女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!?   作:はま0821

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結束バンドで一番好きな曲です。

あと、すいませんオリキャラ注意です。今のとこそんなにセリフはないですが。



34 目が覚めても、出会える場所!

 

 

「よお…。大槻ヨヨコ…!」

 

「そういう貴方は…、黒井、彼方」

 

文化祭は二日目。結束バンドのステージが披露される、その当日。二人の男女が、秀華高の廊下で対峙していた。一人は、大槻ヨヨコ。今日はいつもの、黒を基調にしたロックロックした見た目ではなく、自身の学校の紺のブレザーにグレーのスカートのカッチリとした制服に身を通していた。黒井彼方はそんな彼女を、敵意剥き出しの表情で呼び止めていた。

 

「会いたかったぜ…?ようやくリベンジできそうだ…!」

 

「…。私はいつでもよかったわよ?音楽辞めて、私から距離を取ったのは貴方じゃない」

 

痛い所を突かれたとばかりに顔をしかめる彼方。だがそれも一瞬。すぐに向き直り、ヨヨコに対して指をさす。

 

「それは否定しねえ。だがな。生憎俺は、負けたまんま引っ込んでられるほど、人間出来てねえんでな!」

 

姉とおんなじセリフ。因果なものだと、大槻ヨヨコは可笑しく思い、表情に出しそうになるが、すんでのところで抑える。

 

「私は貴方に勝ったとは思ってない。貴方のお姉さんにも同じ事を言ったけど、あれは時の運よ。…だから、もう一度貴方ときちんと戦えそうで嬉しいわ」

 

真剣な表情で返すヨヨコを忌々しげな目で睨めつけながら、だがしかし、確かに敵意の無さを本能的に感じとった彼方は、息を吐いて気持ちを落ち着けつつ、改めてヨヨコに尋ねる。

 

「…何しに来たんだよ?まさか大槻ヨヨコともあろう者が、ただ文化祭を楽しみに来たわけじゃねえんだろ?」

 

彼方のこの質問に、ヨヨコは少しだけ眉毛を寄せて、少々の狼狽を見せながら答える。

 

「う…い、いけない…?あ、貴方のお姉さんのバンドが文化祭でライブやるって言うから、て、敵城視察に…!そ、そのついでに、文化祭なるものを、楽しんでみようと…」

 

ヨヨコの表情を見た彼方は、目を見開いたあと、猜疑の瞳を次第に憐れみに染めつつ、視線を外して髪をガシゴシと掻き乱した。

 

「…悪かったよ。つまりはただのお客さんなんだな。姉貴のライブはこの後の体育館だ。見て行ってやってくれ」

 

「あ、ありがとう…。や、優しいのね」

 

「ちっ!早く行っちまえ!調子狂うぜ全く…!」

 

それ以上は言葉を交わさずに二人は別れる。女の背中を見送った後、頭に手をやり盛大なため息を吐く男に話しかける人影があった。金色の髪の毛に緩くパーマをかけた、少し気が抜けた表情の優男だ。

 

「…あれが、シデロスの大槻ヨヨコ、さん?」

 

「まあな。…多分、俺たちのバンドの最大の障害だ」

 

「…なんか、聞いてた話より全然無害そう…。今日の、結束バンド…、だっけ?彼女らは?」

 

「ああ、姉貴のバンドか?まあ、姉貴がいる以上、メンドイことに変わりはねえ。しっかり見とこうぜ?」

 

「うん。分かった」

 

男たち二人は、そう言って会話を打ち切るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

♪♪

 

 

 

 

 

 

 

「う〜い!!来たぞぉ〜秀華高〜!ぼっちちゃ〜ん!今行くからなあ〜!」

 

「ああああ…!酒くせえ!お前これ学生のお祭りだぞ教育に悪いだろうが!?」

 

今度は秀華高の正門前。ガラの悪い女の二人組みが文化祭に訪れていた。片方は手の平サイズの紙パックの日本酒を握り潰しそうにしながら持つ小豆色の髪の女、廣井きくり。そしてもう一人は、そんな女に肩を貸してフラフラしながらも歩く、腰まで届く長い金髪に何者をも射殺しそうな視線を宿した女。伊地知星歌だ。

 

「お前折角一回酒やめてライブやったんだからさ、今日ぐらいやめられなかったのかよ!?今日はぼっちちゃんの晴れ姿だろうが〜!」

 

