女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!? 作:はま0821
一気に寒くなりすぎじゃない?
風邪引くわマジで。ていうか引いたわ。
「それで?貴女から見てどう?最近のギターヒーローさんは?」
ここは新宿のとあるカフェ。今度のライブのチケットを渡すため、久し振りにあったぽいずんさんからこんな事を聞かれる。どう?と申されますと?
「いやなんかね。オーチューブの概要欄見て私がイメージしてるギターヒーローさんと、貴女から送られてくる隠し撮りの練習風景のギターヒーローさんのキャラが大分剥離してる気がして…」
あぁ〜、それね。流石よく見てますねぽいずんさん。
「正直いつ説明しようか迷っていたので言い出して頂いて感謝してますよ…。ハッキリ言います。大分違います、オーチューブの概要欄は嘘だらけです!!」
「う、嘘!?ギターヒーローさんは、友達一杯いてリア充街道ひた走りのカリスマ高校生ギタリストじゃなかったの!?」
私も最初そう思ってた。でもあの概要欄に書かれたギターヒーロー像は嘘偽り。何故にあんな虚言を書いたのか、私には分からない。分からない、が。
「…まあ、確実に一つ言えることは、ギターヒーローの中の人、後藤ひとりさんも、中々に魅力的なパーソンだという事ですよ。…今はまだ、バンドという、やったことのない演奏方法に苦戦しておられますが、日々飛躍的な進歩を遂げています。ま、練習風景でその事はお分かりになると思いますが」
「ふ、ふ〜ん、成る程…」
「どちらにしても、今度のライブ。ぽいずんさんに見せるに相応しいクオリティに仕上げるつもりです。是非見に来てください!」
「そ、それは勿論行くわよ。私の目に適うライブをしてたら、ご褒美に貴女達の事、記事にしてあげてもいいわよ!」
「おお!素晴らしい!初ライブで記事に取り上げられれば、私達は売れっ子バンド街道ひた走りですね!」
「…ま、千五百円だし、そんなに期待はしてないわ。緊張して縮こまんないように頑張りなさい」
「いきなりハードル下げてきますね!ド〜ンと期待してくださいよド〜ンと!!」
「ふふ、貴女はほんとにいい度胸してるわよね。ならド〜ンと期待しちゃうわよ。貴女にも、後藤ひとりさんにもね」
カフェを出てぽいずんさんと別れ、次なる目的地に向かう。
最近、ひとりさんは練習に熱が入っているのもあるが、何より、良い顔で演奏するようになった。
何やら吹っ切れたような。定まっていなかったものが定まったような、そんな感じ。
あの調子ならば、今度のライブも心配はないだろう。流石は私のカリスマ。
「さて、と…。私の、もう一人のカリスマはいらっしゃるかな?」
私は新宿に来たもう一つの目的を果たすため、今度はよく知ったあるライブハウスへと足を向ける。
「頼もう!!」
勝手知ったるなんとやら。扉を開け放ち威勢よく声を掛ける。
「あらこなちゃん。お久し振り。かしら?」
「お疲れ様です銀さん。きくりさんいらっしゃいますか?」
「廣井?あれならもうすぐ来ると思うわよ、上がって待ってなさい」
「ありがとうございます!」
まだ開店の準備が済んでいない、スタッフさん達が忙しく動き回る薄暗い店内。
少し申し訳なさを覚えると同時に、知り合いはいないかキョロキョロと探しつつ、休憩スペースに腰を下ろす。
すると丁度スタジオから出てきた知己の方々からお声を掛けて頂く。
「おお、黒井ちゃん。久し振り」
「コナタ!お久し振りネ!」
姉御以外のシクハックの皆さんだ。丁度いいや、皆さんにも話があった。
「岩下さん。こないだは親身なアドバイスありがとうございました。無事あんまり怖がらせることなくギターヒーローさんに会えました!」
「…あんまりってことは少しは怖がらせたのかな?まあ、それならよかったよ。今日はどうしたんだ?廣井に何か用?」
「それもありますが皆さんにも。私達今度ライブ出れる事が決定いたしましたんで。お世話になった皆さんに是非見に来て頂きたいとチケットをお持ちしました次第です!」
そして私はシクハックの皆さんの前に三枚のチケットを差し出す。このチケットはあらかじめ私が選り分けておいた所謂ゲスト用。色々とお世話になった皆さんに対する、私なりのお礼だ。
「い、いいのか?ありがとう…。あ、あちゃー。駄目だ。私この日は予定入ってるわ」
「WoW!私もデス!ジーザス!!」
う、うそ!?そんなバカな!!
