女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!?   作:はま0821

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つなぎ会だぜ。
女子高生の夏休み、何の起伏もない一幕。



25 思春期男子高校生!

 

 

「…わ、わすれて〜、わすれて〜…」

 

伊地知先輩。その忘れてビームは効き目ありませんよと何度もご説明したじゃないですか。いい加減にそのかめはめ波もどきみたいな構えをときなさい。

 

「心配せずともあの日の伊地知先輩は私の心のアルバムにしまっておきますよ。他言しませんから安心してください」

 

「う、うぅ〜、ほ…ほんと?ほんとの本気でお願いね…。リョウには見られたことあるからいいけど、下級生二人に知られちゃったら私のリーダーとしての威厳がぁ…!」

 

頭を抱えて項垂れる伊地知先輩。リョウ先輩は知ってんのか虹夏姫モード。流石は幼馴染。

 

ここはSTARRYのメインフロア。新学期が迫ってきているなか、我々は相変わらず忙しい日々に追われていた。メインフロアの掃除が終わったら、次は機材のメンテである。

 

「にしても虹夏。運がなかったな。まあ誰にでもあるよ、風邪引いたらメンタル弱るっていうし」

 

「誰にでもないよ!?もぉぉ!お姉ちゃんまで適当なこと言ってぇ!」

 

「ははは。悪い悪い」

 

ふふふ。仲睦まじき姉妹の掛け合いを眺めるのは飽きないわね。なんかこう。最初から仲良かったけど、更にぐっと距離が縮まったというか。

 

「虹夏。おはよ」

 

「っっ〜!!!き、きゃああああ!!!」

 

「化け物見た時のリアクション。失敬な」

 

伊地知先輩の後ろにいつの間にか詰めていたリョウ先輩。意地悪くもいきなり声を掛けると、伊地知先輩は完全に油断していたのだろう。飛び上がるほど驚いていた。

 

「おうお疲れ。リョウに喜多と、ぼっちちゃん。早かったな?」

 

「店長お疲れ。…虹夏と、なにかあった?」

 

この人普段うすぼんやりしてるくせにマジで勘鋭いな。上手く誤魔化して下さいよ店長?

 

「い、いや?な、なんでそ、そう思うんだ?」ぴ〜ひょろろ〜。

 

ヘタクソかよ。口笛吹けてないし。

 

「…だって。郁代」

 

「う〜ん。そうですか〜」

 

今のはどうやら、リョウ先輩ではなく喜多さんの意見だったようだ。喜多さんも、凄まじく鋭い所があるからな。私も気を付けねば。伊地知先輩の、名誉を守るために。

 

「…ならいいんですっ!さあ!皆さん!練習に行きましょう!」

 

いつもの喜多さんに戻って、弾けるような笑顔を振りまいた後、スタジオに向かう喜多さん。リョウ先輩がそれに続く。…喜多さんが私とすれ違う際に一瞬だけ、視線をくれたようなような気がしたが、気のせいだろうか?

 

「は、はあっはあっ!あ、あれ!?リョウは!?皆は!?」

 

「あ…、に!虹夏ちゃん。み、皆さんはスタジオ行かれましたよ…?一緒に行きましょう…」

 

「うおう!?な、なんだぼっちちゃんか」

 

伊地知虹夏、再起動。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日だ。あの日は結局特に何の変哲もないまま終わった。いつも通りに皆で音合せして。バイトして後片付けしてバイバイ。伊地知先輩が先の事があったから、少しソワソワしていたくらいだ。

 

しかし、真夏だ。凄い。太陽が高い。青空は何処までも深く広がり、蝉は高らかに自身の生を叫んでいる。

 

気温にしてみたら多分、35度をゆうに超えているだろう。死人が出るわねこりゃあ。学校から帰りしなの道すがら。私はそんな事を考えながら歩いていた。

 

今日は珍しくバンドもバイトもない。いや珍しくもないか。こないだもあったし。そんときはあれだ。例の事件で私の休みが露と消えたのだった。

 

今回はそうはならんように。と、あまり真面目にではないが祈っていると、私のかなり前の方に、恐らくは顔見知りを発見する。

 

秀華高の真っ白い制服に、真っ白のギグバッグ。赤い髪の毛を歩みと共にサラサラと揺らしながら歩く、あの後ろ姿は、喜多郁代。言わずとしれた、我がバンドのボーカルだな。

 

