女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!? 作:はま0821
キャベツともやしと麺をクソしょっぱい汁にくぐらせて…。
ずぞっ!!ずぞぞぞぞ!!じゅるぼっ!!げほっげほっ!?
いや〜素晴らしい!とても素晴らしいいい気分だ!空は青いし空気は色づいてる!それもコレも、お父さんが私のチャンネルを手抜かり無く収益化しといてくれたおかげだ!鼻息交じりの上機嫌で秀華高の階段を降り、校門へと向かう私は、おはこんばんにちは皆のスーパーギタリスト後藤ひとりです!
お父さんのおかげでお金には余裕ができた!新しいギターだって買えるし残った分で色々できるかも!バイトだってちょっとぐらい行かなくても問題ない!お金の余裕とは心の余裕だ!
それに私ってばこないだの文化祭で大活躍だったし!少しは皆の見る目も変わってるかも!今までは、ご…なんとかさんだの、ピンクの妖精さんだの、名前で呼んでもらえない事がほとんどだったのに、今日はいきなり、後藤さん最高!だの後藤さん可愛い!だの…!と声を掛けられる!
ジャンプアップだよ!本名どころか可愛い!だなんて!ひょ、ひょっとしたら喜多ちゃんより人気出ちゃったんじゃ!?でへでへ!
…そんな思考をしながら歩いていたように思う。完全に油断して、ぷわぷわと浮ついた気持ちで校門に目を向けた時、背筋に氷嚢を突っ込まれたような気になり、ひゅっと喉から冷たい息を呑んだ。
「リピートアフターミー。後藤ひとり、さいこう」
「…ご、後藤ひとり…さいこう…」
「上手じゃない。行きなさい。手抜かり無く広げるのよ…」
「はい…こなた、サン…」
目の前の光景を見た途端、私は思考を捨て、問題の人物に出来うる限りのスピードで歩み寄る。
「なななななにしてるの黒井ちゃん!?」
「あらひとりさんこんにちわ!なにって…啓蒙活動ですよ。何かこの学校の連中は信仰心が足りない気がしましてね。ギターヒーローさんとおんなじ学校である事の素晴らしさを骨身に叩き込んであげているところです」
クラリ。目眩に襲われ平衡感覚を失いかける。黒井ちゃんは校門を通る生徒を一人一人捕まえて、耳に件の言葉を丁寧に吹き込んでいたのだ。
「さて、もう百人、忙しい忙しい!」
「やめて。黒井ちゃんお願い。今すぐやめて」
「ええ!?なんでですか!」
「な、なんでもいいからぁ!とにかくやめてお願い!!」
いまだにブーたれそうな黒井ちゃんの首根っこを引っ掴み、目立たない場所まで引きずって行く。
「なんですか〜。ひとりさん。まだほんの三十人くらいにしか吹き込めてないんですよ〜」
「さ、三十人!?吹き込みすぎだよもう十分だよ!?」
危険だ。この女やっぱり危険だ。まるで行動が読めない。折角プラスのイメージが付きかけているのだ。余計な波風立てないで貰おう。
「い、いつからやってたのあの儀式…?」
「昼過ぎくらいからですかね。午後の授業はかったるそうだったんで投げ捨てました。セルフエスケープ」
言いながら私にブイサインを送ってくる黒井ちゃん。なんなんだこのバイタリティ。フリーダムすぎるだろ。
…てゆ〜か。いきなり後藤さん可愛いだの言われ出したのも確か昼休みぐらい。私の知名度が上がったわけじゃなくて、黒井ちゃんの呪いの儀式の賜物だったのか。なんだよ糠喜びさせやがってぇ!?
