女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!?   作:はま0821

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様々な思い交錯する初ライブ。
黒井此方の。結束バンドの運命や如何に。


22 タイフーンin下北沢 ライブオンSTARRY

 

 

…わ〜お。

 

窓の外は横殴りの雨。吹き荒れる風が木々を派手に揺らし散らし、勿論だが出歩いている人など見えない。

 

私はチラリと後ろのテレビに映っている天気予報へと目をやる。

台風の進路の報道をしているのだが、暴風域を表す赤色の予報円。

それは直前で真横に曲がり、ここ東京を直撃していた。なんだよその曲がり方はスライダーかよ。

 

「姉貴。マジついてねえな…」

 

「くっ。本気の同情やめなさい彼方。…一日ぐらい前後にズレてくれてもいいのに。…バカ台風」

 

私は、届くはずのない恨み節を吐きながら、ギシギシと音を立てて軋む我がオンボロアパートの窓の前で、まずどうやってSTARRYに向かうかを考えていた。

 

「傘…。ムリね。十秒持たないわ。やっぱカッパか…、中学のだから、丈足りるかなぁ…」

 

「姉貴。送ってく」

 

カッパ着たってびしょ濡れ必至ね。水も滴るイイオンナ…。へ?

 

「えっ?いや、いいわよ。悪いわ」

 

「うるせえ。こんな天気の中女一人ほっぽり出せるか。カッパ、俺の分も着て二重にしとけ。俺は傘で何とかする。前歩くから背中につかまってろ。道案内だけしてくれ」

 

言うが早いか弟は背を向けて着替え始める。

…前にしっかりと弟の背中を見たのはいつだったか。

その時よりも一回り大きく、うっすら筋肉もついて頼もしくなったその背中を、私はただ眺めていた。

 

「おい、ぼさっとしてんな、間に合わなくなんぞ」

 

「わ、分かってるわよ。…頼りになるじゃん。ありがと」

 

「んな!?…流石台風の日。姉貴がおかしいわ」

 

「なんだとコラ」

 

弟のお陰で何とかSTARRYには辿り着けそうだ。後は。本番。伸るか反るか。やるかやらないか。成功か失敗か。結局のところは、二通りしか道は、ない。

 

 

 

 

 

 

 

場所は移って、ここはSTARRYの入り口の目の前。地下に入る階段の途中、雨の凌げる場所で、ここに来るまでに骨を折ってくれた弟に謝辞を伝える。

 

「…ホントにありがとう。感謝してるわ。彼方」

 

「気持ちわりいからやめろって。似合わねえんだよ。…じゃな。頑張れよ。ライブ」

 

「…ほんとに見ていかないの?多分店長に頼めば今からでもチケットねじ込んでもらえると思うけど…」

 

「特別扱いはゴメンでな。またの機会に見させてもらう」

 

「…そう。なら、私は行くわ。帰りはアンタがこれ着なさい。カッパ。私が帰るときにはやんでる予報だから」

 

「すまん。…頑張れよ。姉貴。失敗したっていい。らしく行け」

 

「…今日はとことん生意気ね。誰に向かって言ってるのよ?…今日はあんたの好物のウナギの蒲焼きでも買って帰るわ。早く帰って休みなさい!」

 

それだけを弟には伝えると、私は後ろ手に手を振り、STARRYの階段を降りる。さあ、勝負の時だ。私達の、結束バンドの初ライブの運命は、今から決まる!!

