女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!?   作:はま0821

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ああ。年始め、なんか忙しかったのと体調崩していたらいつの間にかこんなに間が空いてしまった…。




33 ノーネーム エモーション

 

 

薄暗いライブハウスの店内。まだ朝早く、誰も訪れていない。なぜこんな時間に私はここにいるのか。簡単だ。その方が私たちにとって都合がいいからだ。

 

「此方よ。任務を与える」

 

「みなまで言わないでください…。分かっていますよ、店長」

 

私たち、というのは、右手に写ル◯ですを握りしめた店長と、私だ。誰かに聞かれると少々面倒くさい話のため、こんな時間を選んだ。

 

「ほんとに分かってんのか!?」

 

私の余裕綽々な態度に目を見開き、確認をとってくる店長。震える唇に泳ぐ目線。今の店長の心理を的確に表していた。

 

「分かってますよ店長のひとりさんラブは!その写ル◯ですにひとりさんのメイド姿をたっぷり撮ってくればいいんでしょう!?」

 

握りつぶさんばかりに力を込めている右拳のなかにあるものを指しながら私は言う。

 

「聡明で賢明なり、此方…。その通りだ…。頼むぞ。成功した暁には、謝礼は弾もう…」

 

「ふふふのふ。いいのですよ店長…。私だって趣味と実益を兼ねてやっています…。全く!文化祭というものは神イベントですな!」

 

静謐な店内に下卑た二人分の笑い声が響く。…本日は、秀華高校の文化祭。その、一日目だ。我々結束バンドは、ステージを披露することになっているが、それは二日目。今日は、高校生らしく何も気にせず、文化祭を楽しめる日となっている。…まあ、何故か成り行き上、私は店長と悪魔の契約、みたいなことをしているのだが、私にも得がある!大丈夫だ。問題ない。

 

「というわけで、此方は先に行ったぞ文化祭」

 

「なにがというわけでなの!?お姉ちゃん!!」

 

「全く…。店長も此方も欲望に忠実すぎる」

 

「オメーが言うなよリョウ!」

 

黒井此方が出発して一時間後。揃ってSTARRYに現れた山田リョウと伊地知虹夏に、伊地知星歌は真実を告げていた。彼女は妹に猛ツッコミを受けてもどこ吹く風で、任務を完了させ、素晴らしい獲物とともに帰ってくるであろう遂行人の到着を、首を長くして待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

秀華高校の文化祭。なんか三十一回目?だそうだ。かなり歴史あるのね。あちらを見ても、こちらを見ても出店。そこかしこからいい香りが漂い、元気な客寄せの声が嫌が応にも気分を高揚させる。

 

だ〜が〜。私は脇目をふることはない。

 

「イクわよひとりさん!!その可憐なメイド姿!!たっぷりカメラに収めさせてもらうわね!!」

 

折角朝早起きして先輩二人を出し抜いてまで来たのだ。このアドバンテージ。活かさない手はない。店長からの謝礼を得るために!そして何より!私のひとりさんフォルダを潤すために!急げ黒井此方!!足に全神経を集中させるんだ!!

 

「えっ?ひとりさんって後藤さん?それが、私たちも探してて…。よほど嫌だったのか、メイド服着たとたん、どっかに消えちゃって…」

 

「まあ〜後藤さんならさもありなんよね〜」

 

「…なっ!?」

 

なにいいい!?そんなまさか!?私の計画があ…!ひとりさんのクラスに辿り着いた私は、恐らくはひとりさんのクラスメイトであろう二人のメイドさんに衝撃の事実を告げられる。

 

「…ところでさ、お姉さん。後藤さんの知り合い?綺麗だよね〜?」

 

「…!ぴーん。うんうん、可愛い!…ねねっ、お姉さん。ものは相談、なのだけど…」

 

落胆する私を尻目に、何やら目と目だけで通じ合う二人のメイドさん。背筋を薄ら寒いものが走り、足が後ろに下がる。

 

