女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!?   作:はま0821

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短めに。刻んでみるぜ。


37 水先案内人。ポイズン先はヤミ

 

 

ここはとある喫茶店。通りに面したテラス席にて二人の女が向かい合っていた。かたやピンクのパーカーを着こなした黒髪の女子。かたや、黒髪を腰まで伸ばした片耳ピアス片腕タトゥーのロックな見た目の女子高生だ。

 

古着屋から流れるロックに行き交う人の笑い声が重なる、下北沢の昼下がり。この二人の会話もそれに漏れず、和気あいあいと盛り上がっては…。

 

「いつの間にギターヒーローさんギター新調したの!?聞いてないんだけど!?」

 

「う、うう…!それには色々事情がありまして!こないだの文化祭の時にひとりさんのギターが壊れたんですよ!」

 

「こないだの文化祭の話から聞いてないわよ!?ちょっと詳しく話しなさい!」

 

いなかった。

 

「す、すいませんぽいずんさん…音楽ライター、プロのぽいずんさんを、本気でやっているとはいえお金が発生しないアマチュアの文化祭に呼ぶのは少し遠慮がありまして…」

 

「変なトコ気にして!私見たかったわよ!仕事とか抜きで貴女たちの晴れ姿!」

 

うう!良心が痛む!これは私の完全な落ち度だ。もちろん上で言ったことも嘘ではないのだが。普通に忘れてた!言うと怒られそうだから言わないが。

 

「…まあ、仕方ないか。映像とかはあるの?」

 

「は、はい!ひとりさんのお父さんがカメラ回しといてくれて!その映像貰ってます!」

 

「見せて見せて!」

 

映像の用意をしてスマホをぽいずんさんに手渡す。…なんとか誤魔化せたか。忘れていたのを気付いた時には冷や汗をかいたが、下手な言い訳でもしてみるものだ、と心の中で舌を出す。映像を見ながら静かになったぽいずんさんから視線を外して、目の前の冷めてしまったコーヒーに口を付けた。…思えばぽいずんさんとの一月ごとのこの会談も定番になってきたなあ。と、どうでもいいことに思考を巡らせていると。

 

「へ〜え。凄い。貴女たち随分上達したじゃない。バンドとしてレベル上がったの、よく分かるわよ」

 

思いもよらないお褒めの言葉を頂いた。

 

「ほ、ホントですか!?あ、ありがとうございます!」

 

「ドラムの子、安定感が増してるわね。前のライブの時はぐらついてた感あったんだけど、今回まるでそれがない。逆に屋台骨として皆を支えてる。成長しているわ」

 

「ギターボーカルの赤髪の子も。もともとセンスあったけど、後藤さんのギターの弦が切れたときの立ち回りとか、感性が抜群ね。技術はまだまだだけど、この子は恐らくこんなもんじゃあない。この先が楽しみね」

 

「ベースの子も。貴女と後藤さんを除けばこの子が一番上手いわね。周りもよく見えてるしプレイにもソツがない。テクニックもリズム感も高校生のそれじゃないわ。ドラムの子ともよく息が合ってるし」

 

…!ご、ご本人さんたちに聞かせてあげたい!めちゃくちゃ褒めてもらってますよ皆さん!プロの方から!

 

「貴女も。元から上手いのに更に進化してる。インディーズの中堅どころにいても遜色ないレベル」

 

「あ、ありざっす!!いや〜毎日三時間、練習してきた甲斐がありましたよ!」

 

「…ふふ。私から言わせたらまだまだだけどね。指運びとか音の深さとか」

 

「うっ!?ほ、他の人にも言われたことあります…、しょ、精進します…」

 

「それを解決できちゃったらいよいよプロクラスよ。焦らず頑張んなさい。時間ならあるだろうから。…それから、ギターヒーローさん。もはや、貴女に最初に見せてもらった動画と別人ね。今回一番伸びを感じたのがギターヒーローさん」

 

プロクラス!!ありがたい言葉を嬉しがる暇もなく、後藤さんの寸評が始まったので、しっかりと耳を傾ける。

 

「前のライブの時からあった謎のステージ度胸に、プロ並みのテクニック。周りの音に合わせる技術も格段に向上して、バンド全体の演奏を引き上げてる。僅か数ヶ月でここまで伸びるとは、脱帽よ。私たちが見込んだ女に、間違いはなかったみたいね」

 

目を合わせてそう言われる。まさに、我が意を得たり!

