女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!? 作:はま0821
ひとりちゃんはあまりにも遠距離通学すぎるので、少しでもミスると終電乗り過ごしそうだよな…。てな発想から生まれた話。ひとりちゃんが伊地知家に泊まる話は原作にもあるため、主人公を放り込みました。
み、皆さんこんばんわ。わたくし後藤ひとりと申します…。す、すいません。
今日も今日とて私は、いや、私たちはバンドとしてのクオリティを上げていくために、STARRYでのバイトの後、スタジオを借りて居残って練習していました。手元を見ずに、皆さんの体の揺れや呼吸…!エトセトラを感じ取りながらギターを差し込む…!大分こなれてきたんじゃないかな!?
最初は無理だと思った。でも黒井さんやリョウ先輩。皆の協力もあって少しずつ前に進めてる自覚がある。初めてギター触った時と一緒だな…。…上手くなってる。上手くなってるよ私!
…思えばここで浮かれてしまったのが最初のミス。地元から下北沢まで、通い始めてまだ一ヶ月程度。まだ全然慣れてなどいない。…だというのに何故そこまで私は自信満々だったんだろう。
「よし!!良い感じだったし今日はここまで!!皆、気を付けて帰ってね!」
「お疲れ様でした!皆さん!後藤さん!また明日!」
「あっはい、喜多さん、また明日…」
「ひとり。ばいばい。此方。お疲れ、そこまで一緒に行こうぜ?」
「良いですよ、リョウ先輩。お疲れ様です皆さん。後藤さん。伊地知先輩。さよなら」
「うん皆!また明日!」
皆さんが帰り支度をして一斉に帰途につく。少し私は出遅れてしまったため、一番最後の帰宅だ。…残り物には福あり。…ふふふ。きっといいことあるぞ。もう今日終わるけど。
「お疲れ様ひとりちゃん!確かなんか家遠いんだよね!?気を付けて帰ってね!」
「ひとりちゃんお疲れ。また明日、頼むな」
「は、はい。虹夏ちゃん。店長さん…、また、明日、です」
皆さんと別れ一人下北沢の駅への道すがらをゆく。喜多さんは凄いスタートダッシュだったな。用事でもあったのかな?…そういえばなんか私の写真を撮ってから黒井さんとリョウ先輩が親しげだ。あの時は全く酷い目にあった。その話を知った虹夏ちゃんと喜多さんには写真じゃないリアルタイムの笑顔を要求されるし…。店長さんはなんやかんやでのらりくらりと写真消してくれないし…。わ、私の笑顔なんか眺めたって、良いことなんか何もないのにな。…などと、そんな事を考えていたように思う。
この時私は全く気付いていなかった。すでに痛恨の。取り返しのつかないミスをしていた事に。
下北沢駅構内。改札の目の前で乗る予定だった電車の発車予告の電光掲示板を見て私は固まり、ようやく理解する。自身が犯した、痛恨のミスの内容を。
し、…終電、行っとるやないかーい!!
かーい!
か〜い…。
えっ、えええ!?ど、どないすんねんぼけうなすり!既に十分前に金沢八景行き最終電車発車してもうてるやんけしばくぞ!
あまりのテンパリに、普段全く使わない変な関西弁まで出る始末。練習が上手くいっていたからって、まだ大丈夫だと油断し、しっかり電車の確認をしなかったのが運の尽き…!ど、どうしよう!電車賃しか持ってない!これじゃ何処にも!ま、満喫にだって泊まれないよ…!え!?マジ!?こ、コレ…野宿!?齢十五!か弱い女子高生の身空で野宿!?い、嫌だ!だ、誰か!お父さん!お母さん!助けてぇ!!
