機動戦士ガンダム 0084 檸檬の唄   作:偽画 存美

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第八章 ブランコはゆれる

作業指定区画が珍しく急遽変更されたため、モジュールは予定の時刻を過ぎても航行を続けていた。作業員には指示があるまで待機と告げられた。

 

待機室にはカズキとリョウゴの二人だけだった。昨夜の騒動から明けて、皆、あまりお互いに顔を合わせたくないようだった。

 

「昨日はさ、ケイスケをあんなに叱っちゃったけど。」リョウゴが苦笑まじりに言う。

「昔の俺のほうが、よっぽどどうしようもなかったんだ。」

雑談のような調子で宇宙食のパウチをすすりながら話す。

 

「ガルマ様…ガルマ・ザビが死んだときさ。あのギレンの演説をきいて、俺はそりゃもう、めちゃくちゃ感動した。何度も繰り返し聴いて暗記したさ。

"諸君の、父も、兄も、子も、その連邦の無思慮な抵抗の前に死んでいった"……俺は両親もきょうだいも皆無事で、あの頃なんだかとても居心地が悪かったんだ。

ガルマの死でようやく自分も仲間に入れた気がした。"悲しみを怒りに変えて!立てよ、国民よ!"……ほんとうに悲しかったのかなんて、関係なかったんだ。つまらない自分に何か意味を与えてくれるものが欲しかっただけ。」

 

最後の一口を吸う。「俺さ。初めてなんだ。友だち死ぬの。」

チュルプリンのパウチの空殻を握りしめて僅かに震えているリョウゴの手を、カズキはどうしようもなく見つめていた。

 

――

担当区画、エリアAMS-0716に到着した。529.45 mSv/h、レベルⅣ、活動限界3時間。

 

ブランコたちが指定ブロックへ進んでいく。

頭上に見たことのない真っ黒なブイが等間隔に浮かんでいる。カズキは言い知れない気味の悪さを感じた。

 

すぐ隣の区画は、除染が不可能と判断された最高濃度汚染宙域――レベルⅤ――。PIFFだけでなく、物理的な壁によって完全に隔離されている。マルゼンからも見放された不可侵宙域だ。

 

現場に到着すると、その異様な光景に作業員たちは戦慄した。そこに漂っているのはただのデブリだけではなかった。砕けたブランコの装甲、カッポウギのヘルメット、そして居住モジュールの瓦礫。

 

「マルゼンから説明は!?」リョウゴが問うが、オカバヤシは首を横に振る。

 

「これが"ゴミ"だっていうのか。」

マサトが絶句する。

 

「俺たちに"片付けろ"って?」

ヨシヤの蒼い目が初めて氷のように尖った。

 

――

かつての宴会場で9人だけのミーティングが行われた。ヨシヤ、リョウゴ、オカバヤシ、ハセ、ケイスケ、マサト、タケル、ドウジマ、カズキ。

 

オカバヤシが重い口を開ける。

「班長として……確認する。」

 

「俺たちとマルゼン以外に被害はないか。」

 

――沈黙。

 

「やれば被害は減るか。」

 

――沈黙。

 

「わからなくても……やる覚悟はあるか。」

 

それぞれ違う呼吸と速度で、全員がうなずいた。

 

「ドウジマ、作業の説明を。」

 

ドウジマが図面を広げた。

 

「レムが拾ったビームライフルなあ、こいつはビームライフルどころじゃねえ、対戦艦用のメガ粒子砲だった。

エネルギーCAPがぶっ壊れて、てっきりジャンクだと思ってたが、特注品だったらしい。

スターターに再充電できれば…撃てる。冷却系がイカれてるから一発きり、だけどな。」

誰かの喉がごくりと鳴った。

「問題はスターターの充電方法だ。さすがマジもん、なかなかの電気食い虫でやがる。……そこでだ。」

ドウジマがニヤリと笑う。

「俺らのブランコを繋いで流し込む。熱管理がなかなか厄介だが、まあ任せとけ。」

タケルが口を挟む。「で?撃つって何を。」

ドウジマがもう一枚の図面を広げる。

「これがマルゼン宙域の全体図だ。俺らがいるのがここ。そんでケイスケがぶん殴りに行こうとした管制ステーションがここ。……今度向かうのはこっちだ。」

ドウジマがマルゼン宙域の最外殻にある巨大な建造物を指し示した。

「"マルゼンの棚"。ルナチーや希少金属の最終集積所だ。ここから地球やコロニーに資源が輸出される。」

「連中にとっちゃ、どうやら人間の生命より大事なルナチーだ。いっちょ立派な焼却炉にしてやろうぜ。」

 

――

ガンダムが格納庫から宇宙空間に運び出された。「わりぃなガンダム、内だと熱くなりすぎる。」

 

ガンダムは足場に仰向けに固定された。右腕に接合されたビーム・ライフルの機関部からケーブルが延ばされ、そこに15台の無人のブランコが真っ直ぐ一列に連結された。

 

リョウゴとヨシヤが乗る2台の予備ブランコが、それらを支えるように足場を組み、ドウジマの指示を受けて準備を整えた。他の作業員たちもカッポウギ姿でその時を待つ。

 

「充電開始だ!あんま近づきすぎんなよ!」

 

ブランコたちが固く手を繋ぐように、低い唸りを上げながら微振動する。

 

モニターを見ながらドウジマが叫ぶ。「オッケーだ!ちゃんと給電してる!このまま続けるぞ!」

 

そのとき、宙域に浮かんでいた黒いブイのスリットに真っ赤なモノアイが発光した。漂流するように、しかし確実にブランコ列を目指して4基のブイが集まってくる。

 

「!?」誰もが意味がわからず困惑する。

 

リョウゴとヨシヤが警戒態勢をとる。

 

4基のブイから一斉に泡が噴射された。端から3番目のブランコが泡で包み込まれる。発光し硬化、そして――青く発火した。3番目と4番目の連結部分が焼けて切れる。足場が崩れる。

 

宇宙空間に数珠繋ぎのブランコが、ゆあーん、ゆよーん、と揺れた。

 

区画の隔壁を突き破り、真っ黒な影が現れた。

 

―第八章 終わり―

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