女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!?   作:はま0821

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喜多さんって才能もあるのに驕りませんよね。自己評価が低いというか。まあ、ぼざろの登場人物皆そんな感じですけど。(山田を除く)


39 積み重ねる秋!

 

 

「目標は決まった。未確認ライオット優勝。それには、バンドとしての合わせも重要だけど個人のレベルアップも大事」

 

私はこの間STARRYで交わしたリョウ先輩の言葉を思い出していた。私としてもこのまんまの状態で上のレベルで戦えるとは思えない。私たち一人一人がレベルアップしていかねばならないのだ。

 

皆、真剣にリョウ先輩の話を聞いていた。とりわけ喜多さんがより真面目に、コクコクと頷きながら聞いてたように思う。…この子。真面目なのだけど、その真面目さ故に色々と危なっかしい。

 

放って置くと頑張りすぎて、自らの責任感に潰されてしまうかも。度々あったからね。そうなる前にガス抜きしてあげねば…。そんな事思ってましたよ。ええ。

 

「と、言うわけで!!黒井さん!!河川敷よーっ!!」

 

カセンジキーン!!

 

…いや。いやいや!!

 

「ちょっと待って喜多さん!!何も分かんない!なによここなんで私たち河川敷にいるの!?」

 

ある日の休日。喜多さんに引っ張ってこられたのは見事な河川敷だ。緑溢れランニングやスポーツを楽しむ人たちが行き交ってる。ほら、こうやって少しは説明しないと。カセンジキーン!てなんだよオノマトペで想像できるものにも限界あるでしょ。

 

「修行と言ったら河川敷でしょ黒井さん!大きい声出しても運動しても!広いから迷惑になりにくいし!」

 

…うん。まあ、事前に喜多さんに動きやすい服装で。と指定されていたから服装は合ってるだろうが。因みに私も喜多さんも今日はジャージだ。イメージカラーであろう赤と、黒のジャージ。髪も動きやすいように二人ともポニーテールに纏めている。…ここにひとりさんもいれば女子高生ジャージ三人衆の完成だが、残念なことに家が遠いのでいらっしゃらない。ガッデム。…それより喜多さんが気になること言ってたわね。

 

「修行?いきなりどうしたのよ貴女?」

 

「…黒井さん。こないだのリョウ先輩の話、覚えてる?」

 

「ええもちろん。バンドとしての練度を上げるのはもちろんの事、個人としてもレベルを上げないととても優勝には届かないと言ってたわ」

 

「…私ね。この結束バンドで一番実力がないの、私だと思うの」

 

「!?そ、そんな事…!」

 

「…いいのよ黒井さん。気を使わなくて。ギターボーカル。二つやってると言えば聞こえが良いけど、結局私はどちらも中途半端。これじゃ、皆を引っ張っていくような。皆から頼りにされるようなギターボーカルにはなれない。声量も体力も。私には何もかも足りない!」

 

…。否定したかった。この子は頑張ってる。そんなの分かるわよ。結束バンドで音楽を高校生まで未経験だったのは喜多さんだけ。今はギターもボーカルも、出来るようになってる。そこにどんな覚悟が。血の滲むような努力があったかに、思いが至らない私でもない。…でも。同時にやっぱりこの子は凄いな。とも思った。

 

だって、自分が一番下手かも。なんてさ。思いついても目を逸らしたくなるじゃん普通。この子は認められるんだ。自分が下手だと自覚して。それをなりふり構わずどうにかしようと思える。簡単に、出来ることじゃない。

 

「だからね黒井さん!手伝って!ランニングやら何やらで肺活量増やしたり!声の出し方を変えたりしたら私も進化できるかもだから!」

 

「…理屈は分かったわ。喜多さんは、ボーカリストとして進化したいのね?でも一つ。何で私なの?」

 

私はギタリスト。残念ながらボーカルのことなど素人である。他の皆さんに相談することも出来たはずだ。何故?そう聞くと喜多さんは、事もなげにこう言った。

 

「え?私、それは何も迷わなかったな。黒井さんが、一番下手な。駄目な私を知ってくれてると思ったから。そもそも私、貴女がいなければ音楽続けてないし。結構頼りにしてるのよ!黒井さん!」

 

…。そういうところよ喜多郁代。そんな目で見られたら断れない。絶対狙ってやってるでしょう!?

