こちら連邦生徒会特務課です   作:ORC機関

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お久しぶりです。
なんとか生きております。
仲間内での雑談で良いネタが浮かんだので書きました。
お陰でとんでもなく文字数が多いです。
珈琲片手に休憩しながらゆっくり読んでください。


水面の波

お茶会はセリナとミツキの説教で幕を閉じる事となった。

「先生、今日からモネとリイはそちらに配属させます」

ナギサは紅茶の香りを楽しみながらそういうとこちらに笑いかけた。

ウチの子を泣かせたらどうなるかわかりますよね?と圧を掛けられていることをひしひしと感じた。

気まずさに目をそらしてみればリーちゃんはにこやかに顔をほころばせ小さく手を叩いていた。

その背後には微笑むモネがこちらを見ている。

「気が早すぎんだろ」

「こういうのは早めの方が良いと思いまして」

私の返答にナギサは困ったような笑みを浮かべた。

彼女なりの配慮だろう。

「クソ真面目だよな…」

「一筆書いた方がいいか?」

「いえ、既に承認済みです」

私の問いにナギサはピシャリと答えティーカップに口をつけた。

「それでは喫煙者先生、よろしくお願いしますね?」

ティーカップを置くと姿勢を正した彼女が真面目な顔を作った。

「やれるだけやってみる、期待はするな」

「そう言いつつ、いつもちゃんと守ってくれてるのは理解していますよ?」

「運が良かっただけ、次もそうだとは限らない」

私の言葉に彼女は少し悲しそうな表情を作った。

そんな顔から逃げるように椅子を立つと皆帰り支度を始める。

「ナギちゃん、紅茶ありがとさん」

「気に入っていただけたようで何よりです。」

椅子下のヘルメットを被り小銃を身体の前に移動させる。

安全装置よし、弾抜きよし。

大丈夫、問題ない。

「それじゃあ、お元気で」

「えぇ、お気をつけて」

彼女に別れを告げて踵を返す。

衛兵の二人がご丁寧に扉を開いた。

はよ帰れということか。

衛兵2人にガンを飛ばすとふいっと視線をそらした。

お茶会中は世話になったな、お前覚えたからな?

そのまま扉を通り抜け、廊下を進む。

足取りはそのままで傍らの斜め掛けのビジネスバックから書類を取り出しチハヤに渡す。

彼女は小走りで私の横に躍り出ると書類へ目を通し始める。

「どう思うチハヤ?」

彼女は素早く書類を眼で読むと小さく唸った。

「会場警備の大半が正義実現委員会とティーパーティー構成員で固められていて」

「私たちの身動きは取り辛い状況、意図的な物でしょうか…?」

書類を両手でミツキに渡すとタブレットを起動した。

「どうだろっか?ナギちゃんの事だからこっちが楽できるように気を使ってくれたんか…」

「組織内の意思の表れか…余所者だからまあいい顔しないべ…」

私は懐のポーチから通信端末を取り出す。

目的はトリニティ担当の情報担当者と連絡を取るため。

私は一つメッセージを飛ばす。

「それは違うかと…ナギサ様は気を使っていました。」

モネは私の発言を否定した。

機嫌を損ねてしまっただろうか…

「ナギちゃんも大変だよなぁ」

総合学園だけあって一枚岩ではない。

アリウスの一件もありその現状が顕著だ。

シャーレ先生の働きもありアリウス自治区の復興も進んできているが油断はできない。

共通の敵がいない今、想定できる事案として権力が絡む内乱だろう。

出来上がってしまった城の足元は危うくなってしまっているのだ。

今のティーパーティはミカは席を剥奪されていてセイアは公務に在籍しているが現状ナギサ単独で運営しているようなものだ。

彼女にも限界があるのだ。

「防空関連は連邦生徒会(ウチ)の担当だから完全に信用されてないわけではないみたい」

エントランスにつく頃には読み終えたのかミツキが書類を私に差し出した。

書類をしまって正面玄関を潜り抜ける。

メッセージの応答有、きっとあの場所に彼は居ることだろう。

「ミツキとチハヤは二人の荷造りを手伝ってやれ」

「足りないものはこれで…」

私はミツキに多めにお金を握らせる。

二人は特務課に配属なのでミツキ達の寮に移動となる。

色々必要なものがあるだろう。

彼女たちにかかる負担は精神的にも少なくない筈だ。

せめてもの労いを兼ねたお金である。

授業に関しては遠隔で行うのだろう。

度々当番になった生徒が学校支給のノートPCで受講していたのを見かけたことがある。

「準備が終わったら連絡を寄越してくれや、車をそっちに回すからよ」

私の言葉にミツキは顔をじっと見つめると抱きついた。

モネの顔に驚きの表情に変わり、リイとチハヤが両手で目を隠す。

しかし、指の隙間が空いており、瞳がこちらを捉えている。

このまな板青ツインテ、急にどうした?気でも狂ったのか?

