女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!?   作:はま0821

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バンドってのは、金がかかるのさ。

他のあらゆる事と一緒でな。


10 伊地知星歌!!

 

 

(兎にも角にも集合だよ!集合!結束バンド!作戦会議!)

 

私、黒井此方に、伊地知先輩から今朝届いたロイン。いやまあ、確かに作戦会議というか、私たちは一度話し合うべきだと思う。

 

なぜなら私たちは何も知らない。互いのことを。取り敢えず五人でバンドを組んでみたけれど、私が知っているのは精々、皆さんの格好と人となりぐらい。三年間見続けたギターヒーローさんこと後藤ひとりさんのことも、動画の事以外何も知らないに等しいのだ。

 

そういう理由で私は、急遽呼び出されたSTARRYに向かおうとしている訳だ。いい機会だ。私たちが所属する結束バンド。なぜそんな名前になったのか?皆さんは一体どんな性格で、どんな音楽観をしているのか?聞いてみたいことはいろいろある。

 

あ、そうだ。ふふふ…。折角だ。探してみるか。そう思い立ち私は、普段滅多に足を踏み入れない二年生の教室がある棟へと向かう。教室の中を一つずつ確認していると、程なくお目当ての人物を見つけ、声を掛ける。

 

「いたいた!せんぱーい!!伊地知せんぱーい!リョウせんぱーい!」

 

教室のドアからブンブンと帰り支度をしていた二人に手を振ってみる!二人はコチラを振り向いた後、顔を見合わせ、首を傾げる。そして、トテトテと伊地知先輩がコチラに来てくれた。

 

「?えと、どちら様?私たちの知り合い?」

 

ええ!?なんで!?…ああ。そうか。私はズルリと右腕の袖をめくり、タトゥーを見せてみた。

 

「!!えっ此方ちゃん!此方ちゃんなの!?下高だったの君!?」

 

他の誰かに見られる前にさっと袖を戻し隠す。やっぱ気付いてなかったんだ。仕方ないか、普段は大分制服も着崩してるし。

 

「ふふふ…、下北沢高校屈指の傾奇者お嬢様と言ったら私ですよ。今までは時間とか中々合わなくて迎えに来れませんでしたが、今日は来てみました!さぁ、STARRYに行きましょう!」

 

「ふえ〜。ホントだ喋りを聞くと確かにこなちゃん。何処のお嬢様かと思ったよ。リョウ〜。知らない人じゃなくて此方ちゃんだったよ〜」

 

そう言って伊地知先輩が自席に座ったままのリョウ先輩に呼びかけると、リョウ先輩はコチラにやってきて私の顔をよく覗き込む。

 

「…凄い。ホントに此方だ。上手く化けてるね、清楚なお嬢様にしか見えないよ。喋らなきゃだけど」

 

失敬な、人を見た目だけみたいに。リョウ先輩も似たようなもんでしょ。

 

「まあ、ともあれ、今日は結束バンド結成記念の作戦会議!秀華高の二人にも声掛けたから早くSTARRYに行こう!」

 

伊地知先輩の号令にリョウ先輩と二人して頷き、下北沢高から一路、STARRYへと一行は向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

♪♪

 

 

 

 

 

 

 

「はい!じゃあ皆揃ったね!それでは結束バンド結成記念第一回作戦会議!という名の雑談会をはじめまーす!」

 

言っちゃったよ雑談って。身も蓋もない!因みに喜多さんと後藤さんの秀華高組も合流済み。後藤ひとりさん…!また会えて光栄です!

 

「さってじゃあ何から話そうか…。取り敢えず全員自己紹介でもしてみよっか!意外とまだしてないよね?」

 

私も気になる。皆のプロフィール。

 

「んじゃ言い出しっぺの私から!私の名前は伊地知虹夏!バンドで担当する楽器はドラムス!下北沢高校の二年生だよ!好きな音楽のジャンルはパンクとかメロコアとか!皆!改めてヨロシクね!」

 

わー…。パチパチ。と皆で拍手する。

 

「な、なんか照れる!はい次!リョウ!」

 

「うん。私は山田リョウ。虹夏と同じく下北沢高校の二年。因みに同じクラス。担当はベース。好きな音楽は…あ〜。最近は色々聴き飽きてきて…サウジアラビアのヒットチャートを少々…」

 

「ハイ嘘ー、自己紹介で嘘を付くな山田!」

 

「むう…ホントだもん…!」

 

伊地知先輩にツッコミを受け膨れるリョウ先輩。サウジアラビアのヒットチャート…勉強不足で聴いたことない。今度聴いてみるか。

 

