淫夢バスカンパニー 作:動画をバラ撒かれ哀叫するヒンドリー
こんなクソ小説待ってる方がいらっしゃるかは知らないけどまた投稿しますわぁ
「邪剣夜...逝きましょうねぇ」
囚人達を一刀の元に斬り殺した幻想体は、あの真っ黒な刀を鞘に収めたまま言った。
一見無防備に見えるが軽く柄を握り、踏み込む為の左脚はこちらを向いている。それに何より、野獣のような眼光が健在だった。
黒獣、剣契、センク、鏡の世界の囚人達を通してそれなりに剣術を見てきた私はあれが居合の構えであるとわかった。
「ほぉ、刀の銘がヨルか。セ・死だが、よりによって居合に使うのは面白くはあるな」
隣に居た良秀が、嘲りと懐かしみを込めて言った。
「時計、俺がやる。個・プだ」
煙草を消してその場に捨て、良秀はいつになく前のめりに私に促す。
一人でアレを相手取るという要求に、私は逡巡した。
確かに良秀はヴェルギリウスに認められるほど卓越した戦闘感覚を持っているけど、あのめちゃくちゃな存在を一人で相手できるだろうか?
しかし、良秀が注意を引いてくれている間に時計を回すことができれば有利に戦闘を進めることができるだろう。
蘇生の痛みに耐えながら指揮をするのは難しいから、二者択一の状態にある事がわかった。
幻想体は未だに居合の体勢から動かない。
困った私がほかの囚人に意見を求めようとした時、良秀のいつになく赤く輝く瞳と笑っていながらどこか不快そうな顔が脳裏を過ぎった。
それで、結論が決まった。
〈幻想体との直接の打ち合いは良秀に任せる。でも、それで出来た隙に他の囚人で援護させて欲しいんだ。その、みんなで戦いたい私と一人で戦いたい君の考えの両取りとして〉
あの汚い幻想体のどこにその要素があったのかは分からないけど、良秀は過去のことを思い出しているように見えた。
それはいずれ向き合わなきゃいけないことだろうし、安易に触れられない良秀自身の痛みなのかもしれないけど、少なくとも今は一緒に背負ってもいいはずだ。
囚人が過去と向き合えるように、自分の道を進めるように助けるのが私の仕事だけど、その時が来るまではその役目を取っておくのも、たまにはいいんじゃないかな?
私の提案を聞いた良秀は一瞬虚をつかれたような表情をし、ぷっと笑った。
「スフォークか」
〈スフォーク?〉
「気・無」
戦術が纏まった私は、端末で人格牌を選び取る。
またもや、鏡が砕ける様子に良く似た世界の上書きが行われた。
自他を貫く視線をサングラスで遮り、荘厳でありながらも脆く鋳造された金色の鎧を纏ったある人物の人格。
「視線。集中。」
N社E.G.O::軽蔑、畏敬だ。
E.G.Oスーツから紅と金色の翼を広げた良秀は、槍のように巨大な鞘を幻想体に向け、空を翔けるように突進する。
「お前やりませんねスギィ!」
鞘の先端が幻想体の間合いに入った瞬間、野獣のごとき反応速度で刀が抜き放たれた。
一つの動作でありながら、何重にも重なったその剣閃はまるで斬撃の檻だった。
到底、回避などできない。
「その視線…軽蔑に値するな」
斬撃が届く寸前で良秀は羽を閉じ、空中で赤色の障壁の様なものを展開した。
九人会に所属していた天才が作り出した防護障壁は雪崩込む斬撃を防いで逸らし、幻想体の大技を耐え忍ぶ。
そして障壁が消えた瞬間に、金色の槍のような鞘が幻想体を貫いた。
「オォン!」
「逃げるな」
血を流しながら慌てて距離を取る幻想体を、良秀が追いかけた。
突きを主体にしながら相手の刀の間合いを測り、間合いのギリギリからリーチを押し付けていくその戦い方に幻想体は苦戦を強いられ、段々と傷が増えていった。
「やめたくなりますよ〜」
しかし、それだけで勝てるほど甘い相手では無い。
幻想体は繰り返される鞘での突きに対して野生の勘と言えるほどの素早い反応でしゃがみ、下から思い切り鞘を蹴り上げた。
「行きますよ〜いくいく!」
武器を離しこそしなかったものの、体勢を崩した良秀の胴に大きな横薙ぎの斬撃が放たれる。
一回限りの防護障壁を既に使ってしまった良秀は咄嗟に羽を畳んで盾とするが、受け切れない。
甲高い金属音が響き、良秀が吹き飛ばされた。
野獣は足を前後に開いて右脚を曲げた前傾姿勢で刀を高く掲げ、良秀を見据えて地面を踏み込んだ。
「爆砕かけますね」
施設の床を踏み壊す程の勢いから放たれるであろう突進斬り。
それが放たれる直前。
「アルカナ・スレイヴ!」
「ファ!?」
煌めく紫色の光が迸った。
良秀に"視線"を奪われていた幻想体は反応が遅れ、かろうじて刀を魔法少女姿のドンキホーテから放たれた光の奔流へ向ける。
憎しみの女王のE.G.O装備から放たれた愛のエネルギーは膨大で、刀で耐え凌ごうとした野獣は施設の床を抉りながら壁へと押し出される。
「ヌッ!」