「これは没収です」

ジトリと私を睨みつけると彼女は煙草のパッケージを抜き取っていった

ああ、そういうことか。

「準備が終わったら連絡します、油売ってないですぐに来てくださいね」

くるりと踵を返すと彼女はご機嫌そうに移動を開始した。

モネとリイが一礼するとミツキの後を三人がついていく。

鬼!悪魔!ナイチチ!

煙草だってタダじゃないんだぞ!

移動していく彼女の背中を見送り私も行動を開始する。

目指すは大聖堂裏手の7番喫煙所だ。

 

トリニティスクエアの中央噴水前、今回は不審者はいないようだ。

大聖堂へ視線を向ければシスターフッド所属の生徒達が談笑に花を咲かせていた。

秘密主義の総本山に居る彼女達の組織「シスターフッド」、その顧問教員の名は木香(きこう)先生である。

彼は男の私から見てもかっこいい男であり、スパイ映画の主人公のような人物であった。

その顔と巧みな話術でトリニティ内を調べ上げ、我々の作戦に必要な情報を提供してくれていた。

調印式の一件でも根回しや増援部隊の捻出などで私達を助けてくれたのだ。

私は苗字とスパイ映画の主人公の名前を合体させて木工ボンド先生とあだ名で呼んでいる。

メッセージを送った連絡員の姿は見えない、まだ到着していないのだろう。

ベストのポーチから煙草のパッケージを取り出し開封する。

ミツキは詰めが甘かったな…バックアップを用意しないわけないだろうが。

箱を開け、鼻から深呼吸する。

真新しい煙草のにおいが鼻腔に広がった。

ああ、この瞬間がたまらない。

周囲の生徒とは距離もあるし、風向き的に一本ぐらい良いだろうか?

そんな事を考えついた私はまだ皺もない真っ白で真っすぐな煙草を取り出し咥えた。

新品特有の芳醇な香りが鼻をくすぐり、オイルライターを操作する手に焦りが走る。

オイルの燃える匂いと手元のぬくもりを感じながら暖色の火の先端に煙草を近づけて大きく息を吸い込んだ。

しかし、望んでいたものは脇から伸びた手によって阻止された。

「先生、ここは禁煙です」

私の口から火の点く前の煙草を攫っていった彼女に視線を向ける。

シスターフッドの制服に暖色の茶色の髪、頭にはシスターがよく被っている…ウィンプル?だったか?を着けていた。

二の腕に着けられた水色の腕章にシャーレのロゴが入っている。

「エリン、来てたんだ」

藤守エリン。

シスターフッド所属の生徒で調印式の一件などでお世話になった生徒だ。

「先生はいつもそう、まったく…セリナさんにあれほど怒られたのに懲りてないんですね」

全てお見通しのように彼女はそう言うとくるりと踵を返した。

彼女の黒いスカートがひらりと舞い真っ白な靴下に張り付くような真っ暗な靴が対照的でいやに目に着いた。

「先生がご依頼されたモノは喫煙所で渡します」

彼女は私の煙草を片手に歩みを進める。

煙草湿気ちゃうじゃん、勘弁してよ。

私の気持ちも知らず、進む彼女について行く。

道端で談笑していた生徒達が此方に気づくと一礼する。

エリンは片手で返している所を見るに随分と出世したのだろう。

私も軽く会釈を返し、後を追った。

生徒たちが皆一礼すると顔を寄せ合ってヒソヒソと内緒話に興じている。

俺が何をしたっていうんだ。

刺すような視線に内心悪態をついたが心当たりは大ありだ。

連邦生徒会子飼いの組織、言わば犬。

面倒ごとか荒事ばかりの部署所属が歩いていれば噂にもなるか。

シャーレとここまで差が付くか…

「随分出世したじゃんね」

「いえ、木香先生の下で活動してるのと情報部を任されているだけです」

私の言葉に彼女は歩むスピードを下げず淡々と答える。

余裕のない感じがする?トイレでも行きたいんかね?

