼさん!?」

 

 恐怖に支配されそうなエレナをよそに、リゼさん(お姉ちゃん)は左腰から細剣(レイピア)を引き抜く。刹那、二つの刃が空中で激突。緑色の閃光を撒き散らし、双方の煌めく翼にヒビが入る。

 ――効能の過剰使用による、天使の羽根の損傷。あれではそう長くは戦えない。

 

『エレナちゃん!』

「分かってます!」

 

 言いつつ、エレナは細剣(レイピア)を右手に持ち替えて跳躍。押し切られて追撃を仕掛けられているリゼさん(お姉ちゃん)の元へと全速力で()ける。レイラの剣先がリゼさん(お姉ちゃん)の額を掠め、右腕を切り裂く。最後の一突きが到達する――その直前。

 割って入ったエレナが、振り上げられた剣を弾き飛ばした。

 

「む、」

 

 少女の真顔に苛立ちの表情が少しだけ現れる。が、それには構わずもう一閃。〈天使ノ翼(エンジェル・フェザー)〉が持つ防護の盾を完全に斬り裂いた。

 効力を失った防護がガラスのような音を立てて砕け散り、目の前には無防備な少女だけが残される。

 

 “――お願いだから、頑張って”――という一瞬の思考。衝撃でよろめく真紅の少女に、エレナは最大限の魔力を込めて細剣(レイピア)の一撃を見舞った。

 魔力放出による緑色の閃光が視界を()き、世界の全てが緑色に染め上げられる。が、それも一瞬。数秒経ったあとに戻った視界には、真紅の少女は居なかった。

 “――お願い”と思いつつ、エレナは砕け散ったガラス張りの壁から本社ビル内へと降り立つ。背中の羽根はさっきの反動でボロボロで、辛うじて飛行能力を保っているだけ。防護能力は完全になくなっていた。

 

「……生きてるかな」

「あの子なら、大丈夫だと思います」

 

 言いつつ、エレナはボロボロになった部屋の奥へと進む。崩れた壁をくぐり、ビルの対岸の部屋へ。

 そして。そこで、二人は床に倒れ伏している()()()()()を見つけた。

 天使の翼は完全に砕け散り、その手に携えられている剣は()から先が消失している。着ていた服はボロボロで、身体中傷だらけ。……だけど。致命傷となるようなものは一つも見当たらなかった。

 

「……やっぱり。この程度じゃ死ぬわけないですよね」

 

 無意識のうちに安堵の笑みがこぼれ出る。相手を――義理の妹を殺さなくて済んだという安感が、心の奥底から湧き上がって来ていた。

 

「……レイラ・ヴァシレフスキーって」

「ええ。三年前に交通事故で死んだとされていた、()()()()()()です」

「……確証はあるの?」

 

 エレナは首を横に振る。

 

「確証はないです。……が、この容姿で、あの人を『お父さん』と呼ぶのはレイラしか有り得ません」

 

 憐憫と慈愛と申し訳なさと。あらゆる感情が心に渦巻くのを自分で感じながら、エレナはその場に膝をついて眠る少女の頭を撫でる。

 どういう事情があるにせよ、この少女は唯一の拠り所である父を守ろうとして戦った。その姿は褒めるべきだし、誰にも咎められるいわれはない。たとえ父が合衆国憲法の違反者で、人権を踏みにじるような人間であったとしても。

 エレナは立ち上がり、 

 

リゼさん(お姉ちゃん)は自分の傷の手当とこの少女の手当をお願いします」

「……エレナちゃんはどうするの?」

「私は、」

 

 ごくりと唾を飲み込み、決然とした瞳と声音で告げる。

 

「私は、父を――アイザック・リィンヴァースを逮捕、拘束します」

 

 

 

  †

 

 

 

 リィンヴァース社本社ビル()()()()。地下駐車場の更に下に発見された隠しルート。等間隔に設置された小さな電球の明かりだけを頼りに、アイリスとブルシーロフ中隊長はチタン合金の道を突き進む。

 

「しかし、あれほど周到に隠していた割にはあっさり見つかったな」

 

 と、声量を抑えたブルシーロフ中隊長の渋い声。

 ここに至る道を見つけたのは一階より下を調査していた班の一つで、その入口は地下二階にある駐車場の端――コンクリート製の床に巧妙に隠されていた。

 ほぼ完璧に偽装されていた隠しルートだったが、そこだけ妙に使い古された摩擦跡を訝しんだ隊員が調査を実行。持ち込んだ機器を総動員して探査した結果、その下に異様な空洞があることが発覚。すぐさま二人が駆けつけ、〈天使ノ翼(エンジェル・フェザー)〉の効用で腕力を増したアイリスが重機関銃を一人で持ち上げて床へと掃射を敢行。最後に蹴飛ばした先に、ここ――地下三階へと続く階段が発見されたのだった。

 

「まぁ、それだけ普段から使ってたってことでしょ」

 

