女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!? 作:はま0821
基本、ぼざろはギャグのはずなんですが、喜多ちゃんは真面目だから、シリアス方向にも掘り下げられますね!
退屈な授業の時間が過ぎ去り、放課後になる。この下北沢高校は進学校だ。あまり興味がない授業でも、気を抜いて聞くわけにはいかないのが困りどころだ。最近はこの三人で下校することが増えていた。私。リョウ、そしてこなちゃんだ。
いつもの様に当たり障りのない雑談を交わしながら、STARRYへの道を歩く…、かに思えていたが、今日は何やらこなちゃんが突拍子もないことを言い出す。
「いや〜、最近は何と言うか〜あれですね〜、ほら、文化的な香りがするといいますか〜?」
今日は無駄に湿度が高い。首周りに滲んだ汗をパタパタと扇ぎながら、私はこなちゃんに問い返す。
「なんかフワッとしてるねこなちゃん。どゆこと?」
「いやあ。そろそろ文化祭ですよね。私達バンド組んでます。出る!なんて選択肢はないんですか?」
変化球と直球の振り分けが極端なんだよこなちゃん…。まあ最初で言いたい事大体察したけどさ。
「なに?此方。出たいの?」
隣を歩いていたリョウが反応する。
「勿論!バンドやってて自分のとこの文化祭出たい!ってのは高校生なら絶対思うんじゃないですかね!?」
ぐっと握り拳を作ってみせるこなちゃん。…まあ確かに。文化祭でバンド演奏。定番だし、楽しそうだ。私達のバンドを知ってもらう、良い機会だし、ライブの練習にもなるだろう。だが。
「多分難しいよこなちゃん。ウチは進学校。ベンキョーばかりでそういう楽しそうな出し物は出来ないんだよ〜」
私は頭の後ろで手を組みながら答える。一度先生にそれとなく聞いてみたら、芳しくない答えが返ってきたのだ。全く。お堅いんだから。唇をわざとらしく尖らせてみる。
「ええ?そうなんですか…、それは残念…」
「意外だね此方。それで引き下がるんだ」
「リョウ先輩は私の事をなんだと思っているんで?流石の私も学校のルールを真正面から破ろうとはしませんよ…」
「じゃあ諦めるんだ?文化祭での演奏」
リョウがそうこなちゃんに問う。私も少しだけ引っ掛かっていた。妙に聞き分けがいい。もう出会って数ヶ月。短い付き合いではないだけに、目の前の女の子の性格は理解しているつもりだ。目的に向けて走り出したら、そう簡単には止まらない。暴走狂奔ガール黒井此方。そう考えながら、こなちゃんの目を覗き込むと。
「勿論ですよリョウ先輩〜、諦めますとも文化祭での演奏。…下高では、ね?」
やはりというか何というか。唇の端を吊り上げたこなちゃんの目はまるでギラつきを失ってはいなかった。それを見た私は、少しの面倒くささと、何か面白い事を起こしてくれそうな期待感をほぼ同時に感じ取っていた。
ピロピロピロピロピロ!
ギュイーン!ギュイギュイギュイーン!!
じゃじゃーん!!
「凄え…速すぎてコードチェンジが見えねえ!」
「なんて生き生きした音…まるでプロのアーティストが弾いてるみたい…!」
「アイツ誰だ!?文化祭に出てくるレベルじゃないだろ…!?」
「に、二組の後藤さんって言うらしいわよ…!」
「ご、後藤…!」
「後藤!」
「ごーとーうっ!ごーとーうっ!!ごーとーうっ!!」
そう…!私は後藤ひとり!!完全無欠のギターヒーロー!!文化祭の主役は、私…!!
「…後藤ですっ!」
グラサンすっ。
きゃー!!カッコいい!可愛い!!
お前が人間国宝!!抱いてー!!
ああ…!嗚呼…!!温かい…!なんて素晴らしい…!私のギターに酔いしれた人達がこんなに…!もう少し…!いや!永遠に揺蕩っていたい!このこうけいたぁっ!?
