国内安全保障執行局〈D.S.E.D.〉〜再会したお姉ちゃんは、私のことを覚えていないようです〜 作:暁天花
お姉ちゃんとの出会いは、今から十年ほど前。私の実父――アイザック・F・リィンヴァースが再婚した時だった。
どこかの
髪こそ私は赤色、
何をするにもお姉ちゃんは私を導いてくれて、守ってくれて。いつも笑顔で私に話しかけてくれる姿に、私は心底惚れ込んでいた。
そんな中、父が経営するリィンヴァース社が、脳内埋め込み型コンピュータを開発し販売。二〇三〇年代なかばに大ヒットを記録し、四人の生活は瞬く間に裕福なものになった。
お金に困らない生活と、仲のいい姉と両親。何の文句のつけ所のない、最高に幸せな毎日だった。
けれど、それから二年後。父と
それからは、毎日が地獄と化した。
母親には私たちを養えるような貯蓄も稼ぎもなく、朝から晩まで日銭を稼ぐことで何とか食いつないでいた。父の家から逃げた先は、名も知らぬ貧困街で。そこには当たり前に犯罪が
頼みの綱であった父は、実娘である
それどころか、翌月、父は再婚していた。大手航空宇宙機器開発製造会社・ボーイング社。そのCEOの令嬢と。
――父に見捨てられたのだと、強く思い絶望したのを今でも覚えている。
見捨てられた事実と日々の苦しい生活の中、唯一、お姉ちゃんだけが心の頼りだった。
どんな状況でも笑顔を崩さず、希望を失墜させず。お姉ちゃんはただ笑って私を勇気づけ、何も言わずに助けてくれた。
それが当然のことだと言って。
そして。そんなお姉ちゃんに、私は、こう思った。
――“お姉ちゃんは、私の
断章 記憶/第四話 捜査結果
第四話 捜査結果
〈
ロサンゼルス・ダウンタウンにある〈D.S.E.D.〉本部ビルの大会議室で、エレナ達〈D.S.E.D.〉の隊長格の面々はひとつの大きな机の下で一同に会していた。
それぞれの手元にあるタブレットに資料を提示しながら、〈D.S.E.D.〉戦闘部隊の中隊長――ブルシーロフ中隊長は起立しながら渋い声音で報告を始める。
「五日間の尋問の結果、ロベルト・アルバラードが〈
「……脳内コンピュータのスキャンを用いても記憶が確認できないと?」
平静そのものの声音と表情で、机の最奥に座る男性が疑問を口にする。
彼の名はエルンスト・ロンメル。わずか四十四歳にして司法省の要職を歴任し、現在の〈D.S.E.D.〉の発案者にして長官を務める超エリート。そして長官ということは――エレナ達の直属の上司だ。
そんな彼の問いに全く動じる様子もなく、ブルシーロフ中隊長は、
「はい。奇妙なことに、兵器売買についての記憶が一切確認できませんでした。また、先日我々が取り逃した際に運ばれたとされる『何か』についても、彼の記憶からは一切の情報が得られていません」
「あー、その『何か』についてだけど、
と、間の抜けた声で告げるのは〈D.S.E.D.〉情報捜査課の若い女性――アイリーン・マッキンベル。いかにも欧米人といった感じの長い金髪を適当に束ね、
「
そう言ってタブレットに表示されるのは、何十個もの
“確かに、この金額なら辻褄は合うだろうが”――と思いつつ、たかが金のためにわざわざ敵陣に突っ込んで来るだろうかという疑問がエレナの脳内に沸き上がる。
「だが、あの時装甲車はヴェンツェル大隊長による魔導を併用した機銃掃射を受けた上、我々B班の装甲
“そうだそうだ言ってやれブルシーロフ中隊長!”――と、仲間を見つけた幼い心が
「そもそも。その巨額の資金の出処が不可解ではないでしょうか? いくら違法的な売買を行っていたとはいえ、〈
「そこはFBIも現在調査中とのこと。
“正直どこから疑えばいいのかすら分からないね”というように肩を竦めるアイリーン。資料を元のものに戻すと、今度はロンメル長官が、
「……ということは。現状、ヴェンツェル大隊長が閃光弾の中で認識した動きについては、決定的な
「そういうことになります」
「そうなるね」
事件の調査を仕切る大人二人が揃って即答。
“そんなぁ”と心の中で落胆しながらも、あくまで『戦闘部隊』の隊長に過ぎないエレナは、二人の言葉に無言で追従することしかできない。
しばしの沈黙ののち、ロンメル長官が口を開く。
「では、情報捜査課とB班については、今後もこの事件の調査を行ってくれ。C班は怪我の治療に専念、D班とE班は準待機状態とし、即応できる状態で本部待機。A班、」
と、エレナに彼の視線が向く。思わず身体が固くなるのを感じつつ、
「は、はい」
「君たちには一週間の休暇を与える。久々の休みだ、しっかり休養してくれたまえ」
「……は、はい?」
突然のことに、そう答えることしかできなかった。