チャンピオン?知らん。色違いがほしい   作:ヨリヨリ

15 / 17
15

 

 

 

 

ラテラルタウンのジムチャレンジ――

ジムリーダー・サイトウさんのポケモンたちは、本当に強かった。

かくとうタイプ特有の勢いと力強さ。

インテレオンのスピードと遠距離攻撃を駆使して何とかバッジを勝ち取った時、私はほっと息をついた。

けれど同時に、不思議と嬉しかった。あの人たちのポケモンには、どこか“覚悟”みたいなものがあって。

私も、もっと強くなりたいって、そう思った。

 

チャレンジを終えたあとは、ソニアさんと合流して、街の奥にある遺跡を訪れた。

薄曇りの空の下、静かにそびえる石段を、一歩ずつ上がっていく。

足音が石を打つたびに、なぜか胸の奥がざわめいた。

 

そして――階段を上りきったその先。

そこに在ったのは、大きな、大きな石像だった。

 

二人の英雄の姿。

そして、その隣に寄り添うように佇む、二匹のポケモンの像。

片方は剣を、もう片方は盾をその身に宿している。

 

……まるで、ポケモン自身が武器を携え、人間と共に戦っていたみたい。

そんな物語を感じさせる、不思議な佇まいだった。

 

私は思わず、その場に立ち尽くす。

剣と盾。それぞれの力。

でも、それだけじゃなくて――

どこか寂しげで、誇らしげで、優しい目をしていた。

 

「……こんな場所、あったんだ」

誰にともなく呟いた声が、遺跡の空気に吸い込まれていく。

 

ソニアさんは隣でタブレットを操作しながらも、ちらりと私を見て笑った。

 

「この遺跡には、まだまだ謎が多いのよ。

 もしかしたら、今の伝説とは違う“真実”が眠ってるのかもね」

 

――真実。

私はもう一度、石像を見上げた。

「……英雄は、二人?」

 

思わず、声が漏れた。

スボミーインで見た英雄の像は、たしか一人だったはずだ。なのに、ここには二人。何かが違う。

 

「そうなんだよ!」

 

隣で、ソニアさんが勢いよくうなずいた。

 

「英雄は二人って言われてるんだけどね。だとするとさ、なんでスボミーインの像は一人だったんだろうって、ずっと気になってて」

 

空を仰ぎ見る彼女の横顔は真剣で、どこか楽しそうでもある。

私は再び像に目を向けた。石に刻まれた剣と盾。凛々しいポケモンの姿。

英雄とされていたのは――本当に、人間だったんだろうか?

 

「もしかして……災厄を追い払ったのって、人間じゃなくて、ポケモンなんじゃない?」

 

そう口にすると、ソニアさんがぱちりと瞬きをして、それからパッと表情を明るくした。

 

「だと、思う!」

 

嬉しそうにそう言ってから、彼女は両手を腰にあてて続ける。

 

「いつしか剣とポケモン、そして盾とポケモンが同じものとして扱われて、姿を消した……歴史の影に、ね」

 

まるでパズルのピースが少しずつ揃っていくように、断片だった情報が形になっていく。

けれど、まだ霧の中。きっとその先に、本当の真実がある。

 

「そして……空を覆う黒い渦……災厄……あ!!」

 

ソニアさんが突然、声を上げた。

私はびっくりして、思わず一歩下がる。

 

「ど、どうしたの?」

 

「そういえば……カケル君がね!」

 

その名前を聞いて、私は首をかしげた。

カケルさん。いつもどこかつかみどころのない、不思議な雰囲気の人。

 

「ムゲンダイナって言ってたんだけど……ユウリ、何か知ってる?」

 

「ムゲンダイナ……?」

 

声に出してみる。けれど、記憶に引っかかるものはなかった。

ポケモンの名前? 聞いたことがない。

私はそっと首を横に振った。

 

「そっかー……なんかね、気になるんだよね。響きとか、言い方とか……」

 

ソニアさんは少し首を傾げ、そしてすぐに笑った。

 

「ま、こっちでちゃんと調べてみるよ。きみはジムチャレンジ頑張って! 次はアラベスクタウンだったよね」

 

「うん。ちょっと特訓してから向かうつもり」

 

そう返して、私はソニアさんと別れた。

彼女は軽く手を振りながら街のほうへ戻っていく。

 

私はしばらく、遺跡の前に立ち尽くしていた。

 