 これまた声量を抑えてアイリスが答える。なるべく楽観を保とうとは思うものの、それが意味することが不愉快すぎてつい言葉に棘が生まれていた。

 普段使いがなされていたということ。それは、この『記憶データ』の取引が日常的に行われていたことに他ならない。貧困層の人々を散々痛めつけた挙句、最後は記憶すらも抜き取って対抗する術をこの世から消去する。記憶に残っていないのだから警察に相談することもできないし、自力で相手を追うことも当然不可能。被害者には身体に刻み込まれた傷以外には何も残らない。

 『記憶データ』の使い道は依然として不明なものの、その完全犯罪スキームには怒りしか湧いてこなかった。

 “何とか心を鎮めないと”――と思い、アイリスはちらりと背後を見やって、

 

「……ところでそれ、本当に必要だったんですか?」

「必要でなければ持ってきていないぞ、グレイフォード隊員」

 

 あっさりと渋い笑みで返された。

 彼の背には長大な対物ライフルが背負われており、その銃身は天井すれすれのところで遷移している。いつ天井にぶつかって大きな音を立てるのかも分からないものを、なぜ持ってきたのか。アイリスには全く分からない。

 

「万が一のことがあった場合、通常のアサルトライフルやスナイパーライフルでは役不足になる。……君と一緒の場で、ただの足でまといになるのは御免だからな」

「はぁ……」 

 

 “いやまぁ、用意周到なのは良いんだけどさ?”――という少し呆れの混じった思考。こんな狭い場所で、そんな馬鹿でかい装備が必要になるような場面があるとは思えないのだけれど……。

 そんなこんなと考えているうちに、二人は何やら厳重そうな扉に突き当たる。

 ブルシーロフ中隊長が先行して傍のタッチパネルを叩き、キーを解錠。開かれるのと同時に二人揃って中へと滑り込み――

 

 

 

 瞬間、頭上から重厚な掃射音(ダダダダダ)が響き渡った。

 

 

 

 即座に左右に散開し、元いた場所には弾痕がこれでもかと刻みつけられる。二人はやや遅れて周囲を見渡し、自分たちが今居る場所を認識して――驚愕に目を見開いた。

 

「なにここ……!?」

 

 戦闘支援システムが示すのは、天井まで五メートル、縦横は十メートルという巨大なチタン合金製の空間。対岸にもう一つ扉が開いある以外は何もなく、唯一、中央――一つだけある大きな照明灯の下に、()()は傲然と佇んでいた。

 ほとんど無意識に借り物の()()()()を構え、アイリスは先程自分たちを撃った相手を正しく視認する。

 円形の台座の上には装甲で覆われた2×2束の重機関銃が前後左右の計四門が備え付けられ、その間にはより大口径の砲門がこれまた四門、備え付けられている。巨大な砲塔の至るところには光学機器が反射光を煌めかせ、各所には死角を埋めるようにして外付け式の軽機関銃が計八門、突き出していた。

 上部でくるくると回るレーダーと相まって、その見た目はさながら地下に生えた機械仕掛けのイソギンチャク。

 侵入者を殺すための仕掛けなのは、明らかだった。

 通信で聞こえてくるのは、対岸で対物ライフルを構えたまま静止するブルシーロフ中隊長の声。

 

「まず俺が発砲と同時にここを移動する。こいつの攻撃目標が俺に向かっている間に、敵の武装を破壊しろ」

「りょーかい」

 

 言いつつ、アイリスは無意識に口の端を吊り上げていた。

 “こんな絶体絶命な状況、楽しくてしょがないよ!”――という思考が心の奥底から湧き上がってくる。それを鉄壁の理性で制し、アイリスは頭上に銃口を構える姿勢のまま、来るべきタイミングを待つ。

 すぅ、とブルシーロフ中隊長が小さく息を吸い――直後。引き金を引くと同時に、全速力で左側へと駆け込んだ。

 

 ブルシーロフ中隊長の放った弾丸が鋼鉄のイソギンチャクの光学機器を正確に精密に撃ち貫き、探査機能を一瞬喪失(ロスト)した重機関銃が虚空を穿つ。が、それも一瞬。他の光学機器が中隊長を捉え、他の機関銃たちを振り向ける。

 それと同時にアイリスは宙へと飛翔。天井に激突しないように気をつけつつ、全速力で鋼鉄のイソギンチャクへと迫り寄る。右腰に付け替えていた細剣(レイピア)を抜き放ち、そのままの動きでこちらを向いていた軽機関銃の銃身を分断。暴発の炎を視界の隅に、右手の軽機関銃をブルシーロフ中隊長を狙う重機関銃へと振り向ける。

 照準の確定を待たずに、掃射(ダダダダダ)掃射(ダダダダダ)

 

「あはっ!」

 

 無意識にこぼれ出る笑い声。ブルシーロフ中隊長を狙っていた重機関銃が作動部をめちゃくちゃにされて作動を停止し、その隙に対物ライフルの弾丸が軽機関銃の一つ――その弾倉を正確に撃ち貫く。誘爆の炎が彼の方向への探査を阻害し、鋼鉄のイソギンチャクはこれ以上の追撃は無理だと瞬時に判断。

 目標が自身へと向くのを、アイリスは笑い声でもって答える。

 

「あはっ! やれるもんならやってみなよ!」

 

