女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!?   作:はま0821

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タイトル通りの回です。
彼女に関しては、原作でも出番が多いクセにバックボーンが余り出てきていません。出てきていませんよね?


16 ライバル!!

 

 

(ぽいずんさん!やりましたよ私達ライブ出来ることが決まりました!まだ少し先なんですがご報告です!)

 

(でかしたわよ黒井さん!そ、それで何処のライブハウスで何時やるの!?)

 

(場所は下北沢のSTARRYってライブハウスで、日付は八月の二十四日です!)

 

(ぜ、絶対に行くわ!愛しのギターヒーローさん!待っていて!ようやく生でそのカリスマっぷりを拝めるわ!)

 

上のやり取りは、取り敢えずライブできることが決まったので、ギターヒーローさんを見たいであろうぽいずんさんに報告した際のロインでのやり取りだ。

実に、まずいわよね〜。ぽいずんさんもギターヒーローさん、すなわちひとりさんのキャラを大分誤解していらっしゃる。

仕方ないよねだって概要欄に書いてあること鵜呑みにしたらクールで友達多くてリア充な、カッコいい人を想像するもん。

もう有り体に言っちゃうけどひとりさんは、そういうイメージと真逆!

私ひとりさんがイメージと違ったことに文句言うつもりは全く無いのだけれど、あの虚言だらけの概要欄だけは何とかしたほうが良いと思う!

私はギターヒーローさんとはまた違う、ひとりさん独自の魅力に気付いてからはまるで気にしなくなったけど、ぽいずんさんはどう考えるか分からないからなぁ…。

まあ、例えガッカリしてしまっても私がフォロー入れとけばいい話なんだけど。…入れきれるかなぁ…。

まあそれはそれとしてだ。

 

(ぽいずんさんのチケットは既に手配しておきました。チケット代は頂きますが…当日、奮って参加してください!)

 

(いくら積んだって行くわよ…!ホントにありがとう黒井さん!当日、楽しみにしとくわね!)

 

これで私は一枚ノルマ達成。あと四枚だ。ケッケッケ。利用できるものは何でも利用しなきゃ。…これは少しズルいかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近はホント、私達結束バンドは集まりがいい。仲が良いことの証拠かな?

今日も今日とて、誰一人バイトのシフトに入ってもいないのにも関わらず、STARRYに全員集合して、今後のバンド活動の事について意見を交わしている。

 

「一先ずはライブ決まって、喜ぶべきなんだよねぇ〜」

 

私達がよく使っているダベリ用のテーブルに頬杖をつきながら、伊地知先輩が呟く。

 

「え?も、勿論ですよ伊地知先輩。念願のライブじゃないですか!私は嬉しいですよ!」

 

きたーん!と。今日も明るく前向きな喜多さんが元気に皆を盛り立てる。その隣ではひとりさんがコクコクと、喜多さんの言葉に同調していた。

 

「…盛り下がることは言いたくはないんだけどさ。私達のチケットノルマは二十五枚。…例えば半分も売れなかったとしたら、郁代。どうなる?」

 

リョウ先輩に問い掛けられ、秀華高生組はポヤポヤ〜っとした顔で腕組みをしながら考える。…私も想像してみた。

他のバンドの時は盛り上がっていた客席が、私達の時に限って穴だらけ。

必死にライブしてもまるで盛り上がらず空席の多い客席としらけた雰囲気に徐々に追い詰められ、ミスも不手際も増えていく。

そして、埋められなかった客席の分のノルマを払って、不完全燃焼のライブをやってしまった自責と後悔の念だけが残り…。ここまで想像したところで隣から奇声が上がった。

 

「きいやああああああああ!!!!!」

 

「わああああ!?なになにぼっちちゃん!?どしたの!?」

 

「そ、そんなの耐えられません埋まってない会場盛り上がってない客席必死に頑張っても暖簾を押す風みたいに空回りする私達何の手応えもないままノルマ代だけを収めて泣きながら会場を後にするなんてそんなのそんなのそんなのそんなのそんなのそんなの………!!!!!」

