女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!?   作:はま0821

15 / 47


ロックマンであれば、誰しも憧れるであろう、輝かしいあのステージへの道すがら。


15 姉と妹。

 

 

「えっ嘘!?なんで!?」

 

「なんでもクソも。お前達はまだうちでライブをするための工程を踏んでないからだ」

 

ココはライブハウスSTARRY。上のやり取りは、カウンターバーのようになっている場所の一席に座っている店長に、ライブに出していただけるようにとお願いしている伊地知先輩との会話だ。店長の話によると、私達はまだSTARRYでライブするための工程を踏んでないらしい。

 

「わ、私達必死になって練習してきたんだよ!?この日のためにオリジナルの曲までリョウに作ってもらってさ!」

 

「それはこっちに関係ない」

 

にべもなく店長が言い放つ。…不味いな。この流れ。

売り言葉に買い言葉。拗れる要素満載。

気持ちは分かるが、少し伊地知先輩がヒートし過ぎてる気がする。

その後も平行線の攻防を続け、遂に痺れを切らした伊地知先輩が。

 

「なんでだよ!?お姉ちゃんのバカ!行き遅れ!頼まれたってもうご飯なんか作ってあげないんだから〜!!」

 

勢い良く出口への階段を駆け上がり、あんまりな捨て台詞を残して出ていってしまう。

 

「我が妹…。言い過ぎじゃない?」

 

「ぷふっ。どうします店長。処します?処します?」

 

出口を指し真顔でプルプル震えながら、傍らにいたスタッフさんに感情を吐露する店長と、それを柔らかい笑顔で受け止める黒衣黒髪の黒尽くめのスタッフさん。美しいのだけど、セリフが怖い。

 

「い、伊地知先輩!大変!ひとりちゃん!追い掛けるわよ!」

 

「は、はい!喜多ちゃん!」

 

素早く秀華高の仲良しコンビが、伊地知先輩のフォローをしようと追い掛ける。…伊地知先輩はあの二人に任せよう。私は店長に聞きたい事がある。

 

「はあ〜…。どうして若者ってのはああ生き急ぐのかね…」

 

やれやれと両手を広げた大仰なポーズを作り、溜息をつく店長さん。私はその店長さんに尋ねる。

 

「店長。踏まねばならない工程とは何ですか?その工程を踏めば、私達もライブに出れますか?」

 

「ようやく冷静に喋れる奴が出てきたな。ああ黒井。勿論だ。こないだお前らを大した審査もせずに出してやったのはいわば身内だから、お情けだ。次からはうちのルールに従ってもらう」

 

「ふふっ。初めからその事を伝えてあげれば妹さんと拗れることもなかったのでは?」

 

柔らかな笑顔で店長を諭す、この個性的な美人スタッフさんの通称は、PAさん。PA。すなわち、パブリックアドレスとは、主に音響を担当する専門職の方である。ライブハウスでは欠かせない存在だ。ちなみに、本名は知らない。誰も呼んでるところを見たことがない。謎。

 

「うっせーよPA。仕方ないだろアイツがろくに話も聞かずに出てったんだから」

 

「ぷふっ。店長は昔から虹夏には手を焼いているよね。ああ見えてきかん坊なとこあるから」

 

リョウ先輩も伊地知先輩を追い掛けてはいなかった。どうやらよくある事らしい。

 

「リョウ、給料カットされたくなかったら黙ってろ。…黒井、きかん坊の妹に伝えてくれ。ライブ出たかったら実力を見せてみろ。今度のオーディションでお前達の音楽を見てやる。とな」

 

オーディション。考えてみれば当たり前だ。ココは店長さんの店。店長さんの眼鏡に適わねば、ライブに出ることなど許されない、そういう事か。

 

「分かりました、伝えます」

 

「うん、頼む。…正直、私は別に今のお前らの実力なら出してやってもいいか。と思ってる。こないだのパフォーマンスも見てたからな」

 

店長さんが意外な事を言い出す。確かにこないだのは急造バンドにしては上手くいったと思うが…。

 

「喜多も中々良かったけど、やっぱお前の加入がデカいよ黒井。お前のお陰で元から結構シッカリしてたリズム隊が更に安定感を増した。リョウは元々上手かったが、虹夏はまだ殻を破りきれてなかったからな」

 

リョウ先輩が鼻を伸ばしてドヤ顔している。まあ、それはそれとして…。結構評価してもらってるぞ私!

