女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!? 作:はま0821
この時期は体調管理が難しい…!!よく分かんない胃腸炎やら熱やらで遅くなりました!すいません!
…えっと。何故こんな事に。私は目の前で起きている事態に困惑していた。
と、いうのもだ。私達はつい先程までゲームに熱中していたのだ。
一番強えやつを決めるための格ゲートーナメント。その決勝。
私とリョウ先輩は、互いに一ゲームずつ取り合い(決勝のみ三ゲーム先取と事前に取り決めた)次が最後の一戦。一番盛り上がるその最中。
突然出入り口である襖の方から足音が聞こえ、少しの間の後、開かれる。全員で一斉に振り返ると、小豆色の髪の色をしたスラリとしたスタイルのイケメンが、私達を物珍しげに見渡していた。
「…君達が…!」
二の句を継げずにいる私達に、その小豆色イケメンは一通り目配せをした後、額を畳に擦り付ける勢いで頭を下げる。てか擦り付けてる!正しく土下座だ。そして、こう言ったのだ。
「ほんっとうにありがとう!娘と友達になってくれて!!」
以上。状況説明終わり。いや、だって困惑するでしょ?友達と遊んでいたらいきなりイケメンが現れて土下座してきたら。私は正直何を言っていいか分からなくなり、恥ずかしい話沈黙してしまった。すると。
「も、もうっ!もう!!お父さん!変な事しないでよ!何してるの!?」
ポヒーッと、頭から蒸気を出しそうな勢いで、顔を真っ赤にしたひとりさんが地団駄を踏む。それを見ていたふたりさんは、きゃはは〜♪おとうさんがまた変〜!とか言っていた。そして私はようやく目の前の状況に合点がいった。そうか。もしかしてこの人が!
「こらこら〜?おとうさ〜ん?ステイよ〜?爆笑ギャグで場を和ませる!ってな話はどこいったのかしら〜?」
未だ頭を擦り付けようとしている小豆イケメンを阻止して立たせつつ、注意する妙齢の美人な女性が一人。桃色の髪に、ひとりさんやふたりさんと同じ色の瞳。こちらはすぐに分かった。
「全くもう…。すみませ〜んうちの旦那が突拍子もない事を〜。私は後藤美智代。ひとりの母です〜。…そして、この隣の残念なのが、ひとりの父親〜。後藤直樹です。どうぞよろしく〜」
「まっまずかったかな!?す、スマンひとり!いや、確かに行く前は爆笑ギャグかまそうとしてたんだよ!それが、ひとりの友達の顔見た途端なんか込み上げてくるものがあって…!」
「やめてよホントに!!これ以上友達におかしな娘だと思われたらどうするの!?お父さん責任もてるの!?」
ひとりさんがお父さんを叱り飛ばす。
…ていうか。レアだ!ひとりさんが凄く大きい声を出して、プリプリと怒っている!!
ひとりさんは私達の前では、奇行か、もしくは大人しいかの二択なのだ。
あまり感情を見せることがないため、今の怒っているひとりさんは私にとってはとてもレアに映る。
「まあまあ、ひとりちゃん。お父さんも初めて見るひとりちゃんの友達にテンション上がっちゃっただけよねぇ?もうしないと思うから、許してあげて?」
「あ、ああ!!ひとり、もうしないぞ!お父さんは!」
「…むう〜!」
ひとりさんのお母さん…。美智代さんが場を取りなす。
まだ納得出来ずに膨れっ面でお父さんを睨むひとりさんがとても新鮮かつ可愛らしいのでベネです!