 

「おおお落ち着いてぼっちちゃん!そうならないように頑張ってチケット売ろうよ!ね!?」

 

「ううう…!皆さんは友達いるからそんなに楽観視出来るんだ私一人も皆以外に友達いない父母妹犬しか!残り一枚どうしても捌けないああああ〜!!!!」

 

「ふ、再び落ち着いてぼっちちゃん!犬は多分ライブ会場は入れないから!?」

 

余りのひとりさんの動揺っぷりに、喜多さんはうわあ…。とドン引き。伊地知先輩は諌めようと必死で、リョウ先輩とくれば、下を向いて必死に笑いを堪えていた。…この人でなしめ!

 

「ふっ…くくく…。ぼ、ぼっちさ。妹さんいるんだ?」

 

「はあああああ………!えっ?あ、はい。います…」

 

「うわあ!急に正気になるなよぼっちちゃん!?」

 

「へぇ。ちなみに今幾つ?」

 

「え?え、と…五歳です…」

 

「あらら。それじゃ残念ながらライブハウスには入れないよ。つまり、ぼっちが売り捌かなきゃならないチケットは、三枚!」

 

リョウ先輩がひとりさんを更なる絶望へと突き落とす。

 

「あ、あああ…あああああ!?あひゅう…!?」

 

あひゅった。限界を迎えるとあひゅるあたり、喜多さんと似てる部分もあるなひとりさんも。

 

「ぼっち。どうどう。そんな怖がんなくてもさ、三枚ぐらいなら行ける気しない?ぼっちってさ、ギターヒーローなんでしょ?登録者数三万人の」

 

そうか。そうだ。最近はひとりさんとギターヒーローさんを切り離して考えていたから気付かなかったがそうじゃん。

ひとりさんがその気になって宣伝すれば、チケットなんかすぐ捌けちゃうんじゃない?

そんな事を考えていると、ひとりさんからは意外な答えが返ってきた。

 

「…なんかそれはズルい気がして。み、皆さんは、私を、ギターヒーローとしてではなく、後藤ひとりとして扱ってくれた…な、なら私は、ギターヒーローではなく、後藤ひとりとして皆さんに報いたい…。き、詭弁であることは、わ、分かってますけど…」

 

成る程!確かにそうです!…でも。ならばどうしよう。

 

「ぼっち何をヌルいことを。三万人全員にチケット売れば幾らになるとぐはぁっ!?」

 

「少し黙ってろリョウ!!」

 

純粋で真っ直ぐなひとりさんの決意に欲ボケで水を差そうとするリョウ先輩を伊地知先輩が暴力(蹴り)で制す。伊地知先輩…ナイス。

 

「み、皆さん!チケット売り捌く方法ですよね!?そしたらこんなのはどうですか?」

 

手を挙げてぴょんぴょん飛び跳ねながら意見を言おうとするは、喜多さん。はてどんな案だろう?と、聞く耳を立てる。

 

「私たち結束バンドで路上ライブをやるのはどうですか!?それで、立ち止まってくれた人にチケットを売るんです!そうしたらノルマなんかすぐですよ!」きたーん!!!

 

目をシイタケ模様にして輝かせながら握り拳を作り、喜多さんが宣言する。しかし、中々どうして、面白い案かもしれない。

 

「そ、それいいかもね喜多ちゃん!私達の宣伝になる、チケットは売れる!ライブの練習にもなる!一石三鳥くらいの名案だよ!?」

 

「やった!えへへ〜」

 

弾けるような笑顔で、伊地知先輩に頭をナデナデされる喜多さん。なんて美しい光景、尊いね。

 

「ふふふ…。郁代。面白い。二十五枚を超えて売れば、その利益は私達のもの。売りまくって早々人気バンドになったろう!」

 

「いいですねリョウ先輩それ。店長すら唸らせた私達なら路上の素人達なんか楽勝ですよ。チケット余計に持っていって、なんか美味いもんでも食って帰ってきましょ〜う!」

 