 

「ほんで…新しく加入したあの子。あのピンクの…ひとりちゃん。あの子もかなり上手いでしょ。お前らの練習の音漏れ聴いてたら分かる。だからこそ…。今一度確かめたくなってな。ひとりちゃんが加わったバンドがどう進化を遂げたのか。…以上だ。伝えに行ってやってくれ」

 

「了解しました店長さん!」

 

「ほいよ、店長」

 

私とリョウ先輩は店長に言葉を返して、STARRYを後にする。伊地知先輩を探して迎えに行く為に。

 

 

 

 

 

「…なあ、PA」

 

自分たち以外のスタッフがいないことを確認した伊地知星歌は、胸の内を隣にいるPAにだけ吐露する。

 

「なんでしょう?店長」

 

「…私さ、実は意外と複雑なんだ。虹夏が私とおんなじ道を歩いていること」

 

「あら?意外ですねぇ。きっとお姉さんである店長を目標にしてくれているんだと思いますよ?嬉しくないんですか?」

 

「まあな。嬉しくもある。でも…、同時に私は、嫌と言うほどこの世界の、厳しさも知ってるつもりだ」

 

「…」

 

「半端な覚悟じゃ続かねぇ。だからこそ、私はアイツの覚悟を確かめたいのかもしれない。オーディションって形を通じて」

 

PAはその言葉を聞いて、僅かに目を細める。まるで眩しいものでも見るかのように。

 

「…例え向かう先が茨の道でも、目指す場所があるのなら関係なく進もうとするのが若者の性。昔の店長が今の虹夏ちゃんと同じ立場なら、進むのを辞めたのか?って話ですよ」

 

「う〜ん。分かっては、いるんだがな…」

 

それでいても僅かな心配の情を隠さない星歌に、PAはもう一つ言葉を返す。

 

「杞憂だと思いますよ。私たちが思うよりずっと、子どもの成長は早いです。心配するのも愛ですが、信じて見守ってあげるのもまた、愛ですよ。店長」

 

自身の胸の内を割と正確に見抜かれ、星歌は少し目を丸めてPAを見返した後、観念した様に呟く。

 

「そんなもんかねぇ…」

 

向こう見ずに勢いだけで進み続ける我が妹。その姿はまるで、かつての自分自身を見るようで、どうにも心中穏やかじゃない星歌なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

♪♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、オーディション〜!?」

 

「イエスマム。今度のオーディションで私の眼鏡に適えば、ライブ出してやる。と、店長仰ってました」

 

ココは下北沢のとある広場。

リョウ先輩と一緒に、逃亡した伊地知虹夏女史を探していると、キッチンカーやら何やら色々が出店しているこの広場にて追い掛けていった二人と一緒に三人でジュースを啜っているのを発見したため、事の次第を報告した。

ちなみにリョウ先輩は伊地知先輩のジュースが羨ましかったんだろう。伝言代とか言ってジュース奢ってもらってた。なんたる豪胆。

 

「も〜!いっつも一言足りないんだから!そんならそうと言ってくれればいいのに!」

 

今回ばっかりは伊地知先輩の方が結論を急ぎすぎたのでは…。なんて言ったら後が怖そうなので言わないが。

 

「まあいいじゃん、虹夏。チャンス巡ってきたよ。このオーディションパスしたらまた、STARRYのステージに立てる」

 