 

「そうなんですよ!もうホント!!ギターヒーローさんの進歩がえげつなくて!!はあもう…!なんであんなカッコいいの好き…!!」

 

思わず自分自身を抱きしめそのままクネクネと身を捩らせる。その姿に少しぽいずんさんが引いているが構うものか。

 

「…貴女たち、プロになるの?」

 

「…えっ?」

 

突然の抉るような質問にビックリして、思わずぽいずんさんを見返す。いつの間にかぽいずんさんの顔からは緩さが消えて、数多くの音楽を聴いてきたプロ特有の鋭さが宿っていた。

 

「…はい、私ではなく、バンドメンバーの夢なんですけど。人気バンドになって、今主にでているライブハウスをもっと有名にしたい…。そのために、プロになりたいんだと思います」

 

私の答えを、瞬き一つせずぽいずんさんは受け取る。

 

「プロになるのに自分自身の理由をすぐに説明できない。…それはいずれ足枷になるよ」

 

「…っ」

 

そうなのだ。私は確かにどの理由も他人の為。伊地知先輩の夢を叶えたいのも、ギターヒーローさんを支えたいのも、あの人たちの為で、私自身がプロになりたい理由じゃない。心の柔いところを的確に突かれて思わず押し黙る。

 

「…深刻に考えなさんな。まるでないのは問題だけど、焦って答えを出す問題でもないわよ。貴女自身で存分に悩んで迷いなさい。さっきも言ったけど…貴女には時間があるのだから。言いたかった話はそれじゃなくてね。貴女たちがプロになりたいと言うなら…」

 

そう言って、ぽいずんさんは鞄を弄り出す。…私自身の理由、か。鞄についている金具が揺れる音を聞きながら、自身の内側に問いかけるとともに、ぽいずんさんが取り出したチラシに目をやる。

 

「…ぽいずんさん。これは…」

 

ドラムを叩きつけ、ベースを弾き、目の前のマイクに声を張り上げる。様々な姿のバンドマンたちを映したチラシに私は思わず目を奪われた。

 

「未確認ライオット。フェスの案内よ」

 

ぽいずんさんは何故か、どこか愉快そうに淡々とそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…未確認ライオット?」

 

「ええ!後で幽々と楓子にも確認取ろうと思うのだけど、私たちシデロスで出ようと思うのよ!」

 

ここは新宿、ライブハウスFOLTの一角。出演を控えたバンドマンたちが、自販機から購入したドリンク片手に談笑できるようなちょっとしたスペースである。

 

シデロス現メンバーである長谷川あくびと、大槻ヨヨコは練習の合間、このスペースで雑談していた。手に持ったビラをパシパシと叩きながらヨヨコが熱弁を振るう。

 

「年々規模や勢いを増してるこのフェスで優勝すれば、この先へのいい足掛かりになると思うのよ!レーベルに声掛けられたり、スカウトされたり!」

 

「…むう。確かに。コツコツライブで実績積み重ねてここまで来ましたけど、ここらで一発でかいの狙うのも悪くないっすね…」

 

「でしょう!?」

 

どうやらこの話し合いは大槻ヨヨコの思惑通りに進んでいるようだ。あくびが揺らいでいる。後一押し。そう考えたヨヨコはここで、切り札を切る。

 

「なんと、優勝賞金は百万円」

 

「出ましょう」

 

即落ち二コマかい。あくびの俗っぽいところには参るわね。扱いやすいけど。などとヨヨコは思ったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ〜ん。未確認ライオット、ねえ…」

 

「そう!リーダーこないだバンドとして自分たちをもっと売り出したい!って言っていたじゃん!路上やライブハウスでライブするのもいいけど、こういうの出てみたらいいんじゃないかなって思うのよ!」

 

所変わりて、ここは渋谷。ライブハウス、ナイトプール。黒井彼方率いるバンド、四獣相の本拠地だ。ライブを控えるバンドメンバーたち四人は、楽屋でそれぞれの時間を過ごしていた。だが、彼方にプリントを渡す少女の言葉を皮切りに、四人の興味が集中していく。

 

「ふうん?悪くないんじゃない?久し振りに僕らも結成したわけだしさ、力試しに。ねえリーダー?」

 

柔和な笑顔を浮かべながら少女に同意を示す男は、伊勢原ユウマ。ミディアムな長さの金髪を緩くパーマをかけた長身痩躯の優男。

 

「私たちもいずれはプロになりたいわけじゃん!こういうので実績積めば向こうから声かかるかもだし!」

 

両手を広げてカラカラとした声で喋るこの場の元気印。茶色のストレートヘアを肩まで伸ばし、弾けるような笑顔を携えた彼女は、織部安保といった。このバンドでは、キーボードを務める、紅一点である。プリントを受け取った彼方は、片方の唇を少しだけ吊り上げ、対面に座っていた大男に問いを投げる。

 

「お前はどう思うよ?宇佐美」

 

「…」

 

宇佐美と呼ばれた筋骨隆々、黒髪を短く切り揃えた大男。このバンドでドラムスを務める彼、宇佐美義一は、沈黙を返した。

 

