国内安全保障執行局〈D.S.E.D.〉〜再会したお姉ちゃんは、私のことを覚えていないようです〜 作:暁天花
第一話 出会い
アメリカ合衆国西海岸・
いつもと変わりのない平和な青空と白雲の下、荒廃したマンション街にいくつもの銃声が絶え間なく響き渡る。
「ブルシーロフ中隊長、先程の爆発音は」
『追跡中の容疑者車両が対戦車ロケット弾を発射し、俺と同行していた三号車が直撃を受けて大破した。進行方向にて封鎖線を形成していた四号車および五号車も、ヤツらの駆る装甲車に吹っ飛ばされて使用不能だ』
返ってくる渋い男性の声に、エレナは身に着けていた
「その後の進路は?」
『先程の
「……」
窓外の様子に細心の注意を払いながらも、エレナは今後の動向について思案に沈む。
現在エレナの車両――一号車が走っているのは容疑者車両の走る街路の一つ左にあるクロッカー・ストリート。速度は同じに維持してあるため、マンション街を挟んで並行の位置にある状態だ。最大速度と加速はこちらの車両の方が圧倒的に速いから、いくつかの交差点を挟めば先回りできる。
四号車および五号車は車両こそ大破したものの、人員は全員無事だとついさっき文面通信で送られてきていた。近隣の
これで先回りする手筈は整った。仮に先程のような強行突破を行われても、この案ならば容疑者車両に接触することは可能なはずだ。
となると――
右手で席の合間に置いていた
「二号車はそのまま容疑者車両の追跡を続行、他部隊はそれぞれサン・ペドロ・ストリートの交差点の左右を封鎖し、当該車両を
『了解』と短い応答が連続して聞こえ、すぐに相手側から通信が切断される。一転して静かになった通信機の先――運転席の方から声。
「なに? またエレナっち一人で突っ込む気なの?」
ちらりと視線を向けた先、車を運転する黒髪
真っ直ぐ前を見て真剣そのものの表情の彼女に、エレナは少しむっとなって、
「“エレナっち”じゃなくて“ヴェンツェル隊長”ね。……それが最も効率的かつ安全なんだから、仕方ないでしょ」
「まぁ、そうなんだけどさ。たまにはあたしに頼ってくれてもいいのに」
「万が一あなたに倒れられたら私の足がなくなるでしょう。それは無理な相談よ」
「へーいへい」
そんな問答をしている間にも、エレナの乗る装甲
幾度となく現れる交差点を当たり前のように信号無視で横切り、容疑者車両――もとい装甲車を追い抜いたことを確認し、ようやく六つ目の交差点に差し掛かったとき――
車がほぼ直角に右折した。
ものすごい
軽機関銃に弾倉を装填し、予備を二つ、右腰のベルトに備え付ける。頭に付けたカチューシャ式の戦闘支援システムを起動し、視界に様々な情報と数値が映し出される。
最後に一つ、ぼそりと口元で
「【我に世界の
エレナの身体を一瞬だけ光が包み、すぐに消えた。直後、網膜に映し出された架空の画面に『【魔導】解放完了』の文字が映し出される。
“あとは到着を待つだけ”――と思った矢先、車が急停止。危うく前に激突しそうになるのをかろうじて受け身で防ぎ、空いた左手をドアノブにかける。ドリフトをかました装甲
「着いたよ、エレナっち!」
「“ヴェンツェル隊長”でしょうが――!」
言い放ちながら車を飛び降り、即座に脳内で【魔導】の詠唱を開始――
“〈
“〈
瞬間、エレナの背中に天使のような
装甲車の上部に取り付けられていた
唯一、車体前面の銃口から弾丸が吐き出されているものの、あれでは私達の駆る装甲
“やっとこのめんどくさい奴らとのチェイスも終わりだ”――とそんなことを頭の片隅で呟きながら、右手に構える軽機関銃の銃口を装甲車へ向ける。戦闘支援システムで安全装置を解除し、一切の躊躇もなく引き金を引き絞った。
直後、連続して吐き出されるのは
〈
掃射をもろに食らった装甲車が前進を停止し、前面の銃口もすぐに沈黙。完全に動かなくなったのを確認してから手を止め、弾痕だらけの装甲車に舞い降りようとして――
突然、視界が真っ白に染まった。
“しまった閃光弾か”――と思った時には既に全てが遅かった。
一時的な盲目の中でその場を退避し、狙撃されないようにとマンション内に転がり込む。戦闘支援システムが敵の動きを捉え、眼下の装甲車に別の車が近寄ってくるのを伝えてくる。が、完全な不意打ちを食らったエレナ達には為す術がない。
キーンと耳鳴りがなる中で、居合わせた隊員達は身を隠すことしかできない。その間にも敵の増援は装甲車から
ようやく視覚と聴覚が戻って来た時には、交差点には弾痕だらけの装甲車が佇んでいるだけだった。
“追っていたのはただの武装勢力ではなかったのか?”――ただ、そんな疑問だけがエレナの脳裏には浮かび上がる。
が、今さら考えたところで後の祭りでしかない。そう思い直して装甲車に舞い降り、周囲に集まって来た野次馬どもの動画撮影と嘲笑を横目に見つつ駆け寄ってきたブルシーロフ中隊長と目を合わせる。共に装甲車の後部へと足を踏み入れ、
「……え?」
と、目に飛び込んできた光景に声が漏れていた。
エレナの機銃によって蜂の巣にされた装甲車の中。そこには、一人の可憐な少女が血を流して倒れていた。
弾痕から差し込む陽光で銀髪が鈍く煌めき、真紅の双眸が薄く苦しげに細められている。すぐに近寄って状態を確認し、後ろに佇むブルシーロフ中隊長に向かって、
「……急所には当たってないみたい。応急処置をすれば十分生きられるはずよ」
中隊長はこくりと頷き、「すぐに担架を持って来させる」
と、一瞬だけ通信機に手を当て、
「それと、
倒れた少女の止血をしながら、エレナはこくりと頷いていた。
“……なんか、この子雰囲気がお姉ちゃんに似てる気がするなぁ”という思考は、心の奥に閉じ込めておいた。