そう言いながら星歌はきくりの肩に回していた手を首に回してスリーパーホールドへと移行し、ギリギリと締め上げる。

 

「あだだだだ!?あれやるには凄い覚悟がいるんですよ〜!勘弁してくださいって〜!?あれは廣井きくりであって廣井きくりでないと言いますか〜!?」

 

「訳分かんね〜んだコラ!」

 

往来のど真ん中で、女性の甲高い悲鳴が響く。質の悪い二人組みを避けるように、人波は二股に分かれていた。そろそろ不審者と見なされて通報されそうな頃合い、きくりはポツリと呟く。

 

「…それにね先輩。ぼっちちゃんなら心配しなくても大丈夫だよ。あの子私よりずっと強いもん」

 

打って変わっての真剣な雰囲気。それを感じ取った星歌は、拘束の手を緩める。

 

「…まあな。だがよ。ぼっちちゃんも虹夏も、まだ子供だ。道に迷うこともある。ぼっちちゃんにとってはお前の存在は、凄く大きいんだ。…それを忘れんなよ」

 

よっとと。態勢を立て直してしっかりと立つ小豆色の女を見据えながら星歌は呟く。それを受けて、きくりは目を細めながら、しっかりと口角を上げて微笑った。

 

「…そうであったなら光栄だね。さあ!先輩行こう!グダグダしてたら結束バンドちゃんたちのライブ!聴き逃しちゃうよ!」

 

「まあそんな焦んなよ。まだ開演まで二時間くらいはある。コーヒーでも飲んでこうぜ?」

 

軽口を交わしながら二人組みは校門をくぐる。秀華高文化祭に、役者は揃いつつあった。

 

 

 

 

 

 

♪♪

 

 

 

 

 

 

 

 

(頑張れよ〜!ひとり!父さん応援に行くからな!この日のために法被も作ったしビデオカメラも新調したから!)

 

(ひとり〜。この阿呆はちゃんと手綱を握っておくから心配しないでね〜。貴女は貴女の思いっ切りをぶつける事。それだけに集中しなさい〜!)

 

(おねーちゃん!頑張って!ふぁいと!だよ!)

 

不思議だ。家を出る前は確かに緊張していたのに。家族のいつもの寸劇を見ていたら、いつの間にか怖い心はどこかに行っていた。思わずクスリと、自身の口から笑みが溢れるのを、後藤ひとりは感じていた。でも、その魔法が効いていたのも、先程までの話だ。

 

ステージの上に機材が用意され、見に来てくれた人たちが体育館を少しずつ満たし、自分たち以外のバンドのパフォーマンスが開始されると、否が応でも緊張は高まっていった。

 

「はあああああ…!!」ドッドッドッドッドッドッ!

 

「ぼっち、うるさい。ぼっちの担当はギターでしょ?胸の中のドラムがうるさいよ」

 

「リズムも走り気味だしね〜、じゃないんだよ、リョウ。ぼっちちゃん緊張してるんだからもう少し優しい言葉掛けたげなよ!」

 

自分の心臓がとんでもないビートを刻んでいるのを感じていると、リョウ先輩にそう突っ込まれた。体育館のステージの裾。私たち結束バンドはそこで、自分たちの出番を待っていた。自信がない訳では無い。でも、既にこんなに多くの人が見に来てくれてる。…皆さんを満足させること。私に出来るだろうか。そんな事を考えていると、ぽんと肩を叩かれる。

 

「大丈夫よひとりちゃん!文化祭の出し物なんて余程酷くない限り盛り上がるから!」

 

喜多ちゃんがカラカラといつもの笑顔で元気づけてくれる。

 

「その余程で私はダダ滑ったけどね」

 

「縁起でもねーこと言うなー!!」

 

その元気づけを一瞬でフラットにしてくるリョウ先輩。虹夏ちゃんに追っかけ回されているが、前の文化祭が相当こたえたのだろうか。た、たしかに、ダダ滑った経験はリョウ先輩しかしてない。や、やっぱ怖いよう…!

