女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!? 作:はま0821
引き続き、オリキャラ注意です。黒井彼方のバンドのメンツが出てきます。どのキャラも愛を注いで書きますのでどうかご容赦ください…。
女の子も出すよ!
…知らない天井だ。
いや待て!定番やってる場合じゃない!えっ何だ!?なんで、というかここどこ!?起き抜けでまるで纏まらない頭を無理やり立ち上げて回す!
鼻を衝く消毒液のニオイと自身にかかった真っ白いシーツのお陰で少し冷静になれた。ええっと。ほらアレだよ。さっきまで…。そ、そうだ。ライブ。ライブしてたんだ私。本当に皆と息の合った演奏できてお客さんも沸きに沸いてくれて…!…楽しかったな。あれ?やっぱ夢だった?
冷静になれよ後藤ひとり。こういう記憶の混濁が見られる時は、絡まった糸を解すみたいに一つ一つ思い出すのが肝要だ。えっと…。
大盛り上がりで。熱気と爆音が肌を押してた。呼吸すら忘れるほど。私は多分、生涯あの光景を忘れることはないだろう。
虹夏ちゃんが叫びながら歓声に応えて。喜多ちゃんは信じられないものを見るような顔で胸を抑えながら観客席を眺めてた。
リョウ先輩はいつもの表情かな?って思ったけど。…いつもの鉄面皮の裏に達成感みたいなものが滲んでいた。私には分かる。黒井ちゃんは…。私を見てた。観客席で私を見ているお父さんやお母さんとおんなじような顔で。
え、えっとそれで…。そうだ。私の中にある考えが浮かんだんだ。今ならイケる。も一つ夢を叶えられるぞ後藤ひとり!私の中のロックの悪魔はそう囁いた!
「い、いえーーーい!!スタンドーーーーー!!アリーーーーーーーナァーーーー…!!!!!」
思い切り声を張り上げて客席に呼び掛ける。そう。前々からこの学園祭ライブのモチベーションを上げるため、ロックバンドの動画を片っ端から見まくってた際にカッコよくて憧れた、コールアンドレスポンス!これをやってみようと思ったんだ!!今しかない!!そう思って…!!
「え…?あ…?」
ざわざわ、がやがや…。
すんっ…!と。今までの盛り上がりはどこへやら。嵐の海に凪が訪れる。滑った。ダダ滑ったんだ!
ここまで思い出して私は頭を両手で掴み、自分が寝かされていたベッドの鉄の枠に打ち付けてやろうかと思った。こんな余計な事考える頭なんざいらない!!うおお忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろーーーーー!!
い、いやいや早まるな後藤ひとり!まだこれだけじゃ私がこんなとこで寝てる理由にはならないぞ…!何だ!?まさかこれ以上の恥の上塗りをしたんじゃなかろうな!と最早祈りながら更に記憶の糸を辿っていく。
「ごらあ!!折角ひとりさんが振ってるんじゃねえか!乗れや観客!」
「ぶふっ…!ダダ滑ってやんのぼっち…!これで私たちは仲間だな!」
やっちまったどうしよう。黒井ちゃんはフォロー?を。リョウ先輩はなんか笑ってるけどほぼ私の頭には入っていなかった。頭にあるのは折角盛り上がっていた会場のボルテージが私のせいで冷え冷えだという事実だけ。ど、どうしよう。どうしたら!!
足りない頭で考えついたもう一つの策。これも海外のロックバンドを見てて、いつかはやってみたいと思っていたこと。やるしかねえ!私の足はフラフラッと…、冷めてしまった観客席へと向かった。
「へっ?ひ、ひとりちゃん?」
「ぼ、ぼっちちゃん待ちなさい!何する気!?」
二人の静止も聞かず。勢いよく私は、観客席に向かってダイブした!
