そのまま悲しみに暮れて喫煙所で煙草を吸ってます。
いや、虹で持ってない生徒来てくれたんだけどさ…欲しい時来ないのになんで今来るのさ…
題名はとある曲名の影響を受けました。
あれです、赤い髪と黒いギターです。
「この紅茶はですね…」
目の前のソーサーとティーカップにはレモンが浮かんでいる。
視線を上げれば綺麗な庭園、高そうな茶器が机に並びこれまた高そうなケーキスタンドが中央に鎮座していた。
色とりどりのサンドイッチやスコーン、ケーキが積まれている。
ここに至る経緯を話せば長くなる。
アオイが参加する会合の警護依頼と示し合わせたかのようにトリニティ総合学園の生徒会、ティーパーティの桐藤ナギサからお茶会の招待がメールボックスに投げ込まれていた。
スリングで身につけている89式小銃を体の左脇にずらして椅子に座り直す。
ボディアーマーに取り付けられた装備品がガチャガチャと音を立てた。
ナギサの背後に陣取っているフィリウス派生徒が眉を顰める。
白の制服とM1ガーランドを装備しているがナギサと私達しか参加していない茶会の衛兵を勤めている事から十中八九間違い無いだろう。
武装した衛兵に囲まれた状況はお茶会というより死刑執行前と言った方が適切な気がした。
私の左右の席にはチハヤとミツキが座っている。
隣のチハヤを見れば目を輝かせて茶器やケーキをキョロキョロと眺め、ミツキは退屈そうに庭園に咲いているバラを眺めていた。
「ちょうど贈り物として頂いた高級品なんです」
「このケーキも私が買い付けたんですよ」
「このお店は…」
ナギサの解説はまだ続いていた。
インスタントの粉末レモンティーかペットボトルのミルクティーぐらいしか嗜まない私にとっては違いなどよくわからなかった。
きっと、AKみたいにごく僅かな違いなのだろう。
ベストのポーチから煙草の箱を取り出し机の上に静かに置いた。
ある程度ナギちゃんからのお高いお茶を素人舌で楽しんだ後そのまま吸えるようにする為だ。
そんな私の姿に背後の衛兵が小さくは?と呟き、チハヤが困ったように笑みを浮かべ、ミツキが鋭く睨んでくる。
いいじゃんよお高いお茶なんだから…さぞ煙草に合うでしょうや…
内心そんな事を思いながらミツキに抗議の視線を送った。
「紅茶が冷めてしまいますね、どうぞ皆様召し上がってください」
ナギサが思い出したようにそう言うと微笑んだ。
私はソーサーとティーカップを震えながら手に取った。
素人目でも高級そうなカップに緊張が走る。
恐る恐るお茶に口をつけた。
緑茶を飲む時の癖で啜り飲むと衛兵がさらに顔を険しくする。
「先生…緑茶じゃないんですよ…」
チハヤが体を寄せて耳元で注意する。
「猫舌なんだよ、勘弁してくれや」
小声で反論した私にミツキが首を横に振る。
鬼!悪魔!ミツキのぺったんこ!!
彼女を呪いながら私は熱の伝わるティーカップに覚悟を決めて口をつけた。
レモンの上品な香りとほのかに甘い味を感じた瞬間に感覚器官が熱を検知した。
「熱っ!」
私の反応にナギサが微笑んだ、私に恨みでもあるんか?
「先生、これは私個人の茶会なのでマナーは余り気にしなくていいんですよ?」
彼女が苦戦する私を気遣ってそんな言葉を掛けてくれた。
ありがたい限りだ。
モノは試しで聞いてみてもいいかもしれない。
「一本頂いても?」
「ええ、構いませんよ」
私は煙草の箱を彼女に見せると笑顔で了承する。
ミツキとは大違いだ。
風向きをいつも通り測り風下の位置を把握する。
椅子を持って屋根のついたスペース…ガゼポって言うんだっけか?の軒先へ設置する。
丁度ナギサの背後が風下で彼女に背を向ける形で椅子を設置する。
午後3時の穏やかな日差しが降り注ぎ、庭園の花が眩しかった。
「先生、灰落としちゃダメですからね!」
ミツキが釘を刺してくる。
吸い殻はともかく灰は雨で流れるからセーフだろ…
「ガーデニングの肥料とかに灰も使うらしいし、いい栄養だべや…」
「あら、じゃあ先生には庭園全部の花の前で煙草を吸ってもらいましょうか?」
私の言葉に背後のナギサが少し意地悪そうに返した。
「辞めておきます」
咥えた煙草に火をつけるべくジッポの火打石を擦る。
最近オイルを差してなかったのを思い出す。
替えの火はあったかしら…
ポケットを探る私に近づく影が一つ、日向の私に彼女の影が落ちてきた。
少し灰色っぽい髪には白いベレー帽と白い花の髪飾り、同じく白の制服を着た生徒。
初めてお茶会に来た時、部屋まで案内してくれた子だ。
作法のわからない私に色々教えてくれたのでとてもよく覚えている。
「あんだや、久しぶりじゃんね」
「先生も元気そうで何よりです」
私の言葉に彼女、花輪モネはそう笑うとマッチ箱を取り出した。
トリニティ総合学園の校章が入った高そうな箱からマッチを一本取り出すと惚れ惚れする所作で火をつけた。
お嬢様がやるだけでここまで絵になるとは…
彼女の火で煙草に点火する。
なんだかいつもの煙草が高級に感じた。
彼女は手元の火を吹き消す、私は携帯灰皿の口を開けて差し出した。
マッチの燃え殻を底に入れると彼女は私の背後に移動した。