無防備とは言わないまでも、少し防御が手薄に見えた後ろ姿に、僅かな悪戯心が芽生える。早足であっという間に喜多さんとの距離を詰めると。

 

「き〜た、さんっ!」

 

後ろから人差し指で脇腹をつついてみた。

 

「きゃっ!?…な、なんだ。黒井さん。脅かさないでよ、もう!」

 

「御免なさい。前を無防備な美少女が歩いていたもんだから、ついね?」

 

ウインクを飛ばしつつ、ちゃらけた台詞が口をついて出る。ナンパか。

 

「びっ!?も、もう。歯の浮くような台詞は禁止!」

 

「重ねて御免なさい。ひとりさんは?一緒じゃないのね?」

 

そう問うと、喜多さんは顎に指を当てて一瞬思案し。

 

「私も一緒に帰りたいって思ってるのよ。実際、何度か一緒に帰ってるんだけど、今日は巻かれちゃったわね。一瞬目を離しただけでいなくなるのよね〜」

 

「ははは。実にひとりさんらしい。だから一人で帰っていたのね?」

 

「そうよまったく。もう結構な間一緒にいるのだから慣れてほしいものだわ…」

 

喜多さんと他愛無い会話を交わしながら灼熱のアスファルトの上をゆく。涼やかな雰囲気を持つ喜多さんでも、よく見てみればあらゆる所に汗が滲んでいた。流石の喜多さんでもそりゃかくわよねえ…。そんな事を考えながら、鞄の中の麦茶のペットボトルを取り出して喉を潤す。

 

「ねえ…。伊地知先輩と、なんかあった?」

 

んぐぅ!?

 

「げほっ!?ゲホゲホ!?がはっ!?」

 

「だ、大丈夫黒井さん!?」

 

私は飲んでいた麦茶を誤飲して盛大にむせ返った!しまった油断してた!こんな動揺したら認めたようなもんじゃない!店長に質問したんだから私に来てもおかしくないのは予想ついてたのにぃ!

 

「…あったんだ」

 

口を尖らせながら喜多さんが呟く。

 

「えっ?何かってなによ!?こないだも店長に似たようなこと聞いてたわね!何を聞きたいの!?」

 

ツーンと尖らせた口とジト目。何故か不機嫌のように見える喜多さんに切り返す。

 

「べっつにぃ?なんか、店長さんと伊地知先輩と黒井さん。距離感が縮まってるような気がしたのよ。…また私達に隠れてお泊り会でもしたの?」

 

あ、ああ。なんだそんな話か。まあさしもの喜多さんでもイキナリ核心には迫れないわよね。

だが、流石の勘の鋭さだ。何かあったことまでは合ってる。

さて、どうしたものか。伊地知先輩の恥部(虹夏姫モード)を隠し通すのが私の任務だが、喜多さん相手に下手に隠し事すると、私は綻びを隠し切れる自信がない。

喜多さんならその僅かな綻びから手繰り、私の隠し事の編み物を全て解いてしまうかもしれない。…それならばだ。

 

「…まあ、そうね。あったっちゃ、あったわよ?伊地知先輩がこないだ風邪引いちゃって、偶然街で店長さんに会った私が、看病を手伝ったのよ。そんな話があったわ」

 

嘘つきの常套手段。本当に隠したいものを煙に巻くため、一部偽らざる真実を話すのだ。勿論、隠したい事には触れずに。

 

「ふ〜ん…。なんで店長さんは隠そうとしたのかしら。下手な口笛まで吹いて…」

 

店長ぉぉ!!余計な事を!喜多さんが引っ掛かってるじゃないですか!あの人嘘は向かんな。生来の正直者だ。

 

「な、なんか店長料理下手みたいよ!病気の伊地知先輩に不味いもの食べさせられないって言って私に白羽の矢が立ったのよ!多分それが店長は恥ずかしかったんじゃないかしら!?」

 

すんません店長!嘘で喜多さんを煙に巻く自信がありません!一部店長の恥部を晒しましたがお許しを!