私もポジティブに同意する。

 

「あわわ…!ろ、路上なんて誰に見られるか分からない場所でライブなんか出来るのかな私怖い指が動かない…!!」

 

「大丈夫ですよひとりさん!私もフォローしますし例え駄目だったとしてもひとりさんだけの責任じゃなく皆の責任です!ド〜ンと構えましょう!」

 

「あ、あうう…、く、黒井さん何でそんな強いのぉ…?心臓鋼で出来てるんだきっと…」

 

何を失礼な。私だってプレッシャー感じる時は感じますよ。今はその時じゃないってだけです。

我が師ながらネガティブが過ぎますよ。

 

「よし!それじゃ結束バンド!初めての路上ライブと洒落込みますか!皆行くよ!」

 

あれよあれよと伊地知先輩の号令が響き、今日の活動が決定する。まあ私も本番前にライブの経験値積んどきたかったし丁度いい!

 

そこからは細かいところを決めて早速下北の駅前に繰り出した。

何か路上ライブというのは正確には許可を取ってからやらなければならないらしくて割とハードル高いらしい。

真面目に許可を申請してても通ることはほとんどないらしく、基本はサッとやってサッと撤収の、無許可だ!と、店長は仰っていた。

バンドマンとは無法者ばかりとは店長の弁。参考になります!

 

下北沢の駅前に着いて、人通りのいい場所などを厳選しようとしていると、先に来ていて既に結構な数の人を集めてライブをしているバンドがいるのを発見した。

 

「あちゃ〜、先客がいるよ。今やっても旗色が悪いしまた次の機会にする?」

 

伊地知先輩がそんな事を言い出す。確かに、こういう路上ライブみたいなのは、後発組には辛い。

先にやってる人達のほうが圧倒的に有利だ。…日を改めるか。などと考えていると、聞き覚えのある鋭い声に思考が止まる。

 

「あ、ちょっとこなちゃん!?どうしたの!?」

 

伊地知先輩の困惑した声をスルーしながら、人垣を掻き分けて前に出る。

低く唸るように響くギター。心臓を直接ノックされる様なドラムス。そのドラムスと共に曲の根底部分を形作るベース。

…恐らくはメタルロックと呼ばれるジャンルだろう。一つ一つの楽器の音が強調されて、凄まじい迫力だ。

だが、その楽器の狂暴な程の音の圧力に、ボーカルは全く負けていない。

それどころか高いレベルで融合を果たして、バンド全体のレベルをさらに引き上げている。…私は、この声の持ち主に心当たりがあった。

 

「やっぱり…。な、何でこんなとこに…」

 

困惑した。確かに私が思ってた通りの姿があったのだが、確か彼女のホームタウンは新宿のはず。何故下北くんだりまで来てライブしてんのか。あてつけかあの女!

 

「えっ何こなちゃん。ひょっとして知り合いでもいた?」

 

「…ええいます。ちょっと昔に色々あった奴が」

 

「え〜!なんかカッコいいわー!因縁の相手ってやつよね!」

 

喜多さんが囃し立てているが、そんな良いものではない。昔、全く手も足も出ずに完敗した相手、というだけである。

 

私は一曲が終わるまで待って、件の相手に話し掛けに行った。

 

「久し振りね…!大槻ヨヨコ!」

 

「…!貴女、黒井此方!」

 

四人組のガールズバンド。そのメインボーカルを務めているのが、大槻ヨヨコその人。上は黒の革ジャン、下は黒のスカートの黒単色のコーディネートに、茶色のツインテールのヘアスタイル。ベレー帽。中々ロックな見た目の美少女だが、今はそんなんどうでもいい。

 

「腕は全然衰えてないみたいね…!安心したわ。どうやら難儀していたメンバー集めも終わったみたいじゃない」

 

「ふ、ふふん!まあ私の人望を持ってすれば、メンバー集めなんて容易い事よ!」

 

「よく言うわよ!全然メンバー集まんない何で〜!?って泣き事言ってたのは何処の誰かしら!?」

 

「ぐう…!う、五月蝿いわよ!昔の恥部を嬉々として話さないで頂戴!」

 

全く…!相変わらずああ言えばこう言う…!だがしかし。先の路上ライブのクオリティ見る限り、腕は全然落ちてないどころか、更に進化している。ギターも…!み、認めたくはないけど、現時点では私よりも…!く、くそう!