彼女の手が白い手袋越しに私の両肩に置かれる。
最初に会ったのは補習授業部の一件でナギサに呼ばれた時だった。
私の愛車はそれはもう派手に爆発に巻き込まれ、真っ黒焦げになった。
補習授業部の試験が片付いた後、ナギサから謝罪と賠償の話で呼び出された。
私はそこで彼女と出会う事になる。
エデン条約調印式では一度顔を合わせた事のあった為、彼女が会場の案内や手伝いをしてくれた。
その後の戦闘では私指揮下の正義実現委員会と風紀委員会の中に編入され、ユスティナ聖徒会との戦闘に従事してくれた。
「先生も会合に?」
「そう、予備戦力扱いだろうけど」
肺に入れた紫煙を口から吐き出し、チラリとナギサを伺う。
ミツキ達と仲良くやってるようだった。
「私達としては心強い限りです」
「それよりも調印式のケガ、大丈夫なのか?」
嬉しそうに笑う彼女に私は問いかけた。
あの日彼女は撤退戦の最中、結構重たい負傷をしている。
身動きのできない彼女を私が抱え、負傷者搬出用の装甲車に走った事をよく覚えていた。
「えぇ、気に病まないでください先生」
「私達の身体は頑丈ですから、それよりも私は先生の方が心配です」
肩に置かれた手が撫でる、ネットリとしたその手つきに少し背筋が寒くなる。
「あの子も心配していましたし…」
あの子、正義実現委員会に所属している遠野リイの事だろう。
彼女も調印式で共に戦った子達だ。
シャーレ先生が名だたる歴戦の生徒達と共にアリウスの主力と戦っている間、我々が包囲をかけようとしてくるアリウスおよびユスティナ聖徒会を食い止めた。
調印式警備の主力生徒が居ない中、私達一般生徒で戦ったが多勢に無勢。
シャーレより救援に来た教官殿のAPCで負傷者を搬出し、その後我々は陣地を放棄し撤退戦を開始する。
その時一緒に戦った子でもあり、シャーレ襲撃の日、あの厄日当番の片割れでもあった。
「りーちゃんは心配性だからな…」
紫煙の向こうに彼女の顔が浮かぶ。
なんて言うか小動物みたいな子でチハヤと似た性格をしていた。
「よければ今日、会いに行ってあげてください」
「そうだな、会場警備で一緒になるし挨拶ぐらいはして行くべ」
私の言葉に彼女が小さく笑うと撫でる手を止めた。
私は煙草に口をつける。
「シャーレ襲撃の際に私が助力出来ていれば…」
彼女は後悔の感情を込めて言葉を溢す。
口から吐き出した白い煙が風に流れて行く、私は彼女に語りかけた。
「あの時は外部に情報が漏れないようにカイザーが動いていたし」
「君が気に止む事じゃねぇよ、むしろ日頃からそう言う想定をしていなかった私達教員の落ち度だ」
背後の彼女は何も言わないが肩に置かれた手に入る力が感情を伝えていた。
通信妨害に戒厳令、あの日の真相は後日知った人の方が多い。
調印式含め役に立たなかった事に心残りがあったのだろう。
彼女の翼が私を包む、綺麗に生え揃った真っ白な羽だ。
しかし、片側は柔らかな繊維でできたカバーがつけられている。
私に向かって放たれた擲弾を彼女が身を挺して守ってくれた時にできた怪我だ。
「ケガは跡になるのか?」
「いえ、時間はかかりますが燃えた羽は生えてきますよ」
先生を虜にしてしまうかもしれませんねと笑う彼女には何処となく寂しそうな雰囲気があった。
私は煙草を踏み消して前屈みになると彼女の翼が離れて行く、足元の吸い殻を携帯灰皿に詰め込んだ。
「それよりも先生?今回のお茶会のケーキは私も選んだのですよ」
背後の彼女が私の顔を覗き込んだ。
「食べましょう?」
優しく笑う彼女に促されて私は椅子を抱え、自分の席へと戻る。
彼女が私の手を取った、そこには確かな温もりが存在していた。
ヤニカス
コーヒー派、でもナギサの出すお茶に外れはないので飲む。
背後のティーパーティ所属生徒が怖い為、戦闘装備のまま出席。
モネが来てくれてめっっっちゃ助かった。
チハヤ
夢見たいなお茶会でご機嫌になっていた。
なお、後々値段を調べてしまい戦慄する。
ミツキ
先生また煙草(以下略)
なんか距離の近い生徒が出現して少し警戒してる。
桐藤ナギサ
先生達を招くため張り切って準備した。
花輪モネちゃんとの付き合いは長く、彼女の抱えてる思いも少し理解している。
そのため、彼女とヤニカスの交流を遠巻きに娘を見守るお母さんみたいになってる。
最近乗用車芝刈り機で爆走する姿が目撃されて噂になってる。
花輪モネ
ティーパーティ所属の子、エデン条約調印式の負傷で羽の片側にケガをしている。
ヤニカスが必死になって手当と搬送をしてくれたので慕っており、シャーレ襲撃時、ヤニカスを助けてあげられなかった事を気にしてる。
そのため遠野リイには恩人を助けてくれた感謝と同時に羨ましい気持ちを抱えてる。
煙草に関しては緩い、むしろ先生に高級な煙草を贈ろうか迷ってる。
ミツキによる要マーク対象(ヤニカスの健康のため)
遠野リイ
みんな大好き正実モブちゃん。
シャーレ襲撃時、ヤニカスの臨時当番に来ていた片割れ。
あの日、先生が供与した防具をいつも身につけている。
煙草に関しては健康のため少し減らして欲しい派