 

「…分かったわ。やったろうじゃないの喜多郁代!これから私は貴女の師よ!ビシバシ行くから覚悟なさい!」

 

「ふふっ。はあ〜い!頑張ります!コーチ!」

 

所々草花も色づき始める季節。無軌道な女子高生二人は、取り敢えず走り出す!走っときゃ神アニメ!なんかのまとめサイトで言っていたわね!

 

…あれから、いろいろやったわ。

 

走っている喜多さんをどこからか取り出した竹刀を持って追っかけ回してみたり。

 

二人で川に向かって全力で声を張り上げる発声練習をしてみたり。

 

二人で交代しながら腹筋をひたすらしてみたりと、いろいろだ。

 

そして当たり前のように方向性を見失い、疲れ果ててどちらともなくベンチに腰を下ろして今に至る。現在時刻…、いつだ?もはやスマホを見るのもダルい…。太陽の高さからして、正午くらいか?

 

「はー…。はー…。き、喜多さん。どお?な、何か掴めたかしら?」

 

息も絶え絶え項垂れている喜多さんに聞いてみる。すると喜多さんは普段からは想像できないほどゆっくりと顔を上げ。

 

「はあ…。はあ…。え、えっと…わ、分からないということが分かった…、み、みたいな…そんな感じ…」

 

マジかよ。今の時間なんだったんだ。

 

「さ、三歩進んでないのに二歩さがった感があるわね…。ま、まずいわ…ちゃんとゴール決めないと…、え、延々走り続けるハメになるわよこれ…!」

 

「や、やっぱり…目標決めないと駄目ね…でも、どうすれば…」

 

二人して遠くの川を眺めながら途方に暮れる。時折吹く秋特有の乾いた風が、汗ばんだ肌を冷やしてくれるが、残念ながらそれに意識を割く暇はない。喜多さんを進歩させるにはどうするか。必死に頭を回していると、不意に。

 

「あれ〜?ひょっとして…こなちゃんに、喜多ちゃんじゃん。何してんのこんなとこで?」

 

背中からの声に反応して振り返る。そこには、黒いスカジャンにグリーンのワンピース…。小豆色の髪を三つ編みに纏めたいつものスタイルの、赤ら顔大臣、廣井きくり女史が立っていた!なぜかトレードマークのベースは今日は背負っていないが。

 

「ひ、廣井さん!どうしてここに!?」

 

私が質問したかったことを、喜多さんが口に出してくれる。するときくりさんはなぜかバツが悪そうに私たちから目を逸らした後、もう一つ気になっていた右手に持ってるビニール袋を持ち上げながら答えてくれる。

 

「…い、いや〜。また機材ぶっ壊しちゃってさ…。弁償でお金なくなっちゃって…。食べられる草探してたんだよ…。これは成果…」

 

うちのベーシストとやることが被っとる!?ベーシストは腹減ったら草食べなきゃなんない法律でもあるのか!?

 

「うう〜。し、知られたくなかった…!ミュージシャンとか以前に私の人としての尊厳が…!」

 

…ほんと、なんだかなあこの人は…。カッコよさと底辺さのギャップがエグい。流石の喜多さんもこれには失望しているであろう…。

 

「ひ、廣井さん…!草食べて命を繋ぐなんてワイルドでカッコいいですね…!リョウ先輩みたいです…!」

 

あ、大丈夫だった。喜多さんのリョウ先輩信者っぷりを甘くみてたわ。この子にとってリョウ先輩の行動は全て善となり、憧れの対象足り得るのね。

 

「う、うう…。そ、そんで!?そっちは!?遊んでいるって風情じゃなかったけど!?」

 

少しいつもの赤ら顔と似て非なる表情を浮かべながらきくりさんが問うてくる。そうだった。今きくりさんが草集めてるとかどうでもいい。救世主登場じゃないか。目の前のこの人は現役バリバリのベーシストであり、ボーカリストだ。ミュージシャンとしてこの人から学ぶことなど山程ある。私は事情を話してきくりさんに協力を仰ぐことを決めた!