…既にお父さんに何度か連絡しているが。でない。きっと朝早いからもう寝てるんだ。…終わった。涙が一筋頬を伝い落ちる。この歳で野宿を経験する羽目になるとは思わなかった。幸いまだ暖かい季節なのが救い?かな?蚊に刺されないように木とかの近くは辞めといたほうがいいのか…。
十二時を回ったというのに、下北駅前は賑やかだ。酔っぱらいの怒鳴り声に男女グループの下品な笑い声。…私。この状況で夜を明かすの?…嫌だ。嫌過ぎる。
取り敢えず現実逃避にと、目についた光の方に向かう。コンビニだった。自分の事をまるで虫みたいだなと。自虐しながら自動ドアをくぐるとそこには。
「…おろ?後藤さん。何やってるんですか?もう横浜方面の電車行っちゃったんじゃ…?」
買い物カゴ片手に商品を選ぶ黒井さんの姿があった。黒井さん。く、黒井さんだ!!えっなんで!?
「私んちこのへんなんですよ。流石に伊地知先輩の家ぐらいに近くはないですが。…まさか。後藤さん…。終電、乗り過ごしちゃったんじゃ」
心の柔らかいところを最短で突かれ、涙が出る。でもこの涙はただ悲しいだけじゃない。…こんな暗闇の中、知り合いに会えた。喜びの涙でもある。
「うわわわわ!?な、泣かないでくださいよ!つ、つまり宿が必要なんですよね!?う〜ん。私んちでも良いですがここは…。伊地知先輩に頼ってみます?」
「…え?に、虹夏ちゃん…?」
「ええ。STARRYの上のマンションに伊地知先輩たちは住んでるんですよ。自己紹介の時に言ってたと思いますけど…」
聞いてなかった!きっと私の得意技、精神だけどっかにトリップ!が発動してたんだ!
「私んちでも構いませんが…ちと遠いのと、弟なのですが、男がいるんですよね…。後藤さん。男いても寝れます?」
無理ですっ!!む、むむむむむむむむむっ!!
「ですよねー。まあ誓って襲っては来ないとは思いますが。そんなハートねえだろうし。んならば伊地知先輩に連絡取ってみますね。少しお待ちを」
そう言って黒井さんがスマホを取り出して通話を始める。大海の木片、助け舟。地獄に仏。く、黒井様…!!た、助かったかも…!さ、最悪虹夏ちゃんに断られちまっても、黒井さん家に泊めてもらえば…!う、うん…。男性は…。最悪私は玄関先でも…。そんなことを考えている間に、黒井さんの通話が終わる。
「大変だったね!うちで面倒見たげるから何時でも来なよ!…だそうです。良かったですね後藤さん」
や、やった…!!じ、地獄に虹夏ちゃん…!!良かった…齢十五にして野宿をキメることになった可哀想な女子高生はいなかったんだね。ていうか。そうだよ誰か友達に電話すれば良かったんだ。私、友達できたんだし!凝り固まったぼっち思考のせいで忘れてた。
「一緒に行きますよ。帰り道ですし。夜道に女子高生一人は危ないですからね。まあ、二人になったところであまり変わらないかもですが」
そんな事ないデス。一人で行くの心細いって思ってました。黒井さんなんでそんな気を回せるの凄いカッコいい好き…!
日が沈んだ下北沢の街を一路虹夏ちゃんの家へ。さっきまで感じていた、世界に自分一人しかいないかのような寂しさは、もう感じることはなかった。
んが。しかし。
「………………」
「………………」
き、気まずい!会話がない!と、友達と二人で歩くなんて体験初めてだから知らなかったけど、会話がないとこんなに気まずいんだ、知りたくなかったこんな事!な、何か…!何か喋らなきゃ!この空気に潰される!そんな事を一人で考える。すると。
「…ごめんなさい。後藤さん」
や、やっと喋ってくれた!な、何でもいいから喋りたかったありがとう黒井さん!…ん?え、なに?何を謝るの?
「初めて会った時。私は貴女に自分の憧れだけを押し付けていた気がするわ。貴女も年頃の只の女の子。ヒーローなんかじゃなかったでしょうに」
「へ!?イヤイヤ別に!ぜ、全然大丈夫ですそんな事!…逆に私の方こそスミマセンなんか!せ、折角黒井さんはギターヒーローに憧れてくれてたのに!な、なんか私、こんなんで!」
そう言うと、黒井さんは私の方に振り返り、ふわりと優しく微笑う。
「そんな事ありませんよ。ロインに友達千人。彼氏もいてリア充まっしぐらなギターヒーローさんも確かにカッコいいですが…」
ぐふっ!?て、的確に私の恥部を突いてくる!友達なんかいなかったし彼氏なんざもちろんいません!ごめんなさいこんな私でぇ!