「ですよね!こんなに早くチャンスが来るなんて!いい演奏をして絶対にモノにしましょう!」

 

リョウ先輩と喜多さんが、ポジティブに受け取り、皆を鼓舞する。

 

「確かに。絶対出さない、ってわけじゃないんですし、はなからそのつもりだったわけですから、実力でライブをもぎ取ればいいんですよ!」

 

「そ、そうですよね黒井さん…。き、緊張しますけど…て、店長さんに今の私達の精一杯…み、見てもらいましょう…!」

 

私の言葉にひとりさんも同調してくれる。あとは伊地知先輩の心次第。まあ、決まっているとは思うけど。

 

「うんまあそだね。切り替えますか。こうなったら生まれ変わった私たちのライブで、お姉ちゃんギャフンと言わしてやろう!皆!やろう!!」

 

そう言って伊地知先輩は右手をばっと前に突き出す!その手に全員で右手を重ねて、伊地知先輩の号令を待つ!

 

「まずはお姉ちゃんのオーディション!それを突破してSTARRYのステージに返り咲きだ!結束バンド!!ファイヤー!!!」

 

「「「「ファイヤー!!!!!」」」」

 

さあ、やる事は決まった。そこそこ人がいる広場のど真ん中で結構な声量で叫んだから周りの人達がビックリしてたが構うものか。オーディション!絶対に突破するぞ!ファイヤー!

 

 

 

 

 

 

 

♪♪

 

 

 

 

 

 

 

 

仄暗いライブハウスの一角。ステージの上には五人の少女。それぞれ楽器を手に持っており、納得がいく様にチューニングしている。その音だけが静かなライブハウスに響く。

 

それを見上げるのは二人の女性。こじんまりしたテーブルに肘をつきながらステージを見上げる金色の髪をストレートに垂らした少々キツイ目をした女性と、柔らかな笑顔を浮かべながら、ファッションセンスはバリバリのイケイケ。耳にピアスつけまくりの黒髪黒衣の女性。その二人だけ。他に観客は、ない。

 

 

 

 

ベースを構え、鋼鉄の糸を弾く。いつもの重低音がステージに響くのを確認して、音を止める。

周りを見渡してみる。…多分、虹夏はいつも通り。私達もまあまあ場数踏んできてるしね。流石。

一年ズは…此方も緊張は見えないね。流石に郁代とぼっちは少し表情が硬いな。まあ、ここまで来たらやってもらうしかない。

…思えば、虹夏に暇なら自分のバンドでベースをやれと、誘われて気付けばここまで来てた。なぜ私はもう一度バンドをやりたい?なぜバンドに縋り付くのか?あんな思いしてまで、なぜ。

当然だ、私はまだ掴みたいものを掴んでないからだ。ただの直感で、私の願望なのかもしれないが、今この皆でなら、私がやり残したもの、掴みたかったものを掴みに行ける。そんな気がするんだ。

 

す、すぅー。はぁー。よ、よし。チューニングも合ってる。やるぞ。

私は下手。そんなの自分が一番よく分かってる。今の自分に出来ること。それをやるだけ。

余計なことなど考えるな喜多郁代。必死になって声を張り上げていれば、周りの皆が何とかしてくれる!

伊地知先輩!リョウ先輩!黒井さんに、ひとりちゃん!

私一人ならオーディションを勝ち抜くなんてムリだろう。でも、皆でなら!

私の全部、皆に預けます。だから、皆も私に力を貸して!

 

 

よっし。やってやるぞ!

この日のために練習を積んできた!

全く。ツンデレお姉ちゃんめ。私達が売れて有名になってこのSTARRYの名前を広げてやるって言ってるんだから、大人しく任せとけばいいのに!

こうなったら正々堂々正面突破でギャフンと言わしてやる!行くよ皆!

