女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!? 作:はま0821
少しうちのぽいずんさん、大人っぽすぎるか…?
結束バンド、未確認ライオットに向けて、始動。
「未確認ライオット…」
「ふーん。フェスか」
ここはSTARRY。バイトが終わり、日課のスタ練をこなして、時刻は夜の十時ほど。結束バンドの皆が集まるいつものダベリテーブルで私は話を切り出していた。
「自分、実はプロの音楽ライターの方ともツテがありまして…」
「ぷ、プロ!?こなちゃん廣井さんといいツテ凄くない!?」
伊地知先輩が驚きの声を上げる!そういえば未だにポイズンさんとひとりさんを引き合わせてないなあ…。もう会わせてみても大丈夫そうよね。二回もライブこなしているのだし。などと関係ない方向に回転する頭。
「ええ。出会いはホントに偶然だったんですけど。プロを目指しているって言ったらそのフェスを紹介してくれて。あ、ちなみにその人は、ひとりさんの大ファンです」
「ええ!?わ、私ですか!?」
「はい。私の同志です。ギターヒーローの動画の大ファンなんですよ〜」
「は、はわわ…!き、恐縮です…私ごときのチャンネルにそんなに…!あ、でも…!黒井ちゃんの同志ってことは…」
ん?なんかひとりさんの歯切れが急に悪くなったな?どうしたんだろう。
「みなまで言わせないの黒井さん。貴女みたいにその音楽ライターの人も変な人だったらどうしよう。って思ってるのよ」
「むむぅ。喜多さん。最近私には遠慮ないわね!」
「ふふ。最初からした覚えないからね!」
言葉を交わして笑い合う。喜多さんは私に対しては歯に衣を着せてくれない。まあ、それはそれとしてだ。
「ひとりさん。自分で言うのもなんですが、その方は私と違って理知的な方なので大丈夫ですよ〜。気が向いたら今度にでもインタビュー受けてあげて下さい」
「は、はい…!」
大分ズレてしまった話が、リョウ先輩によって軌道修正される。
「ほんで、なに?その。未確認ライオット?出るの?虹夏」
その問いに顎の左右に親指人差し指を当ててううむと伊地知先輩が考えにふける。それを見やったリョウ先輩は、テーブルの中央に置かれた未確認ライオットのチラシを拾い上げた。
未確認ライオット。まずは音源のデモテープの審査。これを通過できると二次のネット審査。何をやるのかは知らないが。これをパスすれば次はライブ審査。最後はフェス形式。四つの形式で十代限定のアーティストのトップを決める、全国規模のフェスだ。だがしかし、リョウ先輩が引っ掛かったのはそこではないらしい。
「な、なにぃ!?お、おい虹夏!!」
叫び声。尋常じゃなくデカい。
「な、なになにリョウ!?」
伊地知先輩のみならぬ全員驚いてリョウ先輩を振り返る。
「いやこれ優勝賞金100万もあるの!?出よう皆今すぐ出ようさあ出よう!」
そしてズッコケル。アンタ本当にブレねえな!
「そんなこったろうと思ったよこの銭ゲバ!…って言いたいとこだけど…!ひ、100万円か…!す、凄いねえ…!?」
「全員で割っても20万円ですよ!凄いです!」
伊地知先輩は驚き、喜多さんがそれに追従する。優勝賞金なんてあるのか。そこまで見てなかったから知らなかった。
「…。ゆ、優勝賞金はともかく、それに出て優勝、っていうのはこれからのバンドのいい目標になりそうですよね、へ、へへっ…」
ひとりさんの言葉は、不思議と私の心にストンと落ちた。でも、私は一つ、皆さんに聞きたいことがある。
「皆さん。コレを勧めて頂いたライターさんからは、今の私たちならばいい線いくのでは?と言って頂けました。…同時に」
少しだけ喉が詰まった気がして、次の言葉を言い淀む。
「…同時に?どしたの、こなちゃん?」
伊地知先輩に促され、私は喉に刺さった骨を抜くように、続きを口にした。
「…同時に、プロになる気なら、避けられない道とも。…皆さん。僭越ながら、お聞きしたい。この先に進む、覚悟は、お有りですか?」
どの口が言ってんだ、と、内心で自嘲しながら話す。ぽいずんさんに指摘されたこと。私はまだ、自身がプロになりたい理由を即答できない。だからか、皆はどうなんだろうと気になったんだ。リョウ先輩に、喜多さん。ひとりさんに、伊地知先輩へと。目線を合わせて移していくと、にひひと。含み笑いを浮かべながら伊地知先輩が近づいて来て、横から肘で私をつつく。
「生意気だぞ〜こなちゃん。試してるつもり?行くよ。私は。プロになる!そんで夢はでっかく!メジャーデビューだ!喜多ちゃんに、ぼっちちゃん!!前に言ってたこと、忘れてないよ!!勿論付いてきてくれるよね!」
その言葉を聞いた喜多さんは目に光を宿して立ち上がり、握り拳を空に掲げる!