「はい次は…じゃあ郁代」

 

「うう…。先輩、郁代って呼ばないで…。わ、私は喜多!喜多です!後藤さんと同じく秀華高校の一年生!…私は。一度自分の勝手過ぎる都合でこのバンドを去りかけました」

 

雰囲気が変わった。真面目な話だな。スッとさりげなく背筋を伸ばす。

 

「黒井さんのありがたいお節介と、先輩方の広すぎる心のお陰で私はここにいます!私はもう逃げません!ギターボーカルとして自分の出来ること、なせることは全部やりたいと思ってます!頑張りますよろしくお願いします!!」

 

ふ。そうそう。私のはお節介。そんぐらいの受け取りのほうが焼く方も気安く焼きやすいわよ。さてと。

 

「トリはお譲りしますわ後藤ひとりさん。私は、黒井此方と申します!下北沢高校一年!先輩方と同じ高校です!ギターヒーローさんに憧れて、ギターヒーローさんが一番ならば、二番目のギタリストになろうと日々努力しております!リズムギターが主に得意ですが、ギターならだいたい何でもできます!よろしくお願いしますね!」

 

おお〜っ。と、少しの感嘆の声の後拍手。ありがとうございます!あれ…?ご、後藤さん!?後藤さんが信じられないものを見た!みたいな顔してる!?一体何が!?

 

「ちょ、ちょっとちょっと黒井さん!後藤さんにトリは荷が重いわよ!後藤さんのファン自称しておきながら、後藤さんへの理解度が足りないんじゃないの!?」

 

喜多さんから辛辣なツッコミ。なにをう!?後藤さんには全てを総括するトリこそ相応しいと思ってわざわざ譲ったのに!荷が重いなんてそんな事…。などと思いながら後藤さんの方を振り向くと、後藤さんは千切れんくらいの勢いで首を縦に振っていた。荷が重かった!

 

「だ、大丈夫よ後藤さんそんな涙目にならなくても!ほら、私に教えてくれた時みたいにゆっくりでいいから喋ってみて!ここには怖い人なんかいないんだから!」

 

ぐぬぬ…!勝ったと思うなよ喜多郁代…!

 

「は、はい…。え、えっと…、ご、後藤ひとりと申します、…秀華高一年、喜多さんと一緒です…」

 

おのれ喜多郁代め!なんか通じ合ってる感だけではなく私の憧れと学校まで一緒とは!ズルいわよちくしょう!

 

「えっと…出身は、か、神奈川の金沢八景って所で、ここから二時間ぐらいのところから電車で通って、い、ます…」

 

ざわざわっと、聞き捨てならないことを聞いた私たちに戸惑いが走る。何故そんな遠いとこから?あと、これは私だけだろうが、ホントに金沢八景の人だったんだ。ぽいずんさん侮れないな。と、小さく独りごちた。

 

「えっとそ、それから…楽器はギターをやります…、み、皆さん…。こ。こんな私を誘ってくれてありがとうございます…、せ、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします…い、以上です…」

 

わっ!パチパチパチ!皆の拍手が重なる!特に喜多さんが嬉しそうだった。あの表情は学芸会で演技が上手くできた我が子に向ける表情だな。そして、拍手も一段落した所、伊地知先輩が第二の話題を出す。

 

「はい!みんなありがとう!そしたら次は質問タイム!誰かの気になったとこあったら聞いたり答えたりしよう!じゃあまず私から!ひとりちゃん!なんで金沢八景なんて遠いとこからわざわざ下北沢まで?」

 

それは私も聞きたかった質問だ。何故?地元に音楽する環境がなかったのかな?

 

「あっ、そのわたし…中学時代もずっと一人で…誰とも喋れないから…周りの環境を変えたくて…」

 

「はい!ゴメンこの話しゅーりょー!!」

 

哀しい風を感じ取った伊地知先輩が焦りながら話を強制終了させる。それ以上話すと自分も傷付いちゃうだろうからね。しょうがないね。

 

「ごごごめんなさい暗い話して…み、皆さんの空気読めなくてぇ…」

 

なぜか涙目で謝罪する後藤さん。今は貴女が喋る番。内容に気を使う必要などないはず。そんな事を思っていると。

 

「かまわない。ひとり。どんな些細なことでもいいから話して。さっき郁代が言った通り、ココには怖い人などいないのだから」

 

リョウ先輩が後藤さんの目を見ながらこう返し、微笑みかける。ふ、フォロー。完璧なフォローだ。意外だ。リョウ先輩こういうのには無関心な人かと思ってた。

 

「あ、あり、ありがとうございます…リョウ、さん…」

 