 

「ちょっとちょっとこなちゃん。私達にも説明ちょうだいよ。この人とは知り合いなの?」

 

「む、伊地知先輩。すいません。知り合いというより、ライバルです。昔完膚なきまで叩きのめされた事がありまして」

 

「い、いや。貴女すんごく上手いわよ?そこの認識は改めなさいと何回も言ってるじゃない!あの日のライブは偶々私達の方にお客さんが集まっただけよ!アレで勝ったなんて私思ってないわよ!」

 

「ぐぬぬ…!勝者の余裕のつもりかヨヨコ…!全く忌々しい!でもね!今は私にだって頼りになる仲間がいるわ!今度は負けないんだから!」

 

「相変わらず聞く耳持たないわね。…貴女達も大変じゃない?こんな猪突猛進ガールの近くにいると」

 

「あ、あはは…。もう慣れました。ええと、大槻ヨヨコさん。こなちゃん…。黒井さんの知り合いなんですね」

 

伊地知先輩が大槻ヨヨコに問い掛ける。

 

「ええ。昔私のバンドと此方のバンドが路上で対バンしたことがあって、それからね。路上ライブではよく一緒になったものだわ。此方。弟さんの方はどうしたの?」

 

「彼方?今は音楽やる気はないみたいよ?楽器は触ってるみたいだけど、急にバンドもやめちゃって。モチベ待ちなんじゃない?」

 

彼方、とは私の弟の名前だ。私は以前弟がやってたバンドで一緒に活動していた。主に路上で活動していたのだが、その時に同じくライブしていた大槻ヨヨコとは知り合った。お互いにしのぎを削りあったものだわ。

 

「…勿体ないわね。あれほどの腕があるのに。…まあ、あれだけ音楽にのめり込んでいた身。遠くないうちに戻ってくるでしょうが…」

 

何か音楽に精通している奴ほど彼方のことを高く評価するんだよなぁ〜。私からすりゃ、一度負けたくらいで拗ねて逃げた弱虫毛虫なのだけど。

 

「ヨヨコ先輩。私達にも紹介してくださいよ。私達は何時まで黙ってればいいんすか?」

 

「むっ、そうだったわね」

 

声に反応してヨヨコの後ろを見てみれば、手早く機材を片付けて帰り支度を整えていた、他のバンドの面々が興味深げにこちらを覗き込んでいた。中々に個性的な面々である。

 

「ふふん。黒井此方。もう友達いない!なんて言わせないわよ。このようにシデロスは前にも増して、強力なメンツに生まれ変わったわ!まずはドラムス!」

 

ビシッと指を差されて、少し恥ずかしそうに銀髪の少女が前に出てくる。

口元を黒いマスクで覆っているため表情が読み取りにくいが、先の発言を聞く限り、この子も大槻ヨヨコの傍若無人ぶりに頭を痛める苦労人なんだろうな。

 

「始めまして、黒井此方さん。とバンドの皆さん。シデロスの長谷川あくびと申します。歳が近いガールズバンドの人達なんてあまり会えないんで嬉しいです!仲良くやりましょう!」

 

ほら見ろなんて常識的でマトモな人なんだ。ドラマーとは苦労人ばかりなんだろうか。うちも伊地知先輩がリョウ先輩やらひとりさんやらにいつも迷惑かけられてるよなぁ〜。

 

「う、うん!私達も嬉しいよ!私は伊地知虹夏!私もドラムス!お互い大変かもだけど、頑張っていこうね!」

 