「でも、なんでか今の私には、誰かと繋がりたくて。音楽をやってみたくて、必死に齧り付いて練習して、ここまで来た、後藤ひとりさんの方が魅力的に見えるんですよ。なんでかね」
そ、そうですかね。友達いなくていつも一人で。喋る時必ず吃って、あ、とか言っちゃう私でもですかね…へ、へへ…。
「貴女は事あるごとに自分を卑下するけれど、私はそれを聞くたびに否定したくなる。貴女は凄い人ですよ後藤さん。…私が憧れて、ここまでついてきたギタリストに間違いはなかった」
目を見てはっきりとそう言われる。反応を返したかったけど、声を出せなかった。今声を出したら、震え声になってしまうと分かったからだ。喉の奥が熱い。鼻の奥がツンとする。なんでだよ。なんで貴女はそんなに、私の心の柔らかい部分をつくのが上手いの?
「…ふふ。期待していますよ後藤さん。ネットからバンドへと活動場所を移した貴女が、私に何を見せてくれるのか」
目の辺りを黒井さんにバレないように拭い、私は決意を込めてハッキリと返す。…もうこれ以上、私の初めてのファンを落胆させまいと。
「…はい!黒井さん。ありがとう。私、頑張ります!」
私がそう返すと、黒井さんは再び、柔らかくふわりと微笑ってくれた。
♪♪
今再びSTARRYに舞い戻り、オートロックを虹夏ちゃんに開けてもらってマンションの中に入る。やがて一つのドアの前に止まってからインターホンを押すと。
「おー!お疲れこなちゃん!ひとりちゃん!大変だったね〜ひとりちゃんは!まあまあ入ってよ!」
中からパジャマ姿の虹夏ちゃんがドアを開けてくれた。寝る前だからなのか、いつもはサイドテールに纏められている髪がストレートになっているため、少し雰囲気が違う。兎にも角にも…た、助かったあ…!安心から、足の力が抜けて、崩れ落ちそうになる。
「ひとりちゃん!取り敢えず野宿の危機は回避だね!全く、駄目だよ?ちゃんと終電の時間は確認しないと!」
「うう…め、面目ない…」
「ふふ。良かったですね後藤さん。…では私はこれで…」
ここまで送ってくれた黒井さんが帰ろうとする。それを見た虹夏ちゃんが、黒井さんを慌てて呼び止める。
「ちょっち待った!こなちゃんも泊まっていきなよ!結束バンドの親睦を深めるお泊まり会!臨時だけどここに開催!だよ!約二名足りないけど…」
「ええ!?いやしかし私には家に腹を減らした弟が待っていて…。まあいいか。犬猫じゃあるまいし、自分一人で何とかするでしょ。何よりここから帰るの…!地味に面倒くさい!伊地知先輩!お世話になってもいいんですか!?」
「いーともいーとも!一人も二人も一緒だよ!みんなでパジャマパーティーでもしよーう!」
「わ、わあ…!は、初めてできたお友達と今度はお泊まり会だなんて…凄い!一足飛びくらいの勢いで親密度上がってますよねコレ!」
と、友達になって、お泊まり会して…!後は何だ?皆でお出掛けとかして!じ、順調だ!私、確実に皆さんと仲良くなれてる!あ、ありがとう虹夏ちゃん!黒井さん!
「まま!入って入って!玄関先でいつまでも騒いでると近所迷惑だし!」
そう虹夏ちゃんに促され、私たちは玄関をくぐり伊地知家へと足を踏み入れた!