ひとりさんは家族相手だととても表情豊かなのだな。
今の表情、私の心の中のひとりさんフォルダに入れとこっと。
「さて!ひとりちゃんが友達連れてきてくれて嬉しいのは私も同じ!しかも今日は泊まりと聞いてます!腕によりをかけて御飯作るから、皆食べてってね!」
「御飯!?」
「反応が早すぎる!?図々しいわ!」
美智代さんが腕まくりをしつつそう宣言すると、光の早さでリョウ先輩が反応。伊地知先輩が取り零す事なくツッコミを入れていく。
「なにせひとりの初友達!我々も全力で饗させて頂くよ!嫌いなものとかアレルギーとかあったら言ってくれな!対応するから!」
「いえ!私は大丈夫です!」
喜多さんが素早く元気に答える。それに続いて我々も特にアレルギーなどないため、その様に答えた。
「もっ…もう…!お、お父さんも、お母さんも、お、終わり…!次は夕食の時…!!」
まだ何かと話し足りなそうなご両親の背中を押して、ひとりさんが自室から退席を促す。心なしか顔に赤みがさしてる。恥ずかしいのだろうか。
「ええ〜?…しょうがないなあ〜。じゃあ皆、夕飯出来たら呼ぶからな!それまでは自由にしてて!」
「美味しく作るわ〜♪待っててね〜」
なおもこちらにブンブンと手を振るご両親を何とかひとりさんは部屋の外に押しのけ、襖を閉める。すると同時に、照れ隠しなのだろうか。赤いままの顔を隠さず、私達に話し掛けてきた。
「す、すみません、お、お馬鹿な両親で…め、迷惑でしたよね…!」
「いえいえ。優しそうなご両親じゃないですか。とても羨ましいですよ?夕飯、楽しみです」
満面の笑みで、嘘偽りない本音を返しておく。ひとりさんは目をグルグルさせて、あう…。なんて言っていた。
「私も羨ましいよぼっちちゃん!仲良さそうで!」
「ホントです!私はプリプリ怒ってるひとりちゃんが可愛くて印象的でした!」
「ふふ…。確かに。ぼっちは以外と表情豊か」
「うう〜…。おとうさんとおかあさんの…ばかぁ…」
両手で顔を覆いながら、小さい声で呟いた本音。
私は聞き逃してませんよ?
ボイスレコーダー持ってくればよかったなぁ今日なあ!?
その後はいつもの五人にふたりさんとジミヘンを加えた面子で、テレビを見て過ごした。
やっていたのは何の変哲もないニュース番組だが、五歳児の感性で見てみるといつものニュースも少し違った角度が見えてくる。
曰く、ハチ公像がジミヘンに似てる!とか。こないだまで桃色だった葉っぱの色が(恐らく桜のことだろう)今は緑色!なんで!?とか。
ひとりさんは聞かれるたびに丁寧な口調で返したり首を傾げて一緒に悩んであげたりしていた。
…姉属性のひとりさん…!もう既に私の中で来て良かった。という考えが去来する。だってこんなにも色んな表情のひとりさんが見られるのだ。なんて素晴らしい日だ…!
「みんな〜?まだお夕飯時間かかりそうなの〜。家のお風呂三人ぐらいまでなら一緒に入れるから先お風呂入っちゃって〜」
…こんな感じの後藤ママの声が届く。…なに?お風呂、だ〜とぉ〜!?
私はその言葉を聞きつけた瞬間にひとりさんを視界に捉える。さながら、獲物をロックオンした猛禽類のように。
「ぴぃえ!?」
「ふふふのふ!!今日はなんて素晴らしい日なのでしょう!?さあひとりさんいつぞやの続きと行きましょう今日こそ全てを私の手で明かして差し上げます!」
ワキワキと手の準備運動をしながら、涙目で後退るひとりさんにさらに距離を詰めようと足を踏み出すと、ふたりさんが私の前に手を広げて立ち塞がる。
「だめ!なんかおねーちゃん怖がってる!だめだよいじめちゃ!」
「ふ、ふたりぃ…!」
涙目で自分の数分の一の大きさしかない幼女に縋り付くひとりさん。な、なんか私悪者みたいじゃない!?それと同時に私の前には更に結束バンドの残りの面々が立ち塞がる!
「こなちゃん…?それはちょっとずるいんじゃ〜ないかい?こないだは確かに私は譲ったさ、自宅だったしね。でも今回は譲る道理もなし!」
「そうだぞ此方。私も気になる。ぼっちのぼっちっぷり。間違えたぼいんっぷり」
「わ、私だって気になるわ!ひとりちゃんの大艦巨砲主義っぷり!この目で確かめたい!どれほどのものか!?」
「あ、あうう…!?た、助かったかと思ったら助かってない…!み、皆さん、どうしちゃったんですかあ…!」
全てはそのたわわがイケない。そのあまりに豊満なたわわがなあ!だがしかし!邪魔くさい障害どもめ!ならば恨みっこ無しに公平に!