 

私はSTARRYの扉を開け放つ!!すると室内の階段を降りた先のメインフロアに、結束バンドのメインメンバーが四人。雑談をしながら立っていた。扉を開けた音に反応して、伊地知先輩が最初に声を掛けてくれる。

 

「こ、こなちゃん!!よ、よかった〜!!こんな雨で、こ、来れないんじゃないかって〜!!」

 

少し涙目になってる伊地知先輩に出迎えてもらえる。

 

「すみません、お待たせしました。何とか辿り着けましたよ」

 

「ビッショビショだな。取り敢えず体拭いてこい」

 

「はい。店長」

 

店長からタオルを受け取り、皆の少し心配そうな目線を感じつつ、一旦楽屋に引っ込み体を拭く。そして再びメインフロアに舞い戻ると。

 

「此方。よかった、ちゃんと来れたんだね」

 

「く、黒井さん、大変だったわね大丈夫?凄い風と雨ね!」

 

「あっ、黒井さんよかったです…!け、怪我とかもなさそうで…!」

 

伊地知先輩以外のメンバーからも労いの言葉を頂く。…だがしかし私には一つ引っ掛かってることがある。

 

「み、皆さん。何でそんな濡れてないんですか?どうやってここまで来たんですか?」

 

そう。皆さん全くと言っていいほど濡れてないのだ。電車で最寄りまで来たってそこからはどうしても歩きになるはず。なぜ?

 

「あ、わ、私はお父さんが車で…」

 

「私も車で!」

 

「タクシー」

 

「チクショウブルジョア達め!!」

 

膝から崩れ落ちる。我が家の最強の移動手段は弟の原付き。あれは二人乗り不可なため私達は雨の日の移動手段が弱いのだ。…いいなぁ〜車。そんな事を考えていると再びSTARRYの扉が開く。

 

「うっはぁ〜!濡れた〜!!みんな〜!!来たよー!!」

 

「濡れそぼった姉さんも素敵!ついでに…来たわよ!黒井此方!」

 

「凄い雨だ…お客さん来るんすかね…?」

 

ビッショビショのきくりさんとヨヨコとあくびさん。新宿勢の登場だ。

 

「お前らも濡れ鼠かよ。おら、タオルと楽屋貸してやるから体拭いてこい!」

 

「うっす!あざっす先輩!」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「せ、先輩!?」

 

濡れ放題の三人にタオルを投げる店長。すると、ヨヨコが店長の方を不思議そうに見た。そうか、初対面か。

 

「大槻ちゃん!長谷川ちゃん!紹介するよ!この人は伊地知星歌さん!ここのライブハウスSTARRYの店長で、私の大学の先輩!私が音楽始めるキッカケになった人だよ!」

 

「ね、姉さんの先輩!?す、凄いです!」

 

「あ〜。まあ、腐れ縁だけどな。…私も君らのことは知ってるよ。銀次郎さんとこの秘蔵っ子。シデロスの…名前だけだがな」

 

「あ、ありがとうございます…。光栄です」

 

「あ、ありがとうございます!!ね、姉さんの先輩であらせられる方なら、私からしたら大先輩も同じです!わ、私はシデロスの大槻ヨヨコといいます!よろしくお願いします!」

 

「あ〜いいよいいよかしこまんなくて。ライブ見に来てくれたんだろ?ゆっくりしてってよ。おら廣井。二人、きっちりエスコートしてやれ」

 

「りょうか〜い!ほら大槻ちゃん!長谷川ちゃん!後ろで見よ!」

 

「了解しました。黒井さん。頑張って下さい、応援してますので」

 

「はい姉さん!…黒井此方!精々頑張りなさい!退屈させんじゃないわよ!」

 

けっ。店長の手前、少ししおらしくなったかと思ったらこれだよ。

 

「言われなくても!最高のライブにしてやるわよ震えて待ちなさい!」

 

「いいね〜!こなちゃん!その意気だぁ!」

 

きくりさんとヨヨコとあくびさんはワチャワチャしながらフロアの後ろの方に歩いていく。

それを目で追っていると、見知った顔を発見した。

向こうもこちらに気付いたらしく、指を二本立てたハンドサインをこちらに送ってくれる。

私はそっとバンドメンバーの輪から抜け出し、その人物の下へ行く。

 

「来てくれたんですね。ぽいずんさん」

 