 

 

…。私は何のために音楽をしてる?考えてみた。一晩。結果よく分からなかった。

最初はさ、ギター出来てカッコよければ、チヤホヤしてくれるかな。誰か話しかけてくれるかな。そんなくだらない理由だった。でもそれは叶ったじゃん。

ならさ、私は今、何のためにバンドをする?音楽をやる?

チヤホヤされたい。勿論それはある。でもそれは、もう私だけじゃやだ。

虹夏ちゃん。リョウ先輩。喜多ちゃんに、黒井さん。私をバンドに引き入れてくれた、優しい人達。

皆の想いに応えたい。期待してくれているなら返したい。

チヤホヤされるなら、私一人じゃなく、皆で。

一人ぽっちは寂しいもんだよ。散々体験したんだ。もうこりごりさ。

もっと皆でチヤホヤされるため、バンドで売れて続けていくため!私は、私達は!こんなオーディションなんかで足踏みしていられないんだ!!

 

「け、結束バンドです!!よ、よろしくお願いします!」

 

「…」

 

誰も答えるものがない名乗り。その後少し気まずそうに伊地知先輩が続ける。

 

「じ、じゃあ!『ギターと孤独と蒼い惑星』て曲をやります!!」

 

その宣言を聞いたあと、バンドメンバーの全員と目線を合わせて頷く。同時に伊地知先輩のハイハットでリズムとタイミングを計る。

この曲はリズム隊が重要になる曲だ。特に伊地知先輩の負担が大きい。だいぶ難しく複雑なリズム感が要求される。

私とリョウ先輩と伊地知先輩。三人で息を合わせる必要がある。

だが、私達は積んできた。練習を。それこそ暇さえあれば合わせで練習して。難しいがきっちり合わせれば、爆発力も凄い。

リズム隊がしっかりしていれば、あとは…。ふふふ。期待してますよ?ギターヒーローさん!!

喜多さんは声が良く出てる!流石にまだギターまで手が回ってないみたいだが、それは私がフォローできる。

そして、サビあたりにまで曲が到達したあと、空気が一変する。

ひとりさんがエフェクターを踏み込み、ギターを掻き鳴らす。心の中を血と共に曝け出すような凄まじい演奏に、一瞬店長さんが目を見開いたかのように見えた。少しテンポが走っているが、リズム隊の皆と目線を合わせて頷き、ひとりさんのリズムに我々が合わせる。

あは。あはは。あはははははははは!!!!!!これ!これだよ!!刮目しろ下賤の者共。頭を垂れろ!これがギターヒーロー!!私のヒーローだ!!誰よりもカッコよくて誰よりもギターが上手い!!目の前の道を照らし続けてくれた私のヒーローだ!!

喜多さんが少々辛そうだが本気を出したひとりさんの暴力的な演奏に喰らいつく!

あの子は分かったんだ。細胞レベルで、演奏のテンポが変わったことを理解して、そのテンポに合わせてる!まさにセンスの塊!!

私達も上がったテンポに合わせるのにかなり難儀したが、どうにかこうにか喰らいつく!ヒーローが闘っているのだ。下手な演奏で邪魔するのは野暮ってもんだろうが!!

いつの間にかひとりさんの独壇場となったステージだったが、何とか最後まで弾ききる。

肩で息をしながら、周りを見渡してみる。

喜多さんがマイクスタンドにもたれかかりながら今にも息が止まってしまいそうなくらいに呼吸を乱している。イキナリ上がったテンポに無理やりついて行ったからだろうな。ごめんね喜多さん!