「ならグッパージャスで決めましょう!三対三のチーム分け!」
「お風呂に行くチームを決めようってんだね!いいよ!」
「ぼっちのぼっちを揉みしだきたい。神よ私に力を…!」
「わああ…!す、救いは!救いはないの!?」
「わたしはだれとでもい〜い!」
「ひとりちゃん!おっきな〇〇はホントにお湯に浮くのか試させて!後ピーをピーしたらピーになるのかどうかとか!!」
「放送禁止用語ばかりね喜多郁代!貴女の如き下賤の者はひとりさんとのお風呂には相応しくないわどきなさい!」
一同声を揃えて。
「せえの!!グッパージャス!!!」
「つっまんね〜一番ツマンネ」
「な、なによ…。そんなにつまんない?」
「ううん!此方ちゃんに喜多ちゃん!私はとっても楽しいよ!」
チーム分けはこうなった。私と喜多さんとふたりちゃん。そして、伊地知先輩とリョウ先輩とひとりさん。
嗚呼…。あの揉みごたえのありそうなパイオツは何処に…。ぺりぺりと腕のシールタトゥーを剥がしながら考える。
歳のせいでの発展途上はまあ仕方ないにしても、私と同い年でそのまな板っぷりではこの先の成長は…。ん?喜多さん…。板さん?
「それ以上失礼な視線を送ってきたらしばくわよ。ありがと〜ふたりちゃ〜ん!私もふたりちゃんと一緒になれて楽しいよ〜!」
「うん!楽しいね喜多ちゃん!」
けっと。心の中で悪態をつく。
…だが。喜多さん。中々どうして。
胸部装甲こそまだまだだが、それ以外の肢体。スラリと伸びたシラウオのような手や足。サラリとした赤髪。同性の私ですらハッと息を呑むほどの、ある種の未成熟な女の子しか持ち得ない儚さが香る美しさ。
喜多さんはそれを存分に持ち合わせていた。
「…あら?どうしたの〜?じっと見て。私の美しさに見惚れたのかしら?」
「うぐっ!?だ、誰がそんな板なんかに!」
「戦争ね!?戦争よね!?よっしゃかかってきなさい!」
「も〜やめなよ〜此方ちゃんに喜多ちゃん!それよりふたりとも座って!おせなかおながしします!」
この場において一番大人なのが五歳児ってのもどうなんだ…。
流石にこれは良くないと思い直し、私と喜多さんはアイコンタクトを送り合い、一時休戦を示し合わせた。
その後は平和に皆で洗いっこ。
やはり喜多さんは艶めかしい綺麗な肢体をしていたため、私は楽しむ様に敢えてじっくり洗ってあげた。
時々んっ。とか。あっ。だの、くぐもった悩ましい声を出していたので、少々ドキリとした。
因みに喜多さんに洗ってもらう時は、仕返しなんだろうか。大分洗う手がねちっこかった気がする。
「はあ〜。私も黒井さんぐらいあったらなぁ〜」
とは喜多さんの弁。
まあ確かに、私は喜多さんよりはある。
喜多さんに私ぐらいの胸部装甲が備わっていたら、いよいよ完璧な美少女の誕生ね。自分で言っちゃうけど。
その後はお風呂を上がり、もう一組の入浴が終わるのを、後藤ママが出してくれた牛乳を三人で腰に手を当てつつ一気飲みしながら待っていた。
すると、そんなに時間を待たず、先輩ズとひとりさんは出てきた。
なんか、先輩達はツヤツヤと満足気な顔を浮かべ、ひとりさんは逆にシクシクと泣いているように見えた。
哀れひとりさん。どのグループと入っても、そのグラマーな肢体が調べられてしまう、その結果は変わらないらしい。
「いやぁ〜。凄かった。ぼっちのぼっちっぷりが」
「いやほんと。ぼっちちゃん。一体どうしたらそんなに育つのさ。凄いね!」
「う、うう〜。み、皆さんがおじさんです…!最早私が信頼できる人は喜多ちゃんだけです…!」
やめときなさいよひとりさん。
多分その唯一信頼できる人も、貴女とお風呂に入ったら豹変しますよ?
