サイトウとコムラが医療センターに運ばれ、死亡が確認された。カンタロウ同様に即時凍結、回収され、仲間との別れの時間は与えられなかった。
――
エンジは騒動の最中、ずっと酔いつぶれて眠っていた。
カンタロウたちのことはエンジにだけは話すな、それが暗黙の了解になった。
エンジが目覚める。
(あったま痛ってえ……カンペキ二日酔いだわ〜…あれ…?今何時?やばっ!もう10時じゃん!みんなは…?何?メモ?『今日はお前は休め』…って、なに言ってんだよ、給料減っちゃうっつーの。)
(起きなきゃ……あれ?チカラ入らん。まいった。ちょっと熱っぽいか?昨日熱唱しすぎて喉が変な感じ。ザラザラする…)
(やべっ、腹痛い。食い過ぎ飲み過ぎだ。カンタロウのこと言ってられなかった。反省反省。っと、トイレ行かないと……)
壁に手をついて立ち上がると、視界がふらつく。
(……おい、重力装置また調子悪いんじゃないの?こないだドウジマのオッサンがメンテしてたばっかりなのに。おりゃっ!ダメだ…立てない。マズイ、漏れる…絶対にそれだけは避けたい……)
モジュールのエアロックが開く。
(ありゃ?なんだよカズキ、作業中だろ?……何?様子見に来た?わざわざ?でも悪い……とりあえずトイレ連れてって……)
(ふぅ、とりあえず俺の尊厳はギリ守られた。しかし、全然とまらん。ぴーぴーだわ。え?医療センター行く?大げさな。いやしかし、せめて下痢止めだけでももらわねば…………)
(…………ん?あれ?ここどこ?気絶してた?………ああ、カズキ。医療センター?へえ。こんな感じなんだな。掃除のバイトしてたコロニーの病院より立派でやんの。)
(診察室?ここ入んの?なんかおもしれー。ごめん、カズキ声でない。歌いすぎた。かわりにやってくれるの?さんきゅー。)
(え?何、『帰還支援措置』?どうゆうこと?俺帰る家とか無いけど。…あ、他の病院に行くのね。ああ、理解理解。いや参ったな、医療費どうしよう…?へ?無料?マジ?マルゼンやるじゃん!ならしゃあない。病院食だって出るだろうし……)
(俺も大人だ。ぎゃーぎゃー言わずにりょーよーにせんねんしますわ。また復活して稼げばいいや。カズキ、みんなありがとな。また戻ったらよろしく。)
声を出せないかわりに、カバー越しにエンジは小さく手を振った。カズキたちも手を振って見送った。誰も声を出せなかった。
頭側の壁のエアロックが丸く開いて、エンジは診察室から送り出された。
「よかった。これで少しでも、まともな医療が受けられるなら。」
カズキが少し胸を撫で下ろした。タケルが何か言いかけてやめた。
――
翌日、ヤイズミが発症した。昨日から発熱していたのを隠していたようだった。
寝れば治る、と頑として医療センターの受診を拒否する。繰り返し勧めても"措置"だけは絶対に厭だ!と言い張る。マルゼンは"帰還"の"支援"というが、"帰還できる"とは言っていない。実際、今まで復帰した者は一人も聞いたことがないではないか。――誰も否定できなかった。
マサト達が作業の合間に交代で看病したが、次の日、枕元に用意していたスポーツドリンクが手つかずのままで残っていた。
――
「オカバヤシさんは大丈夫か?」
「今日は事務所のほうで働いてるよ。事故報告書とか労災の申請とか。」
「補償金か。受け取れる人、いるのかな。」
オカバヤシは書類作成を粛々と進めていた。
事故当日の作業分掌、現場の配置、ブランコやスーツの各種センサーの数値。膨大なデータを落とし込んでいく。
ドウジマの見解によると、デブリに紛れ込んでいた、なんらかの高放射性物質――たとえばプルトニウム弾頭構造体の一部など――が他のデブリの衝突や熱への反応で一時的に高線量の放射線を放出した可能性がある。また、ノーマルスーツの線量計測器がなんらかの不具合で作動しなかった疑い。現場で考えられる限りの再発防止策を整理して纏めた。
事故後の時系列、カンタロウ、サイトウ、コムラ、エンジ、ヤイズミそれぞれの病状の経過についても詳細に記述。苦しくても書くしかなかった。申請すれば労災保険から一定額の遺族給付金が支給される。身元が確認できない者もいたが、ヤイズミの緊急連絡先には地球に住む姪の名前が記されていた。
即日、マルゼンの担当部署から報告書の受理と労災申請の結果通知が届く。
『当該事案と申請内容に因果関係を認めず』
オカバヤシの灰色の瞳孔が大きく開いた。
(後日、医療センターから、ヤイズミの遺体の受け取りを遺族が辞退した旨の連絡があった。)
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晴れも雨も曇りもない、そんな現場で、男たちは休みなく働き続ける。
ハセが一切無駄の無い動きで流れるように大小のデブリを処理していた。スキャン、除染、スキャン、分別。まるで職人みたいだった。
―第六章 終わり―