「な、なに?そのワキワキさせている手は…?い、嫌な予感がするのだけど…」

 

そう私が言うと、メイドさん二人組みは、手を合わせて私に頭を下げてくる。

 

「お願いお姉さん!後藤さんの穴埋めに、メイドやってくれないかな!?お姉さん可愛いから絶対に似合うって!」

 

「後藤さん見つかるまででいいの!お願い!!」

 

…重ねて言おう。

 

「なにぃぃぃぃぃ!?」

 

 

 

 

 

場面変わりて…。

 

 

 

 

「全くっ、こなちゃんも私たち置いて行っちゃうなんて薄情だよね!リョウ!」

 

「まあね。後ろ暗い事情があるみたいだけど。ぷぷっ」

 

こなちゃんから遅れること一時間弱。私たちもぼっちちゃんと喜多ちゃんの文化祭に遊びに来ていた。…全く、お姉ちゃんもこなちゃんもぼっちちゃん好き過ぎるでしょ。ぼっちちゃんはその性格上、強く断るのは苦手。嫌がっていたら私だけでも止めに入らねば…。隣のやつは面白がるだけで手を貸してはくれなそうだし。そんな事を考えながら私たちは、ぼっちちゃんの教室の前に立っていた。

 

「ま、いっか…。取り敢えず!ぼっちちゃん!いるー?遊びに来たよ!」

 

「ぼっち。もてなせ」

 

そう言いつつ扉を開け、教室の中を見回していると、鷹みたいな鋭い目をした、長い黒髪を靡かすメイドが、こちらに近付いてくる。バッキバキのピアスに左腕のタトゥー。なんか見覚えがあった。

 

「あっ…。お帰りくださいませ♡ご主人様♡」

 

「丁寧に帰れって言ってないこのメイド!?」

 

そこには、満面の笑みで毒を吐く、メイド服に身を包んだこなちゃん…、黒井此方が立っていた。

 

「えっ…。なにしてんのさこなちゃん…。いつ秀華高に転校したの?」

 

隣で下を向いてプルプル震えてるリョウの代わりに私は尋ねる。こなちゃんは少し口を尖らせて不機嫌そうにしながらも答えてくれた。

 

「…いや実は、ひとりさんがメイド服着るの嫌過ぎて逃げちゃったみたいで…私が代わりに…」

 

「あ〜。そういう事情…」

 

何だかんだでこなちゃんは面倒見がいいからね。困ってる人を放っとけなかったんだろな〜。

 

「メイドさん。この…ゆめ☆かわオムライスお願いしまぷふぉっ」

 

「せめて最後まで言い切れよコノヤロ〜…」

 

いつの間にか席に座っていたリョウがこれ幸いと言わんばかりにこなちゃんを弄り始める。

 

「お二人ともお願いしますよ。私の代わりにひとりさん探して来てください。そうしないと私いつまでもメイドさんから卒業できないですよ…」

 

「人にもの頼むときは相応の態度ってやつがあるんじゃないの?ねえ此方?」

 

「むぐっ…」

 

こなちゃんの懇願に、ニヤニヤしながらそう切り返すリョウ。こいつぜってえ碌な死に方しねえな。

 

「ほらほら〜、これぇ。ゆめ☆かわオムライス、美味しくなる呪文付きなんでしょ?百点のやつやってよ。此方が思う百点のやつ。そしたらぼっち探してきてあげる」

 

「そうだよこなちゃん。可愛く出来たら私たちも頑張って探すよ〜?」

 

まあね?ノラないとは、言ってないけどね。二人してニヤニヤしながらこなちゃんに迫る。

 

「おのれ調子に乗り腐って。やったりますよ!目ん玉洗ってよく見とけ!オムライスさ〜ん!!美味しくな〜れ!!ふわふわミラクルキュン!!」

 