湯上がりの三人は私達と同じく、冷えた牛乳を見つけると、腰にスパアンと手を当てて、一気に飲み始めた。
なにか取り決めというか。作法でもあるのかしらね。必ず皆そうするわよね。
お風呂をいただいてホクホクしながら皆で和んでいると、後藤パパから声が掛かる。
「ご飯できたよ〜!皆、降りてきて〜!」
なんてタイミングがいいんだ。ちょ〜どお腹空いてきたとこだ。
いつの間にか階下から香っているい〜い匂いに誘われて、私達は階段を降りるのだった。
ドアを開けてリビングにお邪魔すると、テーブルには所狭しと料理が並べられていた。大判のピザに、唐揚げ。たっぷりのサラダ。
「ふふふ…。リミッター、解除」
「負けませんよ!リョウ先輩!!」
「ちょっとこなちゃん、リョウ?私達もう高校生になるんだよ?少しは常識をわきまえなよ?」
「いいんだよ皆!遠慮しないでどんどん食べて!白米もいっぱい用意してるからね!」
「はい!ありがとうございますひとりちゃんのお父さん!」
「ふふふ〜。ご飯を前にはやる若者を見ると、作ってよかったな〜って思うわ〜。それでは皆さんご着席。はい。手を合わせて〜」
後藤ママさんのその言葉に、ひとりさんもふたりさんも一斉に手を合わせる。私も倣って手を合わせる。そして、皆さんお約束。
「いただきます!!」
「はぐ!はぐはぐはぐ!!がつがつがつ!ごっくん!!」
「あ、あの!大丈夫ですかこれ!止めたほうがよければすぐに言ってください!力ずくでも止めますので!」
「いいのよ〜虹夏ちゃん。沢山作ってあるから〜。あなたも遠慮せず食べなさい〜」
とんでもないスピードで唐揚げを貪り食うリョウ先輩、気が気じゃないように見守りながら牽制する伊地知先輩。
そしてそれをにこやかな笑顔で見守る後藤ママさん。遠慮するな、とのことなので、遠慮せずいただきますか。
まず唐揚げに手を出してみる。
もう箸で持った瞬間分かる。衣がサクサクだ。
そのまま口に運ぶ。カリッ。サクッ、ジュワ〜…。
衣が中に閉じ込めていた肉汁や旨味が噛み締めた瞬間に解放され口の中で溢れる。
旨っ。うんま!塩味だなこれ。満足のいくまで咀嚼を続け、充分に旨味を味わった後、飲み込む。
すぐさま白米に手を付け、口の中にいまだ残る唐揚げの余韻とともに白米の仄かな甘味を堪能する。
「お父さん。唐揚げ美味しいです、これ。感動しました!」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。それは俺が作ったんだよ!それは〜…塩麹味だな。醤油味とカレー味もあるからね、どんどん食べてよ!」
「ほ、ホント…!美味しいですお父さん!レシピ知りたいくらい…!」
口を抑えて目を輝かせながら喜多さんが呟く。それを聞いて後藤パパはさらに上機嫌だ。
「はっはっは〜!ほらほら皆!どんどん食べなさいどんどん!今日ぐらいはダイエットとか色々あるだろうけど全部忘れちゃいな!」
ひとりさんはといえば、ふたりさんに食べやすいように唐揚げを箸で小さく切ってあげたり、自分自身で食べて目を輝かせたりしていた。
何だろう。天真爛漫なふたりさんも、姉属性を遺憾無く発揮するひとりさんもどちらも素晴らしいな。
平和な時間が流れつつ、後藤家の夜は更けていく…。
その後も、ひとりさんのためにと後藤ママさんが買った、所謂甘い系の服をひとりさんに着てもらったり(鼻血が出るほど可愛かった)
リョウ先輩や喜多さんが持ってきた映画をハシゴで見ていたりして、気づけば結構いい時間…。
今まで騒ぎに騒いでいたふたりさんが大人しくなり、少しずつ船を漕ぎだす。…五歳児に、この時間は辛いか。
「ふ、ふたり、眠いの?お部屋、行く?」
「んう〜、やだぁ〜。もっとみんなとあそぶのぉ〜」
ひとりさんの首に腕を回しながらしな垂れ掛かり、どう見ても限界なふたりさんが呟く。
お利口な子だなぁ。今日初めてふたりさんの我儘を聞いた。目を細めてその様子を見守る。
「ふたり〜。ねんねしましょうね〜。だいじょうぶ、お姉ちゃん達なら明日もいるから〜」
後藤ママさんがそう諭す。するとふたりさんが。
「…おねえちゃんがこもりうた歌ってくれないと眠れない…」
なんとも可愛らしい我儘だ。それを受けたひとりさんが少しだけ困ったように首を傾げた後、深い慈愛の表情を浮かべて。
「…もう。しょうがないなあ…。み、皆さん。ご歓談しててください…。ね、寝かしつけてきます」
ふたりさんをお姫様抱っこで抱えたひとりさんが立ち上がる。私達は誰ともなく唇に指を縦にして当てて、そんなひとりさんを見送るのだった。
「…この時間はおねむだよね〜ふたりちゃん」
「可愛かったですね、伊地知先輩!」