 

「ふふふ…。ようやくこの日が来ましたね…いや、来てしまいましたねひとりさん!」

 

再び思考が暗い方向にいきかけた時、話し掛けてきたのは黒井ちゃんだ。

 

「ひとりさんはギターヒーローとして!私は結束バンドを支えるリズムギターとして!名声を手にする時がやってきましたよ!今日は存分に!ギターヒーローとしての実力!見せつけちまってください!」

 

瞳の中に炎を宿しながらそう宣言する黒井ちゃんには、一寸の闇すら垣間見ることは出来なかった。…凄いなあ。ほんとに尊敬しちゃうよ。その前向きさ。

 

「…うん。や、やってみるよ。…怖いんじゃないぞ。この震えは、武者震い!いつ私のギターを披露できるのか!楽しみで震える、武者震いだ!」

 

大袈裟に自分の心を引き伸ばして口から放り出す!すると沈み込んでいた気持ちが少しだけ浮き上がるのを感じた!

 

ずっと夢見ていたんだ。友達作ってバンドを組んで、文化祭でヒーローになる事を。怖がってなんかいられるか!!そう考えていると、私のみぞおちの辺りに軽く拳を当てながら、虹夏ちゃんは言う。

 

「その意気だよぼっちちゃん!文化祭なんか通過点だ!私の夢!叶えてくれるんでしょ!?ギターヒーローの真の実力!大いに期待してるから!」

 

「文化祭だけじゃない。これから色んな場所で音楽を披露していくんだよ。こんなとこでビビくってる場合じゃない。演ってやろうぜ、ぼっち!」

 

いつもと同じ不敵な笑みで、リョウ先輩がそれに続いた!

 

(…私は、黒井さんやひとりちゃんみたいに、人を惹きつける演奏は出来ないわ。…でも。貴女たちを、傍で支える事なら、出来ると思うから。それが私のレゾンデートル。いくわよ。喜多郁代)

 

「頑張りましょう!皆さん!ひとりちゃん!!」

 

「よっしじゃあ行こうか!!結束バンド!!ファイト!オー!!」

 

「応!!」

 

「はい!!」

 

「あっう…!はい!!」

 

「やったりますか!!」

 

いつの間にか一つ前のバンドの演奏が終わり、私たちを呼ぶスタッフさんたちの声。それと同時に見据える今日の観客さんたちに、もう先程までの迷いは滲まなかった。

 

かくして、舞台の幕は上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わあ…。凄い…!メインフロアも二階席もお客さんで一杯…!八月のライブのときと全然違う…!

 

「それでは、次は結束バンドの皆さんでーす!!」

 

元気よく司会の人が、私たちを紹介してくれると、お客さんたちからさまざまな歓声が上がった。

 

「きゃっー!喜多ちゃーん!!」

 

かわいー!!かっこいー!!

 

虹夏ちゃんや黒井ちゃんはピースサインや右腕を突き上げたりで歓声に応えていた。リョウ先輩も満更ではなさそう…、ま、まあ、私に何の歓声もないのは織り込み済み…。うう…。

 

「お姉ちゃーん!!がんばれー!!」

 

ハッとして伏せていた顔を上げると、ぴょんぴょん飛び跳ねながらこっちに手を振るふたりと、お父さんにお母さん。…そうだ。私は、一人じゃない。ありがとうふたり。お姉ちゃん、頑張るから。

 

更に観客席を見回してみると、最前列に見知った顔。店長さんと、廣井のお姉さんだ。見に来てくれたんだ。

 

店長さんは目が合うと、指を二本立てたハンドサインを控えめに送ってくれた。お姉さんは、この間のライブの時にやってくれたみたいに、胸をトントン、と二回叩いて微笑んでくれる。

 

(ぼっちちゃん。どこへだって、行けるんだよ!)

 

(…はい。はい!お姉さん!!)

 

楽器のチューニングを済まして、周りを見渡す。背中越しに視線をくれる喜多ちゃん。いつもの鉄面皮ではワクワクを隠しきれていない珍しい表情のリョウ先輩。ひとしきりドラムの音を確かめて、準備万端の虹夏ちゃん。そして。不敵な笑みでこちらに握り拳を突き出してくる黒井ちゃん。…うん。やろう。行こう!皆!!

 

虹夏ちゃんのハイハットとともに、私たちは駆け出した!

 

初手から特徴的なリフのギターが体育館の中を所狭しと暴れまわる!それに伴うようにボーカルが歌い出し、ベースとドラムスはときに繊細に、ときには激しくビートを刻み、低音を支配する!そこにザクザクと刻みつけるようなリズムギターが加わり、リズム隊は見事なパフォーマンスを発揮する!結束バンド、今日のために用意してきた曲!忘れてやらない。だ!