前日まで練習してたんかってくらいの完璧な振り付け。普段の女子の癖に低いダウナーな声は何処に行ったんだってくらいの甘ったるい声で完璧にキメるこなちゃん。両手の指でハート作って前に突き出してきたあたりで私は口内のものを吹き出した。

 

 

 

 

♪♪

 

 

 

 

 

 

「あ〜面白かった。あんだけ気合入ったの見せられたら私たちも動かざるを得ない」

 

「…た、確かに。こなちゃんって吹っ切れると本気出すよね…。さあて、ぼっちちゃんは何処に行ったかな?」

 

遠慮なく大笑いしてしまったら、怒ったこなちゃんに追い出されてしまったので、素直に今はぼっちちゃんを探している。しかし、よく知らない高校。土地勘がないので(学校勘?)苦労しそうだ。

 

「あっ!せ〜んぱ〜い!皆さん!来てたんですね!」

 

「おっ喜多ちゃん!」

 

そっかこの子がいたか。喜多ちゃん。手を振りながら合流してくれる、我が結束バンドの陽キャ担当。

 

「実はカクカクシカジカでいまぼっちちゃんを探してるんだ〜」

 

「半分くらい黒井さんは自業自得な気もしますが…。まあ分かりました。ひとりちゃんを探せばいいんですね!?暇なんで手伝いますよ!」

 

「ありがとね!喜多ちゃん!」

 

「郁代。郁代のクラスは何の出し物やってんの?」

 

ああそうか。ぼっちちゃんのクラスがメイド喫茶なら喜多ちゃんのクラスも何かやってるはず。すると何故か喜多ちゃんは遥か遠方に視線を彷徨わせて。

 

「…なんか男子が上半身裸でシバキ合ってます…」

 

「なんだよそれ」

 

「ホントだよなにそれ!?何をどう間違ったらそんな地獄が完成するのさ!?」

 

「さあ…なんか男子の一人が熱烈なプロレスファンらしくて…。皆休み時間ごとに熱心に自分のリングネーム考えてました…。鳴門の渦潮トルネードウォーリアとか…」

 

「うわあ…」

 

うわあ。

 

「挙句女子は皆でバニーコスしてラウンドガールだ!なんて言い出したから男子と女子で戦争が起きちゃって…。い、命からがら逃げてきました…」

 

「まさかの戦争難民だったのか…。喜多ちゃん。ここなら安全だからね…!」

 

「ふええ…!伊地知先輩…!」

 

ひしりと喜多ちゃんを抱き寄せると、心無い山田に白い目で見られる。なんて奴だ可哀想だとは思わないの?…まあそれも、今はいいか。喜多ちゃんの背中に回していた手をパッと離す。

 

「よし、喜多ちゃん。切り替えて、ぼっちちゃん探そ」

 

「早くないですか伊地知先輩!?」

 

「仕方ないよも〜喜多ちゃんとこの男子が頭がおかしいのは〜。ぼっちちゃん見付けて一緒に文化祭回ればお口直しにもなるでしょ〜」

 

「此方はほったらかしか〜」

 

あっやべ、そうだった。まあ少しならいいでしょ?リョウ。

 

「喜多ちゃん。いつもぼっちちゃんてどこにいる?やっぱトイレとか?屋上とか?」

 

「ふふふ。ちっちっち…。ひとりちゃんはそんな人がいっぱいいるようなとこにはいませんよ…、私に心当たりがあります。一緒に来てください!」

 

とんと自身の胸を叩いて先行する喜多ちゃんの背中についていく。周りに溢れる楽しそうな会話と雰囲気に少しだけ胸を浮かされながら。

 

 

「例えばここですよ。いつも二人で練習してる階段の下の謎スペース!」

 

「え〜?こんな湿度高くて埃っぽいとこで練習してるの〜?流石のぼっちちゃんもこんなとこにはいないんじゃ〜、っていたー!!!」

 

「あっうっ…!」

 

目当ての人物はすぐに発見された。確かにこんなとこには人は来ない。賑わいのある廊下から少し離れた、階段の下に机やらゴミやら押し込まれている謎の場所。そこに体育座りでポツンとぼっちちゃんは座っていた。

 

「へ〜!ホントにメイド服着てるよぼっちちゃんが!立って立って!よく見せて!」

 

「あ、は、恥ずかしいです…!」

 

言いながらもぼっちちゃんはおずおずと立ち上がってくれる。

 

おお。おお!