痛い!?んはっ!?な、何だどうした!?私は痛みの原因を特定するため、右足のつま先を見る。…アレだ。多分、机の脚にぶつけたな。…夢か。残念。…あ、アレ。ま、まさか…。
恐る恐る顔を上げてみると、クラスの皆の視線が、私に集中していた。ヤバい!!結構派手な音が出ちゃってたんだ!どどどどどうしよう!?焦る私だが、クラスの視線を集めたのは一瞬だけ。すぐに外れた。また後藤か。とでも思われたんだろうか。それはそれで…!黒歴史更新…!!
…なんだったっけ?あ、そうか。今度の文化祭でのクラスの出し物を議論していたんだ。
…文化祭のステージでカッコよくギターを弾き倒して、皆のヒーローになる妄想。もう1000回はしてるかな…。
今はクラスの皆は、うちのクラスでやるメイド喫茶の事を話し合ってる。…私は戦力にはなれないな…。愛想無いし。可愛くないもん…。
「後藤さんはなんか出ないの?文化祭」
「そうそう!後藤さんバンド組んでるんだよね?私後藤さんのギター聞いてみたいな〜」
「うええっ?あ、赤石さん…青井さん…」
この人達は赤石さんに青井さん。私のクラスで話せる数少ない友達。音楽が好きなようで、話すキッカケが出来た。
「き、興味がないわけではないのですが、わ、私一人で決めることは出来ませんし…。な、何より…」
「何より?」
「そんな大きな規模のライブを経験したことがないので、こ、怖い!!」
「後藤さんの目も怖いよ!?」
はっし、しまった。恐怖が顔に出ちゃったかも。
「う〜ん。そっか〜。…でもね後藤さん。頭の片隅にでも入れといて!貴女のギターを聴きたい人が、少なくとも二人いるってことをね!」
「そだよ後藤さん!文化祭でギター弾いて目立てば、私達以外にもいっぱい友達できるかもよ!」
後押しをしてくれる温かい言葉が身に染みる。なんかこの二人は、ファン一号二号さん達に雰囲気が似てるなあ。
「わ、分かりました。バンドの他の皆さんに、き、聞いてみます…ね?」
「ウン!頑張れ後藤さん!」
「ふぁ〜いと!」
…また、安請け合いしたものだ。文化祭でやるとなったら、台風ライブに来てくれたお客さんの、軽く十倍は想定しなきゃならない。そんな中でギター弾けるの私?怖い。でも…。せっかく何度も何度も妄想した夢の舞台。それが目の前にあるのだ。昂ぶる、出てみたい。そんな気持ちも、恐怖と同じくらいに持っていた。
放課後。ジメジメと湿度の高い不快な暑さ。私の長袖ジャージが遠慮なしに肌に吸い付く。そんな中、私は喜多ちゃんと一緒にSTARRYへと歩いていた。
「き、喜多ちゃん…。文化祭の出し物…決まりましたか…?」
「なんか男子が金網デスマッチプロレスやるみたい。男の子って偶に訳分からないわよねっ」
マジで分からない…。何がどうなって金網デスマッチ…。
「ひとりちゃんのクラスは?」
「あっ私のクラスは、め、メイド喫茶やるみたいです…」
「え〜っ!?ひとりちゃんがメイド服着るの!?絶っ対に見に行くわね!」
「あっう…」
私みたいな、無口なメイドが売上に貢献できるわけない…。め、冥土喫茶なら貢献できるかもな…。あ、あの世にお一人様ご案内…へ、へへっ。…違くて。こんな事を話したいんじゃない。
「え、えっと…。二日目の、個人の出し物の方…、け、結束バンドで出るのとかには、き、興味、ありませんか…?」
勇気を出して、質問をぶつける。すると、喜多ちゃんは目を大きく見開いた。
「す、凄い!思い切ったわねひとりちゃん!実は私も言おうと思っていたのよ!結束バンドで出たいって!」
喜多ちゃんは体の横で腕をブンブン振り回して興奮気味だ。やっぱりか。喜多ちゃんの如き、陽の人がこんなキラキライベント見逃すわけない。
「あ、わ、私個人としては、少し怖いんですけど、あ、ありがたいことに背中を押してくれた方が、い、いまして…」
「こないだ友達になった子達?」
「あ、はい…」
「いいわねっ!是非やりましょうよ!先輩達にも相談して!さっつーもひとりちゃんが弾く所見てみたい!って言ってたわよ!」
「あっあうう…。で、でも、まぐれで一回良い演奏できただけなので私としてはす、少し怖いという思いも…」
それだけ話すと、前を歩いていた喜多ちゃんは振り返り、私に満面の笑みを向けてくれる。
「大丈夫よひとりちゃん!貴女は貴女が思ってるより、ずっと…」
そこまで言って、喜多ちゃんが珍しく言葉に詰まる。心なしか、少し頬に赤みが差している、ように見えた。な、なんだろ。貴女が思ってるよりずっと駄目!?そ、そんな喜多ちゃん!辛辣な!
