女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!? 作:はま0821
喜多ちゃんと主人公の喋りが若干被っている…。
差別化するいい方法ねえかな〜。
「こないだはほんとにラッキーだった。シクハックの打ち上げに参加できるとは」
「だよねー!私もテンション上がったよ〜!廣井さんほんっとにカッコよかった〜!」
下北沢高からの帰り道。前を行く先輩方の会話に耳を傾ける。…確かに素晴らしいライブだった。よくよく事情を聞けば、きくりさんはひとりさんを鼓舞するため、アルコールを抜いて自分を追い込んでライブを行ったっていうじゃないか。
「…ほんと。格好良かった。普段ふざけてる癖して、やっぱりキメる時はキメますねきくりさんは」
心からの称賛を言葉にする。
「ねっ!?あ〜あ。うちのベーシストもあのぐらいライブでカッコつけてくれたらな〜」
「…私もバチ持って演奏しようかな?」
「カッコだけ真似しても駄目だと思うよ〜?リョウ〜?」
二人のいつも通りのやり取りを苦笑いしながら見守る。きくりさんのハッパのお陰で、ひとりさんはかつてないほどやる気になっていた。後は文化祭に向けて練習するだけだ。…そのはずなのだが、何か胸に引っかかる。
「?どしたのこなちゃん?難しい顔して」
「今朝の占いでも悪かった?」
「いえ…。確かに順風満帆。ひとりさんの憂いも解決して、後は文化祭ライブ成功させるだけなんですが…。な、何かを忘れてるような…」
STARRYへと向かう道の途中。私は正体の分からない不安に囚われていた。…なんだろう?勿論私に分からないものがお二人に分かるわけもなく、三人で首を傾げながら歩く事になった。そして目的地にたどり着き、誰からともなくドアを開ける。…そして、私たちは知ることとなる。朝から私に取り憑いていた、得体のしれない不安の、正体を。
「え〜ん!黒井さ〜ん!勉強教えて〜!ひとりちゃんが…!ひとりちゃんがまっったく勉強できないの〜!!」
いつものダベリテーブルに近付くや否や!またも漆黒のオーラを纏って机に突っ伏すひとりさんと、テストの答案用紙らしきものを握りしめた喜多さんが悲痛な声で私に助けを求めてきた。それと同時に、胸の引っかかりがすぽりと抜けた音が聞こえた。
「こ、これかあ!?不安の正体!!」
音楽にかまけ過ぎて忘れてた!!そろそろテストだ!学生の本分、勉学だあ!?ヤダ!嫌だ!!勉強嫌い!!
「やっば〜、そっか忘れてた…、文化祭の前に中間テストじゃん…」
「い、嫌だ!勉強嫌い!!」
呟くように話す伊地知先輩にリョウ先輩が、なんの意味もない抗議を行う。でも、気持ちは凄く分かる。
「見てください皆さん!ひとりちゃんのついこないだのテストの答案!」
喜多さんがそう言って紙を突きつけてくる。それを受け取って目を通すと。
「うっ…。こ、これは非道い…」
この言葉を発した瞬間、ひとりさんの身体がビクッと跳ねた。
「問題全部ちゃんと解いた形跡があるのに、答えが全部間違ってる…!?」
やめてあげてよ伊地知先ぱいぃ!?まあ私もやったんですけど!ひとりさんにスリップダメージ入ってるんですよさっきから!
「てか三点て。ぷぷぷ」
「うごがはあ!?」
「血を吐いた!?」
ひとりさんが血吐いてもうた…。せ、せや。あかんかったんや…。三点なんて得点のことを言うたらあかんかったんや!必死に解いて計算式とか全部書き出してすごく真面目に取り組んでるのに結果三点しか取れないなんて逆に凄くない?みたいなことを指摘したらあかんかったんや!
「へぶるっけああっ!?」
「謝れ山田リョウ!ひとりさんに謝れ!!」
「な、なに!?私が悪いの!?」
すんません。長いですけどネタです。分かる人だけ分かるやつです。謝んなくていいです。
「よ、よかった…。ビビった」
もとから沈んでいたひとりさんの頭に三者三様のチクチク言葉を刺してしまった私たち。最早動かなくなってしまったひとりさんと、ひとりさんの答案用紙を見比べながら、伊地知先輩が叫ぶ。
「こ、これは大変だよ皆…。ぶ、文化祭なんて言ってる場合じゃないよ!赤点なんか取ったらバンド活動すらできなくなっちゃうかも!?」
「ええ〜そんな深刻に考えなくても〜。伊地知先ぱ〜い」
「そうそ〜う。一つや二つ、赤点あったほうがロックだぜ〜い」
そこまで深刻に捉えきれていない私。リョウ先輩がその認識に追従する。
「こ、このちゃらんぽらんずめ…!よく聞きなよ!?悪い点取ったら補習だらけでバンドの練習なんかできないよ!?ほんで赤点なんか取ろうもんならもう留年!一年おなじ勉強やり直さなきゃいけないんだよ!いいのリョウ!こなちゃん!?」
「むっ…」「う、うぐっ…!?」
伊地知先輩のあまりの気迫にたじろぐ。さ、流石に赤点取るなんてそんな…。ん?待てよ?