ガッチリとドラマー同士、握手を交わす。

 

「はい次ね!次は…そうね、ベース!内田幽々!」

 

「呼ばれて飛び出てヒュ〜ドロドロ〜」

 

視界の下の方からゆらゆらと揺れつつ、黒髪の少女が現れる。肩に二体の洋風人形を乗せた、黒いゴスロリ風の服に身を包んだ少女が、まるで和風のお化けを気取るように舌を出しながら立っていた。

 

「…………」

 

「ふふ〜。和風は専門外なのですが、今日は敢えてこれで〜♪シデロスは、ベースの内田幽々で〜す。どうぞよしなに〜」

 

呆気にとられてリアクションし損ねた。霊感少女…そんな感じなんだろうか。肩に乗ってる人形が気になる…。結構内田さんは動いていたのに、肩に乗ってる人形は落ちそうな気配すら見せなかった。なんなら自分でバランス取り直していたまである。見間違いだろうか…。

 

「むむっ?中々凄いのが憑いていますね皆さん…要注目ですよ〜」

 

憑いている!?何が!?怖いからやめなさいよ!?たちの悪い冗談を否定しようと声を出そうとした所、それよりも先にリョウ先輩がリアクションする。

 

「ほほう?中々興味深い…、因みに私には何か憑いているの?」

 

そう問い掛けるリョウ先輩。すると、幽々と名乗った少女はリョウ先輩の肩の辺りを一瞥してからこう答える。

 

「ふふふ、すぐお金使い果たしちゃうでしょ〜、そういう系のが憑いていますよ〜」

 

なにい!?会ってまだ間もないのにリョウ先輩の浪費癖を正確に見抜くなんて…!も、もしかして本物…?

 

「す、凄い。何で分かったの?」

 

「そんな金欠さんに朗報です〜。あそこにある自販機のお釣り出るところを調べてみてください〜。福があるよって。ベルちゃんからのお告げで〜す」

 

その内田さんのお告げを聞くなり、万人が引くようなスピードでリョウ先輩がお釣り部分を調べる。欲の皮が突っ張りすぎている。お釣りが出てくる部分をガッチャガッチャと乱雑に調べる背中を見て、恥ずかしいやら悲しいやら。

 

「ふおおおお…!ご、五百円玉!う、嘘…!?か、神…!?」

 

どうやら本当に福があったらしい。五百円玉を高らかに掲げながら、リョウ先輩が内田さんに信奉にも近い眼差しを向ける。ヤバい。このままではリョウ先輩が内田さん信者になる!何とか冷静にさせないと!と割って入ろうとすると、その前に大槻ヨヨコが割り込んできた。

 

「どどどどう?誠に遺憾だけれども、幽々の力は本物よ。私達に見えない物が見え、聞こえない声が聞こえるの!ああなんて恐ろしい…!」

 

「貴女が一番怖がっているじゃない!相変わらずお化けの類全然駄目ね!」

 

「う、五月蝿いわね黒井此方!怖がらない貴女達の方がおかしいのよ!ハイもう次!怖いから次!」

 

「安心してくださ〜い。私は悪意があったり目に余る人ぐらいにしか霊感は使わないですから〜」

 

「幽々。悪いけどちっとも安心できないわ。最後!うちのリードギター!本城楓子!」

 

「は〜い!ギターの本城楓子です〜!ギターやってる同年代の人なんてヨヨコ先輩以外初めてかも〜仲良くしましょう〜!」

 

最後に私達に挨拶するのは、メタルバンドに珍しいぐらいフワッとした雰囲気を纏った、優しそうなお嬢様風の美少女。

栗色の髪の毛を腰まで伸ばし、仕草や表情は普通すぎるほど普通だ。シデロスは、キワモノか普通の二択しかないのかしら。

 

「も、勿論コチラこそ!きゃー!ひとりちゃんや黒井さん以外にギターやってる人と知り合いになるのなんて初めてだわ!本城さん!シデロスの皆さん!仲良くしましょうね!」

 