僅かに息を乱したリョウ先輩と伊地知先輩と目が合う。サムズアップを送ってみると、リョウ先輩は僅かに口角を上げ、伊地知先輩は満面の笑みでサムズアップを返してくれた。

 

「も、もももも申し訳ありません途中から周りが見えなくなって!テンポ走りまくってめちゃくちゃな演奏を!大事なオーディションで私なんて事〜!!」

 

ひとりさんがこちらを振り返り、なんかズレた謝罪をして頭を下げてくる。私達三人はそれを受けて、打ち合わせたわけでもないのにピッタリと動作を合わせてひとりさんに笑顔とサムズアップを返したのだった。

 

「へ?え?」

 

「くっ、あっはははははは!」

 

困惑するひとりさんと、そのリアクションを見て、心底愉快そうに笑う店長。

 

「あ〜あ。いや、ごめん。思わず笑っちまったわ。…うん。良いんじゃない?…練習してきたな。お前ら」

 

コチラを見上げて、店長は笑顔だ。…やったか?大分好感触かなこれ?

 

「まあ、私も仕事だ。ダメ出しはしとくが。虹夏。初め少しリズムミスっただろ。ドラムはリズム隊の中心だ。もっとしっかりしろ」

 

「うぐっ!?す、すいません…」

 

「ベース。お前は上手いがたまに協調性ないのが弱点だ。様子見て必要ならお前が引っ張ってやれ。それをやれる実力はあるんだから」

 

「…はい。店長」

 

「…リズムギター。難しい役割だろうによくやった。特に指摘する部分もないが…、強いて言うならもう少し、一つ一つの音に深みを持たせる事。お前なら出来るはずだ」

 

…廣井さんにも似たようなことを言われたな。難しいが、頑張ってみよう。

 

「ボーカル!」

 

「ちょ、ちょっと待って、店長さん…はぁ…はぁ…」

 

喜多さんはまだ息を乱していた。余程アップテンポの曲がキツかったらしい。

 

「ははは。一曲でそんななってたらもたねぇぞ。体力づくりも課題だな。…と言いたいとこだが、恐らくは、予定にないテンポアップ。よくついて行ったな。お前はまだ課題山積みだが、多分一番伸びるのもお前だ。取り敢えず手元を見ないで客席の方だけ見て歌えるように頑張ってみな」

 

「はぁ…はぁ…、あ、ありがとうございます頑張ります…」

 

「は、はわわ喜多ちゃんごめん私が勝手にテンポ上げちゃったせいで…!」

 

「だ、大丈夫よひとりちゃん…はぁ…はぁ…」

 

最早虫の息の喜多さんを心配してひとりさんが声を掛ける。喜多さんは未だ俯きながらも何とか答えを返していた。

 

「ふむ。ラスト、リードギター」

 

「ふぇ、は、はははい!!」

 

「まあそう縮こまるなよ。取って食うわけじゃねえ。…多分さ。お前は上手いんだよな。でも、恐らくは対人でバンドやった経験が少ない。たまに演奏が独りよがりだ。そこは気を付けろ」

 

「…はい」

 

「いい仲間を持ったな。お前はもうこれから一人じゃない。あのテンポアップに信じてついてきてくれる仲間なんて、探したってそうそう見つからないぞ?少なくとも、仲間だけはお前のことを見てくれてる。勿論、私もだ。お前のことを見てる。ちゃんと、見てるからな。自信を持て」

 

「は…はい。はい!!」

 

「苦言は以上だ。中々良かったぞ?約束通り出してやるよライブ」

 

「えっ」

 

「はあ…やっ…」

 

「お」

 

「!」

 

「やっ…」

 

一同、声を合わせて。

 

「やったー!!!!!」

 

各々楽器を置いて、ステージの中心に集まり、喜びを分かち合う。やった!これでまた、ステージに立てる!