「リョウ先輩?勉強は?」
「出来ません!」
「いいお返事!?」
ああなるほど!伊地知先輩はリョウ先輩の件があるからこんな気にしているのか!私は流石に赤点取るほど酷くはないわよ!?
「い、伊地知先輩!私は大丈夫です、普通にやれば赤点は取りません!」
「な、なんだ…。安心したよ、リョウほど酷いわけじゃないんだね」
「此方の裏切り者〜」
「仲間になったつもりはないですよ!リョウ先輩マジですか!?赤点取るとか相当ですよ!」
「むむ…。いや…。音楽と勉強…。同時に覚えられないと言うか…一つ覚えると一つ忘れると言うか…」
「逆に器用ですねそれ!?」
「ははは…。リョウは地頭悪いわけじゃないんだけどね〜集中できる環境さえ作ってあげれれば中間テストなんか楽勝だよ。…後は…」
そう言って伊地知先輩はいまだに頭にキノコが生えそうな湿度を纏いつつ机に突っ伏すひとりさんと、それを気遣っている喜多さんに目をやる。
「喜多ちゃん。率直に聞くよ。勉強は?」
「わ、私もそこまで酷くは…。赤点なんか取ったことないですし、危なかったこともないです」
それを聞くと伊地知先輩は少し安心したように頷き、ゆっくりと視線を下げて、本丸を見下ろす。
「成る程…これでやらなきゃならないことはハッキリしたね…。中間試験までに、リョウとぼっちちゃんの学力を何とかする。そうしないと文化祭どころか、バンド活動すらできないよ!」
ガっと握りこぶしを作りながら伊地知先輩が宣言する。
「ゔゔゔ…。も、もうじわげございまぜん皆さん…またもご迷惑をお掛けして…!!」
「え〜。べんきょーだるーい」
青白い顔を上げて涙声で応えるひとりさんと、いまだどこか他人事のようなリョウ先輩。言葉の寒暖差で風邪引きそう。
「…いい加減にしろよこの脳みそカラカラが…!リョウ!留年したら私のこと虹夏先輩って呼ばすからね!!年同じなのに先輩だよ!?それでいいのかコラ!」
「うぐっ!?そ、それは少し嫌…」
「おーっし!なら勉強しろ!皆!!これから少しバンド活動お休み!まずは全員で中間試験突破!これを目標としよう!」
…やれやれ。文化祭でスターになる前にクリアせねばならない問題がまだあったか…。
「やってやりますよ伊地知先輩!中間テストがなんだ!別に勉強なんか嫌いなだけでできないわけじゃないですし!」
「いい啖呵だよこなちゃん!」
「ひとりちゃん!夢の文化祭まで後少しよ!私も力を貸すから、中間試験をなんとか突破しましょう!」
「き、喜多ちゃん…!!」
「よっしゃ!頑張ろう皆!!結束バンド!ファイヤー!!」
「「「「ファイヤー!!!!!」」」」
全員で声を合わせて気炎を上げる!結束バンドの文化祭に向けての最後の戦いが始まった!