「ささどうぞ!いきなりだったから散らかってるとこあるかもだけど、そこは大目に見てね!」
そう言いながら虹夏ちゃんはリビングに案内してくれる。…散らかってるかも!みたいに言ってたけど、とんでもない。整然と整理されて、床にもチリ一つ落ちてない。…そして何やら、いい匂いがする。虹夏ちゃんの匂いを、うす〜く引き伸ばして部屋全体に散りばめたかのような…。本来女子高生が発するのであろういい香り〜。私とは大違いだ。私あれだもん。いつも押し入れの中にいるから防虫剤の匂いがするからね。虹夏ちゃんの部屋の雰囲気を観察していると、奥からもう一人、人の気配。
「どした〜?虹夏。何騒いでんだよ一人で…。うおっ!?ひ、ひとりちゃんと黒井!ど、どうしたんだよこんな時間に?」
はわあ!!そ、そうだった!虹夏ちゃんちってことは、姉妹である店長さんもいらっしゃるよね!失念してた!
「あっお姉ちゃん!実はひとりちゃんが終電乗り損ねちゃったみたいでさ!こなちゃんがひとりちゃん拾ってここまで連れてきてくれたんだ!この二人今日一日うちに泊めてあげてもいいよね!?」
「あ、ああ。それは構わないけど…。二人共、親御さんにはちゃんと連絡しろよ?可愛い娘さん預かってんだ。私にも通さなきゃならん筋がある」
「あ、はい…さっきお母さんにロインしたら、ご迷惑にならないならば、よろしくお願いします。とのことでした…」
「私は今日は親いないんで連絡せずとも大丈夫です!同居してる弟には連絡してあります!」
「うむ。ならば良し。ようこそ伊地知家へ。あんまお構い出来ねえけどゆっくりしてけ」
「あ、ありがとうございます店長さん…」
「あざっす、今日一日世話になります!」
黒井さんと二人して店長さんにお礼を述べる。すると店長さんはヒラヒラと手を振った後、眠たそうな表情で、奥へと引っ込んでいっちゃった。
「さあ二人共!お風呂でも入っちゃってよ!準備しといたから!その間にご飯用意しといてあげる!」
な、なんという至れり尽くせり…。野宿の予感から一気にグレードアップだよ。やっぱり普段の行いがものをいうんだ。神様ありがとう…。などと考えていると、隣からビカッと。謎の光が!?
「ふふふ…!後藤さん…!お背中。お流ししますよう…!?女同士恥ずかしがることはねえや、裸の付き合いといきましょう!」
謎の光の正体は黒井さんだった!?目が光りすぎて最早ライトぐらいに明るいよ!?悪巧みするならもう少し隠そうとしてください!
「えっ…!?えと、一人ずつ入るんじゃあ…?」
「時短ですよ時短!最近は何でもタイパタイパ!二人別々に入るより纏めて入っちまったほうが水道代も時間も節約できるってもんでさぁ!」
て、手つきが怪しいです黒井さん!いや、いやだ!虹夏ちゃん!助けてぇ!?
「…こなちゃん」
「はい!伊地知先輩!」
「後でひとりちゃんがどんなだったか私にも事細かに報告するように。…ぐっどらっく」
に、虹夏ちゃぁん!?そんな虹夏ちゃんまで!?二人して怪しい笑み浮かべながらサムズアップし合ってないで助けてよぉ!?
「さあ〜、行きましょう後藤さん。その服の上からでも分かる抜群のプロポーション、どこまでホントか、私自身の手で確かめさせてもらいます!」
手をワキワキさせつつ、ニヤニヤしながら黒井さんが宣言する。嗚呼…!お父さんお母さんごめんなさい。娘の純潔。今日ここで散ってしまうかもしれません…!!そんなことを思いながら私は黒井さんに引き摺られるようにお風呂場へと向かうのだった。
♪
場所変わりここは脱衣所。私は単純に恥ずかしいので、黒井さんを後ろに向かせて、背中合わせに立っていた。先に行けと言っても全然行ってくれないし。
「…あ、あっち向いててくださいよう…?」
「誓って。どうぞ心安らかに脱いでください。脱いで、ください」
「強調しなくていいです…。ん、しょっと…」シュルリ。
上半身のジャージから脱ぎ、肌着になっていく。…思えば、私はまだこの時点では黒井此方さんを信用していた。序盤少しだけカッコよかったのもあって。だが、私が信用したその人は、目的においては何処までもオヤジなのだった。
「おおっと摩訶不思議な力によって体全体が滑ったぁ!?」
「きゃああああああっ!?」
がちゃり!!