 

喜多ちゃんが声を張り上げる。少し前は震えているような。失礼ながらとても頼りにはできないような背中だった。

 

今は違う。力強い声で、ギターで!私たちを引っ張っている。凄い…、こんなに成長していたんだね!喜多ちゃん!

 

前のバンドもかなり盛り上がっていたので、会場のボルテージは早くも最高潮だ。ベースが唸り、ドラムスが跳ね!リズムギターが引き裂く!

 

負けられない…!怖い気持ちも、震えるような気持ちも、焼き切れていく!この際、燃えるものなら何だっていいや!燃やせ!燃やして指を動かして弾き出せ!!

 

目の前の光景に、後ろの仲間たちの熱に充てられて、指先に炎が灯る。汗を、髪を振り乱しながら必死に掻き鳴らす!

 

虹夏ちゃんのドラムが心臓に直接響く。それに応えるようにもつれそうになる指を動かす!腹の底まで揺るがすような重低音を感じながら、私は初めての感情を持っていた。ああ!そうだ!これだよ!きっと私は、これが欲しかったんだ!!

 

ラストコードを弾き切り、顔を上げる。

 

一瞬の静寂の後。

 

おっ…。おぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!!!

 

体育館が怒号のような歓声に包まれた。大歓声。大歓声だ!へっえっ!?夢!?いつも見てる夢じゃないよね!?

 

「いやマジで上手くねぇ!?プロかよ!」

 

「喜多ちゃんかわいい〜!!カッコいい〜!!」

 

「ベースうっま…。惚れたわ…!」

 

「つーか全員レベルたけーよ!やべーなこのバンド!無料で見ていいのかこれ!!」

 

少しずつ聞こえる、余りにも都合のよすぎる称賛の声。やっぱ夢だ。いつも見てる夢によく似てるもん。そう思いほっぺたを思いっ切りつねる。いひゃい…。えっ嘘。夢じゃない…!

 

「ぐ、ぐぬぬ…!やるわね結束バンド…!前みたいな堅さが一切見えないわ…!相当練習してきたみたいね…!」

 

二階席から観戦していた大槻ヨヨコが歯噛みする。

 

「…凄いね。中学の頃より格段に上手くなってるじゃん。此方さん」

 

「ふっ…。まがりなりにも俺の姉なんだ。こんぐらいはやってくれねえとな!」

 

「…嬉しそ〜だね〜、彼方〜」

 

何故か誇らしげな彼方を、もう一人の男は冷ややかな目で見やるのだった。

 

しかし。彼らは熱に浮かされて気付いていない。ひとり本人ですら気付いていない異変を、冷静に観察していて気付いた者たちもいる。

 

(…ひとり?ギターの音が…?)

 

ビデオカメラの中に収まる娘を見つめながら、後藤直樹は僅かな言葉にはできない違和感を感じ取る。

 

「…なあ廣井」

 

「…はい、なんすか先輩」

 

「いやさ、ぼっちちゃんのギターの音。なんかおかしくねえか?」

 

「…先輩もそう思うってことは、私の勘違いじゃねえな…。とはいえ、最早メンテナンスしようにも間に合わねえ。…何も起こんなきゃいいけど…」

 

音に関しては百戦錬磨のこの二人も当然違和感には気付いていた。だが、正体が分からない。分からない以上、行動も起こせない。何事もないのを、祈るしかなかった。

 

「えっと…!ありがとうございます!!挨拶代わりに一曲聴いてもらいました!今の曲は、忘れてやらない!!私たちは!結束バンドと申します!!」

 

虹夏ちゃんが元気一杯に客席に叫ぶ!それに呼応して歓声が返ってくる。す、凄い。完全に観客が味方についてるよ!虹夏ちゃん…流石…!

 

「なんかそこにいるベースの山田から、私たちのエムシーはつまんない。みたいに言われているので、しばらくはライブの告知とか次の曲とか、必要なことしか喋らないようにしてま〜す」

 

「いやいや、大分余計な事喋ってんじゃん」

 

いきなり名前を出されたリョウ先輩が焦りながら対応すると、客席から笑いが起きた。わ、笑いまで交えてる…!