「あちゃあ〜。そうですか…。少し、残念です…」
「ご、ゴメン黒井ちゃん…。ひ、廣井には必ず行かせるから!アイツどうせ暇だろうし!」
「ゴメンよ此方ー!必ずどっかで埋め合わせするから〜!」
「い、いや滅相もない!頑張って何時でもSTARRYのステージに立てるくらいに出世してみせますよ!そしたら改めて見に来てください!」
「やっぽー!!皆何話してんの〜?ありゃ、こなちゃん。珍しいねFOLTに来てるなんて!」
色々とシクハックの皆さんと話していると、後ろからきくりさんに声を掛けられる。何時もながら、神出鬼没。そして、何時もながら、赤ら顔で酒臭い。
「丁度いいとこに来たな廣井よ…。黒井ちゃんからライブのお誘いを頂いたのだが、私達は別件で行けそうにない。代わりに存分に黒井ちゃん達のライブを見てやってくれ!どうせ暇だろ!?」
「最後の一言が引っかかるな〜。まあいいか。ライブ決まったんだこなちゃん!コーチングで一肌脱いだ甲斐があったよ!勿論行かせてもらうさ!当然だけどおんなじ場所で足踏みしてるわけじゃないんだろ?」
開眼したきくりさんから挑発的な視線を受ける。私が指摘した問題点。改善したんだろうね?と。これは言外に問いかけられているな。
「勿論ですよきくりさん。バンド、三日見ずば刮目して見よ。進化したネオ結束バンドの実力を、存分にお見せします!」
「んふふ。啖呵は合格だよ。こなちゃん!精々ガッカリさせないでおくれよ!?」
「はい!きくりさん!!」
サムズアップされたのでサムズアップをし返しておく。…よし。これでお世話になった人にはチケット渡せたかな。
「では皆さん。慌ただしくてすいませんが私はこれで!練習抜け出してきてるので!」
「お、おう。わざわざありがとね黒井ちゃん。次の機会があったら是非誘ってくれ」
「バイバイ此方!練習頑張ってね!」
「お疲れこなちゃん!!先輩にはもしかしたらまた後で行くかも〜。って言っといて!」
シクハックの皆さんからそれぞれ労いと激励のお言葉を頂く。…それはそうと、店長からのきくりさんの今の言葉を読みきっていたような伝言を伝えましょう。
「その件に関しては、そろそろ家賃とんぞ?って真顔で仰ってました!」
「…今日は、やめとこ〜」
「おい廣井コラ。誰だその先輩って人は。お前一般の方に迷惑掛けんなとアレほど…」
額の右隅に青筋を浮かべ、指をパキパキと鳴らしつつ、岩下さんがきくりさんに迫る。
「い、いや!これは言葉の綾と言うか!ちょっ!?こなちゃん!!助けてぇ!!」
「問答無用だゴラ!!」
素早くその場から離脱しようとするきくりさんの機先を制し、岩下さんがきくりさんの腕を掴んで強烈な関節技へと移行する。
洗練されたまるで無駄のない動き。何回もこうやって逃げようとするきくりさんを捕まえては沈めてきたんだろうな〜。などと、他人事のような感想を抱いた。
ああ…。私の心の中のもう一人のカリスマ。普段はホントにダメダメだね。
何だろう私。普段ダメで、いざって時はバシッてキメる!みたいな人に弱いのかも。きくりさんもひとりさんもまんまそんな感じ。
いつの間にか隣にいらっしゃった、少々ジト目になっているイライザさんと顔を合わせて、ヤレヤレと嘆息していると。
「あーーーーーーーーーーー!!!!!」
突然、耳を劈くほどの大音量がライブハウスに流れた!