「おいすー。せんぱーい。場所貸して〜」
開店前のSTARRYに、神出鬼没の酒カスが現れる。口には小さめの日本酒の紙パックをストローとともに咥えて。日常の光景すぎて誰も突っ込まない。
「ふん。廣井か。いつもなら蹴り出すところだが…。ぼっちちゃんの件。感謝する。カウンターでもどこでも好きに使え」
「ありがとせんぱーい。…まあ、自分のためでもあったんだけどねあれは。やっぱ子供にアドバイスするのに自分が逃げたまんまってのは違うのかなってさ」
「お前、ライブん時禁酒したんだってな。…偉いじゃねえか。…でも、今は禁酒してないんだな」
きくりの口元に目をやってから、伊地知星歌は呟く。
「最早これは私の血でもあるからね。酒飲んで暴れる私を求めてるオーディエンスもいるわけだし。そう簡単にやめるわけにはいかないよ」
一息に中身を吸い切り、ポケットにしまった後、新しい日本酒を出してストローを咥える。なんかタバコか何かみたいである。
「…まあな。いつかやめられるといいな、それ」
「うーん。味は好きなんだけどね〜。健康には悪いからな〜。…ところでさ、結束バンドちゃんたち。今度は何してんの?全員で机に向かっちゃって。新曲でも作ってんの?」
その言葉には、今まで機材のメンテナンスをしていた黒髪黒衣の美人、通称PAさんが答える。
「中間テストがあること、忘れてたみたいですよ?今全員で追い込みかけてます」
「うげっ…。勉強かぁ。あかん、まだ二日酔いでもないのに頭痛が…!?」
「ははは。安心しろや廣井。私もだ」
「まあ私もろくすっぽ高校なんか行かなかったので中間テストの苦しみなんか分かりませんけどね〜♪」
PAのその言葉を皮切りに乾いた三者三様の笑いがフロアに響く。その光景を見ていた別のスタッフが、この三人に頭の中で、ヤサグレ三銃士。なるあだ名をつけたのだが、もちろん誰も知る由はない。
同じフロアで交わされていた和やかな会話と反比例するように、いつものダベリテーブルの上には地獄が展開されていた。プリント、参考書に消しカス。あらゆる勉強の副産物がそこかしこに散見されるのに、希望だけが見当たらない。
「…え〜。サインコサインタンジェント…、グルーヴは傾き…切片は…」
「訳分からない曲を作るなよリョウ…、気持ちは分かるけどさ…!」
「きゃーっ!大変!ひとりちゃんが頭から煙吹いてる!」
「オーバーヒートか!?喜多さん!水飲ましてあげて!」
現在、伊地知先輩がリョウ先輩を担当し、私と喜多さんがひとりさんを担当している。中々順調なのだが、長丁場になってきて、流石に所々に綻びが出始めていた。
「なんか買った覚えがないエナジードリンクがいっぱい冷蔵庫に入ってるんだよね〜。不思議〜。はい皆。ちょっと休憩!」
伊地知先輩が皆にエナジードリンクを配る。なんですかねその現象?違う世界線と繋がりでもしたのかな?そんな事を思いながらプルタブを上げ、中の液体を流し込む。化学的な独特な鼻をつく匂いと、きょ〜れつな甘みが口の中を支配し、頭の中の靄を払っていく。
「い、いつまで続くんだこの地獄…」
机と恋人かのように顔を合わせているリョウ先輩が呟く。
「はうう…。こ、この教科書に書かれてる言葉…日本語ですよね…?わ、分からない…!言ってることが何一つ頭に降りてこない…!なにこれ…!?」
二人の頭からは煙の様な匂いが。誰がどう見ても限界が近い。
「み〜んな〜。勉強〜?頑張ってるね〜!」
「あっ!き、きくりさん!?お疲れさまです!」
私が後方から突如現れたきくりさんに反応し挨拶すると、ひとりさんも顔を上げて。
「お、お姉さん…!」
「やっぽー。ぼっちちゃん!またも苦労してるみたいだねぇ。見せてみ?これでも私は学生時代は真面目に勉強したもんだよ〜」
ひとりさんの傍らにあったプリントを拾い上げ、目を通すきくりさん。その目はいつものぐるぐる目だが、真剣味を帯びていた。暫くプリントとにらめっこした後。
「…。よし、職員室に忍び込んで解答を盗もう」
「最悪だよこの人!!」
きくり株、急転直下のストップ安。伊地知先輩がそう叫ぶより早く、後ろからスリーパーホールドがきくりさんの首にかかった。
「真面目に勉強してんだから邪魔すんなや…!お前のアルコール漬け頭脳でどうにかなるわけね〜だろ…!?」
「いだだだだ!?んなこと言って先輩は解けるんですかあだだだだ!!」
「…あん?」
「そ、そうだお姉ちゃん勉強できる?一応大学行ってたでしょ!?」
伊地知先輩が店長に問い掛けると、店長はきくりさんにかけていたスリーパーホールドを外して、プリントを拾い上げて見つめる。とてとてとてと。萌え袖で口元を覆い、PAさんもその様子を店長の後ろについて覗き込んでいる。少し興味をそそられた様だ。
「…。これはあれだな。ロック式に解決するとしたらだ。教師を殴って解答を吐き出させよう」
「それしか…ありませんね…!!」
「ロック舐めんな!!」
駄目だこの大人ども。アホの連立方程式である。後ろできくりさんが笑い転げているが、気持ちはよく分かる。
茶番も終わり、勉強再開。ひとりさんもリョウ先輩も頑張ってるんだけど、決め手にかけているのよね〜。何か、いい案ないかしら。
「そうだぼっち!音楽に結び付けて覚えればいいんだよ!例えばこの公式!エフコードの指のカタチにしてから覚えれば!次からその指のカタチをするだけで思い出せる!」
「ほ、本当ですかリョウ先輩!?す、凄い…!天才…!?じ、じゃあこの英単語たちは…!?」
「これもコードに照らし合わせて覚えよう…!頭文字がディーならディーコードで!後は押さえる位置微妙に変えて対応すれば…!」
「あっ凄い…!英単語やら公式だとか意識しちゃうと覚えらんないけど、コードに直しちゃえば凄く覚えやすいです!」
やった!流石リョウ先輩それしかないかも!!この二人は音楽バカ!脳の大体の領域は音楽に使われているんだから、勉強も音楽に置き換えてしまえばいいんだ!