「そりゃ来るわよ。お金払ってるんだし」

 

それはそうだが、この風と雨じゃ躊躇してもおかしくない。ありがたいな来てくれて。などと考えていると。

 

「あれがギターヒーローさんね。何か確かに貴女が言う通り、小動物系ねぇ…」

 

ぽいずんさんはひとりさんをピンポイントで指し、感想を漏らす。因みにひとりさんは喜多さんと喋りつつ、何かアワアワしていた。

 

「はい。小動物系でイメージと違うかもですが、後藤ひとりさんは後藤ひとりさんで面白い人物ですよ。これからのステージで証明できるといいんですけど」

 

「ふふ。期待してるわよ。さあ行きなさい。あまり私のコトは意識せず、自分の実力を引き出すのに集中しなさい」

 

少女のようなファッションセンスしているから歳が近く感じるけど、やはりぽいずんさんは大人の女性なんだなぁ。そこかしこの立ち回りを見て改めてそう思っていると、伊地知先輩から声を掛けられる。

 

「こなちゃん!そろそろ最後のミーティングだよ!裏行こう!」

 

「了解しました!それではぽいずんさん。また後で!」

 

「ええ。いってらっしゃい。悔いのないように」

 

ぽいずんさんの言葉に手を振り答えつつバンドメンバー達に合流して裏に行こうとすると。

 

「ちょっち待った。こなちゃん。皆」

 

いつの間にか戻ってきていた、廣井きくりさんに呼び止められた。

 

「これからライブに向かう君達に、私からの格言を授けよう」

 

「な、なんです?」

 

少し戸惑いながらも、伊地知先輩が問い掛ける。

 

「皆はさ、アーティストである以上、戦わなきゃいけない敵はいる。でも、結構な数の人が、戦う相手を見間違える。君達はさ、敵を見誤るなよ?」

 

「…敵を、見誤る…」

 

思わず私は、きくりさんからのアドバイスを反芻する。まだよく、意味を飲み下せていないからだ。

 

「私からはそんだけ!んじゃね皆!客席から応援してるよ!いいライブになるといいね!!」

 

手を振りながらきくりさんはヨヨコ達の下へと戻っていく。尋ねたい気持ちはあったが。残り時間に背中を押され、私達は、楽屋裏へと移動していった。

 

 

 

 

 

結束バンドの面子が裏に引っ込んだのを確認した後、廣井きくりに話し掛ける、伊地知星歌の姿があった。

 

「お前さ。も少し分かりやすくアドバイスしようとかは思わねえのか?」

 

「ふふ〜ん。先輩。厳しそうに見えて、けっこー過保護?」

 

「…。いや、それでいいや。こういうのは、自分で気付かなきゃ意味ねえんだ。これまでも。そしてこれからもな」

 

「…ふふふ。ですね」

 

結束バンドの音楽の先達たる二人は、共通の意見を見つけ、取り敢えずの一致を見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぼちぼち、開演時間が迫り、少しずつSTARRYのメインフロアにもお客さんが入り始める。

台風だというのに、ご苦労なことだ。私達は楽屋の袖から偶にフロアの様子を見るだけだが、それでも結構入っていることは分かる。数十人くらいか。

 

「お、路上ライブの時にひとりちゃんのギター好きだ。って言ってくれたおねーさん達も来てくれてるよ」

 

伊地知先輩がひとりさんにそう言うと。

 

「え!?あ、ホントだ、へへ…わ、私のファン…」

 

「ぼっち。嬉しさが顔に出てる」

 

リョウ先輩が言う通り、ひとりさんの表情は嬉しさでトロけていた。…緊張も解れたことだろう。ありがとう。女子大生のひとりさんのファン達。

…だが。私は先ほどのきくりさんの言葉。(敵を見誤るなよ?)が、頭の中でリフレインしていた。

 