「わああああ!?ぼっちちゃん!!」
耳に虹夏ちゃんの叫び声。
「ダイブだな!ロックだぜぼっちちゃん!!まかせろ私がこのマッシブな腕で受け止めて…!!」
「おめえの腕ポッキーより細えだろうがやめろうわあああ!!」
大体の観客が私を避ける中、両手を広げて受け止めようとするお姉さんと、そのお姉さんを受け止めようとする店長さんが視界に入り。
私の意識は暗転した。
ここまで思い出して、自分の阿呆っぷりに頭を抱える。で、でも。どこも痛くない。そうだ、お姉さんや店長さんは?そこまで考えて周りを見渡すと、二人分の話す声が廊下から聞こえてくる。
「くそう!私の腕は思ったほどマッシブではなかった…!ぼっちちゃんくらいなら楽勝かと思ったのに…!」
「全くお前も考えなしだね…。私が挟まらなかったら怪我してたぞ。大体お前のどこがマッシブなんだよマッチ棒みてえな腕しやがって」
そんな話をしながら二つの声が、私がいる保健室へと入ってくる。
「…お」
「あ」
「ぼっちちゃん!起きたんだ!」
「だ、大丈夫かぼっちちゃん、ど、どこも痛くないか?」
爽やかな笑顔で話し掛けてくるお姉さんと、少し慌てながら心配してくれる店長さん。…どうやら、世話をかけてしまったらしい。
「は、はい大丈夫です。…ご心配おかけしました…」
二人に対して謝意を示す。
「ホントだよ、ダイブは危ないんだよ?アレはね、客もやる奴も特殊な訓練受けてるんだよ、いきなりやっても出来ねえんだ。次からは気を付けなさい」
うっ、店長さんに珍しく真面目に怒られてしまった。少し顔を伏せてシュンとしていると、横からお姉さんがフォローしてくれる。
「まあまあ先輩!多分ぼっちちゃんも反省してるよ!それくらいにしてあげて!やってみたかったんだよねダイブ!」
場が暗くならないようににこやかに店長さんを制して話し掛けてくるお姉さん。
「は、はい…。海外のロックバンドの動画見て、か、カッコいいなって…」
「やっぱ見様見真似か〜、あれにはコツがあるんだよ、ぼっちちゃん」
「えっ…!お、お姉さんライブでやったことあるんですか…?」
「もちろ〜ん!記憶ない時もあるけど三回に一回くらいでやってるよぉ。観客がもっとすし詰めで、逃げ場がない時にやるのと、腕にはできるだけそ〜っと乗るのがコツだね!」
「おいコラぼっちちゃんに変な事教えんな。…でも懐かしいなダイブ。私もやったなぁ…」
凄い。店長さんもお姉さんもダイブやったことあるんだ。やっぱり観客がもっとすし詰め…。つまり、人気のあるバンドにならないと出来ないんだ…。まだまだ私には早かったな…。
「えと…。腕にはそ〜っと乗るんですか…?」
おずおずとそう問い掛けると店長さんは楽しそうに答えてくれる。
「ああ。女とはいえどジャンプなんかしちまったら結構な重さがかかるからな。まあ何にしろイメージ通りにはいかないってことさ」
その後もお姉さんと店長さんとライブの話で盛り上がった。すると不意に、廊下の方から私たちに声がかけられる。
「店長さ〜ん?どうですか?ひとりちゃん起きました?」
喜多ちゃんの声だ。その声に店長さんが答える。
「ああ。体調も万事問題無いそうだ」
「そうですか、よかった…。あ、そうだ店長さん。伊地知先輩…、虹夏さんが探してましたよ?」
「む、虹夏が?そうか、すぐ行く。ぼっちちゃん。後でな。安静にしていなよ?」
「あ、先輩待ってよ〜。ぼっちちゃん!また後でライブの感想とか、聞かせてね!」
振り返りながら手を振ってくれるお姉さんに手を振り返して、喜多ちゃんと二人きりになる。
「ひとりちゃん。大丈夫?どこも痛くない?」
「あ、はい…。あのお二人のお陰で…。うう、すみません喜多ちゃん…。折角盛り上がったライブ…私が台無しにしちゃって…」
「ああ、何かそれは大丈夫みたいよ、あの後変に盛り上がってたから。…伊地知先輩は怒ってたけどね。後で謝ったほうがいいわよ?」
「あひぃ!あ、謝りますぅ…!」