何故かふたりさんが去ったというのに喜多さんと伊地知先輩はヒソヒソと小声で話すのだった。因みにこの間リョウ先輩は、間食用にと用意されたキットカットを無心に貪っていた。自由人かよ。
「ははは…。いや、今日はホントにありがとね。私達も楽しかったよ」
後藤パパさんからこんな言葉を掛けられる。私としてはひとりさんの色々な表情を見られたので、寧ろコチラがお礼を言いたいぐらいだ。
「いえコチラこそ!…私。ひとりさんがやっているオーチューブのギターヒーローってチャンネルに憧れて、ギター始めたようなもので。大ファンで推しの生家に来れて、夢心地というかなんというか!」
「そうなのか。あのチャンネル。始めたての頃、娘はよく言ってたよ。誰も見てないかも…。って。でも、見てくれてた人はいたんだな…」
感慨深そうにそう呟く後藤パパ。そして一旦私達に向き直り、言葉を続ける。
「皆。改めて、ありがとう。娘と友達になってくれて。娘がいると、言いづらいからさ。…本当に、心配していたんだ。心根は凄く優しい、いい子なんだけどさ、どうにも不器用で。引っ込み思案で。そのうち学校辞める!!なんて言い出したらどうしよう!なんて」
「あ、あはは〜。ぼっちちゃんなら言い出しかねない…」
「安心してくださいお父さん!私が学校一緒なんでもし言い出しても私が全力で止めますから!」
「はは。喜多さんが一緒なら安心だ。…娘がギター始めたのは、続けてきたのは、上手くなりたいってのも勿論あったんだろうけど、それ以上に、ギターを通して誰かと繋がりたい。友達が欲しい。そんな思いがあったからなんだと思うんだ」
真剣な表情で話す後藤パパさん。先程まで空気を読まずお菓子を食べてたリョウ先輩も、いつしか手を止めて聞き入っていた。
「…だからこそ。娘がやってきたギターを認めてくれて。バンドのメンバーとして娘を迎え入れてくれて。感謝してる。娘がやってきたことが、報われたような気がしてさ。自分の事のように嬉しかったんだ。やっぱり、音楽は人と人とを繋ぐんだな」
そう言葉を締めて、後藤パパはふわりと笑う。沢山の感情がミルフィーユのように折り重なった、見ているだけでコチラも嬉しくなるような笑顔だった。
「…感謝している。って言ったら私もですよ…」
ポツリと。伊地知先輩が呟く。
「ぼっ…。ひとりちゃんは、すごく人見知りな子で。バイトなんかするの、凄く怖かったんだと思います。それでも、人手不足でどうしてもお願いしたくて頼んだら、引き受けてくれて。も、もしかしたら断りきれなかっただけかもだけど私、ほ、ホントに嬉しくて!だ、だから…。私も感謝してます。ひとりちゃんに」
「…そっか。うん。伊地知さん。正直、バイトなんてひとりには絶対無理だ!って俺は思ってたんだ。今、ひとりは普通にバイトをこなせるようになってるよね。…君と、バンドのメンバーの子たちの優しさのおかげなんだと思うよ。ホントにありがとう」
「あ、あう…!そんな…!」
真っ直ぐに後藤パパさんに感謝の意を返されて、伊地知先輩が赤面する。…やっぱり、あんな性格のひとりさんだもの。父親としては、心配だったよね。
「…ぼっ…。ひとりさんには、私も感謝してます」
「…山田さん」
珍しいな。リョウ先輩がひとりさん。なんて呼んでる。親御さんの前じゃそりゃ丁寧にもなるか。
「ひとりさんは、私が作った曲をカッコいい。って言ってくれたんです。…私、少し不安で。結構プレッシャーかかってて。良い曲に仕上がったのか分からなくて。出来た曲の感想を皆に聞くのが怖かった。…そしたら、ひとりさんは。凄くカッコいい。こんな凄い曲に私の歌詞が乗っかってる!ありがとうございます!!って。…そう言ってくれたんです」
「…うん」
「私。やっと肩の荷が下りたような。作っては直して、また考えては作るような、おんなじ場所をグルグル回るような感覚からようやく解放されて、凄く気が楽になったのを覚えてます。…詩を作ってくれた、ひとりさんが、私の曲を認めてくれたこと。凄く嬉しかった」
…そこまで言ってリョウ先輩は、ふい、と。後藤パパさんから顔を背ける。
「…?」
「…。す、すいません。今の話は、どうか本人には言わないでください…。は、恥ずすぎる…!」
真っ赤な顔を両手で隠して、リョウ先輩が呟く。…ハッキリ言って以外だ。こんな一面もあるんだなこの人。
「その話〜。私達は聞いてても良かったんで〜?」
「ぬあっ!?しまったそういえば!!忘れろお前ら!」
無茶を言う。こんな印象的な話忘れられるわけなかろうに。
リョウ先輩は一時周りが見えなくなるほど、ひとりさんに感謝してた訳か。ふ〜ん!ほ〜ん!