「うん。いいよ。ひとり」

 

「へ〜え。リョウ優しいじゃん。変なもんでも食べた?」

 

「失礼。虹夏、私は何時でも優しい」

 

確かに優しさ溢れるフォローだった。見た目ほど他人に無関心って訳じゃないのか。リョウ先輩に対する認識を改めねば。

 

「そ、それじゃあ次は私からいいですか…?」

 

「お!?ひとりちゃん!なになに?」

 

「き、喜多さん…」

 

「えっ!?私!?」

 

「き、喜多さんは、まえこのバンドを抜けたんですか…?」

 

おおう。中々切れ味鋭い質問。喜多さんには答えにくい話題かも?少し喜多さんの表情に影がさした。…まあ、仲良くなる為には避けては通れない質問でもあるが。

 

「…うん。そうよ」

 

「あ、い、いえ!なんでそうしたのかにはあまり聞くつもりなくて!あ、いや興味がないわけではないですけどえとえと…!!?」

 

「…ふふ。後藤さん。大丈夫。急がないでいいよ?…続きを聞かせて?」

 

「…えと。辞めたくなる理由は色々あったんだと思うんで私からは何も言えないのですが、…な、なんでおんなじバンドに戻ったんですか…?つ、辛い、決断だったんじゃあ…」

 

「…それは。そこにいるお節介焼き、黒井さんに特大の世話を焼かれたのが一つ」

 

そう言うと喜多さんは私にウインクをする。特大の世話ねえ。と苦笑いする。

 

「そして!!一番の目的は!!私の推しであるリョウ先輩とどうしてもバンド活動をもう一度やりたかったから!!…黒井さんにも言われたけど、後悔したくなかったのよ。まだ、自分に出来ること、あるんじゃないかって。…まあ多分。あそこで黒井さんが通りかからなかったら、私は多分諦めちゃってたけどね」

 

その言葉を聞いて私はニヤリと笑い、伊地知先輩は、リョウ先輩をニヤニヤしながら見つめ、リョウ先輩は眉間に指を当てて俯いた。

 

「そ、そうなんだ…。き、喜多さん。つ、強いんだね…。私にも出来るかな…、一度、あ、諦めたことに挑戦…」

 

「きっと出来るよ後藤さん!私は絶対に!!バンド活動を通して、リョウ先輩の娘になる!!この夢をあきらめないわよ!!」

 

?????全員の頭の上に特大のはてなマークが浮かぶ。えっなんて?リョウ先輩だけが苦虫を噛みつぶしたような顔をして喜多さんを見つめ。喜多さんに冷静にマッタをかけた。

 

「郁代。ステイ!」

 

「はい!!リョウ先輩!!」

 

はてなマークが頭の上を飛び回る。もう少し聞きたい気持ちと怖いから聞きたくない気持ちが半々ずつ胸の中で喧嘩するのだった。

 

その後も色々あった。私のカッコ(右腕タトゥーに左耳ピアス)について聞かれたので答えたり、如何にギターヒーローこと後藤ひとりさんに憧れているか力説して後藤さん以外にドン引かれたり(後藤さんは承認欲求が満たされる〜的な顔をしていた。案外いい性格をしている)

 

そんなこんなで質問コーナーも大体出尽くした後、伊地知先輩が次なる話題を投下する。

 

「ほしたらさ!皆んなは私たちがバンドとしてコレからやってくにあたって何がいると思う?」

 

「愛!!」

 

「喜多ちゃん!!それは当たり前だよ!それはないとね!」

 

「腕!!」

 

「リョウそれも!残念だけどあって当然!」

 

「あ、皆さんとの絆とか…ですか…?へ、へへっ」

 

「ぶ〜違います。ひとりちゃん。もっとつまんなくて現実的な話〜」

 

ふむう。つまんなくて現実的ね。

 

「お金、ですか?」

 

「そう!!こなちゃん正解!さっすが!!」

 

ふふんどうだ。喜多さんが少し羨ましそうな顔してるな。少しは借りを返せたか。

 

「私たちは結成したばっかの貧乏バンド!!機材買うにも、ライブする場所を確保するにもなんにしても!!お金がいるのです!!」

 

ああ〜。と。私以外の一年ズが納得したような声を上げる。金、先立つものとはよく言ったものだ。前提条件。絶対に必要になってくるもの。

 

「…でも安心して。策はある」

 

そうリョウ先輩が呟く。い、一体どんな。

 

「そっから先は私が説明してやるよ」

 