 

「ふ〜ん…。ま、いいわ。本当っぽいし」

 

…ほっ。

 

「て、ていうか何でそんなの気になったの?」

 

「えっ!?い、いや〜。そ、そのう…」

 

喜多さんは先程の様子とは打って変わり、自分の髪の毛をくるくる弄り、所在なさげだ。

 

「な、なんか、気になったのよ。それだけ。…なんか、伊地知先輩とばっかり…。私は、黒井さんと、あんまりなにもないなぁ…。なんて…」

 

少し顔が赤い喜多さんが、そっぽを向きながらも答えてくれる。えっ。可愛い。喜多さんそんなん気にしてたんだ。

 

「…因みに喜多さんは、家はどこ?」

 

「えっ?えっと、そこ曲がったとこのマンションよ」

 

「あらそうなんだ。そしたら私達、ご近所さんね。右を見て頂戴、喜多さん」

 

「えっ?」

 

私に言われたとおりに右を見る喜多さん。その視線の先には、私が目指していた目的地。築何年かは忘れたけど、中々に年代を経てきた貫禄を感じる、トイレは部屋ごとにあるけれど風呂シャワーは共同。な、我がボロアパートがあった。

 

「…ま、まさかここが」

 

「そのまさかよ喜多さん。私とイベントないのが不満と言ってたわね喜多さん。…うち、よってく?」

 

一昔前のテレビ番組のような文言で誘いをかけてみる。

 

「え!?い、行く!行くわ!きゃっー!黒井さんちよ!」

 

「ふふ。結束バンドのメンバーには、本邦初公開よ。お茶でもしばいていきなさい」

 

「古風な言い回しね黒井さん!やっぱこうじゃないとね!私達花の女子高生!もっと友達と遊ばないと!」

 

私もそれには賛成だ。来る日も来る日もバンドの練習やらライブハウスでのバイトやら。ま〜あ音楽漬けだ。皆と遊びに行ったのなんか夏休み初っ端のひとりさんちにお泊り会した以外はない。もっと遊ばなきゃ。

 

「私だけとは言わず、今度は結束バンドの皆でどっか行きましょう!できれば夏休み中にね!」

 

「いいわね黒井さん!楽しそう!」

 

「そしたら喜多さん!こっちよ!立ち話もなんだし続きは私の家で話しましょう!」

 

「ええ黒井さん!お邪魔するわ!」

 

私達は意気投合しながら、ボロアパートの二階にある我が家に向けて階段を登った。

 

鍵を回してドアを開ける。…そういえば、喜多さんには言い忘れていたけど、今日は多分弟がいるのよね…。まあ、知り合いだし大丈夫だろうけど。…弟の方が大丈夫かは知らないけどね。

 

狭い玄関で二人で靴を脱いでいると奥の方から弟の声で。

 

「おかえり〜姉貴〜」

 

と声が聞こえる。

 

「ただいま彼方。今日はお客さんを連れてきたわ」

 

「あっ。お邪魔します!黒井くん!」

 

喜多さんの声が響くと同時に、どったんばたんと音が鳴り響く。焦っているわね。

 

「お、おい姉貴!今の声喜多さんか!?」

 

「そうよ。嬉しい?」

 

「バッカやろ!き、喜多さん!ゴメン待って!マジ待って!」

 

隣を見やると喜多さんは口に手を当ててクスクスと笑っている。

 

「待ってくれるって」

 

「てめぇ姉貴覚えてろよ!す、すまん喜多さん一瞬だけ待っててくれ!」

 

騒がしい音が断続的に響いている。だがそれも少しずつ静かになり、奥から着替えたのであろう弟が顔を出す。

 

「ご、ごめん散らかっているけど…!ど、どうぞ。喜多さん…!」

 

「クスクス。はあい。お邪魔するわ。黒井くん」

 

まあ予想通りなのだが、何故か毎日学校で会ってるはずなのに緊張している我が弟を見やる。

 

「何緊張してんのよアンタ…」

 

「う、うるせえなぶっ飛ばすぞ姉貴!」

 

「ふふふ。二人共仲いいのね!」

 

何処が仲良いように見えるのか?陽キャフィルターは恐ろしいわね。そんな事を思いながら、私の家のメインルーム。ちゃぶ台にソファ。けして大きくはないテレビが置かれたリビングへと足を踏み入れる。

 

「喜多さん。テキトーに座ってて。お茶でも入れてくるから。彼方。喜多さんの相手をしなさい。お客様なのだから、失礼のないように」

 

「き、喜多さんが来るなんて聞いてないぜ…!何か変な感じだな…!」

 

「なんでよ黒井くん。いつも通り普通にお話しましょ?」

 

