女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!? 作:はま0821
眠れなくて辛かったよ。人生で初めてさ。酒を思いっきり飲んでも寝れへんの。睡眠薬様々。
「はっ、はぁ…。と、とうちゃ〜く!み、皆さん!ここが江の島のてっぺんですよ!」
喜多さんが手を広げながらそう宣言する。私は息も絶え絶えに、階段を登りきった所にいる彼女を見上げながら、必死に足を動かす。後少し。もう少しでこの塔の頂だ。
先程江の島のてっぺんに辿り着いた!と思って胸を撫で下ろしていた私と、バンドメンバーの皆に喜多さんから容赦なく次の言葉が告げられる。
「まだ終わってないわよ黒井さん!皆さん!アレを登らなきゃ江の島のトップを取ったとは言えないわ!」
喜多さんが指差す方に目をやると、その方向には銀色の塔が天に向かってそびえ立っていた。嘘でしょ。まだ上があるの!?
因みにそびえ立つ塔の名前は、江の島シーキャンドル。ありがたき喜多さんの提案で、登る時エレベーターは禁止だ。これはここまでも同じだった。江の島エスカーを使わずここまで来たのよ。偉くない私達?
この提案には流石の普段温厚な皆さんも凄まじい文句だった。
「き、はあっ…!喜多ちゃん!む、無理です…!!」
「郁代。寝言は寝てから言って」
「き、喜多ちゃん…!わ、私もう無理…!もう限界…!!ひ、引き返そうよ!ね…!?」
口々に不平不満が漏れる。因みに私も全くの同意見だ。だがしかし。
「大丈夫です!!ここまで登ってこられた皆さんならばきっとイケます!私についてきて下さい!!」きったーん!!!
目に炎が宿ってる!喜多さんはね、言い出したら聞かないのよ。何人たりとも犯せぬ鋼の様な意志の力。こんな形で思い知ることになろうとは…!味方なら凄く頼もしいのに!
「ど、どうしようか虹夏…?」
「ムリだね…。行くも地獄、戻るも地獄だよ…。あのテンションの喜多ちゃんを押し留めるパワーは今の私にはない…行くしかなさそうだね」
「は、はあっ…はあっ…うっぷ。ほ、ホントですか虹夏ちゃん…はあっ…はあっ…」
我がヒーロー死にかけ。無理もないですね、私もてっきりここがゴールだと思っていましたよ。
それだけに精神的ショックが大きい。…でも。私は皆と遊びたかった。
先日、喜多さんが私の家に遊びに来た時に言った事。あれは嘘じゃない。そして。その皆の中には喜多さん!貴女も含まれてるのよ!
私は喜多さんと目を合わせて、ふっと笑う。
「何の得もないかもですが…、私は行きますよ…!はあっ…!せ、青春なんてもんは、だいたいは無駄なもので出来てるのではないですかね…?」
そう言いながら私は周りを見渡すが、ビックリするほど共感を得ていない。皆の顔には嫌な気持ちを絵に表したかのような表情が貼り付いていた。ですよね〜!
「ほらほら皆さん!行きますよ!?」
喜多さんが後ろに回って皆の背中をグイグイと押す。そんなこんなで押し切られた私達は亡者の様な足取りで江の島シーキャンドルを登り始めて、つい先程、何とか登りきったのである。
「つ、着いた…!や、やれば出来るもんね…!」
私は両膝に手をついて、視線を地に落としながら呟く。頬に汗が何筋か伝っていくのを感じる。因みに他のバンドメンバーは視界には見えているがまだ頂上までは来ていない。
「黒井さん!流石体力あるわね!」
一足先に登り終えていた喜多さんに声を掛けられる。まだまだ声には力があり、疲れている中にも余裕が感じられた。
「あ、貴女はおかしいわよ喜多さん…!早すぎるわ…!」
「私も疲れてるわよ。さて!私!皆を手伝いに行ってくるわ!」
「え、マジで?」
言うが早いか喜多さんは。一番近くまで来ていたリョウ先輩に肩を貸しに行っていた。
自分が登り切るだけじゃなく、皆のことを常に考えて…!流石はトップオブ陽キャ。凄いパワー。
でもね喜多さん。今の私にその体力はないわ…。
「はあっ…!はあっ…!き、喜多ちゃん、肩貸してくれてありがとう…!うぷっおえっ…!」
「騙されるなぼっち…!その悪魔の言葉がなければ私達はこんな苦労してないぞ…!」
「つ、疲れた…!涼しいれいぼうさいこう〜!」
御三方が何とか江の島シーキャンドルの頂、展望室に辿り着く。確かに、言い出したのは喜多さんだが悪魔扱いは少し酷くないだろうかリョウ先輩?