ぬっと。リョウ先輩と伊地知先輩を押し退けるように後ろから女性が出てくる。金髪の髪を背中まで伸ばしたヘアスタイルに、切れ長の鋭い目付きが強面っぷりを強調するが、よく見るまでもなく整った顔立ちの美人だ。ああ、こないだライブで待ってる時、控室に我々の出番を教えてくれた人だな。

 

「お前ら三人とははじめましてだな。バンド結成おめでとう。そこの愚妹、伊地知虹夏の姉で、このライブハウスSTARRYの店長をやってる、伊地知星歌ってもんだ、以後お見知り置きを」

 

第一印象は、無愛想な怖い人。現に後藤さんは怯えきっているが、私には何となく分かる。この人、岩下さんタイプだ!パット見怖そうに見えるけど、その実優しくて、そのギャップで人々を魅了するズルいタイプの人!

 

「今な、我がSTARRY。忙しさの割にスタッフが少なくてな。正直猫の手でも借りたい。人間の手なら尚更だ。単刀直入に言う。お前ら三人、うちでバイトしろ」

 

…!?えっ!?いいんですか!?正直親からの仕送りだけじゃ日々の生活をしのぐだけで精一杯で、そろそろ切れちゃうであろうギターの弦すら買えない状況だったから、凄くありがたい。喜多さんは目を輝かせて、ライブハウスでバイトという新しいイベントに興味津々の様子だ。きた〜ん!後藤さんが絶望しきった顔しているのが気になるが。

 

「うちならお前らも勝手知ったる仲間がいるから働きやすいだろうし、結構売れてるバンドとかもライブするからバンドとしても勉強になると思う。何よりお前ら、金ないんだろ?いい事ずくめだと思うが、どうだ?」

 

確かにいい事ずくめだ。都合が良い。

 

「私たちの策とはコレ」

 

「おねが〜い!皆んな!スタッフが少なくて運営大変なんだよ〜!お姉ちゃんが最低限の人材だけでいい。なんて言ってあんまりオープンスタッフ取らなかったからさ〜!」

 

「ココでは店長と呼べ虹夏、後、よけーな事は言うな…さて、どうだ?」

 

「渡りに船ですよ。やらせて下さい!やはりバンドをやるには兎にも角にもお金!ですよね!」

 

「私もやります!皆で集まって頑張ってバンドっていう一つの大きな目標に向かう!!やはり!バンドっていうのは第二の家族!なんですよね!そして私もゆくゆくはリョウ先輩の娘に!!」

 

だから??????イヤイヤ、喜多さんの思想が読めん。店長ですら引いてるわよ。リョウ先輩は眉間に指を当ててギュッと目を瞑っている。まるで目の前の現実にも目を瞑るように。

 

「郁代。ステイ」

 

「はっはっはっ!はいっ!先輩!!」

 

娘ってより犬よね。犬。そしてもう一人…。後藤さんが自分の体を抱きしめて叫ぶ。

 

「ば、バイト!?社会!!嫌だ怖い働きたくない!!怖い!!社会が怖い!!」

 

な〜んと。後藤さんのコミュ力不足がこんなところにも。また店長が『ええ…』って言いながら引いてるし。何とか私と伊地知先輩と喜多さんで、後藤さんを説得し、店長さんのご厚意で、晴れて全員STARRYのスタッフと相成ることとなった。

 

 

 

 

 

 

(ホントにギターヒーローさんだったんだ!取材!取材させて!)

 

ぽいずんさんからのロイン。そうしたいのは山々だが。

 

(スミマセンまだまだ無理です!あんな臆病な人取材なんかしたら爆散しちゃうと思います!)

 

(ええ〜!?なによ〜!じゃあ貴女に情報与え損じゃない私〜!)

 

(…代わりにギターヒーローさんの練習風景隠し撮りでいかがです?)

 

(…それで手を打つわ!)

 

よしよし。ギターヒーローさんの平穏は守られた。まだ我々はバンドとして何も成していない。ギターヒーローさんとしても、そんな状況で取材なんか受けてもきっと釈然としないのではないか。いやそうでもないか。以外と承認欲求突っ張ってるものな。そのうちライブとか。出来そうになったら招待すると約束し、ぽいずんさんからは納得を得た。

 

廣井さんにも連絡。STARRYと言うライブハウスで働き始めたこと。ついに目的を果たしギターヒーローさんに会えたこと。お世話になったお礼などをロインした。すると廣井さんはギターヒーローさんに関しては普通な感じで祝ってくれたが、STARRYの店長の名前を聞いた時、凄く興味を惹かれたような、気になる反応をしていた。

 

 






未だに原作でも明かされてないのですが、昔、廣井さんと星歌さんの間に何があったんでしょうね?私気になります。
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