国内安全保障執行局〈D.S.E.D.〉〜再会したお姉ちゃんは、私のことを覚えていないようです〜   作:暁天花

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断章 記憶〜Happiness in poverty〜



 お姉ちゃんとの出会いは、今から十年ほど前。私の実父――アイザック・F・リィンヴァースが再婚した時だった。
 どこかの娼館(しょうかん)で出会ったらしい新しい母親には、既に連れ子がいて。それがリゼ・ヴェンツェル――今の私のお姉ちゃんだった。

 髪こそ私は赤色、お姉ちゃん(リゼ)は銀髪だったけれど、瞳は二人とも同じ綺麗な赤瞳(せきとう)で。それをきっかけにして、私とお姉ちゃんはすぐに打ち解けて仲良くなっていった。
 何をするにもお姉ちゃんは私を導いてくれて、守ってくれて。いつも笑顔で私に話しかけてくれる姿に、私は心底惚れ込んでいた。
 そんな中、父が経営するリィンヴァース社が、脳内埋め込み型コンピュータを開発し販売。二〇三〇年代なかばに大ヒットを記録し、四人の生活は瞬く間に裕福なものになった。
 お金に困らない生活と、仲のいい姉と両親。何の文句のつけ所のない、最高に幸せな毎日だった。



 けれど、それから二年後。父と養母(ようぼ)は、突然離婚した。その際に、私は養母(ようぼ)――つまりはお姉ちゃんの実母にあたる人に、なかば攫われるような形で家を去ることになった。
 それからは、毎日が地獄と化した。
 母親には私たちを養えるような貯蓄も稼ぎもなく、朝から晩まで日銭を稼ぐことで何とか食いつないでいた。父の家から逃げた先は、名も知らぬ貧困街で。そこには当たり前に犯罪が蔓延(はびこ)り、暴力が横行していた。身を守るすべとて知らぬ私は、ただ、世界に怯えるしかなかった。

 頼みの綱であった父は、実娘である(エレナ)が攫われるような形になったのにも関わらず、何もしてくれなかった。
 捜索届(そうさくとどけ)も、母親に対する裁判も。何一つ、行動を起こさなかった。
 それどころか、翌月、父は再婚していた。大手航空宇宙機器開発製造会社・ボーイング社。そのCEOの令嬢と。
 ――父に見捨てられたのだと、強く思い絶望したのを今でも覚えている。
 見捨てられた事実と日々の苦しい生活の中、唯一、お姉ちゃんだけが心の頼りだった。
 どんな状況でも笑顔を崩さず、希望を失墜させず。お姉ちゃんはただ笑って私を勇気づけ、何も言わずに助けてくれた。
 それが当然のことだと言って。
 そして。そんなお姉ちゃんに、私は、こう思った。



 ――“お姉ちゃんは、私の英雄(ヒーロー)なんだ”と。
 


第三章 閑話休題〜Shadows below the surface〜
断章 記憶/第四話 捜査結果


第四話 捜査結果

 

 

 

 〈狐の剣(エスパーダ・デ・ソラ)〉の拠点奇襲作戦から一週間がたった頃の昼下がり。

 ロサンゼルス・ダウンタウンにある〈D.S.E.D.〉本部ビルの大会議室で、エレナ達〈D.S.E.D.〉の隊長格の面々はひとつの大きな机の下で一同に会していた。

 それぞれの手元にあるタブレットに資料を提示しながら、〈D.S.E.D.〉戦闘部隊の中隊長――ブルシーロフ中隊長は起立しながら渋い声音で報告を始める。

 

「五日間の尋問の結果、ロベルト・アルバラードが〈狐の剣(エスパーダ・デ・ソラ)〉の首魁(しゅかい)であることを改めて確認しました。また、己の組織が違法薬物の密輸および売買を行っていたことも自白。人身売買や銀行強盗、不法移民の斡旋についても認めています。これらについては、情報捜査課の方でも追跡が取れました。……しかし、〈対魔導領域散布弾(アンチ・ウィザード・バレット)〉や〈殺人蜘蛛(キラースパイダー)〉、その他重火器の入手経路は依然として不明。自白剤の投与や脳内コンピュータのスキャンなども行ってはいますが、現状はそれ以上の収穫はありません」