「さあ皆さん!自分で苦労して歩いて来た後の景色は格別でしょう!とくとご堪能あれ!」
喜多さんが右手を広げて眼下を指し示す。窓越しではあるがそこには素晴らしい景色が広がっていた。
空の色をそのまま写し込んだような海の色。首都東京から程近いとは思えぬほど透き通った蒼に、リアス式に削り取られた海岸。何処までも広がる地平線、勿論私達がここに来る際に渡った弁天橋も一望できる。
「わ、わあ〜、す、凄い…!」
「ほ、ホントですね虹夏ちゃん…、き、綺麗…!」
「ああ…、疲れた…!綺麗だけどタイパとコスパ合ってないよこれ…」
約一名ノリ悪いわね。確かに私も同意見ですけどそれは言わぬが華でしょうに。
〜して、五分後〜
「…飽きてきたね」
「あっはい…」
「ほら見ろやっぱ見合ってないよ。降りよ降りよ」
早っ!確かに飽きたのもあるんだろうけど、疲れたから早く帰りたいのがアリアリと見て取れるわね!
「くうっ!インドア人達め!」
ぞろぞろと降りる準備を始めるバンドメンバーの背中を眺めながら喜多さんが悔しげに呟く。流石の喜多さんも、二度目の多数決には敵わないようで、さっさと降りる流れとなった。今度は流石にエレベーターで。
「くそう、課金アイテム何もなしか…、なんでエスカー下りはないんだよ…!」
リョウ先輩が怒りを込めてそう呟く。江の島エスカーは登りしかないので下りは自力だ。大変だがもう仕方がない。一度来た道を重い足取りで今度は引き返して行く。
「リョウ先輩!これもひとりさんの青春の一ページのためですよ!私はもう覚悟を決めました!」
「クソっ、ギターヒーロー信者め…、何か信じるものがあるとこういうときは強いな…!はあ、はあ…」
なんとか息も絶え絶え歩くリョウ先輩と言葉を交わす。リョウ先輩ってこう、何だかんだで面倒見がいいわよね。流石に先輩だわ〜。
「喜多ちゃん、今日はこれで終わり?まだ昼過ぎだし帰るには早いかな…?はあ、はあ…」
「勿論!ひとりちゃんの青春の一ページのため!まだまだ行きますよ伊地知先輩!」
「な、なんか悪いです私なんかの為に…」
「いいのよひとりちゃん!折角なんだし皆で楽しみましょ!ほらほら次行くわよ!」
まだまだ有り余る力を感じさせながら喜多さんが話す。流石ボーカリストね。呼吸器官が違うのかしら?
もう私なんか足が棒だよ、まあもう今日はとことんまで付き合う!と覚悟は決めたけど。
弁天橋の手前、仲見世の始まりの鳥居の前まで戻ってきた私達は、一旦作戦会議のため座れる場所に腰を下ろす。
「ほれぼっち。鳥居バックにして撮ったげる。ピースピース」
「あっはい…、ありがとう、ございます」
リョウ先輩がひとりさんのスマホで写真を撮ってあげている。うんうん。あれもひとりさんの青春の一ページに加えられることでしょう。とても良いことだ。少し笑顔が暗いのは最早ひとりさんなので仕方ない。
皆で少し飲み物を飲んで一息ついたところで伊地知先輩が喜多さんに尋ねる。
「喜多ちゃんは次行きたいとことかあるの?」
「はい!実はここ江の島の神社の神様は音楽や芸事にご利益をいただけるみたいでして!私達結束バンドの成功を祈願しに行きましょうよ!」
「そうなんだ!それはいいね!頼みに行こうよ!」
「郁代。いい心がけ。神や仏に頼らんでも私達は売れるけどね」
「凄い自信です…!リョウ先輩素敵…!」
「喜多ちゃん?辞書めくってみ?ああいうのを自惚れや、っていうんだよ?」
やれやれと頭に手を当てるわざとらしいポーズをしながら伊地知先輩が呟く。それを聞いて、不服そうな顔をするリョウ先輩。
二人のやり取りを見てひとりさんは、表情こそあまり変わらないけど、楽しそうだ。何となく、分かるようになってきた。
「それじゃ、神社はこっちです!皆さん行きましょう!」
まるで先程の海の色のように透き通った喜多さんの声を合図に、私達は今度は江島神社の方に向けて歩き出した。
だがしかし。私達はここでの判断は後にミスであったと。思わされるような出来事に出会ってしまう。
江島神社への道は予想以上に、人でごった返していた。後で調べた所、何やら有名なオーチューバーがこの江島神社を紹介したらしく、若者が殺到したのだとか。
「うへあ。郁代。なんか待ちそうだよ?やめない?」
「は、早いですよリョウ先輩!す、少し待つだけですから!」
「え〜?これ少しで済むかなあ〜?」
伊地知先輩が言う通り、人が多くて先も中々見通せない。こんなに混み合っているとは。余程皆、音楽や芸能で一発当てたいのね。
そんな事を考えていると、不意に人が波の様に移動し、私達はその人波に飲み込まれてしまう。
「ちょっやばっ…!皆さん!大丈夫ですか!?」
転ばぬように必死で踏ん張っていたら、なんとか人の波が収まった。私は慌てて視線を彷徨わせる!勢いに押されて大分もといた場所から移動してしまった。み、皆は!?