そのやり取りの後、場に沈黙が降りる。喜多ちゃんは、何かを言いたそうに息を吸った後に口を閉じる。これを繰り返しているように見えた。…なので、今回は私から話し掛けることにした。
「き、喜多ちゃん…。凄かったです。あのギターソロ…私のギターの弦が切れちゃったの…フォローしてくれて…」
「えっ!?あ、ああ、あれ…。バッキングだけだけどね。…時間さえ稼げば、絶対にひとりちゃんか、黒井さんが何とかしてくれるって信じてたから…凄いのは皆よ。私じゃないわ」
「そんな事…」
ない。そう言いかけて喜多ちゃんの顔を覗くと喜多ちゃんは、少しだけ寂しそうな微笑みを浮かべた後こう返してくれた。
「私は、まだまだ黒井さんやひとりちゃんみたいにギターだけで惹きつける演奏は出来ない…。足を引っ張るだけならそれはただのお荷物。二人に支えてもらった分まで、今度は私が貴女たちを支えるから。今はそれが、私がギタリストとして歩む意味」
迷いが一切見えない、真っ直ぐな強い瞳。…よかった。喜多ちゃん。抱えていた悩みは晴れたんだね。…でも、一つだけ、訂正させて。
「違う。違うよ喜多ちゃん。私なんだ」
何度、支えられたか分かんないんだ。
その屈託のない笑顔に。
光みたいなその瞳に。
手を取り、前を歩いてくれる背中に。
「…ありがとう、喜多ちゃん」
言葉に感情を乗せて、喜多ちゃんへと紡ぐ。
「…うん。ありがとう、ひとりちゃん」
まるで、夜空に煌めく星座のような笑みを携えた喜多ちゃんは、私の右手を両手で優しく、しっかりと包んでくれた。
「…い〜い雰囲気。いい雰囲気過ぎて入りづらい」
廊下で中を伺っていた伊地知虹夏が唇を尖らせつつ呟く。姉からひとりが目を覚ましたと聞いて、保健室を訪れていたのだ。
「ぼっちも目覚めたみたいだね。しかし、あの場面で客席ダイブを敢行するとは。ヤツにはロックスターの素質がある」
「危ないから二度目は止めないと。廣井さんとお姉ちゃんがいなかったらどうなってたか分かんないし」
「まあそれはね。…あれ?ところで、こんな場面に一番に駆けつけそうな此方は?あのぼっちコンプレックス」
「略してぼちコン?ああ、何かね、旧知の友人に会ってくる。とか言ってたよ?」
「旧知の友人…?」
廊下で、結束バンドの先輩組は顎に手を当てて考えに耽けるのだった。
♪♪
場所は変わりて、ライブも終わり、体育館から観客が捌けていく出入り口の裏側の方。二人の男と一人の女が対峙していた。女は、黒井此方。男の方は、一人は黒井此方の弟である、黒井彼方。そして、もう一人は、金色の髪を緩くパーマを当てた細目細身の優男。
「お久し振りね。伊勢原ユウマ。息災そうで何より」
伊勢原ユウマと呼ばれた、優男は細い目をさらに細めて答えた。
「こちらこそだよ此方さん。昔より更に上手くなったね」
「まあね。…ところで貴方がいるってことは」
「ああ。四獣相。再結成だぜ」
ユウマに向けた質問には、彼方が答えた。四獣相。昔、私が所属していた事もある、彼方主導のロックバンド。メンバー其々に何らかの獣の役割を課した、コスプレバンドの側面も持つバンドだ。
「結局、元の鞘に戻ったわけね。私は狐だったけど、新しい子入ったの?」
「まあな。癖強いけど上手いキーボード拾ってな。これで正式に敵同士だな、姉貴」
「ふふん。果たしてアンタに私の相手が務まるかしら?」
憎まれ口を叩く此方に、彼方は楽しげに応える。
「言ってろ。…さっき大槻にも会ったし、倒す相手が纏まって俺としちゃ楽だぜ」
「ふ〜ん。ヨヨコに会ったんだ」
「まあな。何ちゃっかり仲良くなってんだよ姉貴。あいつは俺たちに敗北を味合わせた奴だろうが?」
「別に仲良しこよしじゃないわよ、今でもライバルなのは変わってないわよ!」
「へっ。どうだか。…なあ、姉貴」
「…なによ」
「俺たちは何だかんだで仲良かったよな。どっちも分別分かってるから本気でぶち当たったことがねえ」
「…確かにね」
「いい機会だ。決めようぜ?どちらがより、ミュージシャンとして優れてるかをよ」