 

「かっ、かんわいい〜!!」

 

「えっ、ウソ!凄く可愛いじゃない〜!」

 

喜多ちゃんと二人でやいのやいの言う。暗くてよく見えないが、やはりぼっちちゃんは素材がいいのよね。黒を基調とした少し現代風にアレンジされた可愛らしいメイド服。髪を纏め上げるカチューシャも、少し短めの丈のスカートも、ヒラヒラで凄くよく似合っている。

 

ゴミ溜めの中に佇むその姿は、まさに掃き溜めにツル。もしくは、泥の中の蓮の華。

 

「こ、これはイケる…!ぼっちはやはりダイヤの原石だぁ〜」

 

一体何がイケるというのか。よだれを垂らしながらそう評する親友に一抹の不安を抱きながらも取り敢えずは賛同していく。

 

「ふふふ…!そうだよ!普段の奇行で忘れがちだけど!ぼっちちゃんは可愛いのです!」

 

「伊地知先輩が何やら誇らしげだわ!でもホントに可愛い〜!ひとりちゃんこっち向いて〜!」

 

「ぴえぇ…!」

 

ぼっちちゃんはといえば、><こんな感じの目をして、自身の目の前を両手で遮ろうとしていた。…私たちから何か出てるの?

 

「…よし!ぼっちちゃん捕まえたし戻ろう!早くしないと不機嫌メイドが暴れ始めるかも!」

 

まあ私たちを出し抜いて自分だけでぼっちちゃんを撮ろうとしていた訳だからこなちゃんは自業自得だが。

 

「その前に伊地知先輩!折角ですし文化祭回りましょうよ〜!ここに来る前楽しそうなのいくつかあったんですよ〜!」

 

「それもいいね喜多ちゃん!じゃあ帰りながら色々見て回ろうか!」

 

「はい!クレープも食べたいし〜、隣のクラスじゃたこ焼きもやってるんですよ〜!」

 

「食べ物ばっかりだね喜多ちゃん!よっしじゃあ行こうかぼっちちゃん!…あれ?」

 

…後にして思えば、この時確かに喜多ちゃんと話すのに夢中で一瞬目を離したっけ…。

 

「…虹夏。ぼっちなら逃げたぞ」

 

「な」

 

「え」

 

「「ウソ〜〜〜〜〜〜〜!?」」

 

「二人が楽しそうに話してる隙に…」

 

「な、なんで止めないねんリョウコラ!?」

 

「そうですよリョウ先輩!」

 

思わず詰め寄る私たち二人にリョウは、まるで悪いことをしたと思っていなさそうな、いたずらっ子のような笑みを浮かべて。

 

「いやだって…流石の私も壁際に追い詰められたネズミみたいな目で懇願されたら黙っていざるをえないでしょ…?それにしても傑作。ぼっちがまさかあんなに素早く動けるとは…」

 

そう言って口を押さえてそっぽを向く。肩が震えているぞコラ。

 

「く、くっそ〜!折角捕まえたと思ったのに〜!これは余程に嫌なんだなメイド服見られるの…!」

 

「着たまま校内逃げ回るほうが恥ずかしいと思いますが…!もうっ!中々やるわねひとりちゃん!」

 

意外なぼっちちゃんの行動力に面食らいながら悔しがっていると、リョウが先程とは種類が違う笑みを浮かべて私たちに提案してくる。

 

「…そしたらさ。勝負ってことにしない?誰が一番早くぼっち捕まえるか」

 

その一言に、私は、そして喜多ちゃんも顔を上げてリョウを見る。それを受けて、目を一瞬細めながらリョウは続けた。

 

