チャンピオン?知らん。色違いがほしい   作:ヨリヨリ

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ネオプラズマ団と名乗った二人組は、怯えるようにして背を向け、草むらの奥へと足早に消えていった。

自分たちが不利と見るや否や、態度を一変させて逃げ出す――そんな姿が、どこか哀れに見えた。

 

 

「もうポケモンに意地悪するなよ~!」

 

 

ホップの叫び声が、遠ざかる背中に向かって響く。

届いたかどうかは分からない。けれど、一瞬だけ――本当に一瞬だけ、あの背中がピクリと揺れたような気がした。

 

空気が、静かになる。

 

私は小さく息を吐いて、インテレオンの背中にそっと手を添えた。

その細く引き締まった背中は、思っていたよりも温かくて、頼もしかった。

 

「ありがとう、インテレオン」

 

彼は小さく鳴いて、私を見上げた。

その瞳の奥にある、確かな信頼と覚悟。それを見ていると、胸の奥がじんと熱くなる。

 

「ユウリのインテレオン、ほんと強いな! さすがユウリだぞ!」

 

ふいに、ホップの声が届いた。

振り返ると、彼がまっすぐこちらを見つめていた。太陽みたいな笑顔で、何の打算もなく、ただ真っ直ぐに。

 

「……ありがとう」

 

笑みがこぼれる。自然と、気持ちがほぐれていくのがわかった。

でも、同時に胸の奥に、小さな悔しさも残っていた。

 

「でも、まだまだだよ」

 

そう口にした声が、自分でも驚くほど静かだった。

まだ届かない背中がある。まだ追いつけていない誰かがいる。

それでも、きっと――いつか。

 

 

「俺もユウリに負けないように特訓するぞー!」

 

 

ホップは拳をぎゅっと握りしめて、前を向いた。

その背中は、まるで道しるべのように明るくて、力強くて――

どこまでも、真っ直ぐだった。

 

私は黙って、その隣に並ぶ。

彼と一緒なら、不安も少しだけ遠のいていく気がする。

だから私は、歩き出せる。

 

ラテラルタウンへ向けて、ふたりでまた、歩き出した。

 

だけど、足元を進めながらも、心の奥はざわついていた。

 

あの二人。ネオプラズマ団と名乗っていた。

「珍しい」と、そう言っていた。カジッチュを探していた――けれど、

本当にそれだけだろうか?

 

ただポケモンを探すだけなら、わざわざ隠れてやることじゃない。

目の奥にあった焦り。言葉を止めた時の、あの女の慌てた仕草。

そこには、もっと深い意図があったように思えてならなかった。

 

風が吹く。草が波のように揺れる。

風の中に、何かが混じっている気がした。

目に見えない“気配”。喉の奥に引っかかるような違和感。

 

私は知らず知らずのうちに、インテレオンに視線を送っていた。

彼は静かに風の向こうを見つめていた――まるで、何かを感じ取っているかのように。

 

「……なにかが起こる」

 

小さな呟きが、風にさらわれて消えていく。

けれど、その予感だけは、確かに胸の奥に残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ナックルシティ。

ガラル地方の中央に位置する、大きな城塞都市。

高い石壁に囲まれた街並みは、中世の名残を色濃く残している。

歴史の重みが漂う建造物たちが、古代の記憶を今も静かに刻んでいた。

 

……なんて観光ガイドみたいなことを考えながら、俺はベンチに腰かけていた。

視線は手元のスマホ。ニュースの見出しが流れている。

 

《キルクスタウンのホテルで強盗未遂 犯人はまだ逃走中》

 

ポケモンの世界にも、やっぱり強盗なんてあるんだな。

ジムチャレンジとかポケモン勝負とかが目立つけど、こういう現実味のある事件を見ると、どこか冷静になってしまう。

 

足元では、ラヴィが丸くなって寝息を立てていた。

白銀の鱗が陽の光にかすかに揺れて、見ているだけで穏やかな気持ちになる――いや、正確にはちょっとニヤけてしまうくらいには、可愛い。

 

「イヌヌワンッ!」

 

突然、軽やかな声が足元から響いた。

見ると、小さなワンパチが尻尾を振ってこちらを見上げている。

 

ん……? この子は見覚えがあるような――

 

「よっ! カケルくんっ!」

 

明るい声と共に、視界に鮮やかなオレンジ色が飛び込んできた。

ふわふわのサイドテールに、小さなハートの飾り。頭にはサングラスを引っかけたまま、笑顔で手を振る女性――

 

ソニアだ。

 

俺が立ち上がる前に、彼女はラヴィの隣にしゃがみ込んでいた。

 

「この子、進化したんだ? めっちゃ可愛い~……寝顔、尊い……」

 

ラヴィの頭を撫でるその手は、やけに慎重で、やさしかった。

いつも明るいけど、ポケモンに向ける目だけは、真っ直ぐで優しいのが分かる。

 

「ダイマックスの研究、順調?」

 

「うん、まぁ……何とかって感じ? さっきまでユウリたちと、ここの宝物庫見学してたんだー。資料、マジで凄かったよ」

 

あぁ、そういえばそんなイベントもあったな。

ガラルの伝承、タペストリー、ザシアンとザマゼンタ。だいたい覚えてる。

 

ソニアは、急に声のトーンを落として語り出した。

 

「ねがいぼしを みる 若者 二人……災厄の 訪れ……

災厄を 追いはらう 剣と 盾を みる 若者……

王冠を かぶる 若者……」

 

語りかけるように、タペストリーの一節を紡いでいく。

その横顔がふと真剣で、俺は思わず目を逸らせなかった。

 

「それが、ガラルに王国ができたときの伝承なの」

「……そして、空を覆う黒い渦が、“災厄ブラックナイト”」

 

――ブラックナイト。

 

その言葉に、つい口をついて出た。

 

「……ムゲンダイナ」

 

しまった。

言った瞬間に、全身が凍りつくような感覚に襲われた。

 

やばい。

余計なことを言ってしまった。

 

「え? 今なんか言った?」

 

ソニアが首を傾げる。

咄嗟に取り繕う。

 

「い、いや、なんにも……っ!」

 

俺はスマホをポケットに突っ込むと、ラヴィを抱きかかえ、足早にその場を離れようとした。

背中にソニアの声が追いかけてくる。

 

「ちょ、待ってカケルくん! “ムゲンダイナ”って、なにそれ!」

 

――聞こえてたんかい!!!

 

脳内警報が鳴り響く。

このまま深掘りされたらマズい。非常にマズい。

 

考えろ、言い訳を。

夢で見たとか? いや、変に詮索される。

どこかの噂で聞いた? いや、それは逆に話が広がる……!

 

……よし、決めた。

 

逃げる!!

 

「ごめん、用事思い出した!!」

 

ラヴィを抱えてベンチを飛び出す。

目指すは……とりあえず、逆方向!

 

「ちょっ……カケルくーん!?」

 

背後からソニアの呼ぶ声が追ってくるが、聞こえないふりで全力疾走。

ベンチにいた市民が振り返り、ラヴィの尻尾がバタバタと俺の顔を叩く。

 

……なんかもう、色々めちゃくちゃだ。

 

でも、あの名前は口にしちゃいけない。

まだ“その時”じゃない。

今ここで関わるわけにはいかないんだ。

 

逃げながら、空を見上げる。

 

――空を覆う、黒い渦。

その予兆は、まだ静かに、けれど確かに近づいていた。

 

 

 

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