「おいうるせぇぞお前ら!?夜中なんだからもう少し静かにし…!!ろ…」
店長が脱衣所のドアを開けて、見た光景。
鼻息荒くシャツ一枚の巨乳美少女の胸を後ろから掴む女。
されるがまま涙目で抵抗する可憐な少女。
「……もしもしポリスメン?イエス犯罪者」スマホすっ。
「ちょちょ!待って!ポリス駄目!!ノウポリスメン!」
「て、店長さん助けてぇ!お、おやじ!女子の皮を被ったおやじです!」
「黒井め!おのれなんと卑劣な!ひとりちゃんいま助けるからな!」
どったんばったん。
♪
「…体全体が滑った!は少し無理がない?こなちゃん」
「…いやあ何とか理由付けをと苦し紛れに考え出したやつがそれで」
「この子やっぱ目的に対して手段選ばないわ」
あの後黒井さんは店長さんに摘発されてリビングへと強制送還されていた。お陰でお風呂は心置きなく一人で楽しめました。その後虹夏ちゃんが昨日の余りであるというシチューやサラダを出してくれて、それを頂いた。凄く美味しかったです。少しシュンとしながら食べていた黒井さんが印象的でした。ご飯を食べた私たちは虹夏ちゃんの部屋へ向かう途中、こんな会話を交わしていた。私と言えばずっと、虹夏ちゃんが貸してくれたパジャマの胸元をおさえて、黒井さんを睨めつけていたように思う。
「あうう、後藤さん。機嫌直してくださいよ〜、やり過ぎたのは謝りますって〜」
「つ〜ん。わ、私怒りました。黒井さんなんかもう知りません」
「あはは。こなちゃんコレはひとりちゃんに嫌われちゃったねぇ」
私は態度こそつっけんどんに返していたが、その実あまり怒ってはいなかった。自分自身が不思議だったからだ。中学生の頃までは、他の人に怒ったり、その逆に笑ったり。誰かに対して強い感情を持ったことがなかったかのように思う。家族にしか怒らず笑わず、学校では誰とも喋らずいつもひとり。なのに黒井さんや虹夏ちゃんは、私にさまざまな感情を抱かせてくれる。
虹夏ちゃんは安らぎや安心。黒井さんは親しみと…時折の憤りを。喜多さんやリョウ先輩だって。不思議。嫌われるのが怖くて、素直に自分の感情を出すのは意図的に避けてきたのに。皆の前だと自然体でいられる。私は、私が不思議だった。
「ささ!ここが私の部屋だよ〜!お布団敷いといたから川の字で寝よう〜!」
考え込んでる間に、虹夏ちゃんの部屋に辿り着いた。わ、わあ。これが虹夏ちゃんの部屋。ベッドの上にぬいぐるみが置かれた、可愛らしい部屋…!隅に置かれた擬似ドラムセットが実に虹夏ちゃんらしい。
「おろ?伊地知先輩ベッドあるじゃないですか。使わないんですか?」
黒井さんが私も思った疑問を口にする。
「そんな寂しいことさせないでよ〜!寝る前のトークは修学旅行の定番じゃ〜ん!」
修学旅行ではないのだが。…でも。良いな。楽しそう。三人でいそいそと布団に潜り、顔だけ出して突き合わせる。
色々話した。最初は最近の学校やら、気になるバンドやら他愛のない事。そこから気付けば、皆んなはなぜ音楽を始めたのか?などと少し深いところまで。
「わ、私はそのう…せ、世界平和を伝えたくて…」
(ぜってー嘘だ)「へ、へえ〜意識高いんだね〜ひとりちゃんは〜。こなちゃんは?」
「ふ、私にそれ聞きます?私はギターヒーローさんですよ!後藤さんの姿を見てあそこまで弾けるようになったら気持ちいいだろうなと!ああなりたいと思って頑張ってきました!」
黒井さんがグッと握り拳を作りながら断言する。ああ!承認欲求が助かる!黒井さん好き…!私の感情を簡単に反復横跳びさせてくる!
