女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!? 作:はま0821
前哨章。
クリスマスの決戦。
季節は秋から冬へと移り変わる。肌を冷やす風が前をゆく友人たちの髪を揺らし、乾ききった枯れ葉が足元でカサカサと音を鳴らす。
「ううっ…。寒い。もうすっかり冬ですね皆さん…」
「ほんとね〜。最近秋が短い気がするわ〜。季節が冬と夏しかないみたい!」
「そ、そうですね…、寒いか、暑いかの二極端といいますか…」
私たちは今日も今日とて、バンドの練習のためにSTARRYへと向かっていた。前を行くのは結束バンドの秀華高担当、喜多さんとひとりさんである。二人ともマフラーをした冬らしい装いだ。かくいう私も、最近あまりにも寒いので、黒ストッキングを導入している。
「わ〜!ひとりちゃんの髪ふわふわ〜!」
その言葉に反応して視線を送ると、確かにひとりさんの髪ふわふわ。マフラーにのっけるようにしている髪が、ひとりさんに溜め込まれてる静電気のせいでまるで生きているかのようにふわふわとしている。触りたい。
「待ちなさい喜多さん危険よ。あの状態のひとりさんに触れたあとどっか金属にでも触ってご覧なさい、静電気の恐ろしさを味わうことになるわよ。触診は私に任せて貴女は下がっていなさい」
「欲望がダダ漏れよ黒井さん!ひとりちゃんのこと独り占めしようったってそうはいかないんだから!」
「あ、あの…」
困惑するひとりさんと、あわよくばひとりさんの髪を触ろうとしている欲深な喜多郁代。どうにか出し抜かねば…。隙あり!
ふわ〜っ。
「あっズルい!」
「ひゃあっ…!」
なんという滑らかな指通り…!思った通りね。静電気でふわふわに浮ついたひとりさんの髪はまるでシルクの様だ。
「私も触る!もう黒井さんズルいわよ!」
「ひとりさ〜ん!貴女は三つ編みとかも似合うと思うんですよ〜、触り甲斐があるいい髪ですね〜!」
「は、はわわわわ…!」
ひとりさんの顔を挟んで右を私が。左を喜多さんが思い思いに弄くり、されるがままのひとりさん。和気あいあいとした雰囲気が流れていた。しかし、その雰囲気も、STARRYに着くまでのことであった。
「おはようございます〜」
「おはようございますっ!」
「あ、おはようございます…」
三者三様に挨拶を飛ばし、STARRYの階段を降りる。すると、いつものダベリテーブルに、一足先に来ていたであろう伊地知先輩とリョウ先輩が、視線を上げてこちらに手招きしていた。…表情に少しだけ焦りを感じる気がする。
「よ、よく来た後輩ズ!これ見て!」
言うなり伊地知先輩は自身のスマホを操作して、その後テーブルの中央に置く。何事だろう?
(ごっめ〜ん!妹ちゃ〜ん!クリスマスの日空いてる?実はシクハックのワンマンをFOLTでやる予定なんだけど、私がバンドにオファー出すの忘れててさ〜!シデロスと一緒にゲストとしてライブに出てくれないかな〜!?FOLTでライブできるよ!んじゃ、お返事待ってるね〜!)
…。こ、これは!?
「ひ、廣井さんからこんなロインが届いてさ…。ど、どうする?みんな…?」
「…こ、これって!天下のシクハックからのライブのお誘いですよね!キャーッ!す、凄いですよ!」
「は、はわわ…!?あ、あんな広いライブハウスで演奏するなんて…!?ま、まだSTARRYのライブもおっかなビックリなのにぃ…!?」
秀華高陰陽コンビはおよそ予想通りのリアクション。喜多さんは前のめりで、ひとりさんは少し怯えている。だが、私にとって重要な案件はそこではなかった。
「…伊地知先輩。このロイン、シデロスとライブするって書いてありますね…」
「…うん。こなちゃん、ライバル対決だね」
「遅かれ早かれシデロスは一戦交えなきゃならない相手。本番の前に実力を見れるのはいい機会じゃない?」
伊地知先輩は神妙に頷き、リョウ先輩が冷静に分析する。…ヨヨコ。まさかこんなに早くあんたと戦える機会を得ようとは…。
「行きましょう伊地知先輩」
「へっ?」
「へもヘチマもありません行きましょう!きくりさんからのロインの文面を奴が検閲してないわけないんです分かってて挑発してるんですよ!他の誰から逃げても私はヨヨコからだけは逃げたくないですお願いします!」
「うわわっ!?こなちゃん落ち着いて!?誰も行かないなんて言ってないよ!?分かった…!皆!参加する方向で良い!?」
今一度伊地知先輩が皆に確認をとる。私の答えなぞ、問われるまでもなく決まっていた。
「もちろんですっ!」
「応。虹夏。未確認ライオットの前の前哨戦だな」
「あ、あうう…。ま、待って下さい皆ぁ…、こ、心の準備がぁ…!」
「大槻ヨヨコぉ…!その挑戦状、受けたわよ…!乗り込んでってぶっ潰してやるから覚悟しときなさい!」
四者四様に気合十分の返しで闘争心を顕にする。(約一名通常営業だが)それを受け取った伊地知先輩はふわりと笑ってそれから宣言する!