敵を見誤るな…。どういうことだろう。

敵。戦うべきもの。ライバル?大槻ヨヨコ?いや、今日はただのお客さんだしな。

ああ、でも。…怖かった。私はヨヨコに、今現在の姿を見せるのが、怖かったんだ。

良い姿を見せたい。でも、失望させたらどうしよう。私らしくなく、怯えてた。ひょっとしたらこれが。

そこまで思い当たった後、再び伊地知先輩に促されてフロアの様子を見ていると、あるお客さん達の会話が耳に入った。

 

「一発目、結束バンドだって。知ってる?」

 

「知らな〜い。興味な〜い」

 

「見とくのタルいね」

 

…まあそうだろうな。私達などまだまだ駆け出し。期待などされようはずもない。

誰に期待されていなくとも、私は私のロックを叫ぶ。問題ない。見ていろ、大槻ヨヨコ。

…だが、私以外のメンバーはそうはいかないようで。先のお客さんの言葉に少なからず動揺しているのが伝わってきた。

 

「なんじゃあの糞生意気な小娘どもは。ベースで頭ぽむってしてくる」

 

「り、リョウ先輩ダメです落ち着いてください!」

 

「リョウ先輩!ど、どうどうです!!」

 

珍しくいきり立つリョウ先輩を秀華高仲良しコンビが必死に押し留める。ベースってそんなファンシーな音出るのかしら?

 

「あ、あはは〜。結成したばっかでまだ知られてないからねっ。こ、こなちゃん、皆、落ち込まないで!」

 

分かりやすい空元気を振りまく伊地知先輩を尻目に、考えを進める。やっぱり…。そうかも。

 

「皆さん!!集合してください!!」

 

顔を上げ、声を掛ける。なんだなんだと。皆さんが集まってくる。

 

「ずっと考えていたんですよ。先ほどのきくりさんの言葉を。戦う敵を見誤るな。…リョウ先輩。先ほどお客さん達に対して怒ってましたよね?私達が戦う相手とは、あのお客さん達でしょうか?」

 

「うっ…。そ、それは…」

 

「私は違うと思うんです。あのお客さんも、客入りを妨害してるこの台風も…。私達の敵じゃない」

 

私の言葉に不思議そうに耳を傾けるメンバー達。ならば?敵とは?誰も言葉にしてはいないが、そう聞こえたような気がした。

 

「お客さん達の心無い一言に怯えたり怒ったり、恐れたり。そんなふうに動揺する、私達自身の心。…戦うべき敵とは、自分自身なのでは?」

 

皆一様に、ハッとした顔をする。私は構わず続ける。

 

「リョウ先輩。言葉を失礼ながらお返しします。迷うなよ。皆。ビビるな。何のために今まで練習してきた?このライブで、ベストなパフォーマンスをするためでしょ!?台風吹き荒んでようが!お客さん達が手厳しかろうが関係ない!!私達は私達のやれる事を全力でやりましょう!!」

 

叫ぶ。感情のままに。激しい感情を飼いならして、六線に乗せろ。鉄のエレキテルマシンで叫んでやる。それが私のロックだ。

 

「…凄いや」

 

ぽつりと。ひとりさんの方から声がしたので目を向ける。

 

「ホントに黒井ちゃんは、す、凄いです…。ハッキリしてて、前向きで…。わ、私。頑張るよ。こ、怖いし…ブレブレだけど…ま、負けない。わ、私は、私の怖い、に負けないから…!」

 

その目から揺るぎない決意を感じた。私もハッキリとひとりさんを見据えて返す。

 

「はい!頼りにしています!ひとりさん!!」

 

そう答えると、視界の端で伊地知先輩が頭を抱えて天を仰いでいるのが見えた。そして同時に言葉を紡ぐ。

 