「それは上手くなった理由でしょ?もっと前の話。それとも、ギター始めたのもひとりちゃんの影響?」
「む。鋭いですね伊地知先輩。…私は、音楽というかギター自体は弟の影響で始めました。弟のギターがとても上手くて様になってて。私もあんなふうに弾けたらなと。そして教材というか、参考になる動画を探して見つけたのがギターヒーローさんの動画だったんですよ」
うう…!改めて聞いてもこんなに上手い黒井さんのルーツが私の動画だなんて、光栄が過ぎる!諦めないで動画投稿して良かった…!
「ひとりちゃんが泣いてる!?なんで!?情緒が分かんない!」
「流石我が師ギターヒーロー。ロックですね〜。伊地知先輩はどうなんですか?」
「スルーするんだ!こなちゃんも大概ロックだよ!私?う〜ん。私は、昔は音楽なんて大嫌いだったんだ」
え?
「というのもさ、私のお姉ちゃん、昔バンドやってたんだけど、そればっかりにかまけて全然私と遊んでくれなかったんだ〜!だからバンドなんか。音楽なんか嫌いだった。お姉ちゃんをいっつも連れて行っちゃうから。な、なんか恥ずかしいね私、ワガママで」
そ、そうだったんだ。虹夏ちゃん、最初から音楽が好きなわけじゃなかったんだ…。
「…意外ですね。でも今は、音楽が楽しくてしょうがない!そんな顔をしてるように見えますよ?」
「…うん。結局大嫌いになった原因もお姉ちゃんなら、大好きになった原因もお姉ちゃんだったんだよ。ある日、お姉ちゃんが私を自分がやってるライブに誘ってくれてさ。嫌々見に行ったんだ。そしたらさ…。輝いて見えた。ステージの上のお姉ちゃんが。何もかもが。心の中は燃え立って熱いのに、寒いぐらい鳥肌が立って。…私もバンドやりたい。ステージに立ってみたい!って。凄く思うようになって。気付いたらリョウ誘ってバンド結成してた。…ごめんね二人共、長々と」
「いっ!いえ!!凄い!すっごく素敵な話です!!」
考えるより先に言葉が出ていた。本当に真っすぐ、そう思ったから。
「カッコいい。素敵なお姉さんですね。流石我がバイト先の店長」
慈愛すら感じるような優しい笑みを浮かべて黒井さんが言う。ホント…素敵なお姉さん。
「あ、あはは〜。だ、駄目な所も多いんだよ〜?料理なんかいつまでも出来ないし、休日なんか昼まで寝てるし〜」
店長さんの駄目なところを並べる虹夏ちゃん。でも私は、それが照れ隠しであると分かっちゃった。だって、店長さんの話をする時の虹夏ちゃん。いっつも微笑ってるんだもん。
「う〜。二人が聞き上手だからつい色々話しちゃった…私が聞いてあげようと思ってたのに…。も、もう寝よ!ほら、明日も学校だし!」
時計を見ればもう時間は二時を回っている。にじか…。なんて…。い、言いませんよさすがに。
「ふふ…。分かりました。伊地知先輩。後藤さん。また明日。お休みなさい」
「うん!こなちゃんおやすみ!」
「あ、それじゃ私も…お、お休みなさい、虹夏ちゃん…き、貴重なお話、ありがとうございました…、わ、私、頑張ります。虹夏ちゃんのバンドの一員として…」
「ひ、ひとりちゃん…!あ、ありがと!おやすみ!」
挨拶を交わして三者三様に眠りの態勢につく。その時にボソリと。本当に小さな声で虹夏ちゃんが何かを呟いていたのだが、聞き取ることはできなかった。
かくして一晩共に過ごした私たち三人の絆は深まったのだが、喜多さんに(なんか三人からおんなじシャンプーの匂いがするわ!)との鋭すぎるご指摘を頂き、何だかんだで全てリョウ先輩と喜多さんにバレ、何故我々を呼ばないのか!?と激詰めされたのは、また別の話にしてください…。
虹夏ちゃんにフォーカスを当てたくて考えた話です。
ホントはもう少し黒井女史を暴れさせたかったのですが、収拾がつかなくなるので程々にしてもらいました。
お気に入りにいれて頂いた皆さん!ありがとうございます!モチベーションになります!!