「おしっ!これで今年のクリスマスの予定は決まったね!まずはシクハックさんのライブの前座!その後は、うちのおねーちゃんの誕生日パーティーだ!」
「「「「お、おおーーーーー!!!!」」」」
「えっ!?店長クリスマスが誕生日なんですか!?」
気合たっぷりな咆哮を上げたあと、どうしても飲み下せない部分があったため聞き返してしまう。喜多さんとひとりさんも驚きの表情をしていたため、私と同様に知らなかったのだろう。
「お、おい!恥ずいからいいよ言わなくて!」
思わず定位置にいた店長が抗議の声を上げるが、当の先輩はまるで意に介さない。
「いいよお姉ちゃん遠慮しないで!可愛い妹が祝ってあげるってんだおとなしく受け取りなさい!」
「いや遠慮とかじゃなくて…!」
「キャーッ!店長さんクリスマスが誕生日なんてロマンチックですね!だから星歌さんなんて素敵ネームなんですねっ!」
「前郁代って名前可愛いって言ったこと根に持ってるもしかして!?」
「皆クリスマスプレゼントやら誕生日プレゼントやら!ちゃんと用意するんだよ普段からライブやらバイトやらでお世話になってるんだから!」
「やーめーろー!私はプレゼント受け取るのはサプライズ派なんだ〜!」
ドッタンバッタンと。普段通りの喧騒がSTARRYを支配する。しかし私は、その喧騒に浮かれる気にはならず、ただ一人の顔を思い浮かべながら、闘争心を高めるのだった。
れんしゅう。レンシュウ!練習!!
グロウアップ。ぐろうあっぷ!!グロウアップ!!!
来る日も来る日も個人で練習し、その成果を皆で合わせる。合わない部分を皆で意見を出し合って修正し擦り合わせ、また合わせる。それの繰り返し。時たま行われるSTARRYでのライブも必死にこなして、私たちはバンド漬けの日々を送っていた。そして、年末。クリスマス。ついにその日は訪れる。
「…ふっ〜う〜…」
肺から押し出す様に息を吐き出す。気温により白く染まったそれは新宿の雑踏に吹き乱されて消えていった。…どことなく自分の体が震えてるような気がする。そんな事を考えていると、後ろから声が掛かった。
「む、武者震いだね…、へ、へへっ」
「ひとりさん…」
クリスマスイブ。私たちは新宿FOLTへと降りる階段の前に立っていた。初めてここで、観客としてではなく、演者として立つ。そんな私の心内を見抜いたのだろう。ひとりさんがそんな言葉を掛けてくる。…心配なら無用ですよ。ひとりさん。お言葉の通り、武者震いです!これは!そんな意味を込めて、サムズアップを返す。するとひとりさんも、下手くそ過ぎる笑顔とサムズアップを返してくれた。
「さて行くよ!結束バンド!腹くくれ!」
「はい!」
「応よ!」
「あ、はいっ!」
「はいっ!伊地知先輩!!」
意を決した私たちは、階段を降りる。決戦の地へと、楽器だけを携えて殴り込みだ!待ってろ大槻ヨヨコ!シデロス!最奥部にあった扉を開け放つと、そこには何度も見たSTARRYの倍はありそうなキャパの客席を持った、新宿FOLTのメインステージが広がっていた。
「ま、前にも来たことあるけど…!す、凄いね。やっぱり」
「ですねっ!凄く広い!こんな場所でライブするんですね私たち!楽しみですっ!」
「喜多ちゃん凄いね…」
果てない喜多さんのポジティブっぷりに伊地知先輩が舌を巻いていると、奥の方から見知った顔がこちらに向かってくる。今日はほかのメンバーも一緒のようね…!