「ええ〜?そんなんでいいの〜?」
「いいみたいですよ伊地知先輩…!やはりあの二人はただの一般人ではないらしいです…!」
「きゃーっ!リョウ先輩もひとりちゃんも素敵よーっ!」
勉強のあらゆる部分を音楽の単語や指のカタチに置き換えて覚え、飛躍的にリョウ先輩とひとりさんの学習スピードが上がる!私たちの懸命のコーチングもあり、ようやく。ようやく、果てすら見えなかった地獄のマラソンに、ゴールが見えてきた。そんな気がした。
「…あれ?これ、コード足りなくない?」
「う、嘘…!?せ、せっかく光明が見えたと思ったのに…!」
「ほらほらほら!学びの道に、近道なんかないんだよリョウ!ぼっちちゃん!ただひたすらに!ひたむきに!手を動かせ!地獄はまだ始まったばかりだよ!!」
ひえ〜っと。悲痛に塗り固められた二人分の声がSTARRYに木霊する。私も他人事ではない。あの二人が頑張って赤点を回避しても、私が取ってしまっては意味ないのだ。隣りにいる喜多さんと目線を合わせて。
「…私たちも頑張りましょう喜多さん。あの二人があんなに頑張っているのだから!」
「ええ黒井さん!私たちが赤点取っちゃったら意味ないもんね!よし!気合を入れるわよ!」
何処から取り出したのかな鉢巻を頭に巻いた喜多さんは、文字だらけの戦場へと身を投じる。私も負けていられない。エナドリという名のドーピング剤を口に放り込み、かっぴらいた目で教科書を解剖していく。
全ては結束バンド、文化祭での舞台。その華やかな栄光のために。
「きゃーっ!!や、やったわねひとりちゃん!!」
「人生で一番勉強しました…!もう嫌だ教科書暫く見たくない…!」
明くる日のSTARRY。中間テストをこなした我々は戦果を持ち寄り、互いの健闘を称え合っていた。
「ひとりさん。ギリギリでのクリアお見事です。流石に土俵際には強いですね!」
「ま、まぐれで〜す。…もう多分二度とできませ〜ん」
ひとりさんはギリギリ。ほんと赤点ギリギリで全教科をパスしていた。元が三点なのだから大した進歩である。ひとえに厳しい中にも優しさが宿る絶妙なコーチングの伊地知先輩。そして私たちの懸命のサポートの結果であろう!
勿論私もクリアした。今回は楽勝であった。喜多さんも伊地知先輩も勿論楽勝でクリアだ。赤点なんぞ、余程のアホでなければ取らない。…余程のアホ、一歩手前が二人いたことは、最早目を瞑ろう。
圧巻なのはリョウ先輩だ。何と殆どの教科で九十点以上を叩き出し、学年十位以内に入るという快挙を成し遂げた。なんなんだよ何者なんだこの人。伊地知先輩が(育て過ぎた)って言ってた。ホントだよ。
「二人とも赤点回避おめでと〜う!これで文化祭の練習に専念できるね!」
手に持ってたクラッカーを発射しながら伊地知先輩が祝福する。それを受けてリョウ先輩が、申し訳なさそうに。本当に申し訳なさそうに切り出す。
「あ、ありがとう虹夏。…ところでさ、ベースってどう弾くんだっけ」
「やっぱりか!やっぱりかコイツ!育て過ぎた!」
最初に言ってたもんなそれ。勉強のこと覚えるたんびに音楽のことが抜け落ちていくって。全くホントにこの人は。アホなのか天才なのか?よく分からない先輩である。
何にせよこれで。文化祭に向けての全ての課題はクリアした。視界はオールグリーンだ。いよいよ遂に、文化祭。楽しみである!
音楽の道にも勉学の道にも、近道なし。五条悟さんの言葉を借りると、「好きな地獄を選んでよ」
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