ムゲンダイナ――

その言葉が、心の中に静かに残っている。

まるで何か、大きなものの前触れのような、そんな重たさを感じさせる名前。

 

……今度、カケルさんに聞いてみよう。

何気ないふりで、さりげなく。

 

彼が、それをどう口にするのか。

それだけで、少しだけ分かることがあるかもしれないから。

 

私はもう一度、像を見上げてから、静かにその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ルミナスメイズの森。

アラベスクのジムチャレンジに挑むには、この幻想の森を抜けなければならない。

 

青白く揺れる光が木々の間を彷徨い、ふわりと空気を撫でるように漂っている。

辺り一面が夢の中みたいに静かで、どこか現実離れしていた。

 

……けれど、その静寂を切り裂くように、鋭い怒声が響いた。

 

「アンタたち、いい加減にしなさい! プラズマ団!! ガラルまで来て、今度は何を企んでいるんですか!?」

 

思わず足を止める。

胸の奥がヒュッと縮こまったのがわかった。

 

声の主は、黒いスーツに身を包んだ女性――。

肩まで伸びた淡い紫の髪が、森の風にさらさらと揺れている。

その眼差しは鋭く、まるで相手の心の奥まで見透かすような冷たさがあった。

 

スーツの女性の正面に立っていたのは、黒ずくめの装束に身を包んだ二人組。

……あの時、カジッチュをいじめていた連中だ。

ネオプラズマ団――そう名乗っていた。

 

「はっ、勘違いしないでくれる? 別に企んでなんかいないわよ」

 

女の団員が、鼻で笑った。

その表情はどこか芝居がかっていて、薄暗い森の中では不気味なくらいに浮いて見える。

 

「そうそう。ただちょっと、情報収集してただけっての。こっちのやり方に文句つけんなよ」

 

男のほうが肩を揺らして笑い、挑発的な声を上げる。

 

「それが“情報収集”? ポケモンを痛めつけてまで得た情報に、いったい何の価値があるっていうんですか!」

 

スーツの女性――は一歩踏み出し、鋭く声を上げた。

その言葉の奥に、怒りだけでなく、過去に刻まれた深い痛みのようなものが滲んでいた。

 

……やばい。

このままじゃ、戦いになる!

 

私は反射的に体を前に出した。

スーツの女性とプラズマ団の間に割って入り、両手を大きく広げて叫ぶ。

 

「やめて! またポケモンをいじめてるの!? そんなの、絶対におかしいよ!」

 

スーツの女性がわずかに目を見開き、私の方を見る。

だが、その表情はすぐに険しさを取り戻し、再び相手を睨みつける。

 

「……危険です。あなたは下がってください」

 

「でも……!」

 

その瞬間、プラズマ団の男が私に気づいた。

 

「あ? おいおい、あの時のガキかよ。へへっ、今度こそ後悔させてやるぜ」

 

「ゲーチス様は“手を出すな”って言ってたけど……」

 

「関係ねぇよな。ここでやっちまえばバレねぇって!」

 

二人はモンスターボールを取り出し、ほとんど同時に指を弾いた。

放たれた光の中から現れたのは、見覚えのある二匹――ズルッグとヤブクロン。

 

「こらしめてやるから、覚悟しとけ!」

 

私もすぐさまモンスターボールを取り出し、強く叫ぶ。

 

「出てきて、インテレオン!」

 

鮮やかな蒼の光が地面を照らし、スラリとした細身のシルエットがその中に立ち現れる。

インテレオンはクールな瞳で敵を一瞥し、無言のまま指先をわずかに動かした。

その仕草ひとつが、すでに構えを意味していた。

 

「……あなたは……? いえ、感謝します」

 

隣でスーツの女性が静かに言葉を漏らした。

表情にはまだ戸惑いが残っていたが、すぐに目の奥に強い意志が宿る。

 

彼女はモンスターボールを投げた。

重く沈んだ着地音とともに、大地を揺らすようにカビゴンが現れる。

 

その巨体が風を遮り、頼もしさを背中から感じる。

並んで立つ私とスーツの女性。そして、カビゴンとインテレオン。

 

「ポケモンを、道具みたいに扱わないで!」

 

私は声を張った。

胸の奥が、ぐっと熱くなる。怒りと、守りたいという想いと。

 

何が目的かなんて知らない。けど――

目の前でポケモンが苦しむようなことを、私は絶対に許さない!

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。