「黒井此方!それに、結束バンド!逃げずによく来たわね!そこだけは、褒めてあげる!」
ズビシとこちらに人差し指を突き立てつつ、大槻ヨヨコが叫ぶ。
「逃げてたまるもんですか!前のまんまの私たちだと思ってるなよ大槻ヨヨコ!返り討ちにしてあげるわよ!」
真正面から受け止めて、ヨヨコと睨み合う。目を逸らそうもんなら私の負けだ。
「こんちわっす!結束バンドの皆さん!今日は来て頂きありがとうございます!お互いベストを尽くしましょう!」
「あ、あくびちゃん!ありがとお招きいただいて!私たちでこのライブ!最高に盛り上げていこうね!」
「もちろんです!伊地知さん!」
「きゃーっ!ふーちゃんはーちゃん久しぶり〜!今日はお互い頑張ろうね〜!」
「喜多ちゃん虹夏ちゃんに、ひとりちゃんも久しぶり〜!これ終わったらオススメのスイーツショップがあるの〜!いっしょにどお〜?」
「はひひぃ…!?ほ、本城さん、この後は虹夏ちゃんのお姉さんの誕生会がありまして…!?」
「…久し振りね金欠さん。元気にしてた?」
「これはこれは、幽々様。今日もよろしく。私に幸運を授けてくださいますよう…」
「なんか牙が抜けてる〜」
…。私たち以外和気あいあいとしてる!?
「ちょっとコラシデロス!今日はそいつらは敵よ!和気あいあいとしてんじゃないわよ!」
「あ〜ん!」
ベリッと、ヨヨコが仲良くしてる虹喜多陽キャコンビとあくびさんを物理的に引き剥がす。少し不満そうにしているあくびさんを片手に抱えながら。
「…でも。言葉を交わすのは吝かでもないかも。…後藤ひとり。いや、ギターヒーロー」
その言葉を聞いたとき、ひとりさんは目を見開いた。な、なんで!?ヨヨコにはひとりさんの正体はバラしていないのに!?
「難しいことじゃなかったわ。貴女の憧れのギターヒーローの動画…。服装や時折見せる手癖が完全に後藤ひとりのそれよ。憧れとバンドを組んだのね。よかったじゃない」
「え、えっと、あの…」
「初めに言っておくけど。貴女より私はギターが上手い。ボーカルをやりながら。黒井此方。貴女は憧れる相手を間違えたわね」
冷たい瞳でひとりさんを見据えながらヨヨコは断言する。…この野郎、言わせておけば!前に出ようとする私を諌める手があった。…ひとりさんだ。
「た、たしかに黒井ちゃんは目標を間違えているかも…、わ、私なんか駄目駄目だし。…でも。彼女が歩いた道は間違いじゃない。そこだけは絶対に」
余りにも真っ直ぐな透明な意志。真正面からヨヨコの好戦的な目を見据えて返す。その瞳を受けて、僅かにヨヨコは口角を上げた。
「…ふふ。中々どうして。度胸あるじゃない。…自分は否定されてもただ仲間のために。嫌いじゃないわよ後藤ひとり。流石黒井此方の憧れ。貴女とのステージ、楽しみよ」
コイツ、試したのか!?騙された…!し、しかし…!ひとりさん!眩いくらいに成長なされて!私のこと庇ってくれたよ!あんな凛々しい表情で!はあカッコいい好きぃ…!!
少し殺気でも漏れたんだろうか?ひとりさんが珍しい表情を浮かべて飛び退いていた。それを少し呆れた表情で見られた後、ヨヨコは言葉を続ける。
「…貴女たちの事も知ってるわ。ザ・はむきたすの山田リョウ。大先輩の妹さんに、…センス抜群の新星ボーカルさん?」
「へえ…?私たちの事も知ってるんだ」
「もちろん。ライバルを調べるのは当たり前だと思うわ。…結束バンド。面白いチームね。精々足掻くといいわ。爪痕残すためにね!お喋りはもう終わり。行くわよシデロス!リハーサルに!」
ヨヨコの号令にシデロスの皆が一糸乱れぬ団体行動。回れ右して背中を見せる。
「またね!頑張って喜多ちゃん!虹夏ちゃん!」
「黒井さん、ぼっちさん…!悔いないように、頑張りましょう!今度はステージの上で!」
「ふふ〜。結束バンドの皆にも幸多からんことを〜。ベルちゃんも言っているわ〜」
「余計なこと言うな!じゃあね結束バンド!」
そう言ってシデロスは去っていく。様々な思いを浮かべながらその姿を見送った後、伊地知先輩の声で我に返る。
「ぼっちちゃんカッコよかったよ!そうだよ、気圧されたら負けだ!私たちに出来る全力をココに置いてくる!それだけ今は考えよう!いくよ!!」
そうして伊地知先輩は右手を出す。その意図に気付いた私たちは、円状に並んでその右手の上に自らの右手を重ねた。
「いくぞ結束バンド!びびんな!前向いてけ!!」
「「「「おう!!!!」」」」
そうして、新宿FOLT、クリスマスライブの火蓋は落とされた。
未確認ライオットのラスボス、シデロスとの初めてのガチ対決。
結束バンドの皆の正念場。
長くなりそうなんで分けました。皆さん評価感想下さい!生きる糧です!
次回は対決!