灼熱の砂漠の風が、古びた校舎の隙間を吹き抜ける。
その風は、長い間に積もった哀しみをも運んでいるようだった。
アドビス高校に残された生徒は五人。
だが後輩たちは、先の戦闘で負った傷が癒えず、銃を手に立つことすらできなかった。
守るべき後輩たちを前に、盾を背負うのはホシノただ一人。
先生はあいにく別件で居なかった。いや、それを見越しての攻撃だったのだろう。砂嵐のように迫る掠奪者たち。一人に対して、その数…………。
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ホシノは盾を背負い、乾いた唇を舐めた。
その瞳には、過去の影がちらついていた——。
かつて大切な先輩と、最後に言葉を交わした日の激しい言い争い。
そのまま先輩は砂漠で行方を絶ち、戻らなかった。
すべてが私のせいだった。
その事実が心に深く刻まれ、長い間、彼女は「私」という言葉を捨て、無機質な「おじさん」口調で自分を隠してきた。
「おじさんが行くから、みんなは教室で待ってて」
いつも通りののんびりとした口調。
だが、その背中に負う盾は、今までにないほど重かった。
砂煙が近づき、やがて数十の影が姿を現す。
黒いヘルメットを被った掠奪者たち。銃口からは不穏な光が零れ、砂漠の陽光が反射してちらつく。
やがて、第一声の銃声がただ一人、高校を守らんとするホシノへと鋭く切り込む。
——カンッ!
弾丸が盾に叩きつけられ、硬質な衝撃が腕から肩を伝って体を揺らす。
脳裏に、かつての記憶がちらついた。
あの日、取り返せなかった背中。
だが今は違う。
盾をぐっと押し出し、体を前へと傾けた。
砂を大きく蹴り上げ、敵の視界を遮る。
次の瞬間、ホシノのショットガンの銃口が炸裂した。
轟音とともに、砂埃が舞い上がり、敵の一人が真横に吹き飛ぶ。
銃口の火花と共に、反動がホシノの肩を打ち抜き、痛みが瞬時に脳裏を走る。
だが、それを気にする暇はないとばかりに盾を回し、次の狙いを逸らす。
敵の銃口が動くのを見逃さず、鋭く盾を押し当てた。
銃声は遮られ、敵は一瞬ひるむ。
その隙に、ホシノは左手でハンドガンを抜く。
銃床を相手の肋骨に叩き込み、距離を詰める。
狙いを定め、二発、三発と確実に撃ち込んだ。
薬莢が砂に落ちる音が、静かな砂漠に鳴り響く。
呼吸は荒くなる。
だが、それは恐怖ではない。
集中と覚悟の証だった。
心の奥で、彼女の言葉が震える。
「……私が守る。」
小さな呟きは、炎のように心を照らし、全身に力を漲らせた。
動きが変わる。
盾が生き物のように柔軟に動き、弾丸を弾き返す。
ショットガンの重い銃声が、敵の群れに連続して響いた。
盾を軸に回転し、敵の銃弾をかいくぐる。
背後からの攻撃も察知し、腰を捻ってハンドガンで狙い撃つ。
「なにあれ……普通じゃない!」
敵の声が動揺と恐怖を帯びる。
彼女らは、かつての「暁のホルス」の名を知らない。
ただ、圧倒的な動きに慄いているだけだった。
ホシノは砂の匂いを感じながら、次々と敵を切り伏せていく。
盾は傷だらけ、手は熱を帯び、喉は乾ききっていたが、動きは止まらなかった。
最後の敵が逃げ去ると、砂漠は静寂を取り戻した。
重い息を吐き、盾を降ろす。
後輩たちが恐る恐る駆け寄ってくる。
「ホシノ先輩……ありがとうございました!」
ホシノはゆるく笑みを浮かべ、照れたように顔をそらすと、ぼそりとつぶやいた。
「ふへぇ……おじさんも、まだまだやれるんだよ~」
後輩を安心させるためにつぶやいた、そのホシノの言葉には、確かに過去の痛みを乗り越えた”強さ”が宿っていた。