 

かくかくしかじか。

 

「…成る程ね。未確認ライオット、そのフェスに出るにあたってレベルアップをしたいから特訓していたと。でもボーカルのいろはを知らんから何していいか分からず迷走中と…。こういう事だね?」

 

「…は、はい。お恥ずかしながら、私も喜多さんもボーカルの事に関してはまるで知らなくて…。どんな練習積んでいいのかさっぱり…!形だけとはいえ、今私は喜多さんのコーチ!何かしてあげなくては!お願いきくりさん!協力してください!」

 

「わ、私も!お願いします廣井さん!私、皆のお荷物にはなりたくないんです!堂々と胸を張って、皆の仲間だって言えるような力が欲しい!そのためになら何でもします!」

 

喜多さんがきくりさんに頭を下げる。それを見て私も慌ててそれに祓う。どれくらいそうしていただろうか。一つ、息を吐く音が聞こえて、私たちは顔を上げた。

 

「…全く。ほんとに真面目で、向上心の塊だね。…これだけ言わして。こないだの文化祭ライブ見させてもらったうえで言うけど、喜多ちゃんの事をお荷物だなんて思ってるメンバーは誰もいないと思うよ」

 

喜多さんの目を見て、きくりさんはハッキリ断言する。そして言葉を続けた。

 

「それでも納得できないんだよね?言葉じゃ君は安心できないんだよね?そうだろうよ。君ならそう思うだろうさ。ならさ、その先はもう積むしかないよ」

 

私たちが立つ間に秋風が一陣吹き抜け、きくりさんの髪を揺らす。吹き荒らされ足元を騒がす枯れ草たちが静かになった後に、きくりさんは続ける。

 

「大丈夫だよ喜多ちゃん。君が納得できる時はきっと来るから。それまで脇目を振らずに、自らの牙を研げ。一心不乱に磨き続けろ。そうして積み重ねた果てに、君が思う理想の君はいる」

 

不敵な笑みを浮かべながら、まるで見てきたかのように、きくりさんは言った。それを受けて喜多さんは、自分の肩を抑えて小さく震えていた。

 

私はその震えの正体を知っている。寒くもなく、怖くもなくともくる震え。

 

これは、武者震いというやつだ。

 

「よろしい!きくりボイトレ塾!開講だ!喜多ちゃんには私がボーカルのいろはを叩き込んであげる!」

 

パシンと自身の膝を叩いてきくりさんが宣言する!

 

「お、お願いします廣井さん!頑張ってついていきます!」

 

「うむ!その意気やよし!…でさ君たち。ものは相談なのだけど、このボイトレ塾成功したらこの野草、調理するの手伝ってよ〜」

 

…は?

 

「いやさ、図鑑とにらめっこして食べられそうなのいっぱい取ったはいいんだけどさ!よく考えたら私料理できねえんだ!お願いだよこなちゃん喜多ちゃ〜ん!ボーカルの極意でもなんでも教えるから〜!」

 

…。

 

「あのですねきくりさん…。カッコよかったんですよ、さっきまで!ホントにカッコよかったんですよ!何で持続できないの!?残念なイケ女すぎますよ!!」

 

「ホントですよ廣井さん!!私凄く感動してたのに!こないだ見せてもらったライブもホント凄くて尊敬してたのに!感情が追いつかないんですよせめても少し頑張ってください!!」

 

「えっごめん…。えっ何で私責められてるの〜?なんで〜??」

 

もう!全くもって廣井きくりという人種は!カリスマ性の気圧差で耳キーンなるわよ!…でもよかった。きくりさんのおかげで、なんとか喜多さんにコーチっぽい事できそうだわ。

 

「…おしっ。んじゃ取り敢えず。喜多ちゃん君の今の力を見せてもらうよ。こないだのライブの最後に歌ってた曲あるじゃん。あれ歌ってよ。全力で」

 

場所を移動してここは川のほとり。きくりさんが喜多さんにそう指示を出す。

 

「分かりました廣井さん!」

 

「あっちょっと待って」

 

「!?」

 

言われた通りに声を出そうとした喜多さんをきくりさんが遮る。少々つんのめる喜多さんの後ろに回って、背中側から喜多さんのお腹にきくりさんが手を回す。

 

「ひゃっ…!?」

 

「うん。ごめん遮って。これで行って!」

 

「は、はいっ!」

 