「だってズルくないかい?虹夏、郁代。此方は店長と密約交わして、自分だけでぼっちの可愛い写真撮りまくる気だぜ?…だからさ、この勝負で勝った人。…つまり、ぼっちを一番最初に捕まえた人に、ぼっちの可愛い写真を撮りまくる権利を与える…。ってのはどう?」

 

不敵に笑いながらリョウが提案した。…成る程ね。校内どこに逃げたか分からないぼっちちゃん。それを探しながらなら文化祭も見て回れるし…。何より!勝ったときの特典が凄く魅力的!!

 

「面白い…!リョウ!私は乗ったよ!誰が一番早くぼっちちゃん見つけられるか…!勝負だ!」

 

ビシリと人差し指をリョウに突きつけながら宣言する!するとゆらりと振り返りながら喜多ちゃんも私に続いた!

 

「私も乗りましたよ!リョウ先輩!伊地知先輩!黒井さんにだけおいしい思いさせてなるもんですか!私が勝ったら!ひとりちゃんの可愛いメイドさん姿!撮って撮って撮りまくらせて貰いますからねっ!?」

 

私たち二人の宣言を受けて、歪みに歪んだゲームマスターは心底愉快そうに口元を吊り上げ、肩を揺らしながら答える。

 

「くっくっく…。私も勿論、負けるつもりはない。…んじゃ、同意ってことでいいね?皆」

 

「はい!!」

 

「もちろん!!」

 

「おっけー。んじゃ、スタート!!各々自由に学校に散れ!!」

 

リョウの号令のもと、私たちは三者三様に、別々の方向に走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…遅い。さては伊地知先輩たちめ、私のこと忘れて遊びに行ったな…?」

 

腕組をしながら肘の内側をもう片方の指で苛立ち気味に叩く影が一つ。

 

「此方ちゃん!お客様!二名様だよ!」

 

「んがあ!?もう!ヤケクソじゃあ!!いらっしゃいませご主人様ぁ!!」

 

…これは余談ではあるが、強面だが割と丁寧な接客ではあったので、黒井メイドはそれなりに人気があったそ〜な。

 

 

 

 

 

 

 

♪♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ〜。た、大変だったね…」

 

「そ、そうですね…、私もちょっと疲れちゃいました…」

 

ドッタンバッタン。紆余曲折あって、今は文化祭一日目からの帰り道。

 

あの後色々あった。ぼっちちゃんが喜多ちゃんのクラスの変態男子共に捕まって人質にされて、試合に強制的に参加させられそうになったりとか。

 

「危うくバニーのラウンドガールにされちゃうとこでしたよ…」

 

「い〜じゃん喜多ちゃんは別に、うさ耳のカチューシャ付けるだけなんだから…。私なんかリングに上がれ!とか言われたんだよ!?リングネームは下北沢のデンジャラスクイーン!全く失礼しちゃうよ!こんなか弱い女の子に!」

 

「…か弱い…?」

 

「なんか言ったかリョウコラ」

 

危なかった。私たちが変態共とワチャワチャしてる間にリョウが機転を利かせてぼっちちゃん回収しといてくれなかったらホントに参加させられてたかも…。

 

ちなみに勝負はノーサイドとなった。件のクラスにたどり着いたのが三人ほぼ同時で判定ができなかったからである。

 

「まあ、今日の功労賞は私!ですかね!何せまさかの一日中ひとりさんの代打でメイドさん勤め上げましたからね!」

 

「はうう…!そ、その節は黒井ちゃん…!大変な迷惑を…!」

 

「いいんですよひとりさん!後でちょ〜っと写真を撮らせてくれればそれで!」

 

「うう…!い、嫌だけど…!色んな人に見られちゃうよりかは黒井ちゃんに見られたほうが…!」

 

「…少し納得いかないけど、今日一番頑張ってたのは間違いなく此方だし…、ま、仕方ないか。此方、写真取る時は同席させろよ?」

 

リョウがこなちゃんに確認を取っている。抜け駆けする気だな!そうはさせるか!