「う、うわわっ!?な、なに!?」
そう呟きながら周りを見渡す。すると、FOLTのメインフロアがある方向から、これまた見知った顔がこちらに向かってきていた。
「あ、あなたは!黒井此方!!」
私の目の前に一人の少女が立つ。私の心の中にいる二人のカリスマとは、また違う色を放つ、けして忘れ得ない存在。
「そういう貴女は!大槻ヨヨコ!!」
私は件の少女に指を突き立て、負けじと目の前の少女の名前を叫ぶ。た、確かに再会しようとは言ったけど、些か早い気がするわよ!
「な、なんで貴女がここにいるのよ。なに?この間貴女達のホームの下北沢でライブしたから、その意趣返し!?」
「そんな趣味の悪い事しないわよ貴女じゃあるまいし!私はお世話になったシクハックの皆さんにチケットを届けに来ただけよ!」
「んな!?誰が趣味悪いのよ誰が!?」
「今の文脈で貴女以外いますか〜!?国語の勉強からやり直したほうが良いんじゃないの〜!?」
ポカンと。イライザも関節技をキメにいっていた志麻も必死に逃げていたきくりも。いったい何事かと相対す二人の少女の方を向いて動きを止めていた。
それを後ろから追いかけてきたもう一人の少女が、場を見回して事情を察する。
「ああもう…!!我がリーダーはホントに…!!も、申し訳ありません皆さんご迷惑をお掛けして…!」
ペコペコとお辞儀をしながら現れたのは、銀髪をショートに切り揃えた髪型に、口元には黒マスク。シデロスの長谷川あくび女史だ。
しかし、今は謝罪の言葉より、この状況の説明が欲しい。廣井きくりはそう、場の雰囲気を読みとり、代表してあくびに尋ねる。
「苦労するねぇ、あくびちゃんも。それで?あの二人は知り合いだったりするの?」
「は、はいきくりさん。昔からの仲みたいで、ずっとあんな感じなんですよ。申し訳ないですすぐ撤収させますので…!」
「いや?いいよ面白いし」
愉快そうに口元を歪ませながらきくりが二人を見守る。どうやら成り行きに任せる事にしたようだ。因みに残り二人のシクハックもそれは同様のようである。
「ああ言えばこう言うわね相変わらず!!結局貴女ここに何しに来たのよ!?」
「だ、だからきくりさんにチケット渡しに来たって言ってるでしょ!?渡し終わったしもう帰るわよ!」
「えっ!?姉さんに!?」
ヨヨコがそう言うが早いか、勢い良くきくりさんに振り返る。
いきなり矛先が向くとは思っていなかったのだろう、きくりさんはビクリとしている。
するとヨヨコは何を血迷ったか、きくりさんとの間合いを一気に詰めて。
「駄目よっ!!」
ガシッと!割とシッカリめにきくりさんに抱きついた!
「う、うひゃああ!?ちょ、なに大槻ちゃん!?」
「駄目よ黒井此方!WSSよ!控えなさい!!」
「何の話よ!?WSSって何!?ちょっなにしてんの大槻ヨヨコ!きくりさんビックリしてるでしょ放しなさい!!」
割とマジで驚いて目を丸くしているきくりさんを尻目にヨヨコに詰め寄る。何だこいつは一体何のつもりだ!
「きくり姉さんは私のものよ!あ、貴女なんかにあげないんだから!?ね、姉さんだって黒井此方からのチケットなんか要らないですよね!?」
ブンブンとヨヨコに肩を掴まれ、頭を振られるきくりさん。白目を剥きながら、ちょっ大槻ちゃんやめっ…。などと言ってるのが聞こえるが、ヨヨコは一向にやめるつもりはない様子。
「な、何を呆けたことを!私にそんな趣味はないし、きくりさんだって貴女に指図される謂れはないはずよ!」
「黙りなさいさっきから聞いてればきくりさんきくりさんと馴れ馴れしい!私の方が姉さん歴長いのよ分かってんの!?」
分かりたくない!何だコイツは、知らなかったココまできくりさん信者だったとは…!?