 

「それじゃ!二曲目行くよ!星座になれたら!」

 

その言葉と同時に、私たちは周りを見渡し、今一度頷く。そして、虹夏ちゃんがバチで四回リズムを刻んだあと、私はギターを差し込んだ。…その時に、気付く。

 

あれ…。ち、チューニングが違ってる…!?なんで…!?さっきまで合っていたのに…!この曲の最初の入りはギターがよく目立つ。私以外の四人の視線がこちらに一瞬集まった。でもそれも一瞬。各々自分たちの演奏へと戻っていく。な、何かトラブル…!?でも、もう引き返せない。

 

 

…!?何だ…!ひとりさん。明らかにチューニングがおかしいぞ。一曲目はそんな事なかったのに。ひとりさんも今気付いたっぽいわね。この曲にはひとりさんのソロもある。他の部分ならリズムギターである、私がなんとかカバーできるけど、ソロだけはひとりさんに何とかしてもらうしかない。…いざとなれば、私にできることをしよう。…私が弾けなくなっても。

 

そう考えながらひとりさんの背中を注視していた。あれ以降は特に何のトラブルもなく進み、私の考えも杞憂か、と。思いかけていた頃、性急に。

 

残酷に、事は起こる。

 

何かが弾けるような音と、ひとりさんの上にしなる銀糸。私も練習中に何度かなったことがある。…弦が、切れたんだ。嘘でしょう。何でこのタイミングで!

 

もうすぐひとりさんのソロ。切れるにしてもマジでタイミングが最悪だ。目の前のひとりさんが力なくへたり込む。

 

くそっ。くそくそくそくそくそ!!!時間がない!!なんとかしなきゃ!!なんとか!!

 

 

 

…。弦が、切れちゃった。これじゃあ、ソロが弾けない。それだけじゃない。折角こんなに盛り上がったライブ。私の機材トラブルなんかのせいで、台無しになっちゃう。

 

…やっぱり、無理だったのかな。私には、ヒーローなんて。分不相応な夢を見たから、バチが当たったの?

 

もしそうだとするならさ。…酷いよ神様。

 

分不相応な夢を見たのは私だけじゃん。それならバチを当てるのも、私だけにしてよ。皆は関係ない。…巫山戯んなよ。巫山戯んな!!

 

ペグが故障しちゃってる…!!な、何か!何かできることはないのか後藤ひとり!!くそっ時間が!!時間が足りない!!

 

 

その時。バッキングだけの、お世辞にも上手いとは言えないような演奏のギターが前に出た。喜多郁代だ。後藤ひとりの異変を感じ取った他のメンバーは、前に出た喜多郁代とともに、力を合わせて間を繋ぐ。

 

「喜多…ちゃ…」

 

背中を見つめながら呟く。それを喜多郁代は背中越しに一瞥し。

 

(皆に見せてあげてよ!後藤ひとりちゃんは!!ホントは凄くカッコいいってところを!!)

 

視線に、燃え滾るような思いを込める。そして、喜多郁代が必死に繋いだ間を、黒井此方は見逃さなかった。

 

(…最早口が裂けても言えないわね。貴女は、逃げたギターじゃない。ギタリスト喜多郁代!!感謝するわ!!)

 

後ろからひとりが提げていたギターを自身のものに取り替える。これで、黒井此方は演奏には参加できなくなる。

 

「く、黒井ちゃん!?」

 

最早大音量で声は聞こえない。だが、何故か黒井此方が発した言葉は、後藤ひとりにクリアに届いた。

 

頑張れ!!ヒーロー!!

 

歯を食いしばる。指に力を込める。…ここまでされて、戦えない。そんなのはヒーローじゃあない。私だって!ヒーローの端くれだ!憧れてくれた人だっているんだ!!うおおおお!!頑張れぼっちぃぃ!!

 

ギターが咆哮を上げる。まるで彼女の思いを反映するように!鉄のエレキテルマシンを携えた、ヒーローの見参だ!正確無比な指捌きでコードを弾き倒していく様は、体育館に訪れていた全ての人間の目を奪った。

 

 

 

(喜多が繋いで、黒井が託して、ぼっちちゃんが活かす…か)

 

ステージを見上げて、伊地知星歌は呟く。

 

「良いバンドじゃん」

 

「ね〜っ!あの子たち凄いよ!リードギターの弦が切れたのに何とかしちゃった!全員出来ることを必死に探した結果だよね!」

 

「ああ。その通りだな…!」

 

きくりの言葉に、星歌は口角を上げながら、心からの同意を示すのだった。

 