「ぶへあ〜、す、凄い人だったね〜!」
遠い所から伊地知先輩とリョウ先輩が歩いてくる。良かった二人共無事か。
「みなさ〜ん!」
同じく遠い所から喜多さんが手を振りながら走ってくる。あんな遠くに行ってしまうなんて今の人波のパワーは侮れないわね…!
これで四人。喜多さんにリョウ先輩。伊地知先輩。しかし。今日江ノ島に来た理由。一番大事な人が足りない。
「あれ?ひ、ひとりさんは?」
「えっ!?ひとりちゃん!?」
「今の人波か!?」
「しまった!ぼっちちゃん!?」
す、凄い人波だった…!人に押し流され、転ばないように足元にばかり気を付けていたら…。どこ、ここ。気付かぬ間によく分からない場所へと移動していた。
周りには知らない人だらけ。これでは私は、迷子だ。
虹夏ちゃん。喜多ちゃん、リョウ先輩。黒井ちゃん!皆!
私は周りを見渡す。周りの人は一緒に来ている人と思い思いに喋っているか、一人の人も目的があるみたいで、私のように不安で立ち尽くしている人などいない。
そうか!スマホ!私は思い立ち、ジャージのポケットを震える手でまさぐる。
…ない!う、嘘!?なんで!?
「ああ…そっか」
あの時だ。私の写真を撮ってくれるとの事で、リョウ先輩に私のスマホを渡したんだった。
嘘…。わ、私、一人?よく分からない江の島のどっかで一人ぼっち?あ、あはは…。あだ名通りだな。などと現実逃避気味に胸中で呟く。
私は、昔から一人だった。友達なんか出来たことなかった。
だけど、つい最近、出来たんだ。バンドに誘ってもらって。初めての━友達。
最近は、私史上一番と言っていい程喋れてた。家族とではなく、友達と。嬉しくて、楽しくて。こんな事は、今までなかったんだ。
だからなのかな。…こうやって、自分が一人だと自覚してしまうと。…昔みたいに、誰からも振り返られず、認識もされない。そんな今の状況を。
…たまらなく、寂しく感じてしまう。私は、何処に行けばいいのだろう?
胸の中で冷静な私と寂しんぼの私が喧嘩してる。
「すぐ見つけてもらえるよ!」「皆に、もう会えないのかな?」
元々の私はネガティブな性格、物事をポジティブに考えるのが苦手だ。案の定というか、私の暗い考えが最早虫の息の明るい考えにとどめを刺そうとしていた時だった。
「ぼっち!!!」
聞き慣れた人の聞き慣れない大声。…そんなに大きい声出せるんだ。知らなかった。…私も人のこと言えないや。
「す、すまんぼっち!見失ってた!しかもぼっちのスマホも…!…!?ま、まさか泣いてる…?」
しまった。拭うの忘れてた。もう。普段細かい事を気にしない様な振る舞いなのに、繊細なとこに気付くんだね。ズルい。
「…ううん。あ、いえ…」
「…!くそっ!ゴメンぼっち!折角思い出作りに来たのに迷子になんかなりたくなかったよな…!ホントにゴメン…!」
遅ばせながら目元を拭っているとなにも悪くもないのにリョウ先輩が謝る。誰のせいでもないのだから、謝る必要などないのに。…何故だろう、その言葉は私の胸にじんわりと染みた。
「い、いいんです…。な、何か私、おかしいんですよ」
「…?おかしい?何がだ。ぼっち」
よく見てみると、リョウ先輩の顔には、何筋もの汗が伝っていた。そんなに必死になって探してくれたのかな。あんなに疲れていたのに。そう思ったら、私の中のおかしい、は更に加速していった。
「わ、私。少し前までぼっちだったんですよ…、い、今もクラスじゃそうですけど…へ、へへっ…」
違うんだ。いや、違わないけど。今言いたいのはこんなことじゃない。得意になったブサイクな作り笑いを浮かべて、逸る気持ちを抑えながら言葉を整理していると、リョウ先輩が。
「…続きを聞かせて。ぼっち。急がなくていい」
落ち着いた優しい声。張り詰めていたものが、少し緩んだ。そんな感じがした。
「わ、私、ずっと一人で。それが当たり前で。あんまり、寂しいとか、悲しいとか。思わなかった。慣れちゃっていた、から」
リョウ先輩は静かに聞いてくれる。さっきシーキャンドルの天辺から見た海みたいに澄んだ瞳で。
「ほんの一瞬だったと思います。皆さんとはぐれていたの。でも…。その間の、一人は。とっても寂しくて…。お、おかしいんです。暗い気持ちがいっぱい溢れて…。でも、リョウ先輩が来てくれて…、す、凄く安心、して…あ、あはは…子供、みたい…」
そこまで話したら、私の視界は何かに遮られた。ふわりと香るいい匂い。柔らかい感触。私はリョウ先輩の胸元に抱き寄せられたのだと、この時はまだ気付かなかった。
「り、リョウ先輩…!?」
「…。すまん。不安にさせたな。ぼっち。元はといえばスマホを返し損ねた私の落ち度。謝らせてくれ」
「…!わっ!わあ!わあっ!?」
私は慌ててリョウ先輩の胸の中から頭を引き剥がす。柔らかくて温かくて。もっとこうしていたかったけど。これじゃ私ホントにあやされる子供みたいじゃん!