「……脳内コンピュータのスキャンを用いても記憶が確認できないと?」

 

 平静そのものの声音と表情で、机の最奥に座る男性が疑問を口にする。

 彼の名はエルンスト・ロンメル。わずか四十四歳にして司法省の要職を歴任し、現在の〈D.S.E.D.〉の発案者にして長官を務める超エリート。そして長官ということは――エレナ達の直属の上司だ。

 そんな彼の問いに全く動じる様子もなく、ブルシーロフ中隊長は、

 

「はい。奇妙なことに、兵器売買についての記憶が一切確認できませんでした。また、先日我々が取り逃した際に運ばれたとされる『何か』についても、彼の記憶からは一切の情報が得られていません」

「あー、その『何か』についてだけど、連邦調査局(F B I)から情報提供があったよ」

 

 と、間の抜けた声で告げるのは〈D.S.E.D.〉情報捜査課の若い女性――アイリーン・マッキンベル。いかにも欧米人といった感じの長い金髪を適当に束ね、碧眼(へきがん)に銀縁メガネをかけた彼女は資料を提示して言葉を続ける。

 

連邦調査局(F B I)がやった拠点の捜索の結果、運び込まれたと思わしき物品は、耐爆ケースに入った巨額のドル紙幣だっのではないかとの見解だそう」

 

 そう言ってタブレットに表示されるのは、何十個もの()()()の耐爆ケースと、その中にびっしりと詰め込まれた二〇ドル紙幣。

 “確かに、この金額なら辻褄は合うだろうが”――と思いつつ、たかが金のためにわざわざ敵陣に突っ込んで来るだろうかという疑問がエレナの脳内に沸き上がる。

 

「だが、あの時装甲車はヴェンツェル大隊長による魔導を併用した機銃掃射を受けた上、我々B班の装甲警察車両(パトカー)と挟撃状態にあった。まだ無事かも分からん金のために、わざわざ敵陣に突っ込んで来るものなのか?」

 

 “そうだそうだ言ってやれブルシーロフ中隊長!”――と、仲間を見つけた幼い心が応援(エール)を送る。が、今この状況でそんなことを言っても仕方がないので、エレナは一つ、問いを投げかける。

 

「そもそも。その巨額の資金の出処が不可解ではないでしょうか? いくら違法的な売買を行っていたとはいえ、〈狐の剣(エスパーダ・デ・ソラ)〉の規模自体はそこまで大きくはありません。少なくとも、〈D.S.E.D.〉の戦闘部隊が総出で攻撃を仕掛ければ一日で壊滅するような組織です。そんな組織が、どこからこの量の資金を?」

「そこはFBIも現在調査中とのこと。情報捜査課(うち)でも調べてはいるけど、現状は不明だね。強いて怪しい点を挙げるなら、奴らの持ってた重火器が総じてリィンヴァース社のものに似てたってことぐらいか」 

 

 “正直どこから疑えばいいのかすら分からないね”というように肩を竦めるアイリーン。資料を元のものに戻すと、今度はロンメル長官が、

 

「……ということは。現状、ヴェンツェル大隊長が閃光弾の中で認識した動きについては、決定的な(こたえ)はないということかね?」

「そういうことになります」

「そうなるね」

 

 事件の調査を仕切る大人二人が揃って即答。

 “そんなぁ”と心の中で落胆しながらも、あくまで『戦闘部隊』の隊長に過ぎないエレナは、二人の言葉に無言で追従することしかできない。

 しばしの沈黙ののち、ロンメル長官が口を開く。

 

「では、情報捜査課とB班については、今後もこの事件の調査を行ってくれ。C班は怪我の治療に専念、D班とE班は準待機状態とし、即応できる状態で本部待機。A班、」

 

 と、エレナに彼の視線が向く。思わず身体が固くなるのを感じつつ、

 

「は、はい」

「君たちには一週間の休暇を与える。久々の休みだ、しっかり休養してくれたまえ」

「……は、はい?」

 

 突然のことに、そう答えることしかできなかった。

 

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