「〜っ!な、何でもないわ!行きましょひとりちゃん!差し当たっては他の三人に相談しないと!!」
「あっはい…!」
少しだけ急ぎ足になったような気がする喜多さんに追い縋るように、私は足を早めるのだった。
「こんにちわ!!」
「あっこ、こんにちわ…」
STARRYのドアを開け放ち、階段を下る。爽やかに保たれた湿度と、室温。ああ、冷房最高。貼り付いていたジャージも剥がれようというもの…!いつものダベリテーブルに先輩方と黒井ちゃんを見つけ、ギグバックを下ろす。
「おっ喜多ちゃん、ぼっちちゃんお疲れ〜!来たね!」
「お、お疲れ様です虹夏ちゃん、皆さん…」
「ぼっち、お疲れ」
皆さんへの挨拶もそこそこに、椅子を引いて腰を下ろすと、虹夏ちゃんが話を切り出す。
「ねえねえ二人とも。二人のとこは文化祭、バンドで出るのはアリなの?」
「えっ!?」
喜多ちゃんと二人で声を揃えてしまった。なんてタイムリーな話題。
「いやね〜、こなちゃんがバンドで文化祭に出たい!って言うんだよ〜」
「伊地知先輩。確かに言い出したのは私ですが、先輩も吝かじゃないでしょ。ワクワクした目してたの見逃してませんよ?」
「うっ…!?見抜かれてたか…!」
黒井ちゃんが言い出したのか。な、なんで文化祭出たいんだろ。
「なにせ、高校の文化祭でバンドですよ!目立ついい機会でしょ!大暴れしてギター鳴らして凡百どもに黒井此方ココにアリ!っての見せつけてやるんですよ!」
ちょっと安心。私と似た、俗な理由だった。
「いや、これも結束バンドの存在をアピールするいい機会かなってさ〜!色んな人に拡散してもらえば、ライブハウスに来てくれる人も増えるかもだし!」
「そうですよね先輩!そして私のイソスタ用写真もいっぱい撮れます!」
「いやそれが理由かい!?」
喜多ちゃんが前に出て虹夏ちゃんが突っ込む。美しい流れにいつもながら感心していると、リョウ先輩が何か静かな事に気が付いた。
「ふっ…どうやら郁代もぼっちも、文化祭のステージってやつを舐めてるな」
訳知りの顔でリョウ先輩がボヤく。ど、どういう意味だろう…。
「まるで楽しいイベントみたいに思ってるみたいだけどさ?滑ったり下手こいたりすると悲惨だぞ…。お通夜みたいな空気になるから」
「それはオメーが誰も知らないようなマイナーバンドの曲弾いたからだろ」
秒で虹夏ちゃんが突っ込んでいくが、私は背中に氷柱を突き刺されたような気がした。文化祭のステージで失敗する…!リョウ先輩の理由ならまだいい!単純に下手で興冷めされたり、そもそも誰にも興味を持たれなかったり、誰あいつ?みたいな感じになったりその癖失敗したことだけはずっと覚えられてて顔合わせるたんびにあ、文化祭で派手に失敗したやつみたいに思われるんだあああああ…!!
「またぼっちちゃんが限界迎えてる」
「ちょっと怖がらせすぎたか」
「ああ…。でも私としては少し複雑な気分でもあるのですよ…」
「黒井さん?何が?」
「だって文化祭に出たら、ひとりさんの魅力がバレてしまうじゃない!私はギターヒーローの古参ファン!もちろん知ってもらえるのは嬉しいけど、どんどん私だけのヒーローではなくなっていく…!ああ!?どうすればぁ!?」
「ただのファンと一味違う!?面倒くさいファンだわ!?」
「暴走頭が二人ともイクと収拾がつかないね」
「どっちかさっさと戻ってきてほしいね」
はああああ…!んはぁっ!?