「あら?ひとりちゃんに、黒井さんじゃない。何してるの?」
「あ、こないだのギター凄い人だ」
黒井ちゃんと質疑応答をしていると、帰り途中の喜多ちゃんとさっつーさんから声を掛けられる。
「ほらあ、後藤さん。ギター凄い人って言われてますよう?」
つんつんと脇腹を指でつつかれる。違うよ黒井ちゃん。多分あれ貴女に言ってるから。何故か私の学校での知名度はそんなに上がってないんだよね…。
「ああ、うん。後藤も凄かった。めっちゃカッコよかったぜ?でもまあ、今のはアンタに言ったんだよ。黒髪さん」
か、カッコいい…!よ、よかった。最低でも一人にそう言ってもらえたなら、やった価値あったかな…。でへへ。
「あ、私?ありがとう、えっと…」
「佐々木次子。喜多の友達。さっつーと呼びな」
「さっつー。了解したわ。私は、黒井此方。こなちゃんでも黒井でも、好きに呼んでちょうだい」
「分かったよ。黒井」
す、凄い黒井ちゃん…。流れるように友達作ってる…!私はめちゃくちゃ苦労したのに!
「それで?わざわざ秀華高まで来たんなら、何か用があるの?今日は確か、バイトもバンド活動も休みだったと思ったけど…」
喜多ちゃんが、私も疑問に思ってた事を黒井ちゃんに問い掛ける。
「ああそうね。伊地知先輩から通達。結束バンド会議のために緊急招集よ。議題は、ひとりさんの新しいギター!」
「えっ!?私のギターですか!?」
「…わざわざ黒井さんを寄越さなくてもロインで事足りるんじゃあ…」
「ああ、ここまで来たのは私の趣味。ギターヒーローさんの素晴らしさを久し振りに広めたい!と思ってね!むしろこの伝言がついでよ!」
黒井ちゃんの物言いに思わず頭を抱える。完全に目的が変わってるじゃん。どうにかしないとこのフリーダムトレイン。
「どうも喜多は用事できたっぽいな。私はこの辺りで失礼するわ。黒井、また今度話そ〜。後藤、喜多。またな〜」
「あ、さ、さようなら!」
「あら、バイバイ、さっつー。また今度お話しましょう!」
「ゴメンねさっつー!また明日!」
私たちは手を振ってさっつーさんを見送る。
「さて…、ではお二人さん、行きましょうか!」
そして私たちは、黒井さんの号令のもと、一路STARRYへと向かうのだった。
♪♪
「ふ〜む。ねえお姉ちゃん。ぼっちちゃんの新しいギター、何色が似合うと思う?」
ここは所変わりてライブハウスSTARRY。私はいつものダベリテーブルに顔を半分突っ伏して、適当に質問文を投げてみた。隣にはリョウが少しも興味なさそうにスマホをいじり倒している。お姉ちゃんはだらけ過ぎな私の様子に少し顔を顰めながらも答えてくれる。
「ぼっちちゃんの?ふ〜ん、そうねぇ…。前のブラックレスポールも似合ってたからまた黒がいいんじゃねえか?芸がねえかな?」
「黒、かぁ。確かに、ぼっちちゃんはギターヒーローなわけだから、私の中じゃ黒のイメージ。…リョウはどう思う?」
ふむ、とリョウは、顎に手を当て一瞬思案する。
「私もぼっちはブラックレスポールのイメージだからあまり変えない方がいいと思うかな…。でも、こういうのはぼっちが自由に決めるべき」
「まあ、それもそうか」
二人の意見に納得しかけた時、ドアが開かれる音と三人分の話し声が聞こえた。
「お、来た来た。皆!こっちー!」
「あっ!伊地知先輩!お疲れ様でーす!」
元気にぶんぶん手を振りながら、一番に階段を降りてくる喜多ちゃん。その後ろにこなちゃんとぼっちちゃんが続いていた。
「こなちゃん。秀華高で何かおいたしなかったでしょうね…?」
「ぎくっ。な、何の話ですか〜?」ぴーひょろろー。
「吹けてねんだよ口笛。なんだ!?何やらかした!」