「うう〜!こなちゃんに言いたい事全部言われた〜!!結束バンドのリーダー私なのに〜!!…でも、ありがとう。こなちゃん。きっと、そういう事だよね。迷うな、ブレるな。ここまで来たんだ。自分達のやりたい事だけを成せ。…うん。よし!やるぞ!!皆!台風がなんだ!!」

 

伊地知先輩が気合を入れる。すると、次に話しだしたのはリョウ先輩だ。

 

「此方。ありがとう。偉そうに此方にアドバイスしたつもりが、自分でもやってしまうとは。怒らず恐れず。いつもの自分で。きっと、もう大丈夫だ」

 

リョウ先輩は、いつも通りの表情を取り戻していた。

 

「黒井さん。貴女はいつでも、私を奮い立たせてくれるわ。もう何度目かしら。貴女の言葉に救われるのは。私は私のままに。覚悟は出来た。ありがとう」

 

喜多さんは、迷いが見えない良い表情をしていた。…思えば、喜多さんは恐れを噛み砕いてライブに臨むのはこれで二度目ね。勝手知ったる…。と言った所かしら?

 

「よし行こう!結束バンド!!私達なら出来る!!」

 

「応!!」

 

「はいっ!伊地知先輩!」

 

「は、はい!虹夏ちゃん!」

 

「行きましょう!皆さん!!」

 

スタッフさんにバンド名を呼ばれ、皆一様にステージに向かって歩き出す。

このメンバーになってからの初ライブ。あの輝かしいステージの上でもう一度。いや、これから何度だって!拍手と喝采を浴びるために!!

私達は光の中へと身を投じた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お。出てきたわね。結束バンド。黒井此方。貴女がどれほど腕を上げたのか。見せてもらうわよ。

 

「ん〜。なんかちょっち…堅いかな?どう思う大槻ちゃん」

 

「ええ姉さん。緊張こそしてなさそうですけど。皆肩に力が入ってる感じですかね」

 

廣井の姉さんの問い掛けに返答する。守りに入った消極的な姿勢よりは全然いいと思うけど…。

 

「ホントっすね。ああいう時って前のめりな気持ちとは裏腹に纏まんなかったりするんすよね」

 

あくびはそう分析する。私も同じ意見だ。…まあ、そんなもん始まってみないと分からないが。

 

「けっ結束バンドでーす!皆さんお待たせしましたあ!」

 

あれは確か伊地知虹夏さん。ドラマーで結束バンドのリーダー。

やはり、声からは気負いが見える。頑張らなきゃ、という気負い。

聞けば初めてのライブとのこと。仕方ないか。

 

「本日は、あ、足元の悪い中お越しいただきありがとうございま〜す!」

 

「れ、礼儀正しすぎですよ伊地知せんぱ〜い!」

 

あはは…。し〜ん。小さな笑い声が控えめに起こった後、フロアに訪れたのは、沈黙。ロックバンドのMC中に沈黙が訪れる事なんかある?

 

「うぐふぅ!?心臓が!」

 

「大槻ちゃん!?」

 

「キツめの共感性羞恥っすね。滑ったMCに精神がついていかなかったんすよ。すぐ戻ってきます。心配せずに」

 

「は、長谷川ちゃん…大槻ちゃん博士だね…」

 

「…なりたくなかったっすけどね」

 

間髪入れずに結束バンドの演奏が始まる。

ドラムのハイハットから、ベースとドラムが音の下地を敷いて、三本のギターが彩りを添える。

赤髪のボーカルの子が歌い出し、音楽として乗っていく。…のだろう。本来ならばだ。

 

「…合ってないっすね」

 

「だね。皆、必死に合わせようとしてる。逆にそれが合わない原因っぽいかも」

 

あくびと姉さんの会話。

…確かに。黒井此方含めて、結束バンドの全員が、どうにかしよう。どうにかしなきゃ!と、足掻いているからこそ、皮肉にも合ってない。そういうふうに聞こえる。

こういう時に力を発揮するのが黒井此方なのだが、今日は演奏に呑まれてしまっているわね。珍しい。

…いいパフォーマンスをしてるのは、ボーカルの赤髪の子と、ピンクのギターの子か。

あの子達が踏ん張っている間にリズム隊がどれだけ普段の演奏に立ち帰れるか。そこが鍵ね。

 

くっ!?リズムが合わない!違う、私たちが合ってない!