「おっぼっちちゃん戻ってきた」
「おかえりぼっち」
「こ、怖い…!やっぱ怖いです…!リョウ先輩が体験したみたいな空気になったら私…!耐えきれません…!ギターで切腹しちゃうかも…!」
「ロックすぎるステージだねぼっちちゃん…」
「あうう…!やっぱり陰キャには高すぎるハードルなんでしょうか…!?」
まだ見ぬ文化祭のステージに怖気づいていると、ぽんっと背中を叩かれ、意外な方から励ましの言葉を頂く。
「出てみりゃいいじゃんぼっちちゃん。二度とない青春の舞台だぜ?」
店長さんだ。
「意外だね〜。高校もろくすっぽ行かなかったくせに」
「うるせいぞ虹夏。青春ってやつは後から取り返しつかないの。私はぼっちちゃんには悔いのない青春を送ってほしいからアドバイスをだな…。まあ、確かに私の青春はろくでもないけど」
「認めちゃったよ」
お二人の姉妹漫才をよそに、私は店長さんの言葉をリフレインしていた。…後から取り返せない、青春か。
「…ぼっち。ぼっちは、どうしたい?」
「…え、えっと…」
「私はどっちでもいいと思う。STARRY以外の場所でも演奏してみたいってのが私の中にはあるけど、文化祭は今年だけじゃない。ひょっとしたらココでのライブより規模も大きくなるし。焦って決めることもないよ」
「私は皆と出てみたいよ!リョウともまだ文化祭のステージに上がったことはないし!…でも、私もぼっちちゃん次第でいいかな〜!絶対にやらなきゃならない訳じゃないしね!」
二人の言葉を受けて、改めて考える。…残念ながら、今すぐに結論は出せそうにない。
「あっ…。も少し、悩んでもいいですか…?」
そう呟いてみると、リョウ先輩はコクリと頷いて。
「それがいいと思う。…正直まだ夢に見るもん…。ダダ滑りライブ…」
「結構しっかりトラウマなんだねリョウ…」
…。文化祭でバンド組んでライブ、かあ…。バンドは奇跡的に組めたんだ。後は私の、気持ち一つ…。なんだけれど…。
(滑ったり下手こいたらお通夜)
〜っ!!やっぱ怖いよぅ!!ネットリと張り付く恐怖を頭を振って払うようにして私は皆とスタジオに向かうのだった。
すっかりと暗くなった下北沢の街並み。練習とバイトを終えた私たちは、ひとりちゃんを送るために下北沢駅へと歩いていた。
「私は複雑ですよひとりさん…。私一人のギターヒーローだったのにどんどん有名になっていって…。この上文化祭のライブにまで成功しちゃったら、もっとファンが増えてしまいますよ!」
相変わらず面倒くさいファン像をひとりちゃんに押しつける黒井さん。気持ちは分からないでもないけど…。
「私は逆ねひとりちゃん!ギター頑張ってるんだから、貴女はもっと認められるべきよ!」
グッと拳を握ってそう宣言する。
「で、でへへ…。ファンが増える…頑張ってる…」
だらしなく顔を崩しているひとりちゃんに、黒井さんがまだ何か話し掛けているのを見ながら、私は考える。…この間、店長やPAさんと話したこと。私がギターを弾く"意義"。
私はまだ、ひとりちゃんや黒井さんみたいにギターは弾けない。…でも、この二人だって完璧じゃない。まだ下手くそな私だけど、貴女たちの直ぐ側に立って、支えるくらいは出来ると思うから。…それが、私がこのバンドにいる、レゾンデートル。
「どしたの喜多郁代?行くわよ?」
「あっ、行きましょう…喜多ちゃん…!」
「…うんっ!」
迷いは晴れたわけじゃない。それでも、やることはハッキリした気がする。先を歩くあの二人と、同じ歩調で歩けていること。今日はそれでいい、と。それだけで、いい夜だと。私はそう思えた。
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…どうやって落とそうかなこの小説…。