そんな会話を背中に聞きながら私はお茶を淹れるために台所へと立つのだった。

 

…お客さんが来るとか、久し振り。…お茶請けは、キットカットでいいか。三人分のお茶を淹れおわり、お盆に乗せてリビングに戻ると、彼方と喜多さんは、楽しげに何らかの会話を交わしていた。

 

「あら。楽しそうね彼方。何を話していたの?」

 

「い、いや。普通に、姉貴のバンドの話だよ」

 

「エッチな話は?」

 

「ぶっ飛ばすぞてめぇ!?」

 

お茶をそれぞれの場所に置きながら、軽口を叩く。弟はレスポンスがいいのよね。ついつい話を振りたくなるわ。許しなさい。

 

「彼方。バンドの話を聞いてたら、久しぶりにやりたくなってきたんじゃない?」

 

「…まあな。やっぱまだ俺、音楽に未練があるらしいや」

 

「黒井くんは何で辞めちゃったの?音楽」

 

「つまんねえことだよ。喜多さん」

 

理由を見事に濁す我が弟。…私としては、格別のセンスを持つコイツの才能を、腐らせたままにしておくのは惜しい。…なのでここで、少々の荒療治をかますことにする。

 

「そういえばね彼方。こないだ大槻ヨヨコに会ったわよ?」

 

「…なんだと?」

 

途端に弟の目が鋭くなる。大槻ヨヨコ。彼方のバンドに。私達のバンドに敗北の二文字を初めて刻んだ、彼方にとっては忌まわしい相手。

 

彼方は、所謂天才というやつだった。一を聞いて十を理解し、実行する。多くの凡百の人間は、小学校の低学年くらいまでに、致命的な負けを経験する。そして知るのだ。自分の、身の程というものを。

 

だが彼方は、その才能故に中学生まで負けを知らなかった。初めて敗北を経験した彼がとった道は、逃げだった。それを見て、私は思ったのだ。余りに勿体ないと。

 

「な、なんて言ってやがった大槻の奴」

 

「私と一緒よ彼方。勿体ないって」

 

「…!」

 

「同時に、あんだけのめり込んでいたのだから、近いうちに戻ってくるだろう?とも言ってたわ。…どうやら、当たりそうね?」

 

「…。ああ。やっぱ、負けっぱなしは性に合わねえや。あの野郎、余裕こきやがって…!俺に勝ったのを後悔するくらい、百回ぶっ飛ばして泣かしてやる!」

 

言うが否や彼方は自身の部屋に引っ込み、暫くしてギグバッグを抱えて出てきた。

 

「喜多さんすまん!ゆっくりしていってくれ!姉貴!やることが出来たから出掛けてくらあ!」

 

「いつものスタジオね?行ってらっしゃい」

 

ドタバタと嵐のように去っていく。喜多さんはその様をぽか〜ん。としながら眺めていた。

 

「…。なんか、流石貴女の弟さんね。黒井くん」

 

「それは不本意。私はあんなに突拍子なくないでしょう?」

 

「自覚ないのが流石よね。やっぱり黒井くんも大槻さんをライバル視してるんだ?」

 

「まあそうね〜。アイツにとっちゃ唯一の負けなわけだし、リベンジしないと終われないんじゃない?」

 

まあアイツが再び音楽をやるのは好ましい事だが、同時に厄介な事態になったかもしれない。私は既に結束バンドを組んでしまった為、アイツは味方ではなく敵になる。世代最高レベルの音楽センスを持つ男が。

 

「まあ、正面から蹴散らせばいいか。大槻ヨヨコと同じく」

 

「?」

 

「何でもないわ!それより喜多さん。夏休みも後僅かよね、休みの日とかは何してたの?」

 

「ず〜っと友達と遊んでたわ〜!夏休みなんて何日あっても足りないわよね〜」

 

「そうよね〜。やっぱりまた、結束バンドの皆と一緒にどっか行きたいわ〜。キッカケあったら協力して〜喜多さ〜ん」

 

「勿論よ黒井さん!また皆でどっか遊びに行きましょ!」

 

密かに喜多さんと二人で遊びの計画を立てる。一日ずっと自由に使える時なんて夏休みくらいしかないのだから、もっと堪能せねば。

 

実は私とご近所さんであると判明した喜多さんと話し込みながら、私はそんな事を思うのだった。

 

 

 






彼方くんは結構重要なキャラになりそう。
第二の主人公。

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