ひとりさん達のリズムが合っているのに、合流できない!なんで!?

演奏の最中、リョウ先輩や伊地知先輩とアイコンタクトで意思を交わし合う。だのになぜ合わない!?

…そうか。もしかして。皆が皆。相手のリズムに寄り添おうとしてるのか!?

巨大な芯が一本ないから、中心が行方不明になってるのか。今日のライブを大事に思う心がこんな形で裏目に出るなんて!?

マトモにリズムを取って演奏してる喜多さんやひとりさんに申し訳が立たないな…。そんな事を考える間に、一曲目は終わってしまった。

 

「ぎ、ギターと孤独と蒼い惑星、でしたー!」

 

伊地知先輩のMC。だが、私の耳には入らなかった。

 

「やっぱ全然ぱっとしないわ」

 

「早く来るんじゃなかったね」

 

悔しい。こんなに悔しいのはいつぶりだろう。

誰もいなかったら怒りに任せて地団駄を踏んでいたに違いない。

明らかに足を引っ張った。

くそっ!私たちはこんなもんじゃないぞ!!次の曲!次の曲を!!と、私が考えていたときだった。

 

ジャーン。

控えめなダウンストローク。ギターの音色が響いた。

その音が会場の耳を奪う。次の瞬間に展開される、ひとりさんのギターソロ。

唸りを上げるような低音を吐き出した後、リズム良く少しずつ上げられていくトーン。

荒々しくも端正なコード音を刻む演奏は、私が長年聴いて信奉した、ギターヒーローの演奏そのものだった。

その音が叫んでいる。「このままでいいのか!?」と。「周りを気にするな!」そう、聞こえた。

…全くもって、世話がない。あんなに始まる前偉そうに言ったのにな。

…ありがとうひとりさん!貴女を、ひとりにはしないから!!

上がりきったトーンを皮切りに、伊地知先輩のドラムがはじかれるように前に出る!私もリョウ先輩も目を合わせてそのリズムに乗っていく!二曲目!!新曲!(あのバンド!)だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無我夢中だった。これで終わりたくはなかった。

私は、私に負けたくなかった。今までの私はしたい事があったのに、諦めてきた。止まりたい指に止まってこなかった。

もう嫌だ。もう嫌なんだ!前に出る!皆を鼓舞する!!

今まで助けてもらった!止まりたい指に止まらせてくれた皆を!助けるんだ!

私は私に嘘を付く!!黒井ちゃん!私は貴女が思ってくれるようなヒーローじゃない!そんな凄い人じゃないけど!やってみるよ!貴女達の前では、私はヒーローでいてみせる!怖さも!迷いも全部振り切って!だから!皆!頑張って!!

 

「へえ!」

 

「おっ!?」

 

「…ふん」

 

三者三様。でも、共通していたのは驚きのように感じる。

ピンクのギターの子のソロは恐らくアドリブだ。だが、あのソロの後の結束バンド。明らかに前と違う!

気負いがなくなり、ドラムが、ベースが、そしてリズムギターが伸び伸びと演奏しだした!

そして、その演奏がバッチリとハマり、先ほどにはなかったグルーヴを生み出す!!

一つ一つだった音達は一つの音楽として纏まり、凄まじい突破力を発揮する!!

赤髪の子のボーカルと、五つの音が纏まり合わさり所狭しとフロア内を暴れ回った!

…成る程。これが黒井此方の所属するバンド。結束バンドの真の姿か。面白い!