歯切れが悪いこなちゃんを問い詰めていると、ぼっちちゃんがおずおずと教えてくれる。
「あっ、虹夏ちゃん…。校門でなんか啓蒙活動してました…ギターヒーローの…」
「この僅かな時間でしっかりやらかしてんな!!この二人連れてくるだけでいいんだよ布教せいなんて誰が言った!」
「あひぃ〜!お、お許しを〜!」
全く全く。やたらと自分自身で行きたがるから怪しいと思ってたんだよ。
「あ、そ、それで!今日はひとりさんの新しいギター探しに御茶ノ水に行くんですよね!」
露骨に話逸らそうとしてやがんなコイツ…。まあ、いいか進まないし、誤魔化されてやろう。
「うん!ほらぼっちちゃんのギター壊れちゃったじゃん!まだ買うのは無理かもだけどどんなギターがいいかとかはイメージしといたほうがいいかなって!」
「でも虹夏。ぼっちも流石に昨日の今日でギター買うお金なんかないでしょ?今日はネットでカタログ見るだけでもいいと思うんだけどな〜」
リョウは相変わらず乗り気じゃないらしい。…まあ、リョウからしてみれば楽器のウィンドウショッピングなんて、目の前にニンジンぶら下がってるのに食べられない馬の気分だろうしな。柄じゃないか。でも。
「こういうのは実物見て購買意欲を高めるってのもあるよ!やっぱこれから長年付き合う相棒だもん!直に見てみないと!」
「…まあ、ね。でもな〜。買えもしないのに楽器屋行ってもなんか…虚しい、というか…」
やっぱ本音それか。自分が買うわけでもあるまいに。とリョウにジト目を向けていると、ぼっちちゃんから思わぬカットインが入る。
「あ、あのっ!に、虹夏ちゃん!リョウ先輩!わ、私、お金なら、ありますっ!」
「なぬっ」
「えっ!?嘘!ぼっちちゃんお金持ってるの!?」
「は、はい!お父さんがギターヒーローの動画の広告収入貯めといてくれて…!ざ、ざっと三十万ぐらい…!」
「「さ、ささささ三十万円〜〜〜〜!?!?」」
STARRYを揺るがすくらいの声がフロアに木霊する。視界の端で眉間にシワを寄せたお姉ちゃんがこっちを見ていた気がした。
「す、凄いわひとりちゃん!オーチューブってそんなにお金貰えるの!?」
す、凄え!登録者また増えた!みたいな話はしてたけどまさかそこまでとは!喜多ちゃんが純粋な尊敬の眼差しをぼっちちゃんに向けている。すると何故か関係ない女がドヤ顔をしながら答える。
「そうよ喜多郁代!ギターヒーロー…即ちひとりさんは…凄いのです!」
「関係ないでしょ黒井さんは!?全く姿勢がブレないわね!」
「んもう、喜多郁代。褒めても何もでないわよ?」
「褒めてないわよ!!後、下の名前やめて!」
何度か見た気がするミニコントを内心呆れながら見ていると、隣の女がプルプルと震え出す。ヤ、ヤバい!この女に金の話は!
「ぼーーーーっち!!!!!」
「はひゃあ!?」
とんでもない勢いで前に足を踏み出す件の女。覇気でも纏っとんのか揺れたぞ地面が。
「私たち親友だよね!?郁代論法で言ったら家族!だよねぇ!?」
「えっ!?ええっ!?」
喜多ちゃん論法では合ってるけど親友じゃなくて先輩後輩の間柄では。いかん冷静に考えてる場合じゃない!
「待てこの守銭奴!!ぼっちちゃんが怖がってんでしょやめなさい!!」
両手を広げてぼっちちゃんの前に出て、リョウと相対す!予想通り目が和同開珎に変わってるよ!
「うるせー退け虹夏!!後少し渋沢さんがいれば夢のハイエンドに手が届くんだ絶対にぼっちに融資してもらう!!」
「お前に金を貸すのは側溝に流しちまうのと同義なんだよ冷静になれや〜!!」
がっしり両手をリョウと組み合う!ふぬぬぬぬ…!力強っ!!こんなにマッシブだったっけコイツ!?日々バチを振り回している私が負ける!?バカな!