 

「やった!やったわ黒井さん!凄い!!」

 

「ええ喜多さん。貴女も凄かった。あのテンポアップ。よく反応してくれたわね」

 

私の手に手を絡めてぴょんぴょん跳ねて喜びを表現する喜多さんに言葉を返す。

 

「く、黒井さんも喜多ちゃんも凄かったです…うぷ」

 

「ちょちょちょちょちょ!?どうしたんですかひとりさんその顔色!?」

 

「慣れない事したから胃液が大量に逆流して…!」

 

「ヤバい!!誰かバケツを!リョウ先輩!伊地知先輩!!」

 

「おぼろろろろろ!!!!」

 

「だー!!くそ間に合わない!!ギターヒーローさんのローゲー!!溢してなるものかああ!!」

 

「きゃあああああ!!??」

 

「うわあああ!!ちょっこなちゃん素手はヤバいって!!リョウバケツバケツ!!」

 

「合点承知之助」

 

ステージの上でドッタンバッタン。すったもんだを繰り広げる五人の少女を、何処か遠い目をしながら、伊地知星歌は見守っていた。

 

「あーあーあーあ〜。夜明けの田端駅じゃねえんだからよ。面白いやつだね全く」

 

「店長。よかったんです?」

 

「んあ?何がよPA」

 

「複雑なんじゃなかったんですか?妹さんの事」

 

「ああその事。まあ待ってやれよ。今ドタバタしてるから。最後に聞くつもりだ…」

 

ステージの上では黒井此方が後藤ひとりの例のアレを五割近く素手で受け止めるという芸当を見せてすんでの所でバケツが間に合う。

その後も片付けやら手洗いやらうがいやらでしばらくステージ上はドタバタしてたが、少し落ち着いたところで、伊地知星歌は声を掛ける。目に再び鋭い光を宿しながら。

 

「虹夏!」

 

「はえ!?な、何!?お姉ちゃん」

 

「最後に一つ。…いいんだな?」

 

妹の目を鋭く見据えながら問い掛ける。どうやら一瞬、何を問い掛けられたか分かっていなかった伊地知虹夏だが、やがてその意図を理解したように、少しだけ目を伏せた後。

 

「…お姉ちゃんが悪いんだよ?あんなにキラキラしたライブするから。憧れるな、って方が無理だよ。私はこの道を進む。後悔なんかしない。してやるもんか。…だからさ。お姉ちゃん。ひとりちゃんだけじゃなくて、私も。私達の事も!ちゃんと見ててね!!」

 

ニカッと笑ってピースサインを返す。その様子を見て、伊地知星歌は髪をかきあげ、観念した様にニヤリと笑った。すると、隣から指で脇をツンツンと突かれる。

 

「ほら〜杞憂だったでしょ?私の予言が当たりましたね」

 

「ああ。まあな。虹夏。お前の覚悟。確かに見せてもらった」

 

ニシシッと。ステージの上で伊地知虹夏が笑う。そのやり取りを固唾を呑んで見守っていた結束バンドの面々も、緊張を解いた。だがしかし。伊地知星歌が言葉を続ける。

 

「まだ調子に乗るのは早いぞ結束バンド。お前らにゃ、チケット売り捌いて貰わないとな。そうさな…。初めてだし、取り敢えずチケット二十五枚でいいや。一人頭五枚。捌けなかったらノルマ代を払ってもらう。虹夏。私はお前をこれからは一介のアーティストとして見る。手加減はしねえぞ?」

 

「望むところだよお姉ちゃん!二十五枚!?楽勝に売り捌いて、ライブ大盛況にしてみせるよ!」

 

「ふん。いいだろう。期待してるぜ?」

 

…かくして、私達はライブ出演を勝ち取った。まだチケットを売り捌いて、お客さんに来てもらわなきゃならないからやる事は残っているが、一先ず喜んでいいだろう。

 

「あっがっぎっ!?と、友達結束バンドの皆以外にいないのにチケット五枚!?えっどっどうしたら!?」

 

…うん。前言撤回。前途多難だわこりゃ。ひとりさんはアレかな。カッコよく締めちゃならない呪いにでもかかっているんだろうか。

次の結束バンドの目標は、チケット全員全部売り捌いてソールドアウトさせる事!皆!頑張っていきましょう!!

 

 






オーディションに合格したら、今度はチケットを売り捌く。バンドはやることが多くて大変ですね。

お気に入り登録ありがとうございます!励みにしてます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。