喜多さんが早速持ち前のコミュ力で本城さん達と打ち解けている。

その後ろでひとりさんが何かを伝えたそうにモジモジしながら、あ。とか、うう…。とか、小さく呟いている。

…私もひとりさんの心境を察するのが上手くなってきたな。大体何をしたいのか分かるわ。

ひとりさんの背中に回り、優しく喜多さんの方向に手の平で押し出す。

 

「わわっ…!く、黒井さん、なにを…!?」

 

「あっひとりちゃん!ひとりちゃんも一緒に喋りましょうよ!ギター出来る友達!欲しいでしょう!?」

 

「あっ、は、はい!」

 

文字通り背中を押す。ってやつだ。喜多さんに任せとけば何とかしてくれるだろう。

結束バンドの面々とシデロスの面々は、上手い具合に打ち解けたようだ。…私達を除いて。

 

「…。暫く見てなかったわね。元気だった?」

 

「友達みたいな切り出し方ね。私は貴女と馴れ合うつもりはないわよ。ヨヨコ」

 

「むっ。わ、私は別に友達でも…ゴニョゴニョ…」

 

くっ。これだ。偶に素直になるから嫌いになれない!

わ、私だってヨヨコが憎い訳では無い。た、ただ、自身の生き方との兼ね合いの問題なのだ。

ギターヒーローさんの隣でプレイするに相応しいギタリストになるため、昔ヨヨコに負けたという事実に蓋をして生きられないのである。

分かっている。ひとりさんがそんな事を気にするわけないし、ヨヨコは何にも悪くない。これに関しては悪いのは完全に私である。

だがしかし!私は敗北を抱えたまんまヘラヘラ出来る程、人間出来ちゃいないのよ!

 

「わ、私と貴女はライバルよ!ヨヨコ!貴女も強力な仲間を得たみたいだけど!私も昔よりも上手くなったし、仲間も出来たわ!次は負けないんだから!」

 

「ら、ライバル…!それもいいかも…!」

 

昔から割と人間関係に関してはチョロいのよね。どうもヨヨコはライバルも、友達も、一色単に人との繋がり。みたいに捉えてる節がある。

 

「全く強情な奴…!いいわ!そしたらまた、叩きのめしてあげる!精々首を洗って待つことね!」

 

「望むところよ!」

 

黒井此方と大槻ヨヨコ。二人のやり取りを見たバンドの他の面々たちには。

 

「…何か、あの二人の仲が氷解する日は遠そうだね…」

 

「そうっすかね。伊地知先輩。私はあんなに嬉しそうにしてるヨヨコ先輩久し振りに見ましたよ。そんな心配することないと思うっす」

 

「えっそうなの!?」

 

「虹夏、私もそう思う。此方も全然怒ってないもん。あの二人にとって喧嘩は会話みたいなものなんじゃん?知らないけど」

 

「は、はへ〜。二人共よく見てるね〜。仲が悪いようにしか見えなかったよ〜」

 

このようなやり取りがあったとか。

 

 

 

 

 

「長居しちゃったわ…。帰るわよ皆!我が愛しき新宿に!」

 

「ホームシックすかヨヨコ先輩?」

 

「違うわよアホあくび!今日はFOLTでミーティングでしょ!?早く帰らないと先方に失礼になるでしょ!」

 

FOLT。まさかあの新宿FOLTか。シクハックの姉さん達とも知り合いなのかもね…。

 

「今日は貴女達のホームタウンの下北沢にお邪魔したわね!黒井此方に結束バンド!また縁があったら会いましょう!シデロス!行くわよ!」

 

「は〜い。結束バンドの皆さん!会えて嬉しかったっす!また何処かで!」

 

「近い内にまた会うことになりそ〜う。ベルちゃんとルシちゃんもそう言ってま〜す」

 

「喜多ちゃん!またね!結束バンドの皆さん!今度はもっとゆっくりお話ししましょうね!」

 