「リョウ先輩正気を取り戻して!ひとりさんが怖がっています!信者としてこれは看過できません!!」
「小癪なあ!此方〜!!虹夏ともども握り潰してくれるわ〜!!」
「握り潰されてたまるか!!こなちゃん助太刀感謝する!!このアホを取り敢えず畳んじゃおう!!」
「ひ、ひぃぃぃぃ〜!き、喜多ちゃ〜ん!お、お助けぇ〜!!」
目の前は地獄絵図。普段より二割増ぐらいデカく見える山田リョウと押し合う虹夏と此方。その光景を見て恐怖に震え上がり、助けを求めるひとり。それを見た喜多郁代は、肺に吸えるだけ空気を吸い込み、吐き出すかの如く、叫んだ。
「いやひとりちゃんのギターの話は!?!?」
♪♪
あれから数時間。我々はようやくぼっちちゃんのギターを探しに御茶ノ水を訪れていた。あの場を鎮めた喜多ちゃんのハイパーボイスには感謝したい。近年稀に見るカオスっぷりだったと思う。
「まだ耳の奥に反響してる気がするよ…流石郁代…。結束バンドのボーカリストの声量は半端じゃないね…」
耳に指を突っ込みながらリョウが溢す。カオスの最先端走ってた奴が何を偉そうに。
「ゴ、ゴメンナサイ!皆に少し落ち着いてほしくて!ついおっきな声で…!」
「いいんだよ喜多ちゃん!いい薬だよリョウには!」
「むう…。ところで虹夏。どこ行くか決まってんの?御茶ノ水で楽器屋なんて言っても色々あるでしょ?」
何が不服なのか口を尖らせつつ質問してくるリョウ。
「そのことは心配いらないよ!お姉ちゃんに御茶ノ水の楽器屋行くって言ったら、昔お姉ちゃんが働いていた店紹介してくれたから!」
「ほう。店長楽器屋で働いてたんだ」
「みたいだよ〜?天下の石橋楽器さんで!その時の知り合いにも話し通しとくから多少の融通なら効くかもよ?だって!」
「優しいですね!店長さん!」
「あっ、凄いですね…」
そんな話をしながら多くの楽器屋が建ち並ぶ御茶ノ水の街を行く。学生街の顔も持つこの街の昼下がりは活気に満ち溢れていた。
「お、あったあった。ここだよ皆!」
両手を広げて皆の方に振り返る。すると、何故かぼっちちゃんが少し思い詰めたような表情をしたあとに、突然頭を激しく振り乱し始めた!
「な、なんだなんだ!?」
困惑するリョウ。私もはっきり言って訳が分からない。
「ど、どしたのぼっちちゃん!?ぼっちちゃん博士のギター二人!げ、原因分かる!?」
私は取り敢えず秀華高でいつも一緒にいる喜多ちゃんと、ギターヒーロー信者であるこなちゃんに振ってみた。
「…こ、これは!?分かんないです伊地知先輩!なんかの発作か!?」
まあそうだよねこなちゃん!正直これで分かったらマジで博士号を進呈するよ!
「ま、まさか!音楽聴いてノッてる人のふりしているのでは!?そうすれば店員さんに話し掛けられることはないから!」
ははは、喜多ちゃん。そんなまさか。
「えっ…!す、凄いです、よく分かったね、喜多ちゃん…」
まさかの正解かい!逆に目立つだろ頭ブン回してる客がいきなり入店してきたら!
「くぅ〜!勝ったと思うなよ喜多郁代〜!三回!三回勝負にしましょう!!」
「もう勝負ついてるから」
「ほら皆!くだんない事してないで入ろう!リョウ先行っちゃったよ!」
一連のやり取りにまるで興味を示さず先行したリョウを追いかけるように私たちも店内へと足を進める。
整然とギターやベースが並べて吊り下げられている店内。独特な匂いが鼻を突き、商品に吊り下げられている値段は中古屋とは桁が一つ違う。やっぱりハードオプとは雰囲気が一味違うなあ〜。
「ひとりちゃんはどんなギターがいいの?」
「え、えと…。なるべく前のギターと雰囲気似てるやつがいいんですが…」