「…まあ、お前はそうだよな」

 

だが、彼方には何かが伝わったらしい。顔に刻まれた笑みをさらに深くして呟く。

 

「姉貴のバンドは出んのかな…。まあいいか。出ても出なくても。その気にさせてやりゃいい」

 

そう言いながら彼方は、持っていたプリントをテーブルの真ん中にヒラリと投げ出してから言った。

 

「いいぜ。出よう。未確認ライオット」

 

その言葉に安保は両手を腰に当ててフンスと息を吐き出す。ユウマは微笑んで彼方の肩を叩き、義一は燃え滾るような視線をぶつけた。

 

「やるからにはトップだ。目の前に出てくる奴ら全員轢き潰して俺等がトップ獲る。気合い入れてくぜ!!」

 

彼方が手を横に払って叫ぶ。安保は手を叩き、ユウマは立ち上がって笑みを深め。義一は肩を回して首を鳴らした。しかしその中で彼方は冷静に胸中で呟く。

 

(どうせ出てくんだろ、大槻ヨヨコ。ほんで、姉貴。纏めて叩き潰してやるよ。覚悟しとけや!)

 

 

 

 

 

 

♪♪

 

 

 

 

 

 

 

「…未確認ライオット、かあ〜」

 

ぽいずんさんから渡されたチラシを見やる。同時に私は、ぽいずんさんとの別れ際にした会話を思い出していた。

 

「このチラシはあげる。もし出るなら今の貴女たちならいいとこいくんじゃないかと私は思ってるわ」

 

 

「良く考えなさい。もちろんアンタ一人で結論を出せる訳でもなし。でも…」

 

 

「プロになるなら。そこに近しい場所を目指すなら、避けては通れない道よ。貴女と同年代の凄い奴もいっぱいいる。そういう奴らと切磋琢磨したり、今の自分たちの現在地を把握したり。することはたくさんある」

 

 

「もし上位まで勝ち残れれば、レーベルの目に止まったり大手プロダクションからスカウト受けたりできるかも。んじゃね。期待してるわよ。頑張んなさい」

 

すっかり夜の帳が下り、昼間とはまるで別の様相を呈す下北沢の街。昼間開いてなかった店のシャッターが開き、年齢層が上がった会話が飛び交っている。その中を私は一人、チラシ一枚とにらめっこしながら歩く。

 

…ぽいずんさんの言う通り、一人で決められない。仲間もあることだし、相談してみよう。

 

ヨヨコ。こういうの出るのかしら。

 

…出そう。好きそう。

 

私こそ大槻ヨヨコ!音楽界!!期待の超新星の登場よ!せいぜいその哀れな大きさの脳みそと目に刻みつけなさい!!とか言ってそう。

 

彼方はどうかな。アイツも好きそうだな。勝負事が好きだから。フェスに出れるまでバンドを仕上げられているかが問題だけど。流石のアイツでも時間が足らんのではないか。

 

私?私はもちろん、出てみたい。ぽいずんさんの話で自覚した。私は、私の現在地を知りたい。

 

ギターヒーローさんこと、後藤ひとりさんは上手い。ヨヨコも、彼方も間違いなく、上手い。

 

でも…、もしかしたら、もっともっと、凄い人たちがいるのかも。そんな人たちに紛れて、私はどこまでやれるのか。試してみたい気持ちでいっぱいだった。

 

これが、ひょっとしたらこの気持ちが、私がやりたいことへのヒントになるかもな…。

 

…プロ、か。まだまだ先の、未来の話だと思っていた。…でも、ひょっとしたら意外と身近に入り口はあるのかも。手の中にあるチラシを今一度キツく握り直し、私は足早にSTARRYへの道を行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 





毎度の挨拶を。感想ありがとうございます。高評価入れていただいた方いらっしゃいました。本当に、ありがとうございます。心の支えです。

ココスキ等も全て、見させていただいとります。感謝感激雨嵐。

四獣相のバンドの紹介回でもありました。気になる方だけ以下に纏めときます。よろしければ。

織部安保(おりべやすほ)

明るい性格の四獣相の紅一点。此方の後釜。担当楽器はキーボード。茶色のストレートヘアを肩まで伸ばしたヘアスタイルの中々の美人。少し私様気質なところがあり、リーダーの彼方とはよく衝突する。狐。あだ名はやすほだからポクシー。

宇佐美義一(うさみぎいち)

筋骨隆々、恵まれ身体のドラマー。余りにも寡黙。全く喋らないが、腕は卓越。プロに近いレベルの演奏力を持っているため、四獣相での発言力は高い。喋らないが。うさみぎいち。略して兎。

彼方は人間。伊勢原ユウマが馬。安保が狐。宇佐美義一が兎で四つの獣。四獣相となる。



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