国内安全保障執行局〈D.S.E.D.〉〜再会したお姉ちゃんは、私のことを覚えていないようです〜 作:暁天花
第七話 奇襲作戦
その間、三人とブルシーロフ中隊長率いる通常の戦闘部隊はいくつかの武装組織に攻撃を仕掛け、これを撃滅。『違法武装組織の壊滅させる』という成果を着々と積み上げつつも、同時並行して〈
戦闘とつかの間の休息を共にするにつれ、三人の連携はますます洗練されたものとなり、それと同時に三人の関係――特にエレナと
そして、今日。地球温暖化による異常な熱波が相変わらずロサンゼルスを襲っている快晴の正午。
任務の合間、待機扱いのエレナ達は、クーラーの効いた
「リゼっちはもうこの仕事慣れてきた?」
と、アイリスがエレナの――三枚の手札からスペードの3を引き抜きながら
にこりと微笑む
「うん。だいぶ慣れてきたよ。最初はちょっと怖かったけど……ま、こうして衣食住が保障されてるのは嬉しいね」
「そっか。ならよかった」
言いつつ、どうやら揃ったらしいアイリスが手札二枚を中央にあるカードの集まりへと落とす。これで彼女の手札は一枚。
そして、次はエレナのターン。
「……
手札を床に叩きつけて、エレナは呻いていた。
なんと、これでエレナは四回やって四回連続の最下位。いくらなんでも弱すぎて泣けてくる。
「エレナっちは感情が顔に出るからねぇ」
「どれがジョーカーなのか分かりやすくて。つい」
けらけら笑うアイリスと、苦笑しつつも同意する
“感情を隠すのは得意なはずなんだけど……”と思いつつも、これだけ負けているのだから反論もできない。どうすれば勝てるのだろうかと思案した――その時。
突然、スピーカーから館内放送の声が響き渡った。
『長官室より各戦闘部隊隊長へ。午後十二時三十分に大会議室へと集合。各員は態勢を整えて出席せよ』
†
〈D.S.E.D.〉本部ビルの大会議室では、各隊と情報捜査課の長を集めた〈
すっきりした金髪の男――ブルシーロフ中隊長がその場で立ち上がって、各員の目の前にあるタブレットに資料を提示しながら口を開く。
「まず『記憶の欠落』についてだが、これまでの調査の結果、組織の
「……つまり、事実無根であったり嘘をついている訳でもないと?」
と、エレナ。ブルシーロフ中隊長は真剣な表情で頷き、
「そうだ。実際にそいつがやったということが確定しているにも関わらず、本人にはその記憶が存在していない。たとえ麻薬で脳がやられていたとしても、『一切の記憶が消失』するなんてことはありえないはずだ。……つまり。どんな手段を使ったかは知らないが、奴らの記憶を意図的に抜き取ったやつがいるということになる」
“そんなことできるの?”――というエレナの思考。すると、今度は情報捜査課の金髪女――アイリーンが席を立ち、
「それについてだけど、学術論文で探した結果、一件だけだけど『記憶を意図的に抜き取る』ことに言及してる論文があったよ」
タブレットの資料が変更され、英語で書かれた論文が表示される。
題名は『脳埋め込み型コンピュータの機能について』。著者名は――
「……研究したのはリィンヴァース社か」
色んな感情を飲み込んだブルシーロフ中隊長の声。表情にこそ出さないものの、エレナもごくりと唾を飲み込んでいた。
――リィンヴァース社。
現在急成長中の軍産複合体企業にして、これまで〈D.S.E.D.〉が襲撃した武装組織で度々目にする企業の名だ。
そして――今やアメリカ国民のほとんどが保持する、脳内埋め込み型コンピュータの開発を世界で最初に行った企業でもある。
その論文の一部にマーカーが引かれるや、アイリーンの間延びした声が続く。
「ここを要約すると、『脳内埋め込み型コンピュータは、脳と一体化することで記憶をデータ化でき、少なくともその消去については実行が可能なことが示唆された』――つまり、記憶を人為的に消せるかもしれないってのが書かれてんのね。んでもしこの論文の仮説が事実なら、なんで共通した箇所にだけ『記憶の欠落』が起きるのかがわかるってわけ」
「……人為的に記憶を消すことで、取引記録を抹消した、ということか」
「ま、そゆことになるね。あと、
――つまり。彼らの消えた記憶の間に、何らかの取引が行われたという大きな手がかりがあるということだ。それも、多数の組織に対しての大規模な取引が。
「そこで、だ」
ここまで無言を貫いていたロンメル長官が、いつもの調子で声を上げる。
「君たちにはこの隠された取引の決定的な証拠を掴むため、ある組織の拠点に対して奇襲を仕掛けて貰いたい」
その言葉と同時に、全員のタブレットの資料が切り替わる。
表示されるのは、ここロサンゼルス・ダウンタウンの西にある地区――セントラル・ロサンゼルス地区。自然と建築の調和が美しい観光名所だ。
その一角――一際大きな家が出現。
「今回君たちに制圧して貰いたのは、〈
“うわぁ最悪な奴らだなぁ”――と思いつつ平静を維持。こいつらをしょっぴくのが自分たちの仕事なのだから、どういった奴らなのかはちゃんと聞いておかないと。
「また、ここも例によって『リィンヴァース社』もしくはそれに酷似した武器の使用が確認されており、違法な重火器も所持が確認されている。この重火器の多さから、FBIや
そこで資料が切り替わり、〈
「この後、君たちにはここへ奇襲攻撃を実行。『リィンヴァース社』が関与しているという決定的な証拠を掴んで貰いたい」
見渡すロンメル長官に、黙って頷く各隊の隊長。エレナもこくりと頷いていた。
「この作戦での作戦指揮は君たちに一任する。〈D.S.E.D.〉の誇りにかけて、何としてでも証拠を確保しろ」
†
「――というのが今回の作戦の内容よ」
〈D.S.E.D.〉本部ビルより〈
「リィンヴァース社が関与ねぇ……」
と、アイリスが何とも言えない表情で呻く。
リィンヴァース社――現在アメリカで急成長中の軍産複合体企業にして、エレナたちの脳内に埋め込まれているコンピュータの製造元・開発元でもある。
容疑者としてリィンヴァース社が浮かび上がったことで、今回の作戦では脳内コンピュータによる通信は極力使用を控えるようにとの通達がロンメル長官直々になされている。故に、エレナはわざわざ資料を紙に印刷した上で口頭での伝達という、めんどくさいことこの上ないことをせざるを得なかったのだ。
後部座席で紙の資料を読んでいた
「ホントにこんなでっかい企業がそんな違法取引なんかしてるのかなぁ……?」
「それも、今回の作戦で分かるはずです」
“それに関しては私も懐疑的だよお姉ちゃん”――と思いつつも言葉に出すのは控える。エレナは今回の作戦を“立場上”取り仕切る立場なのだ。実際に作戦の指揮を執るのはブルシーロフ中隊長とはいえ、エレナも部隊長。指揮する立場が迷いを見せれば、それこそ部隊員の命に直結する。
……ただ。と、エレナは静かに目を閉じる。
もし、本当にリィンヴァース社が関与していたら。
――私
その時は、たとえこの身が朽ち果てようともこの事件を解明しようとエレナは思う。
父の無罪を証明するために――。もしくは、父の罪を暴き司法によって裁くために。
急激に雲が立ち込める曇天の中、覆面