「ブラックレスポールっぽいって事?私もそれがいいと思うよ、前のギターぼっちちゃんに似合ってたし!」
会話を交わしながら店内を見回る。フェンダーにギブソン。ヤマハ。カッコいいギターが目白押しだ。でも値段までめっちゃカッコいい。
「わあおデザイン激渋。でも値段はっと…二十万!無理。弦すら買い渋る貧乏学生の私にゃ無理」
「こなちゃんはギブソンか〜。やっぱぼっちちゃんの影響?」
「もちろんですよ。今はフェンダーですがいつかはギブソンレスポールを…!」
「むむぅ…!この木目調。カッコいい。中々ここの仕入れの人は分かっているな…、お?何郁代。そのギター欲しいの?」
「えっ?あ、そうですね。何か可愛いです!」
「たぶん値段は可愛くないよそれ。お目が高い。皆憧れハイエンド」
「…そ〜っと。うわホント!む、無理!出せる金額じゃないです!」
「…郁代。無理無理と言ってるといつまでも買えないよ。時には腹掻っ捌いた気持ちで手を伸ばしてみるのも大事」
「毎回腹掻っ捌くのも問題だけどねー」
他愛ない会話。落ち着いた店内の雰囲気。ここはいい楽器屋さんだなぁ。…でも、やっぱりドラム関連のものは置いてないんだね。楽しそうに見て回る皆を少し羨ましく思っていると、不意に声を掛けられる。
「いらっしゃいませ。…ひょっとして、伊地知さんの妹さん?」
「…え?あ、はい」
答えつつ振り返ってみると、楽器屋の制服を着こなした、緑髪をポニーテールに纏めた女性が立っていた。
「やっぱり。雰囲気似てるね〜、すぐ分かったよ。星歌から話は聞いてるよ。ギター探しに来たんだって?」
「あ、はい。私じゃなくてあのピンクの子のギターが壊れちゃって…」
「オケ。お姉さんに任せなさい」
少し話しただけで分かった。この人は頼りになりそうだ。そんな雰囲気を背中から滲ませながらお姉さんはぼっちちゃんの方へと歩いていった。
…あっ。これ、カッコいいな…。前のギターにも雰囲気似てるし。ど、どんな音がするんだろう…。
「よかったら試奏してみます?」
「はひぃ!?」
不意に後ろから声を掛けられる。し、心臓が止まるかと思った…!振り返ると、柔らかい微笑みを携えた、緑髪の優しそうな店員さんが立っていた。
「ヤマハさん、カッコいいですよね〜。気になったものは実際に弾いてみるのが一番ですよ?弾いたんだから買え!なんて言いませんから」
「あ、あとあとえとおとあのう…!?」
千手観音ぼっち。
…情けない。店員さんに話し掛けられてここまで挙動不審になる女子高生なんて私ぐらいじゃない?しかもこんな優しそうな人相手に。すると、分身するくらい素早く動いていた手を後ろから正確に捌き、その後肩に手を置いて、私の代わりに店員さんに答えてくれる人がいた。
「試奏してみます!…ね?ひとりちゃ〜ん?」
喜多ちゃんだ。ち、近い耳に息がかかるくらい顔が近い可愛い…!
「あ、うん。うん」カクッカクッ。
私は腹話術の人形みたいに、頷くしか出来ないのであった。
お姉さんに用意してもらったギターを、ストラップを肩にかけて構える。前の愛機よりかは軽いけど、十分な重量感が感じられた。大きな姿見に映る自分の姿を見つめてみる。
「お…。いいじゃんぼっち。似合ってる」
ベースを試奏していたリョウ先輩がこちらを見て、そんな感想をくれる。思い思いに店内をうろついていた皆も戻ってきた。
「それは…ヤマハのパシフィカ?ですかね。カッコいいですねひとりさん!」
「お〜!カッコいいよぼっちちゃん!前のギターと似てて私のイメージ通りだ!」
「どんな音なの!?弾いてみてひとりちゃん!」
あっうっあ…!そんな一気に見ないで緊張する!そ、それに喜多ちゃん…!弾いてって言われても何を弾けば…!