恐ろしいことに、幻想体は渾身の力を込めてアルカナ・スレイヴを押し戻し始めた。
「はあぁぁぁぁああああ!!!」
しかし、ドンキホーテも全力だった。
気合いの叫びに呼応して魔法陣から放たれるレーザーの激流はいっそう勢いを増し、野獣を再び壁へと叩きつける。
やがて魔法陣が消え、力を使い果たしたドンキホーテが膝を着く瞬間まで愛と正義の奔流は炸裂し、幻想体は轢かれたカエルのように壁にできたクレーターに張り付いていた。
ここで私は、時計を回す。
先ほど共有した作戦を、囚人達に任せて。
無機質な金属の頭とはまるで異なる生身の首への激痛に耐えつつ、それを見守った。
「アハハ…クラッカー綺麗でしょ…?」
R社第四群トナカイチームのロージャが掲げた杖が輝き始めた。
クリスマスツリーの装飾のように輝くそれは、トナカイの角の形をした脳波増幅装置から流れ込むエネルギーを放つ武装である。
「うぅ...うわあぁぁぁぁあ!!!」
頭に釘を打ち込まれるような痛みにロージャは絶叫し、それに呼応するように杖の先端は輝きを増す。
やがて浮き上がった丸いエネルギーの塊から、枝分かれするように無数の破壊の光が幻想体へ放たれた。
ドンキホーテのものとは違い、細くうねる様に降り注ぐ光の群れ。
その威力は、決して楽観視できるものではない。
「イキスギィ!」
地を砕き、壁に穴を空け、なおも降り注ぐ破壊をなんとか弾きながら、野獣はロージャへの狙いを定める。
「頭行きますよ〜」
獣のような感覚を研ぎ澄まし、踏み出す。
光が降り注ぐ僅かな隙間を縫い、避けきれない分は刀で弾いて肉薄する。
そのまま踏み出した足でブレーキをかけ、一回転する形でロージャの首へと刀を振るう。
「即決、処刑だ!」
そのとき、ロージャの後ろから人影が飛び出した。
怨恨を刻んだ刺青と派手なファッションに身を包んだ、中指末弟シンクレアである。
シンクレアは片脚でバランスを取ってめいっぱい脚を振り上げ、紫のオーラを纏った蹴りを見舞った。
シンクレアの脚と野獣の刀が激突し、衝撃波が発生する。
こっちにも衝撃が来るほどの打ち合いで二人は距離を離し、素早く復帰した野獣は素早く居合の構えを取り、私の方へ飛び出した。
「お前もしてほしいだら?」
「誰が誰に話し掛けてるんだ?」
私へ向かっていた野獣の視線が、あらぬ方向へ吸い込まれる。
翼を広げ、最高速度で突進して来る良秀だ。
「†悔い改めて†」
一瞬驚愕した野獣はすぐに良秀に向き直り、鞘をより深く握り、脱力した。
最大の技が来る。
確信した私は作戦の最後の一手を打った。
空中の良秀にヒビ割れたような亀裂が走り、姿が変わる。
縦模様の着物へと。
「邪剣夜-逝魔鐘音-」
「総・燃・美・為」
紙に筆を走らせるように虚空を黒く切り取る剣閃を、森羅万象を焼き尽くす地獄の炎が迎え撃つ。
空間をキャンバスに見立て、力強く引かれた2本の線が交わった。
眩い閃光と舞い散る火花。
背中合わせに立つ両者。
「...やりますねぇ!」
そう言って野獣は倒れた。
手から零れ落ちた黒刀が、粉々になる。
ひとえに風の前の塵のように。
〈終わったかな...?〉
私は恐る恐る声に出し、分析のために戦闘に参加させなかったファウストの方を見る。
「...先ほどようやく不自然に情報提供を渋っていたあの者らからの回答がありました」
「端的に言えば...ダンテ」
ファウストは言い淀み、冷や汗を浮かべながら言った。
「まだ終わっていません」
幻想体が、起き上がる。
その体にはノイズが走り、シルエットのように不鮮明になっている。
『この辺にぃ美味いラーメン屋の』
『あっ、おい待てぃ(江戸っ子)』
『おいにゃんにゃんにゃんにゃん!(解読不能)』
『何エロビデオなんか見てんだよ〜』
『あ~、いいっすね~』
『あかんこれじゃ患者が死ぬゥ!』
『あのさぁ…イワナ、書かなかった?』
『いなりが入ってないやん』
『ああ逃れられない!(カルマ)』
『こちら14万3000円になっております』
『出ていけぇ!』
『DJDJ…(届かぬ想い)』
『ンアーッ!枕がデカすぎます!』
ノイズが走る度、シルエットが変わる度、無数の人間の声が響く。
性別も、トーンも、音質もバラバラで共通点など見当たらない無数の声が。
〈何が起こってるの...?〉
「それは...」
「バカバカしい夢です。ダンテ」
答えたのはファウストではなかった。
〈ヴェルギリウス!?〉
いつの間にか背後に居て、当然のように私の聞きたかった回答を出した案内人は得体の知れない何かから目を離さず語る。
「夢を見ていた者達が夢から醒め、それが受け入れられなかった時」
「それでも一時の享楽を願い、ビデオに映らないものにまで縋り始めればやがて...」
「加熱した欲望は危険な領域へ突入するだろう」
美しくないものはいらないわぁ!!