確かにきくりさんは音楽の事となるとカッコいいけど、それ以外は全然駄目駄目じゃん!!
「と、兎に角!私に断りもなく姉さんを新宿FOLT以外には行かせないわ!!たとえそれが貴女からの誘いでもね!」
「…」
眉間にシワを寄せて頭痛に耐える。何故きくりさんを誘うのにコイツの許可を取らねばならんのか。
どうやってこの障害を取り除いてやろうかと頭を回していると、助け舟が意外な所から出された。
「そしたらさ、大槻ちゃんもついて行ったらいいじゃん。黒井ちゃんのライブ。ほら、私達もそのライブ誘われてたんだけど、別件があって行けなくてさ。私達の代わりに行ってくれたらチケットも無駄にならずにすむんじゃないかな〜って」
岩下さんの大岡裁きがここで出た!確かにチケットは二枚浮いていた。…だがしかし、このきくりさん狂いの変態を呼ぶのか?いやまあそれはいいのだが。…コイツ、来たがるかな?
「へっ!?く、黒井此方のチケット!?」
「な〜る。志麻天才。ナイス助け舟。大槻ちゃん、そんな感じで勘弁して!当日デートにしよう。ねっ!?」
「えっとその…!?く、黒井此方…。い、いいの…?」
ふん。全く。相変わらず肝心な所で突っ張りきれないツンデレめ。
「私は構わないわ。使ってもらったほうがチケットも喜ぶでしょうし!あんまりきくりさんに迷惑かけんじゃないわよ!」
「や、やった!姉さん!デートですよデート!楽しみましょうね!黒井此方!私達のデートを邪魔するような演奏は許さないんだからね!」
「うっせえ大槻ヨヨコ!!あんたなんか度肝を抜いてやるんだから!進化したネオ結束バンドの力を思い知らせてやるわ!当日を精々震えて待ちなさい!」
う〜わ。近年稀に見るような大見得切っちゃったぞ。
奴はきくりさん狂いの変態だが音楽の腕は確かだ。
五人体制になってからは初のライブなのになかなか失敗できない感じになってしまった!
…まあ、それは取り敢えず置いといて。
「そしたら残り一枚は、あくびさん。貰ってくれない?」
「えっ?わたし、すか?」
「うん。貴女みたいな常識人にあのアーパーを見張ってて貰えると助かるのよ。ただでさえ私、初めてのライブ。緊張しそうだし…」
「ああ成る程。分かりました。任されましょう」
「あ、ありがとう。お願いするわ」
「あくびちゃん!ハイ、チケット!私の代わりに楽しんでキテ!」
イライザさんからチケットを受け取りあくびさんに渡す。正直、ヨヨコときくりさんが同時に暴走したら、一人でナシをつけられる自信がない。シデロス屈指の常識人である彼女の招聘は必須だ。
「そしたら今度こそ。皆さん。退屈させないライブにしますんで、奮ってご参加ください!」
「あいよ!こなちゃん!楽しみにしてる!」
「黒井此方!髪の毛一本分くらいの期待はしてあげるわ!精々楽しませてよね!」
「口の減らない女ね全く!きくりさん、ヨヨコ!イライザさんに岩下さん!また!」
私は新宿FOLT勢に別れを告げて、ホームタウン下北に舞い戻る。きくりさんに、ぽいずんさん。そして、大槻ヨヨコか…。下手な演奏は出来ないわね…!これは気合を入れていかないと!!