「ぼっち。『星座になれたら』」
ハッと視線を上げると、ベースを構えて不敵に笑うリョウ先輩が視界に入った。曲名を言われると、そのコードに指を構えてしまうのはもはやクセだろう。そのまま口でリズムを教えてくれるリョウ先輩に導かれるまま、アルペジオで曲の初めを弾き上げる。すると、リョウ先輩もスラップで応えてくれる。楽器屋さんに響くアルペジオとスラップ。歌い出しの部分までのイントロを、気付けばセッションしていた。
「あ、す、凄い…!凄く、綺麗な音です…!」
私は店員さんに素直にそう言った。すると、いつの間にか周りにいた聴いてくれていた人たちから拍手が起こる。
「いや、それは私が貴女方に言いたい。いい腕ですねお上手ですね〜!買ってもらいたくって言うわけでは誓ってないですけど、何か昔から弾いていたのかってくらいに違和感ありませんでしたよ!似合っていると思いますよ!お客様!」
「え?へ、へへ〜。に、似合ってますかね〜?」
「はい!カッコよかったです!」
そんなやり取りを交わす二人を見ながら結束バンドのメンバーは。
「お姉さんのが一枚上手だな…。あれは買わされちゃうね。ぼっちちゃん」
「まあ、いいんじゃない?中々様になってたし」
「流石ひとりさん。あの僅かな時間で人を惹きつける演奏!」
「綺麗な音ね〜!私もいつか、自分に似合ったギター買ってみたいわ〜!」
そんな会話を交わしていた。
「ありがとうございました!大事に弾いてあげてください!」
「あ、こ、こちらこそ…!あ、ありがとうございました…」
か、買っちゃった。けして安くない買い物だったけど…。か、カッコいい。良いギターを買えたように思う。
「実はそのギター。私が仕入れて検品して、手入れしていた品なんです。なくなっちゃうのは少し寂しいけど、買ってくれたのが貴女たちでよかった。またどうぞ!妹ちゃん!星歌によろしくね!」
「あ、はい!お世話になりました!ありがとうございますお姉さん!」
「あそこのハイエンドベース。もう二渋沢ほど安くならない?未来のスーパーベーシストが買ってあげても…」
「黙れ貧乏人!失礼しましたあはは〜!」
「はあ…。バイト代貯めてまた出直してきます…。まだまだ私には手の届く場所じゃなかった…」
「右に同じよ黒井さん…」
「あ、あはは…。頑張れ!学生諸君!楽器のことで困ったらまた来な!応援してる!」
「「「「「ありがとうございました!!」」」」」
思った以上に早く買い物が終わったので、まだまだ学生たちでむせ返る御茶ノ水の街を歩く。背中にはズシリと心地のいい重厚感。やっぱなんかギター背負ってないと落ち着かないんだよな。早く帰って弾いてみたい…!
「店員さんがいい人でよかったよ!ぼっちちゃんのギターも戻ってきたし!これで結束バンド再始動だね!」
「やりましたね伊地知先輩!再始動記念にどこかのスタジオ借りてひとりちゃんのギターお披露目会でもしましょうか!」
うええ!?喜多ちゃん…。気持ちは嬉しいんだけど、ぼっち心理としては、楽器を買うなんて大仕事をしたので、今日はタスクを終了したい…!
「喜多さん。焦ることはありませんよ。明日練習あるわけですし。ご飯でも食べて帰りましょ〜う!」
「そうだね。多分ぼっちも早くギター弾きたいんじゃない?」
黒井ちゃんがキョロキョロしながら。リョウ先輩は優しく微笑みながら言葉をくれる。
「むむむ!二人ともズルい!ひとりちゃんと通じ合う感出してる!」
「ふっ、一本取り返したわよ、喜多さん!」
「ふふん。アーティスト同士、通じ合ってしまうものもあるか…」
「そだね!じゃあ今日はご飯食べて解散にしよっか!?何がいい皆!?」
「伊地知先輩!郎ありますよ郎!ガッツリいっちゃいましょうよ!」
「郎か〜!にんにくが〜!まあいいか!この後誰にも会わないし!どうする皆!」
「お、乙女的にはニンニクはノウ!なんですが、郎!前から気になってました!行ってみたいです!」
「おし。今日は終了だな。ニンニクマシマシアブラ多めカラメで」
楽しそうに先行する皆の背中を見ながら、新しく買ったギターを早く弾きたい気持ちを抑えつつ、今のこの状況を楽しもうと。行ったことのないラーメン屋さんに思いを馳せながら、私はそう思うのだった。
…別の話になるのだが、家に帰ってから早速ギターを取り出して、鏡に写った自分の姿にニヤニヤしていると、前まで使っていたお父さんのレスポールから冷ややかな視線みたいな物を感じて、何故か謝り倒してしまった。
日常回。こんな回を延々と書いていたい。
虹夏ちゃんや喜多ちゃんの口がニンニク臭くなるだと…!?
私は一向に構わん。
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