 

 

 

 

 

 

 

 

演奏が終わる。かんっぺきだ。堅さは完全に取れた。遅えよとか言われるかもだけど。

ヨヨコ。どうだ!

すると会場から、まばらな拍手と歓声が、少しずつ、少しずつ沸き上がった!十数人しかいないライブだが、満足してもらえたろうか?

錆びた鉄のドアノブの様な音を首から鳴らしながら、ひとりさんが振り返る。何か、悪いことをしたかのように顔を青くして。

 

「あ、あの…」

 

「いついかなる時も、貴女は最高ですね!流石です!私のギターヒーロー!!」

 

「あう…」

 

伊地知先輩とリョウ先輩と合わせてサムズアップを送る!ひとりさんは照れくさそうに頬を赤らめ、俯いていた。

 

「な、何か、す、凄いじゃん…」

 

「ねっ!凄かった!」

 

…ふっ。どんな賛辞よりも嬉しいわね。最初酷評していた二人のお客さんのそんな言葉を聞いて、少し私は心の中で溜飲を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…流石は、ギターヒーロー。いつかは、取材させていただきますよ。絶対にね。今はまだ、ムリそうだけど…。

苦笑交じりにステージの上のピンク色の小動物ちゃんを見上げる。だが、ギターの腕はさしづめ、虎といったところか。

今日の事は敢えて記事にはすまい。次も、その次もあるだろうから。結束バンドの成長に期待だ。

それまでは、ギターヒーローさんは、此方。貴女に任せる。

確かに、後藤ひとりさん。面白い素材だわね。

一瞬、ステージ上の黒井此方と目が合う。パチンとウインクをした後、私は結束バンドのライブが終わったSTARRYを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒井此方」

 

「ヨヨコ…!」

 

ライブが終わって楽屋にはける前に、ヨヨコに声を掛けられる。隣にはあくびさんもいた。

 

「中々やるじゃない。進化してたわ確かに。まだ私達には及ばないけどね」

 

「うぐっ…!」

 

ぐうの音も出ない、最初の曲はまだまだクオリティを上げられる。くそう、私とした事が。

 

「あのピンクの子。かなりの腕ね。貴女以外にもいるじゃない。面白い子。あの赤髪の子も、凄いセンス。貴女達のリズム隊が完璧なら、結束バンド。面白いかも。…覚えておくわよ。…あくび!帰りましょう。今日は楽しかったわ。黒井此方!精々腕を上げなさい。私達に倒されるためにね!!」

 

「あっすんません。ほんじゃ失礼します。ヨヨコせんぱ〜い!待ってくださ〜い!」

 

ヨヨコとあくびさんが足早にライブハウスを後にする。何だ皆して。ケツカッチンか。

 

「大槻ちゃんは練習したいんだよ〜。多分君達の演奏が火を着けたんだと思うよ?」

 

「きくりさん」

 

「凄く良かったよ。特に二曲目。確かに進化してた!流石だねこなちゃん!」

 

「ありがとうございます!」

 

「君達結束バンドは上に行けるよ!私の勘は当たるのさ!」

 

上機嫌にパック酒を啜りながら、後ろ手にひらひらと手を振りつつ、きくりさんはフロアの雑踏に紛れていく。次のバンドも聴いていくようだ。外は嵐だし、それが効率的だ。ぽいずんさんやヨヨコ達が異常なのだよ。

 

何とか初ライブ。成功といっていいんではないか。今回は、喜多さんと、ギターヒーローひとりさんに救われた。冷静と情熱の間。中々難しいが、今度のライブではやってみせよう。私は気持ちを落ち着けつつ、今日のライブの反省点を洗い出すために、仲間達が待つ楽屋へと足を向けるのだった。

 

 






後藤ひとりは自分に嘘を付く。自分一人ではとても届かないであろう理想のヒーロー。皆を支える為に、皆の願いを叶えるために、自身に嘘を付き理想のヒーローになる。

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