「…うん。今のは上手くいったと思う」
「うんっ!完っ璧だったね!」
「へ、へへへ…!」
「やった!流石よひとりちゃん!」
場面は変わり、ここは下北沢のライブハウスSTARRY。今日も今日とて結束バンドの面々は全員で演奏の合わせを行なって、全体のレベルを高めていた。
満足のいくレベルでセッションを終えた四人はスタジオを後にし、ライブフロアにて雑談する。
「ライブ用の新曲も完成したし、最近調子がいいよ結束バンド!このまんまライブも成功させよう!」
「うん。虹夏。…ところで、一人居ないんだけど。何処行ったの此方は」
「ああこなちゃん?なんかチケットを渡す大事な相手がいる、って出掛けていったよ?」
「ふむぅ。まあアイツならあんま心配しないでも大丈夫だろうけど…。後は、アレか」
チラリと山田リョウが、フロアに置かれているテレビの映像を確認する。
「ああ。アレ。嫌だよね。私達のライブの日程にモロ被りなんだよね~」
伊地知虹夏が同調する。
アレ、というのは、テレビのニュース番組に映し出されている、夏の風物詩。台風の事だ。
結束バンドの記念すべき初ライブの日。その日付近に日本列島に接近すると予報されている。
「まあでも、逸れるって予報だろ?大丈夫だろ」
テレビの隣に座っていた伊地知星歌が、パソコンを操作するついでに答える。
そう、確かに、この台風は東京からは逸れる予想なのだが、未来のことなど誰にも分からない。不安になるのも仕方なし、なのである。
「そ、逸れると良いですよね…コレ…」
「ねっひとりちゃん!折角いっぱい練習したのに寂しい客席の中ライブなんて嫌よね!」
「あっでっでも…お客さん少ない方が緊張しないで出来るかも…あっでも誰にも見てもらえないのは寂しいしやっぱり逸れてくれたほうが…あ、ああ〜っ」
「んもう!何でそんなすぐ限界迎えちゃうのひとりちゃん!しっかりして!」
「通常運転ですね〜♪」
一人で勝手に思考の迷路に迷い込んでキャパオーバーを迎える結束バンドの陰キャピンク。それを何とか現実に引き戻そうとアレコレする陽キャっ娘。そしてそれを楽しそうに見守る黒衣黒髪の音響さん。
正しく、STARRYのいつもの風景だ。ただ、いつもの風景というものはそう長くは続かないもの。
慌ただしくSTARRYのドアを開け放った一人の少女によって、呆気なく平穏は破られるのだった。
「すいません戻りました!!無事きくりさんにはチケット渡せましたよ!」
「おろ。おかえりこなちゃん!チケット渡したい相手って廣井さんだったんだ!」
「ハイ!路上ライブのときお世話になりましたし…。でもすいません。余計な奴にもチケット渡しちゃったかもです…」
「ほえ?どゆこと?」
かくかくしかじか。うんたんうんたんと。私は先ほど起きたことを伊地知先輩と皆に話す。
「は〜。つまりアレだ。廣井さんと、そのバンドのメンバーさんにチケット渡しに行ったら、紆余曲折あって、こないだ会ったこなちゃんのライバルの大槻さんにチケット渡しちゃったんだ!」
「うう…。ハイ。ハッキリ言って、私、緊張してます…!」
「マジか。こなちゃんが!?あの心臓にビッシリ毛が生えてそうなこなちゃんが!?」
「何か引っ掛かりますね…。でも、私。アイツが来るなら、尚更下手な演奏はしたくない…!私も上手くなったんだ。それを見せたい。で、でも…!今の私にそれが出来るだろうか…!?」
嘘偽りのない本音。私は弱気になっている。
ヨヨコに見せてやりたい。進化した私を。そして、認められたい。でも…!期待外れだと思われたら?失望させてしまったら?
らしくないなと、自分でも思う。おんなじ場所をぐるぐる回っても、答えなどでない。分かってはいるのだが…!
「此方。迷うなよ」
低い声に、ハッと顔を上げる。見上げた先にはリョウ先輩が、いつもの感情の読めない表情を携えて立っていた。
「取り敢えず走り出して、後のことは後で考えるのが此方じゃん。何らしくないことしてんのさ?出来るか?出来ないか?やってもみないでそんな事が分かるかよ。そうじゃない?此方」
私の肩に手を置き、目を合わせながら、リョウ先輩は静かにふっと微笑んだ。…そうか。そうだ。全くもってその通りだ。くそ、私は一体何を!!
スッパアアアン!!!
私は思いっきり顔を両の手のひらで挟み込むように引っ叩いて気合を入れる!強くやり過ぎたか両頬が凄まじく痛いが良い気付けだ!