頭を振りつつ火照りを覚まそうとしているリョウ先輩を伊地知先輩とニヨニヨと見つめる。
すると今度は喜多さんが話し始める。
「…ひとりちゃん。あんまり喋るの上手じゃない、って。自分でも言っていたから。あんまり多くの事を口で教えてもらったわけじゃないんです。ギターの基礎は、そこにいる黒井さんに私、教えてもらったんですけど、最近は学校が同じなひとりちゃんに教えてもらうことが多くて。…普段こそそんなに頼りになる感じじゃないんです。でも、演奏の時になると違って。私の少し前を背中を見せて走ってくれるんですよ。この間も、合格しないとライブに出れないよ。っていうようなオーディションで、ひとりちゃん凄い演奏して。私を、私達を鼓舞してくれるんです。…それこそ、ホントのヒーローみたいに。…私も恥ずかしいや。本人に言うのは。…でも、私も。ひとりちゃんには、感謝してます。い、いつも、助けてくれて…」
顔を赤くしながら紡ぐ、喜多さんの胸中。後藤パパさんは、凪いだ湖面のような、どこまでも遠く透き通るような目で喜多さんを、リョウ先輩を見たあとに。
「娘を見つけてくれたのが、君達で良かった。…これからも、不束な娘だろうが、よろしく頼むよ」
そう言って、私達に頭を下げた。
「…私からもお願いするわ〜。ひとりちゃん、良かったわ…。いつの間にかこんなに良い、友達を四人も…。これで少しは安心よ〜」
「なあ!母さん!良かったよな!?俺ホント気が気じゃなかったんだよ!いつ学校辞める!って言い出すかさ!?ホント高校だってタダじゃないし!中卒の娘なんて嫌だし!」
後藤パパさんの本音が漏れている。
…誠に言い難いが、ひとりさんは多分今でも高校中退したいと思ってますよ?
あの人の被害妄想と孤独主義は本物だからなぁ…。ご両親も難儀な娘さんを持ったなぁ…。
その後も少しだけ雑談をして、もういい時間だからと、寝室を案内される。…ひとりさん。戻ってこなかったなあ。ふたりさんが思った以上にグズったんだろうか?
お母さんが、ひとりの友人四人を寝室へと案内していく。その様子を見守って、俺も一息つこうと、リビングに足を向け、ソファに座る。そして気付く。扉の傍らに佇む一つの気配に。
「…ひとり。そんなとこいないでこっち来たら?」
「…うん」
少し目を赤くした娘が、皆が去っていったのと逆方向の暗がりから現れた。モジモジと気を揉むように、所在なさげに俺の前に立つ。…多分、今の話聞いてたな。
「…いい、友人達だな」
「…うん。本当に…。私にはもったいないくらい…」
場を沈黙が支配する。不思議とこの沈黙は心地が悪くなるものではなかった。ひとりはどうなんだろうか?少し娘の様子を伺おうかと目を上げるくらいのタイミングで、ひとりが話し始める。
「…お父さん。私ね。あの人達に相応しいようなギタリストになるよ」
「…うん」
「虹夏ちゃんに喜多ちゃん。黒井さんにリョウ先輩。あの人達に貰った暖かな感情を、少しずつでも返していけるような。皆の夢を叶えてあげられるような、そんなギタリストに」
「…ああ。ひとり、いい目標だな。お前なら出来るさ、絶対に」
「うん…」
「さあ。もういい時間だから寝なさい。皆は先に寝室に向かったよ」
「うん、お休み」
肩をそっと押して娘を見送る。その背中にどうしても伝えたいことがあったのを思い出し、声を掛ける。
「ひとり。音楽を始めて、今が一番いい顔をしてるぞ!折角出来たお友達。大切にな!」
娘は振り返ったあと、久しく見れていなかったような心からの笑顔で返してくれた。
「勿論だよ!お父さん!」
ぼっちちゃんが頑張る理由。それが明確になりました。どこまでも他の人のため。優しい子です。