国内安全保障執行局〈D.S.E.D.〉〜再会したお姉ちゃんは、私のことを覚えていないようです〜 作:暁天花
最終話 結末
六月二五日午前九時〇〇分をもって、〈D.S.E.D.〉によるリィンヴァース社本社への強行捜査は終了した。
損害としてはリィンヴァース社本社ビルの崩壊をはじめとして、ビル周辺の公共設備および近隣ビルの損傷。爆破に巻き込まれたリィンヴァース社社員が数十名死亡し、多数の負傷者を出した。〈D.S.E.D.〉側にも甚大な被害が出たものの、死者が出なかったのは不幸中の幸いといえた。
また、今回の独断専行は司法省より厳しい批判を受けたものの、『リィンヴァース社による数々の不法行為』の摘発という大戦果が考慮された結果、二週間の業務停止命令に留まった。恐らく、これもロンメル長官の想定通りなのだろう。
リィンヴァース社は一連の犯罪に加担したとして一時期株価が大暴落したものの、社全体としての関与がないことが判明するにつれて株価は回復。新たな
今回の事件の首謀者であるアイザック・リィンヴァースは、身柄を拘留所へと引き渡し、そこで彼の犯した犯罪の事情聴取を改めて行う予定となっている。正直どこまでが立証できて、彼が自白するのかは定かではないが……。それでも、司法が彼を裁くことになるのは時間の問題だろう。ブルシーロフ中隊長らが命懸けで運び出した証拠品が、こちら側には残っているのだから。
負傷した隊員とリィンヴァース社社員は揃って近くの病院へと運び込まれ、そこで治療を受ける手筈になっている。死者は蘇らない。が、生還した者は全員が治療を受けて回復する見込みだ。
そして肝心の『記憶商品取引法』は、法案が両議会を通過こそしたものの、インターネットによる情報拡散によって猛烈な反対運動が全国各地で勃発。
結果、国内のこれ以上の分断を恐れた大統領は、『記憶商品取引法』の施行延期を決定。弱者を搾取し尽くす悪魔の法律は、一旦の阻止にこぎつけた。
レイラ・ヴァシレフスキーについては、当面の間は〈D.S.E.D.〉の保護下に置かれることとなった。今頃はアイリスに着せ替え人形にされているんだろうなとエレナは思う。
これが、今回の一連の事件――〈リィンヴァース社事件〉の全貌である。
†
六月二十五日午後六時〇〇分。
エレナたちのなすべきことが一段落し、一旦の休暇がロンメル長官から言い渡された夕暮れ時。
エレナは、
真っ赤に染まる夕焼け空の中、背後から聞き慣れた少女の声が聞こえてくる。
「ごめん! 遅くなった!」
振り返ると、急いで来たらしい
その表情に一抹の悲しさを覚えながらも、エレナはしいて感情を押し隠して、
「別に大丈夫ですよ。特に用事もなかったので。……それで。ここに私を呼んだ理由は何ですか?」
「それはね、」
微笑しながら呟いて。彼女は告げた。
「ボクの記憶が戻ったから。その報告だよ」
と。
「…………え?」
咄嗟に何を言われたのか理解できず硬直するエレナ。その目の前で、リゼさんは――お姉ちゃんは赤い
「リィンヴァース社の地下にあった記憶データ体の中に、ボクの名前が刻まれたものがあったんだ。それを見つけてくれたアイリスちゃんがボクの記憶を守り抜いてくれた。記憶データ体を脳内に読み込むための方法を、ブルシーロフ中隊長さんが持ち帰って来てくれた。……それで。ついさっき、ブルシーロフ中隊長さんの方法を用いて、アイリスちゃんが守ってくれた記憶を脳内に戻したんだ」
「そ、そんな……」
それ以上の言葉が出ず、エレナは静かに視界が歪んでいくのを認識する。暖かい
「すぐに自分の記憶なんだって確信したよ。……ごめんね。勝手に一人でどっかに行っちゃって。ずっとエレナちゃんの味方だって言ったのに、消えちゃって」
ううん、と声にならない声でエレナは首を横に振る。
あなたのお陰で、私は生き永らえることができた。あなたのおかげで、私は純潔を保っていられた。
あなたが――お姉ちゃんが私の盾になってくれたから、私は今、ここで生きていられるのだ。
謝罪と歓喜がごっちゃになった微笑で、リゼは告げる。
「ただいま、
そしてエレナは、色んな感情がごちゃまぜになって何が何だか分からないまま――それでも確かな安心と歓喜を胸いっぱいに感じ取りながら、精一杯の笑顔で返した。
「おかえり、
――と。