「十分出世じゃん、そんな大役任されてるなんて」

「期待されてるってことじゃん?」

「いいものではないですよ、汚いものばかりが見えて」

私の言葉に彼女はピシャリと返す、少し辛そうな声色だった。

何とも言えない圧を感じ私は閉口する。

大聖堂の入り口で右に曲がり建物の影にひっそりとある倉庫の裏手へ辿りついた。

そう、ここが7番喫煙所。

「先生、まずこちらをご覧ください」

早々に彼女が書類ファイルを手渡した。

「煙草返せ」

私はファイルを受け取り片手を差し出す。

取り上げられた煙草を返してもらうためだ。

彼女が持っていた煙草を受け取り口に咥え火をつける。

薄暗くなりつつある日陰を赤い光が照らす。

彼女は香水でもつけているのか煙草に混じって甘い香りが鼻についた。

正義実現委員会の不正密輸検挙時の押収品目録だ。

違法弾薬や爆薬、火器の品数が記録されている。

「ゲヘナ製ばかり、最近の流行か?」

「ゲヘナを毛嫌いしてるトリニティで流行するわけないじゃないですか」

彼女はすでに風上へと退避しており、少し呆れた声色で切り捨てた。

「ゲヘナの連中もわざわざ関係が悪くなるようなことしないだろ」

「エデン条約や統合作戦を乗り越えて、前よりかは2校の関係もマシになってきてるってのに」

エデン条約襲撃時や虚妄のサンクトゥム攻略戦を様々な学校が協力して危機を乗り越えた。

その甲斐あってか以前より様々な学校間での行き来や交流が盛んになった。

「だからですよ先生」

「ゲヘナの仕業だと強調したいのでしょう、ゲヘナ情報部の仕業なら所属のバレる物は使いません」

彼女は腕を後ろに組み倉庫の壁に身を預けた。

煙草の灰を灰皿に落とし書類へ視線を落とす。

次のページに学園入校者一覧がまとめられている。

どれもバイトの名目ばかりだ。

「武器と同時にバイト名目での入校が増えてきてます」

「念のため彼女達の会社に調査を入れていますがどうにも実態がつかめない」

「ただ、どの会社もここ数年にできた会社ばかりです」

彼女の視線は私に向けられている。

書類から視線を上げなかったが、刺すような感覚がした。

「十中八九ペーパーカンパニーだべ」

傭兵に橋の保全点検、通信ケーブル管に電波塔の改修工事。

キヴォトスは過酷だ、学生の彼女達とは言え働かなくてはならない。

未成年に対する法規制も緩い為、こうした犯罪に加担させられる事案が多い。

「多分、バイトの子たちは何も知らないだろうよ、いわゆるトカゲのしっぽ切りだべ」

よくある話だ。

現場人員が捕まったことを考慮して対策され、稼ぐだけ稼いでトンズラをこいていく連中と同じ手口だろう。

入校者一覧の後には大まかなトリニティ内情勢がまとめられていた。

流石シスターフッド、隠れてコソコソやるのが得意だな。

「現状、トリニティ内は良い状態と言えません」

「共通の敵であったゲヘナ、アリウスと和解した今、その不満はトリニティ内へ向き始めています」

ティーパーティーもミカやセイアよりナギサにパワーバランスが傾いてしまっている。

片や資格を剥奪され、もう一人は予知夢を失い体調がすぐれないため現ホストでありながら執務に関わっていない。

セイアの体調は回復してきており、他校の視察やバカンスで元気に楽しんでいた。

しかし、未来視に近い能力を失ってしまった今では彼女の手腕に疑問を抱くものも出てくるだろう。

そして現在の内政の大半を握っているのはセイアより任命された現ホスト代行のナギサだ。

「知っての通り、3派閥で構成されていたティーパーティーは今や偏った状態にあります」

「しゃーないべ、セイアは元気になってきたとはいえまだ執務はできねぇだろうし…」

「ミカだってやらかしたとはいえ更生したが…パテル派があんなんだしよ」

視線を上げた私の目と彼女の視線が衝突した。

「最近、情報部からの報告で次期ティーパーティーの座を狙った活動が活発化しているそうです」

「外敵が居なくなった国がどうなるか、先生もご存知でしょう?」

少し悲しそうな感情を抱えた目が私を射抜く。

結末は分かりきっていた。

これから起こることは予想がつく。

平和とは死骸のようなもので腐りやすい。

腐敗し、いつかそれが燃え盛る水となるのだ。

「それでもやらなきゃならねぇんだ、わかるだろ?」

火の点いた煙草を一口吸い込む。

ゆっくりと終わりに近づく煙草が私達の行く末のようだった。




木香(きこう)先生
シスターフッドの担当顧問。
某7のスパイ映画みたいな先生、ヤニカスの友達。
あだ名 木工ボンド

藤守エリン
シスターフッド情報部兼シャーレ協力生。
ヤニカスとはエデン条約時に初接触。
煙草には少し厳しい。
ミツキにヤニカス(の情報)を売った女

追記 人名ミスを修正しました。
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