 前後左右にある全ての銃口がこちらに向くのを捉えつつ、アイリスはレーダーへと跳躍。左手の細剣(レイピア)――もとい〈熾天使ノ剣(セラフィム・セイバー)〉を正確に精密に振り抜き、一刀両断。

 それと同時に放たれる銃弾を〈天使ノ翼(エンジェル・フェザー)〉の効能が防ぎ止め、その隙に生じた爆炎に身を任せてその場を離脱。視界の隅で、ブルシーロフ中隊長が軽機関銃三門を無力化しているのを見る。

 背後でバキッという音が鳴り、宙に浮かんでいたアイリスの身体ががくんと落ちかける。

 

 ――〈天使ノ翼(エンジェル・フェザー)〉過剰使用による、飛行能力の低下。

 

 “流石に強引にやりすぎたかなぁ”――と冷静な部分で思いつつ、楽しい感情でいっぱいなアイリスは再び攻勢へと転じる。

 

「待て、グレイフォード隊員!」

 

 ブルシーロフ中隊長の突然の制止。思わず意識がそちらに逸れ――刹那、〈天使ノ翼(エンジェル・フェザー)〉の全機能が大幅に低下した。

 揚力を失ってがくりと落下するアイリス。再び前へと目を向けた先、そこには四門の大口径砲から放たれた『何か』が、粒子状のものを撒き散らしているのが見えた。

 

「――〈対魔導領域散布弾(アンチ・ウィザード・バレット)〉!」

 

 “その可能性を失念していた”――と思った時には既に遅く、背中で煌めく天使の羽根はガラスのような音を立てて砕け散る。残った魔力を身体能力と〈熾天使ノ剣(セラフィム・セイバー)〉へと振り向け、右手の軽機関銃を放棄。頭上から照準が合うのを感じながらも、アイリスは鋼鉄のイソギンチャクへと全力疾走する。

 

「っ! 一発でやり切れ!」

 

 と、アイリスの意図を察したブルシーロフ中隊長の声。

 対岸から側面へと走り込んできたブルシーロフ中隊長が対物ライフルを構え、アイリスに銃口を向けていた重機関銃を正確に撃ち貫く。それを感知した鋼鉄のイソギンチャクが目標を二人に設定。機銃の半分を彼へと振り向け――

 

 

 

 その隙を突いて、アイリスの細剣(レイピア)が一閃。

 

 

 

 緑色の閃光が、砲塔の基部を斜めに一刀両断。動力に必要な全ての電力を一挙に失い、機関銃の群れが一瞬にして動作を停止する。

 自重で滑り落ちる砲塔に、ダメ押しの剣閃。残っていた機関銃の銃身を真っ二つに斬って回り、全ての銃口を沈黙させる。それと同時にブルシーロフ中隊長が四門の砲へと銃撃を敢行。中に装填されていた〈対魔導領域散布弾(アンチ・ウィザード・バレット)〉が、光の粒子を撒き散らして爆散していた。

 がしゃぁん! という音ともに沈黙する鋼鉄のイソギンチャクこと機関銃の砲塔。その脇を二人は足早に通り抜け、

 

「怪我はないか?」

「ぜんぜん。大丈夫だよ」

 

 無言で頷くブルシーロフ中隊長。対岸にある扉の傍でタッチパネルのキーを解錠すると、二人はその場を立ち去った。

 

 

 

 その先で見つかった道を二手に分かれ、二人はそれぞれ拳銃を片手に薄暗い通路を突き進む。そして――その先。重厚な造りのドアを前に、アイリスは隊員たちが予め用意していたウィルスデータを傍のタッチパネルへと注入。数秒ののち、侵入したウィルスがキーを解錠する音が静寂に響いた。

 パッと開く扉。そこから差し込む青色の光がアイリスを照らし出す。中へと踏み込み、手近にある四角形の構造体――〈白き魂(ホワイト・スピリット)〉拠点で入手したのと同じの記憶データ体を取り出す。名も知らぬ誰かの、抜き取られてここにしか存在しない記憶の欠片。

 そして、それを手にアイリスはもう一度部屋を見渡す。

 広大な部屋の中。辺り一面に備え付けられた棚と、そこに収納された記憶データ体を目に焼き付けて。

 

 

 

 アイリスが記憶データ体管理室へと突入したのとほぼ同時。

 ブルシーロフ中隊長は一面真っ白なラボへと突入していた。

 あちこちに複雑な計器や機械が並び、ガラスを隔てた向こう側には二人、ヒスパニック系らしき少年とアジア系の少女が横たえられている。

 二人の頭には脳波を測るものらしい機器が取り付けられていた。

 

「……これは」

 

 言葉にならない声がブルシーロフ中隊長の口からこぼれ出る。

 と、不意に通信。

 

『こちらグレイフォード。記憶データ体の管理室を発見しまし た』

 

 頷くブルシーロフ。

 

『そちらは?』

「こちらも凄いものを発見した」

 

 怒りを鋼鉄の理性で押し潰して、ブルシーロフは告げた。

 

「リィンヴァース社の隠し実験室を発見した。機器の種類と少年少女二人が寝かしつけられているのを察するに、()()()()()()()()だ」

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