「…面白い、いいわよ。アンタなんかブチのめしてやるわよ!」
「…へっ。上等だ。ああ、そうそう。姉貴。いいライブだったぜ。あのピンクの妖精さんがギターヒーローだったんだな。流石は姉貴が惚れ込んだ実力。倒し甲斐がありそうだ」
「ふふん。分かってるじゃない彼方。あんたのギターも中々だけど、ギターヒーローさん、つまりひとりさんには及ばないわよ!大槻ヨヨコのシデロスともどもぶっ飛ばしてあげるわ!」
私のその言葉を聞いた後、ユウマと彼方の二人は満足そうにこちらに背を向ける。
「ふん。せいぜい練習しとけ。次会う時はステージの上でな…またな!姉貴!」
「ふふふ…じゃあね。此方さん」
そう言い残して、彼方とユウマは歩き去って行った。…彼方。あんだけカッコつけて別れても、二時間か三時間後には普通に自宅で会うのよねぇ。何がステージの上でな。よ。恥ずかしくないのかしら?などと、私は冷めた頭でそう考えるのだった。
色々あった、文化祭の帰り道。私は結束バンドの皆と別れ、お父さんが運転する車に乗っていた。ふたりは一日中はしゃぎ回って疲れたのだろう。今は私の膝の上で船を漕いでいた。
「ひとりちゃん、お疲れ様。カッコよかったわよ」
「う、うん。ありがとう、お母さん」
「ホントにカッコよかったよ。ひとり。いいライブだったぜ?」
「あ、ありがと…お父さん」
「…本当に、いい仲間を持ったな。ひとり。父さんさ、ひとりのギターの弦が切れた時、もう駄目か!?って思ったんだ。でもさ、ひとりは気付いてなかったかもだけど、あの時結束バンドの全員がなんとかしようと動いていたんだぜ?立場上動けないはずの虹夏ちゃんとかまで血相変えてさ。俺それを見た時泣けてきちゃって…」
そう言いながらお父さんは目を覆う。
「ちょっと!?アホお父さん前前!!」
「おおっと御愛嬌!」
お母さんの言葉に反応してお父さんが素早いハンドル捌きで危機回避する。
「ひとり、仲間を大事にしなよ。俺のギターは壊れちゃったかもだけど、音楽を愛するひとりに使い潰されて、幸せだったろうと思うよ」
「う、うん。ゴメンねお父さん。…ありがとう」
運転席のお父さんにそう返すと、お父さんはふわりと優しい笑みを浮かべてこう返してくれる。
「ひとり。新しいギター買え。なに!金のことなら心配するな!こんな事もあろうかとお父さん、お前のチャンネル収益化しといたから!」
し、収益化!?聞いてない!お父さんから衝撃の事実を告げられる。
「えっ!?嘘!」
「嘘じゃない!ざっと三十万くらいにはなるはずだ!俺のレスポールカスタムには及ばないが、自分自身の愛機、そろそろ手に入れてもいい頃だと思うぜ!?」
…やった。実はお父さんのギター壊しちゃってこれからどうしようとか思ってたんだ。これで解決だ!いやそれだけじゃない!そんなにお金あれば大変なバイト続けることもない!辞められるぞラッキー!!
…いや、でも、皆優しいし最近そんなに嫌じゃないかな…。辞めることはないかな…。などと関係ない方向に思考を飛ばしていると。
「いやまあ、それとは関係ないんだがなひとり。真偽が分かんないからってあんまりチャンネルに虚言ばかり書き連ねるのはお父さんどうかな〜って。ほらお前彼氏とかいないじゃん?友達もついこないだまでいなかったし」
「かはっ」
がっし!ぼか!私は死んだ。精神的に。
評価、感想、ありがとうございます!励みにしてます!
これから話の展開上、オリキャラ投入します。すんません。
以下、簡単に紹介します。
伊勢原ユウマ
主人公の弟、黒井彼方のバンド、四獣相のベーシスト。金髪を緩くパーマをかけた、長身痩躯の優男。優しい性格で、周りの空気を読み、円滑に会話を回すことを得意とする。ベーシストとしての腕は卓越。ぼざろ世界でのベーシスト性格クズ説は彼には当てはまらない。プレイスタイルは、けして自分は前に出ず、周りを活かすことを得意とする。彼方とは幼馴染であり、此方とも親交がある。個性派揃いのバンドの良心。番頭的役割。一人称は僕。