 

「ぼっちちゃん!私も同席させて!この二人が無茶なこと言い出したら私がブロックするから!…だから私にも少しだけメイド姿見せてくれたらな〜なんて…」

 

最後の方は無駄な抵抗で少し小声にしてみたが…。

 

「わ、私も!ひとりちゃん!私は伊地知先輩チームに入るわ!黒井さんやリョウ先輩が暴走したら抑えるから!ちょっとだけひとりちゃんの可愛い姿!ポーズ付きで撮らせて!角度とか光の当たり具合とかも色々あるから!」

 

チームってなんだよ。ほんで端々で欲望が漏れてんだよ喜多ちゃん。などと思いながらぼっちちゃんのほうを仰ぎ見ると、私はかなり珍しいものを見ることになった。

 

「ふふっ…。え、えへへへ…」

 

…笑ってる。あの、ぼっちちゃんが。微笑み程度の淡い表情だけど確かに。な、なんで!?この状況!困惑こそしても笑うことはなさそうなんだけどな!?それが不思議で、私はついつい尋ねてみた。

 

「ぼっちちゃん。微笑ってるね…。何か、嬉しいことでもあった?」

 

「えっ?そ、そんな事はあ、ありませんですよ?に、虹夏ちゃん?」

 

嘘だ。いつも以上に吃りまくりだし目線もあっちこっちだし、言葉遣いもおかしいしぃ!?

 

「コラ!ぼっちちゃん!何か隠してるでしょ!?お姉さんに教えなさい!」

 

そう問い詰めると、今日何度目か。ぼっちちゃんは私たちにくるりと背中を向けて、走り出した!

 

「な、なんでもないで〜す!虹夏ちゃ〜ん!」

 

「あ、コラ待ちなさい!ぼっちちゃん!」

 

「お?何だ何だ?」

 

「また追いかけっこですか!今度こそ私の一人勝ちです!足の速さには定評があるんですからね!」

 

「ちょっ…!?伊地知先輩!ひとりさん!待ちなさい!」

 

私とぼっちちゃんを先頭に、私たちは、フラミンゴ色に染まっていく下北沢の街を走る。前を走る背中を追い掛けながら、何か安い映画のワンシーンみたいだな。と私は胸の中で呟いていた。

 

 

 

 

♪♪

 

 

 

 

規則正しい音と揺れ。金沢八景へと向かう電車の車内。窓の外はもうすっかり夜の帳が降り、車窓は鏡のようになって、長椅子に座る私の姿を映している。

 

「…ふふっ。変な顔…」

 

思わずそう呟いた。だって、私、見たことない顔をしてる。中学校では多分、一度もしたことない顔を。

 

ゴメンね、虹夏ちゃん。皆。怖くて逃げ出したわけじゃないんだよ?ただね。なんとなく、恥ずかしかったんだ。皆に、顔を見られるのが。

 

メイド服をお客さんに見られるのが嫌で逃げ出して。そうだ、赤石さんと青井さん。クラスの皆にも悪いことしたな。後で謝らなきゃ。

 

そしたら、皆が来てくれて。私の格好を褒めてくれて。可愛くなんか、ないのに。

 

人質にされた時は本当に心臓止まるかと思ったけど。

 

皆と、逃げながらだったけどね、学校中を走って回っていたらね。不思議な気持ちが湧いてきたんだ。心が風船みたいにふわふわ浮いちゃうような。不思議な気持ち。私が知らない気持ち。

 

明日は、文化祭の二日目。私たち、結束バンドのステージ。意識すると、少しだけ右肩が震える。それを逆の手で押さえながら、私は思った。

 

いま、私が震えているのは、怖いから、だけじゃない。

 

きっと、ない。

 

 

 





次回!文化祭!学生バンドの晴れのステージ!

頑張れ結束バンド!!

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