そして喜多さんは歌い出す。曲はひみつ基地。文化祭ライブのトリ曲だ。お腹に手を回されているため歌いにくそうだが、流石喜多さん。上手い。…正直、これ以上上に行くにはどうしたら良いのか?私は答えを持ってはいない。だが、どうやらきくりさんはそうではないらしい。

 

「ふむ。やっぱりね。文化祭のときからもしかしたらと思ってたよ。喜多ちゃん。君は、横っ腹を上手く使えてないんだ。今は喉で歌ってる感じ。それじゃ力も乗らないし安定感も出ない。ここ」

 

そう言って、きくりさんは喜多さんのお腹の一部分を押す。

 

「あっ!?ひゃあん…!?」

 

「…なんかいけないことしてる気分…。じゃなくて!?喜多ちゃん。ここだよ。丹田から、お腹の力を使って空気の塊を押し出す。ほんで、なるべく遠くへ。それを遠くに投げる感じで歌ってごらん。少し変わると思う」

 

「わ、分かりました!」

 

きくりさんのアドバイスを受け、もう一度喜多さんは歌い始める。…最初は変わらないように聞こえた。でも…。二度、三度と繰り返していくうち、少しずつ変化を感じるようになってきた。

 

「…流石ね喜多さん。声が太くなってきてる…」

 

全く。いつもながら凄い吸収力だ。砂漠に染み入る雨粒みたい。分ごとに。いや、もしかしたら秒ごとに進化していく。大したセンスよほんっとに。

 

「良くなってきてるよ喜多ちゃん!そうここ!ここを使えれば声も大っきくなるし疲れなくもなるから!!」

 

「は、はい!ありがとうございます!む、難しい…!」

 

「頑張れ!覚えちまえば力になるから!今すぐじゃなくていい!その感覚を忘れないうちにもう一度!」

 

「は、はい!!」

 

小一時間は練習していただろうか。喜多さんは汗だく。指導しているきくりさんも汗だくだ。…私だけ楽してるな。罪悪感が凄い。だが、喜多さん凄い。みるみるうちに上達していく。

 

「…うん。喜多ちゃん。人は集中できる時間は一時間もしくは二時間くらいなんだって。ここまでにしよう。その感覚を忘れずに、後は自力でやってみな!君なら出来ると思う!」

 

「はあっ!はあっ…!はい!ありがとうございます廣井さん!」

 

「凄いわ喜多さん!最初と比べると雲泥の進歩よ!おめでとう!」

 

「…いえ、まだよ黒井さん!コレを誰のアドバイスもなしにいつでも再現できて初めて身に付いた!ってことよ!よーし!頑張るわよ〜!」きたーん!

 

輝く汗を拭いながら喜多さんが気炎を上げる。きくりさんのアドバイスのおかげで喜多さんは何か掴めたらしいな。良かった…。今日私何もしてないな!

 

「よ、よかったね喜多ちゃん…。ふ、二人とも、そろそろいい…?は、腹減りすぎておかしくなりそう…」

 

「ああそうだった!きくりさん!喜多さんが世話になりましたし草なんかより凄いのご馳走しますよ!私んちここからそんなに遠くないんで行きましょう!草も上手いこと食べられるようにしてあげます!」

 

「だ、大丈夫ですか廣井さん!足が笑ってますよ肩貸しますから…!」

 

取り敢えずきくりさんが限界近そうなので私んちに緊急避難だ。喜多さんがあれだけお世話になったのだ。お礼も兼ねて、スーパーで買った食材も織り交ぜて草を豪華に仕立て上げよう。

 

それから少しの時が経ち。ここは下北沢の私のアパート。

 

「んくっんくっんく…!ぱあー!!生き返った〜!死ぬかと思った今回は…!酒が美味え〜!」

 

「お、教えておいてもらってあれなんですけど、程々にして下さいね…」

 

私が作った野草エトセトラのお浸しを頬張り、喜多さんとお金を出し合って買ったオニコロ(2リットル)で流し込んで、きくりさんが一息ついた様子だ。余程お腹が空いていたように見える。そこら辺に生えていた草にあんまりながっつきぶりなので喜多さんがまたちょっと引いている。

 

「いや〜助かったよ!草だけじゃ生きてけなかったかもしれないからさ〜!こんな肉とかお酒までつけてくれて!」

 

「いえきくりさん。喜多さんがお世話になりましたしこれぐらいは当然です」

 