四者四様に挨拶をして、足早に下北沢の駅に向かって歩いていくシデロスの面々。

 

「ふわ〜。なんか嵐みたいな人達だったな〜」

 

「虹夏。路上ライブはどうする?」

 

「あ〜。しょうがないよ、出直そう。もう大分遅いし人通りが出過ぎた。ライブやるスペース無いでしょ」

 

そんな先輩方の会話を背中で聞いていた気がする。私はといえば、去っていく大槻ヨヨコの背中をしばし名残惜しそうに見つめて。

 

「ヨヨコー!!」

 

気付けばそう叫び。

 

「また会いましょう!」

 

自分の右腕を前に突き出し、そう声を掛けていた。どんな表情をしていたかは、分からない。忘れた。振り返ったヨヨコは暫く私を唖然と見つめた後に、フッと表情を崩し。

 

「ほんっと、貴女は素直じゃないわよね…!ええ!!黒井此方!また会いましょう!!」

 

同じく腕を突き出して、そう答えてくれた。

 

 

 

 

下北沢の駅からの帰りしな。私は皆に質問を色々受けた。

 

「えっ、く、黒井さん…、け、結局、大槻さんとは仲が良いんですか?悪いんですか?」

 

ひとりさんからの質問に口を開こうとすると、それより前にリョウ先輩が答える。

 

「一口に説明できる関係じゃないんだよ、ぼっち。人間関係にも色々ある」

 

「なんかカッコよかったわよ黒井さん!二人にしか分からない様な特別な関係!って感じで!」

 

喜多さんがそう言うが、そんな褒められたものではない。私が私の未熟さ故、自身の一部分を認められてないだけだ。

 

「まあでもこなちゃん。こなちゃんは大槻さんに勝ちたい。これは間違いないよね?なら、勝とうよ!もっともっと練習して!私も協力するからさ!」

 

「それしかありませんよね!もっともっと練習して皆で合わせて!取り敢えずは八月のライブ!皆で大成功させましょう!!」

 

「郁代。気が早い。まだチケット一枚も売れてないよ。これじゃ成功もクソもない」

 

「はあああ!!そ、そうだった全く事態が進展してないこのままじゃまさかのぼっちリサイタルになっちゃうチケット売らなきゃどうにかしてチケット売り捌かなきゃああ…!!」

 

仲間の頼もしい言葉に思わず頬が緩む。約二名違う場所を見ているが。そうだ。私には今、頼りになる仲間がいる。今なら大槻ヨヨコに勝つことだって、不可能じゃないはずだ。私一人なら厳しくとも、バンドとしてなら。

 

「…STARRYに帰って練習しましょう!皆さん!シデロスだけじゃなく!打ち倒さなきゃならない相手はいっぱいいます!頑張りましょう!」

 

「うん!頑張ろうこなちゃん!どんどん練習してバンドとして凄くなっていけば!いつか大槻さんにだって追い付けるよ!」

 

「そうだね。此方。いずれにせよやることは変わんない。練習して実力を付けて。ライブを成功させる。そうすれば、此方もいつか借りを返せるよ」

 

「頑張りましょう黒井さん!私たちが力を合わせれば出来ない事なんかないんだから!きゃー!やっぱり青春バンド物はこういう展開がなくっちゃね!」きたーん!!

 

「く、黒井さん…!あ、貴女は私をいつも助けてくれます…!わ、私だって貴女の助けになりたい…!が、頑張りましょう…!き、きっと、乗り越えられますよ!」

 

皆の言葉がじわりと胸に染みていく。少しずつ夕暮れに染まりつつある街並みを見ながら、私は決意を新たにし、仲間と共にSTARRYへの道すがらを行くのだった。

 

 

 

 

 






分かりやすい壁。主人公より格上の存在。
でもけして憎いだけの相手ではない。
シデロスの皆さんは書いてて楽しいです。ただ、人数が多くなってしまうため、文字数がかさむのが難点です。
それはそれとして、彼女たちはどんどん登場させたいです。


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