「び、ビックリした…戻ってきた?此方」
「ええすいません。リョウ先輩。らしくなかったっすわ」
いきなりやったからかリョウ先輩が少し引いている。…そうだ。弱気になって何になる。あんな身内限定ツンデレなんぞにビビってなんかやるもんか。大槻ヨヨコだろうが廣井きくりだろうがぽいずんやみだろうが!誰でも来やがれ!
「私は黒井此方!!憧れのギターヒーローさんの隣に立つべく、全てをギターに捧げてきた女!!私が私であるために!今ここで退くわけには行かない!皆さん!ライブ頑張りましょう!どうせ一発目のライブ!誰にも何にも期待されてないと思うんですよ!!それでもやったりましょう!!超絶テクで度肝抜いたりましょうよ!それがロックってやつでしょう!!」
感情の赴くまま一気にまくし立てる。冷静じゃない。なんて誰かに言われても今は、構わない。
「ええ〜?私は少しは期待しといてもらいたいけどなぁ〜。…まあでも。やることは変わんないよね。私達が積み上げてきたもの。全部出し尽くせば、ライブも成功するし、こなちゃんも借りを返せるよ!頑張ろう!こなちゃん!皆!!」
そうだ。私達が積み上げてきたもの。今さら疑って何になるんだ。ありがとう。伊地知先輩。
「らしくなってきたじゃん。暴走狂奔ガール。ぶち当たって砕けても、痛みは五等分。失敗した時の事なんざ、そん時考えりゃいい!私達の全力のロックンロールを、ステージの上に置いてくる!それだけ今は考えよう!」
はい!リョウ先輩!!
「黒井さん。私に出来る事なんかたかが知れてるわ…。でも、こんな素人の私でも。皆を信じて、歌うことくらいは出来るから。皆さんの楽器の音に負けないくらいに全力で歌うから。だから。…うまく言えないけど、きっと成功するわよ。きっと」
…喜多さん。ありがとう。…でもね。一つだけ。
「喜多さん。貴女の背中。見るたび見るたびに力強く成長している。頼もしいわよ。たかが知れている?そんな筈ない。貴女は立派な、結束バンドのギターボーカルよ。自信持ちなさい」
音合わせにオーディション。路上ライブと。着実に成長してきた、我がバンドのギターボーカルに、思ったまんまの言葉を掛ける。すると、合っていた目を物凄い早さで逸らされてしまった。え!?なんで!?
「〜っ!?…も、もう…。あ、相変わらずズルいわね…!」
「えっ!?何、どうしたの喜多さん!」
「し、知らないっ!」
プイッと。顔を明後日の方向に逸らされてしまったため、それ以上の意思の疎通を諦める。むむむ。陽キャ娘の考えることはよく分からん。
「…黒井さん」
何か喜多さんを怒らせてしまうような言動をしてしまったのかと、必死に頭の中の記憶を洗い出していると、何時もの少し元気がないトーンで、ひとりさんに話し掛けられた。
「く、黒井さん。…私。貴女が思ってくれるような凄い人じゃ…ない」
「…そんなこ」
「でもねっ」
遮られた。珍しい事だ。ひとりさんは、私だけではなく誰かの話に割り込んだりする人ではない。
驚いてひとりさんの目を覗き込む。その目にはどこまでも透明で澄み切った、決意の色が浮かんでいた。
「が、頑張るから。ライブ。わ、私を見ててね」
「…はいっ!頑張りましょうひとりさん!」
「うんっ!」
そうだ。私達は積んできたんだ。一生に三回しかない女子高生の夏休みの内の一回をほぼ丸々使ってまで!
その成果を出し切れれば、きっとうまくいく。当たり前の事に気付かされた。
それに、何より。私にはこんなにも、頼りになる仲間がいる。本当に、何を怖がっていたのだろうか。
開き直っちまえよもう。得意だろう?諸々の問題を投げ捨てて強引に前に進む事は。
為せば成る!為さねば成らぬ何事も!成らぬは人の為さぬなりけり!
やってやれないことはなし。女子高生ギタリスト黒井此方。記念すべき初ライブ。いざ、参る!!
次回はようやくライブです。何か観客が増えているけどね!
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