演奏が終わる。荒々しい息を吐いた私は、歓声を上げる客席には目もくれずに、黒井ちゃんの姿を探した。

 

私のギターを丁寧にスタンドに立て掛けていた黒井ちゃんは、私の視線に気付いて振り返ると、少しだけ照れくさそうに、ニヒッと微笑って、右手を上げる。すると、その手に私の右手は吸い込まれた。…後ろから、喜多ちゃんが私の手を黒井さんの手へと導いたのだ。そして、三人の手が合わさった瞬間。歓声は大歓声へと変わった。

 

「すっ、すげー!!何が起きたかよう分からんけどすげー!!」

 

「なんかトラブったっぽいのになんとかしちまった!すげーよ!」

 

万雷の喝采。す、凄い…!三人で視線を交わしながら喜びを分かち合っていると、虹夏ちゃんのエムシーが入る。

 

「え、えっと…!き、機材壊れちゃったみたいで今日はこれまでかもだけど…!これだけ言わせてください!!皆!!今日はホントにどうもありがとーーう!!!!」

 

虹夏ちゃんが声を張り上げると、大歓声が返ってきた。…終わり。か。まだ予定してた曲があったのにな…。勿体ないな…。などと思ってると、喜多ちゃんが、自らのギターを黒井ちゃんに差し出す。

 

「?き、喜多さん?」

 

はてなマークを浮かべている黒井ちゃんに、喜多ちゃんは言葉を掛ける。

 

「最初のライブと一緒ね。後ろは任せたわよ。黒井さん。ひとりちゃん。後一曲。いけますよ!伊地知先輩!!」

 

「えっ…!き、喜多ちゃん…!」

 

少し面食らう虹夏ちゃん。すると、後ろから虹夏ちゃんの肩を叩いたリョウ先輩が、こちらを見て不敵に笑う。

 

「…おっけー。いこう。虹夏」

 

「…よし!分かった!!ごめん皆!!もう一曲だけ付き合って!!」

 

客席に虹夏ちゃんが叫ぶと、大歓声が返ってきた!これがほんとに最後の曲だ!!

 

「喜多郁代。背中は任せなさい!!」

 

「頼もしすぎるわね相変わらず!!」

 

「よっしゃ皆いくぞ!!準備はいい!?」

 

「さて…、バシッと決めるか!」

 

仲間たちの声を聴きながら、私の胸には込み上げる何か、があった。今ここでやめたくない。今ここで止めたくない。…皆もそれが同じだったことが分かって。

 

ああ、私は今、音楽をやっている。

 

「ひみつ基地ーーーーー!!!!!」

 

虹夏ちゃんが曲名を叫ぶ!ドラムとベース!リズムギターがリズムを生み出し、そのリズムにギターを差し込む!!そして!喜多ちゃんが歌い出す!

 

はっきり言って、荒れた演奏だ!リズムは走っているし、喜多ちゃんの声も掠れてきている!

 

…でも、それでいい。

 

楽しい。楽しい!楽しい!!!

 

虹夏ちゃんのドラムスが!リョウ先輩のベースが!!喜多ちゃんの叫びが!!黒井ちゃんのギターが!!私が!!皆がそれを伝えるような演奏だ!!これでいいんだ!これが、いいんだ!!

 

「ひみつ基地 誰も知らない 広がるパノラマは燦々と輝いてる」

 

叫ぶ、叫ぶ!!張り裂けんばかりに!!ドラムが揺らしてベースが跳ねる!!

 

「自由意思 ココロの行方 無限大 夢とは違う 想像パレード」

 

黒井ちゃんと視線を交じらせストロークのタイミングを計る!

 

「今日という日が 宝物だ!!」

 

やがて、喜多ちゃんが最後の歌詞を叫び上げ、私がギターを弾き上げると、虹夏ちゃんのドラムが好き勝手に弾き始めた私たちのグルーヴを纏め上げ、全員でタイミングを合わせて音を鳴らした!!

 

ライブの終わりを告げる爆音が響き渡る。…訪れたのは、静寂。一秒?二秒?分からない。私にとっては永遠にも思える時間の静寂が疑問で、伏せていた顔を上げると。

 

体育館の屋根を吹き飛ばしてしまいそうな、今日一番の大歓声が響いた。

 

万雷の拍手は、いつまでも、いつまでも鳴り止まなかった。

 

 

 






ライブの描写、もっと上手くなりたいです。

最後まで見て下さってありがとうございます!

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