「おお。びっくり」
「あ、いや!ごめんなさい嫌なわけではないのですが!むしろもっとしてほしいや何言ってんだ私!そうではなくてですね私は大丈夫というかリョウ先輩が見つけてくれたからというか泣いてないといいますか…!!??」
急に引き剥がされて少し目を丸くしていたリョウ先輩は、私のしどろもどろな話を聞くたび、口に手を当ててクスクスと笑いだす。
「最後は少し無理があるだろぼっち…。それに。当たり前だけどぼっちを探していたのは、私だけじゃないよ。そろそろ来るだろうさ」
「ひとりさ〜ん!!!」
「ぼっちちゃん!」
「ひとりちゃーん!!」
リョウ先輩の言う通り。四方から聞こえる我が愛しい仲間たちの声。そうだ。私はもう一人じゃない。迷子になっても探しに来てくれる、仲間に恵まれた。
夕日を背負って駆けてくる三人を見つめて、目の奥がまたツンとなる。泣き虫だと思われたくないため、我慢して私は精一杯に皆に呼び掛ける。
「み、みなさ〜ん…こちらです〜ぅ…」
「ププッ。ぼっち声小さい。それじゃ聞こえない」
リョウ先輩に笑われながら突っ込まれる。顔が熱くなるのを感じつつ、私は皆さんと合流するのだった。
「よ、良かったよ〜!ぼっちちゃん見つかって〜!でかしたよリョウ!」
「ひとりちゃん大丈夫!?ご、ごめんなさいね私が神社行きたいなんて言ったから!」
「そ、そんな!わ、私が鈍臭くて皆さんとはぐれちゃっただけです!喜多ちゃん気にしないで!」
良かった良かったひとりさん見つかって。夏休み最後の思い出が私達とはぐれて江の島に一人!名前通りに!なんて洒落にもならないもの。
伊地知先輩と喜多さんがひとりさんと話をしている頃、少し離れた場所で口角を上げながら見ているリョウ先輩に気付く。
「何を嬉しそうにしているんです〜?」
「うあっ!?な、何だよ此方!」
「いえいえ。ひとりさんを何やら微笑ましげに見てましたよね?何かありました?」
「…鋭いね、此方。答えは、ヒミツ」
「…いや絶対なんかあったでしょそれ…」
やはり何かあったのか。ひとりさんとリョウ先輩の距離が近いような。雰囲気が柔らかくなったような。…。気になるけど、悪い雰囲気じゃないから、もういいか。
「それじゃ〜!今度こそ帰ろう!暗くなってきちゃったし!」
伊地知先輩がぱんっと手を叩いて場を締める。
「そうですね!皆さん今日は私の我が儘に付き合わせてしまいすみませんでした!ひとりちゃん!夏休み最後に、いい思い出は出来た!?」
「は、はい!はぐれた時は怖かったけど、全体的に見たら楽しかったです!ふ、冬休みまでこの思い出を胸に、が、頑張ります!」
「…ぼっちよ。強く生きろ…、郁代。ぼっちをお願いね…」
「リョウ先輩!はい!休み時間とか帰りとか!暇があったら見に行きます!」
くっ。私も秀華高の生徒ならひとりさんのメンタルケアしに行くのに!遺憾ながら、ひとりさんの相手は喜多さんに任すしかなさそうね。…頼んだわよ喜多さん。
などと思いながら、私達は夏休み最後の日、夕日に染まる江の島を、名残り惜しくも後にするのだった。
なんか、リョウ先輩ってもう少し屑だよね…って最新刊を見て思った。
中々再現するのは難しい!
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できればもう少し見られたい…。なんて言わないよ絶対。