喜多さんがついだお酒をあ、ありがと。と言いながらまた一口飲むきくりさん。

 

「さあ!どんどん飲んで食べてください!お帰りの際にはお土産も出しますので!喜多さんも遠慮しないで!麦茶で悪いけど!」

 

「うええ〜い!居酒屋こなちゃん亭さいこー!」

 

「わ、私は草はいいかな…」

 

最初は遠慮がちだった喜多さんもきくりさんのほろ酔いトークと私の料理(野草中心だが。喜多さんは草以外を食べていたが)のおかげで少しずつ解れてきた。そうして小一時間ほど談笑していた時だろうか。不意にきくりさんが切り出す。

 

「なるほどね〜。君たちも未確認ライオットに挑むのか〜」

 

「私たちも?ってことはほかにも出る人を知ってるんですか?」

 

引っ掛かったので質問を投げる。

 

「うん。大槻ちゃん…。シデロスは出るって」

 

「…ヨヨコ…!」

 

やっぱり出てくるか。我が宿敵!

 

「こないだの文化祭でのライブ、見せてもらったよ。皆、凄くレベルアップしてた」

 

打って変わって真剣な目つきになったきくりさんにそう言われる。

 

「でも、そんな君たちでもシデロスはそんな簡単な相手じゃないよ。毎日、修行あるのみだね!」

 

「お、大槻さん…。やっぱり凄い人なんですね…」

 

喜多さんが感嘆の声を漏らすと、きくりさんがそれに反応する。

 

「喜多ちゃん。喜多ちゃんは間違いなく才能を持ってる。しかもそれにまるで驕らず努力することも厭わないタイプ。でもね。例えるのならそのタイプの人間が、脇目も振らずに全力で走り続けた結果が、大槻ちゃん」

 

こくりと。小さく喜多さんが喉を鳴らした。

 

「本人の能力もさることながら、そんな自分にも他人にも厳しい大槻ちゃんが妥協なく選んだ精鋭が今のシデロスだからね。個々の実力でも、高校生のなかでは破格だろうね。でも」

 

そこできくりさんは一旦言葉を区切り。

 

「私は君たちなら可能性あると思ってる。休みの日も前に進み続ける勤勉な二人に、ぼっちちゃん。先輩の妹ちゃんに、その相棒。面白いチームだと思うよ?」

 

そこまで言うと再び傍らの日本酒を煽り、更に続ける。

 

「私みたいなただの観客からしたら、今年のシデロスに対抗できるバンドはないかな?なんて思ってたんだ〜。是非さ、台風の目になってよ。この未確認ライオット、荒らせるだけ荒らしてみせて!そして狙うは優勝だよ!」

 

あ、今のはオフレコで!大槻ちゃんに聞かれたら睨まれる!と焦って続けるきくりさんを尻目に、喜多さんが元気よく答える。

 

「気にかけてもらってありがとうございます廣井さん!未確認ライオット!絶対いい成績取ってみせます!」

 

「応その意気だあ!…ふふ。頑張れ二人とも!未確認ライオット、初代の優勝者である!この廣井きくりが応援したげる!」

 

応援の言葉の中にサラリととんでもない爆弾情報があり、我が耳を思わず疑う。

 

「えっ!?未確認ライオット初代の優勝…!?」

 

「そう!それが私たちシクハック!その私が言うんだ!君たちは上にイケるよ!やるなら本気で優勝目指してみな!そうすれば私もコーチングした甲斐があるってもんだよ!」

 

「えっ、廣井さん凄いです…!」

 

「なっはっは〜!喜多ちゃんの純度の高い尊敬の眼差しは承認欲求を助けてくれるね〜!もっと!もっと頂戴!」

 

「はい!」きたた〜ん!!

 

「なっはは〜!!くるしゅうない!くるしゅうないぞよ!わはははは〜!」

 

凄いなあ!流石きくりさん。私のもう一人のカリスマ。そんなカリスマに見初められている大槻ヨヨコは、やはり一筋縄ではいかない。…喜多さんがあそこまで必死なんだ。私も、負けていられない。少しだけ二人のポヤポヤした雰囲気を遠くに感じながら、私は向かうべき方向を改めて見定めていた。

 

 

 

 






三年に一度の祭典が、始まる。ネットフリックスだけとはどういうことじゃ!?

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