「無論です伊地知先輩!!貴女の夢!何処までも付いていきます!!結束バンドでメジャーデビューして!このSTARRYをもっともっと有名な箱にしましょう!!」
委細の迷いなく言い放つ。…喜多さんはこういう人。悩んだり迷うけど、一度決めた後の強さは美しい程。初めて会って臨んだ、まだひとりさんがいない頃の結束バンドの初ライブの時から、何も変わらない。
「わ、私は…!虹夏ちゃんの夢を叶えたい…!皆の夢を叶えてあげられる、そんなギタリストになる…!それが私の夢だから…!わ、私もやります虹夏ちゃん!皆でこの未確認ライオット!獲りましょう!!」
ひとりさんも決意を新たにする。…ひとりさんは、喜多さん以上に迷うし、弱い。…でも、ひょっとしたら一度決めた後の意志の強さ、曲がらなさも喜多さん以上かも。
私は、貴女の果てを見てみたい。貴女と歩んだ、私たちの果てを。最後の瞬間。悲嘆なのか栄光なのか。それは分からないけど、見届けたいのだ。この目で。
なんだ。なにも変わらないな。昔も今も。…ひとりさんという個人の推しから、結束バンドという箱推しに変わる。それだけのこと。
「栄華と名声…。そして金。バンドマン冥利に尽きるよね…やろう虹夏。皆。やるからにはグランプリ。優勝賞金100万円は頂きだ!」
そしてリョウ先輩が不敵に笑って一番美味しいとこを持っていく。
「よし!!そしたら私たち結束バンドの次なる目標!未確認ライオットで優勝してプロの目にとまる事!夢はでっかくメジャーデビューだ!!」
「おうよ!」
「はい!!」
「あっはい!」
「…はい!」
気炎を上げる伊地知先輩に続く。そうだそうだ!私たちはこうでなくちゃ!
自身の夢はまだ見つからない。でも、貴女たちとなら進める。ここではない、どこかへ。私が為さなければならぬこと。今は、それでいい。
♪♪
「よっしゃー!って気合い入れたけど…フェスなんて出るの初めてだから何すればいいか分かんないね!」
頭に手をやり伊地知先輩が舌を出す。私たちはズッコケルと…。うんうん。予定調和だね。
「全く。見てらんねえな」
すると私たちの様子を見守っていた店長が、やれやれと言った面持ちでテーブルの真ん中にあったチラシを拾い上げた。
「成る程ね、フェスに出るのか…取り敢えずお前らに言えんのは、お前らはまだ圧倒的に実戦が少ねえ。まともなライブはまだ台風ライブとあの文化祭のやつ、二回だけだろ?」
チラシをパシパシと叩きながら店長は続ける。
「お前らはまだまだ駆け出しだ。積み重ねるしかねえぞ、路上だろうが他の箱だろうが、ここだろうが。こればっかりは何度もやって慣れるしかねえ、ライブやって経験値積め。積みまくれ」
「な、なるほど…ライブ…」
「ああ、虹夏。見るに、デモテープの締め切りは来年の四月、まだ時間はある。その間に自分たちのアーティストとしての実力、少しでも上げておけ」
それだけ言うと、サービスタイムはおしまい。とばかりにチラシを元の場所に置いた店長は、自分の定位置へと戻ってしまう。それを見送った私たちは、何かそれ以外にも出来そうなことに思いを巡らした。
「う〜ん。例えば、このフェスってどんな人たちが出てくるんだろね?」
伊地知先輩がこぼすと、リョウ先輩が反応する。
「十代で既に活躍している奴ら。つまりは、長い事付き合う事になるだろうライバルたち、か」
「私!調べてみます!」
そして喜多さんがスマホをタプタプ。それにならうように私たちも自分なりに他のバンドの情報を集めてみた。
なんばガールズ。関西を中心に活躍中のコミックバンド?時事ネタやらパロディやら色々取り入れた幅の広い音楽。
ケモノリア。大学生の人たちで結成されてるダンスミュージックにロックを融合させた斬新なサウンドが売り!だそうだ。
そして、シデロス。
「ヨヨコ…!」
「はあ〜。やっぱ凄いんだね大槻さんは!もうウィキ◯ディアまであるよ!」
思わず呟くと、伊地知先輩が変なところに驚いている。…まあ、正直少し羨ましい。ウィキ◯ディア。
「めぼしいのはこいつらか。どう思う?皆」
私たちを見回してリョウ先輩が尋ねる。すると喜多さんが真っ先に手を挙げて答える。
「私!このなんばガールズって子たちが気になりました!歌詞とか曲調とかも明るくてキャッチーっていうか!」
「確かにね!なんか私たちにちょっと似ているよね!年も近そうだし!」
伊地知先輩が同調するが、リョウ先輩はそれに対しては微妙そうな顔をしていた。
「全く虹夏…。こんなコミックバンドと正統派ロックバンドである私たちを比べないでおくれよ?」
「私たち正統派かなあ…?」
「そこは自信を持っていいよ。私が曲作ってるんだし。…此方はどう?どこか気になったとこある?」
「…そうですね。やっぱ嫌でもシデロスが目につきますね。テクニックもパフォーマンスも、抜きん出ているっていうか」
「まあ此方はそうか。ヨヨコはライバルなわけだし。愚問だったね」
「…あと、ケモノリアさん。この人たち、少し私たちより年齢層が上だからか、バンドとしての完成度が凄く高いですよね。個性的なのに普通に感じるくらい技術が高いっていうか…。なんだろう。斬新なことしてるはずなのに違和感がないです。凄い…」
私の答えに、リョウ先輩は少しだけ目を見開いたあと、少し口角を上げた。
「私も同意見。コイツラが凄いのは、ダンスミュージックとロックの融合なんて珍しいことしてんのに、まるで昔からありふれていた物みたいに違和感なく仕上げてるとこ。…中核をなしているのはこの金髪のオネーサンだろうけど、人の耳に心地よく残る音楽を理解していないとこんな曲は作れないと思うよ。…厄介な相手だね」
本当にそうだ。全体の土台を支えてるリズム隊の正確さ、ギターやキーボードが生み出す魅力的でなおかつどこかロジカルな音色。斬新なようでいて基本が凄くしっかりした、実力派バンドだ。
「…ひとりさん。ひとりさんはどこかいます?目についたバンド…」
私は意識せず少しだけ下がったトーンで尋ねる。…ひとりさんはといえば、先ほどから一組のバンドの映像ばかりを見返していた。
「…し、シデロス、かな。さ、流石黒井ちゃんのライバル…手元を全く見ずにあんな難度の高いギタープレイ…、が、楽器の音圧も凄いのにまるで力負けしてないパワフルな声…す、凄い…」
口を押さえて冷や汗を流しながら答えてくれるひとりさん。…そうなのだ。ケモノリアは上手い。私たちより確実に格上だろう。なんばガールズだって伸びしろとか考えたら悪くない。…でも、このバンドたちのなかで目につくバンドを選ぶなら、全て、シデロスを除けば、という注釈が必要なほど、私にはシデロスは圧倒的に見えた。…流石、ヨヨコ。画面越しだというのに、悔しいぐらいにカッコいいわね…!
「やっぱコイツか。大槻ヨヨコ。コイツを倒さないと、私たちの未確認ライオットの優勝はないな」
どこか予想をしていたかのように、リョウ先輩が呟く。
「な、なんかこう改めて見るとレベル高いね!?か、勝てるかな?私たち…」
思わず不安げな声を漏らす伊地知先輩。するとリョウ先輩がゆっくり振り返り、笑みを浮かべた。
「勝てないよ。今のまんまじゃ絶対にね。だからこそ、さっき店長も言ってたように、武者修行が必要なんだよ。必要ならどこでも、練習しまくってライブして。…これからの日々、バンド漬けだね」
その笑みが、私にはどこか楽しげに見えた。…どうやらやはり、勝利の為には近道はないらしい。
「…よし!やるぞ!まずは第一審査突破だ!やっぱ新曲作って送ったほうがいいよね!?リョウ!ぼっちちゃん!また二人に頼ることになっちゃうけどよろしく!めっちゃカッコいいのお願いね!」
「ふっ。鼻息の割には他人頼みじゃない?虹夏」
「うぐっ!?そう言わず頼むよう…、作曲大臣〜!」
「分かってるよ。任された」
「あ、はい。ち、ちょっとプレッシャーですけど、が、頑張ります…!」
伊地知先輩の無茶振りに、余裕綽々の風情で答えるリョウ先輩と、真剣な眼差しで答えるひとりさん。これは二人の性格の違いが如実に表れているな、と感想を抱いた。
「頼むよ二人とも!私たちも出来る限りのサポートするからさ!」
「ひとりちゃん!歌詞とかに迷ったら相談してね!私も案出すくらいは出来るし!」
「ひ、ひえっ…喜多ちゃんの如き陽の方のエッセンスを私の歌詞に混ぜてしまったら爆発するのでは…!?」
「なんで!?でも、爆発いいかもよひとりちゃん!芸術も音楽も、爆発よ!破壊のあとに想像は生まれるのよー!!」
良い雰囲気で向かうべき場所を定めた我ら結束バンド。
だが、一つだけ引っかかる事がある。再結成したのなら、アイツが出てこないわけがない。静か過ぎる。
皆に伝えるべきか迷う。だが、まだ出てきてない敵を伝えても仕方ないと、胸のなかに一旦はしまい込み、私は皆の輪に加わるのだった。
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